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第5回_企業と従業員の信頼関係性の基礎ベースを作る。労務の重要性と社労士が持つべき強み

経営を支えるHR活動の中でも、労務は最も会社の基盤となるものです。そのために、いわゆる「守備的なもの」「地味な業務」と思っている方も多いかもしれません。しかし実のところ、労務があってこそ企業は規模を拡大し、事業をスケールさせていくことができます。

今回はそんな労務の重要性について、AdjustHRの代表である中野さんに伺いました。社労士として活躍するためのアドバイスもいただいているので、ぜひチェックしてみてください。

人事労務担当者を支え、社員の「働く地盤」を構築する仕事

―最初に、HRがどのような分野に分かれるのか、その中で労務はどのような内容にあたるのかを教えてください。

中野:AdjustHRは、HRの事業領域を採用、労務、組織開発・教育の3つの分野で捉えています。もちろん、上位構造として人事戦略など経営に直結する統合的な層があります。その中で、AdjustHRが特に手掛けているのは労務の部分ですね。

労務は一般的に入退職関係業務、給与計算、社会保険、健康診断、福利厚生、社内ルール、社内のハラスメント対応、人事評価などと関係する領域を指しており、端的に言えば「採用活動で候補者に内定を出した後に退職に至るまで、社内生活で従業員に直結する業務全般」を指します。

労務の業務として思い浮かぶのは、給与計算や社会保険手続きのイメージがありますし、また、一般的な社労士事務所の社員は、顧問先企業に対して実際にこうした事務手続きを中心に担うケースも多いのですが、本来労務とは非常に範囲の広いものなのです。

AdjustHRでは、「社員が会社で安心して働き、結果を出しに行くための地盤」そのものを、全て労務だと認識しています。その中には、顧問先企業の人事労務担当者の方がしっかりと成果を出し、良い人事労務対応ができるように支援する役割も含まれます。

―企業の人事労務担当者に対して、AdjustHRはどのような支援を行うのでしょうか?

中野:人事労務担当者といっても、労務に関する全ての専門知識や複数企業の事例を知っているわけではありません。例えば、何が一般的な労務対応にあたるのか、知人や書籍、ネットを通じて得た知識だけでは、経営者から「この業務はどうしたらいいのか」と聞かれても、なかなか答えられません。そんなときに、人事労務担当者に力添えをして、顧問先企業が最適な答えを言えるようにするのが、我々AdjustHRの仕事の一つだと考えています。


企業が信頼を勝ち取るためには「盤石な守り」が最も大切

―企業にとって、なぜ労務は大切なのでしょうか?

中野:ほかのHR領域と比較すると、労務は「法律」が重視される存在する分野だからです。労働基準や安全衛生法、個人情報保護法、それに基づく判例や通達、慣習など。採用や人事組織構築に確たる正解はありませんが、労務には法律に基づいた「不正解」があるのです。もしも判断や運用を誤ってしまったら、会社は法律に違反し、罰を受けますし、社員に害を与える可能性もあります。

「法律に背くことは悪いこと」というのは当たり前のようで、改めて考えると非常に重要です。仮に企業の理念、事業内容、職務内容、福利厚生が全て整っていたとしても、倫理観に欠け、法律を破ってしまうような行為がはびこると、会社として信頼には値しません。これはその会社で働く社員にとっても同様です。

一般的には「守り」のイメージがある労務ですが、守りを盤石にするからこそ会社メンバーは安心して、会社を信頼し、自信をもって攻めに転じられるわけです。いくら攻め込んで点を獲得しても、守りが手抜きでそれ以上に点を取られ、ましてや守ってもらえない環境は、試合には勝てませんし、攻める気も失いますよね。スポーツと同じような原理が、会社にも当てはまります。

―なるほど、企業が攻めるためにも、盤石な守りの労務が必要ということですね。

そのとおりです。諸説ありますが、マズローの5段階の欲求をイメージすると分かりやすいかもしれません。

「自己実現や承認の欲求」は、「生理的や安全性の欲求」が下地に必要です。そもそも、過重労働で心身を壊す社員が続出するような企業に、会社や自己目標の実現を心から求める社員は少ないでしょう。

法律の範囲を遵守するという正解に向けて走りながら、経営者がやりたいことに合わせてどのようなチューニングを加えていくのか、皆が安心してパフォーマンスを発揮できる環境をどう構築するのか。ここを考えるのが労務の分野です。逆に言えば、労務でしか企業と社員の関係性を構築するの基礎そのものは作れないと言えます。

―何がその会社にとって最適なのかを探るのは、大変そうですね。

中野:そうですね。非常に難しいことです。単に法律や専門書籍で調べた「正しい回答」を調べたところで、企業ごとに方針も経営者も社員も異なりますから、机上の空論になることがあります。「言ってることは分かるが、それはできたら苦労しないよね」と。私も過去にそういった経験を何度も見聞きしてきました。

AdjustHRでは、各顧問先での経験を適切なナレッジとして管理し、社員同士で共有していく仕組みを取り入れています。また、AdjustHR自体をルールや仕組みづくりの実験場にしており、課題が発生すれば、より良い状態にするために、普段から社員同士で話し合い、必要に応じてプロジェクトを組み、社内で実践し決めていきます。これは創業当初から挑戦している取り組みで、自分たちが労務を大切にし法的にも問題のない制度や仕組みを確証持って提供できるよう、その「現物」を常に増やし続けているイメージですね。

労務が未整備な企業が成長フェーズで必ず直面する「20名の壁」

―労務が整っていない場合、組織が成長するのは難しいのでしょうか?

