Ragate代表の益子竜与志は、自分を「かなり変わった子どもだった」と書いています。
鏡文字をずっと書いてしまったり、集団行動が一切できなかったり。自然の中で過ごすか、好きなアニメを見て過ごす時間が多かったといいます。当時テレビで放映されていた「デジモンアドベンチャー」や「ロックマン」のような、人工知能やAIとの共存を描いたアニメに強く憧れました。惹かれたのは、キャラクターが持つ知性と、人間とは異なる思考の仕方です。
中学生で、進路が決まった
中学生になると、この興味が一気に膨らみます。
「将来、人工知能を創る!」と本気で決意し、情報技術科のある高校への進学を決めました。高校ではプログラミングに没頭し、C言語を学んでコードを書き続けます。この時期が、現在の技術的な基礎を形成しました。
ただし、卒業後すぐに人工知能を創る仕事に就いたわけではありません。最初の会社では、ほぼ営業職に従事していました。技術を極めたいという想いはあったが、この経験で顧客折衝や対人スキルを習得できた、と本人は振り返っています。
後年、この営業経験と技術力が組み合わさって、「技術と営業力を兼ね備えたソリューション営業的なスキルセット」になりました。遠回りに見えた時間が、あとから効いた形です。
動機は、くだらなくていい
この記事でいちばん印象的なのは、動機についての考え方です。
「何かを始める動機なんて、本当にくだらないもので構わない」と益子は書いています。重要なのは、それが自分に合うかどうか。そしてそれは、やってみて継続できるかどうかで決まる。継続の原動力は情熱であり、継続できている時点で、それはあなたに向いているはずだ、と。
アニメに憧れて進路を決めた、という動機は客観的に見れば軽いものです。それでも20年以上続いている。続いたという事実のほうが、動機の立派さより重い、という主張になっています。
そして、何か一つをやり抜いた経験は必ず財産になる、と続きます。それはプログラミングでなくてもよく、格闘技でも音楽でも料理でもいい。いまRagateを経営して顧客の課題解決に取り組んでいるが、その根底には幼少期の衝動、高校時代のプログラミング経験、営業時代に培った対人スキルが、すべてつながっている、と書かれています。
ジョブズに熱中した20代
もうひとつの原点が、2026年4月2日のブログに書かれています。アップルが創業50周年を迎えたニュースを見て、スティーブ・ジョブズの伝記を夢中で読んでいた20代を思い出した、という内容です。
なぜジョブズに引き寄せられたのか。本人の答えは、彼が「常識を疑うことを実際にやり切った人間」だったからでした。「Think Different」は単なるコピーではなく、ジョブズ本人がそれを体現していた。マッキントッシュ、iPod、iPhoneは、いずれも「なぜ今まで誰もこうしなかったのか」と感じさせるものだった、と。
注目したのは思考の構造です。ジョブズは「ユーザーが何を欲しているか」ではなく、「ユーザーが本当に必要としているものは何か」を問い続けた。マーケットリサーチより自分の直感と美意識を信じ切る哲学は、経営を考え始めた自分にとって衝撃的だった、と書かれています。
最も印象に残ったのは、失敗と復活のほう
同じ記事で、伝記の中で最も印象に残ったのは成功のエピソードではなかった、と述べられています。
80年代後半、ジョブズは自分が創業した会社から追い出される。その後NeXTは商業的に苦戦し、ピクサーも長く赤字が続いた。1997年にアップルへ復帰したとき、会社は倒産寸前だった。そこから生まれたのがiPod、iTunes、iPhone、iPadという怒濤の革新です。
20代の益子は、このパターンに強く惹かれました。「一度ダメになっても、本質的な力があれば必ず復活できる」という証明として、ジョブズの軌跡が輝いて見えた、と。
Ragateも創業3年で年商1億円に到達した直後、主要顧客との取引が消滅する局面を経験しています。そこから売上の6割を占めていたSES事業を切り、SI・コンサルへ舵を