中野:そうですね。特に急成長のベンチャー企業の場合、労務を整えることなく20~30名規模にまで到達するケースがありますが、ここで壁にぶつかるケースは非常に多いです。

先程申し上げた通り、労務は整っているのは、本来当たり前で、言ってみれば企業に所属する社員の「生理的や安全性欲求」に近いものです。働いた時間に応じて適切に給与が支払われる、体調を壊すような残業時間ではない、必要な時期に保険証を受け取り、また社会保障が受けられる。こういった労務観点での「当たり前」が遂行されて初めて、「承認や自己実現の欲求」に属するような組織開発や、人事評価、ミッションの達成といったより上位の取り組みに着手できるといえますよね。

―実際に20名の壁に直面している企業の事例は見たことがありますか?

中野:何度も見てきました。数名~10名程度の頃は、労務が不在でも、経営者も社員も皆顔を合わせていますし、お互い近いところに居ますから、多少の問題があってもすぐに解決可能です。またそのフェーズですと、リスクがあってもその事業や経営者に魅力を強く感じて入社する人も多く、安全性などは重要視されないこともあります。

一方で、10名を超えてくると、社員も徐々に様々な部署に分かれ、経営者と社員の関係性も疎遠になってきます。また、転職者も様々な企業から入ってきて、前職の労務と比較されることが増えます。そうすると、まともに勤怠は記録されない、給与は毎月何かが違う、契約書も就業規則も説明が何もないという様な無法地帯が続くと、いくら経営者がアクセルを踏んでも、入社と同人数が退職していき、会社の雰囲気が悪くなっていくという悪循環に陥る局面になりますね。

こういった事例では、会社としてどんな施策を打てばいいのかもわからず、「よく分からない人事コンサル」や、「会社独自の福利厚生や手当」なんかを導入しがちなのですが、やはり生理的な欲求が満たれない中で、付け焼き刃の施策を打っても効果に乏しい様に見えます。

―具体的に、どんな問題が起きるのでしょうか?

中野:労務が整っていないというのは、重要な「正解が見つけられない」状態です。ある現象が起きたときにどんな対応をしたらいいのか、適切なルールではなく、責任者や経営者の一存――つまり、「感情などの主観」に左右されて決まってしまいます。例えば「あの人はよく働くから、病気のときには休職してもOK」「あの人は成果を出していないから、休職は認めず退職してもらおう」といった、主観的な要素で社員に対して労務的な判断をしてしまうわけです。判断している経営者は、良いことをしている気持ちになるのですが、社員はこれでは全く安心できませんよね。

労務を盤石にすることで、会社のルールもしっかり定ってきます。そうすれば、誰に対しても一律に同じ対応ができます。それは、働いている社員にも分かるわけです。その上で個別に配慮や気持ちを載せることが、重要なんです。例えば先程の休職制度にしても、一律で3ヶ月と規定が決まっていれば、どんな人でも3ヶ月休めることは確定しているから安心ですよね。個別の対応をしたければ、このルールがあった上で議論すべきです。これが労務管理の基本です。


スタープレイヤーにならなくとも、地道に知識習得をすれば活躍できる

―どんな人がAdjustHR内における人事労務の支援業務に向いているのでしょうか?

中野:ここまでにご説明した通り、労務分野には必ず不正解があり、守るべき法律があります。、実務についても、目新しいアイデアや才能に依存するような何かではなく、積み重ねた知識と経験があれば、多くの人が一定の成果を発揮できる仕事です。なので、実は「どんな人でも向いている」と言えるかもしれません。今から学んでもなかなか身につかないであろう、特別な営業スキルや華々しい雰囲気、また高度な数理知識などは不要です。根気よく勉強し続ける努力さえできれば、誰でも活躍できる可能性があります。

実際AdjustHRで取り組んでいるのは、難しいパズルを解くような業務です。求められる結果から、必要な情報というピースを集めて、何らかの成果物をつくる。知識や経験が増えれば、求められる結果についても、様々な方向から検討できるし、必要な情報も仮説を立てて埋め合わせたり、ピンポイントの少ない情報のみで結果を出せるようになります。様々な機能付きのブロックを組み立て、一定の動作をする形にするように、労務の仕組みを整えていくプロセスを面白いと思えるのなら、一層向いているでしょう。

また、地道な傾聴力も重要です。労務が企業の主役かといえば、そうではありません。さらに、弊社のような社労士事務所は、企業の外部に属しますから、自分たちが主役になることはなく、縁の下の力持ちというポジションです。企業の経営者や担当者、またその会社の社員の声を聞き続け、支え続ける黒子として皆の笑顔を見届けるような仕事が楽しいと思えるかが重要ですね。自分が主役として、一番目立ちたいという方には向かないかもしれません。

―AdjustHRで活躍するには、勉強以外にどんなことをしたらいいのでしょうか?

中野:私はよく、まず「二等辺三角形を作ろう」と言っています。「労働法などの社労士側の専門知識」や、「人事労務の専門的知識」は勉強や業務経験により得られます。この2点をしっかり身につけた後に、ここからもう一段階上を目指すなら、全く違うスキルや自分の得意分野を伸ばすことが重要です。すると、隣接する強い「専門知識」と「得意分野」の3辺による、自分だけの「二等辺三角形」が出来上がり、それが個性として自分の強みになるはずです。例えば、「DX対応」など最近のはやりですが、「労働法・人事労務専門知識✕DX対応」は昨今非常に重要視される分野であり、活躍する場は非常に多いです。また、「キャリアコンサル」や「メンタルサポート」「研修関係」などもあれば、徐々に立場を確立している、「コーポレートエンジニア」の様に、仕組みをより高度なオートメーションに構築できる能力なども求められています。


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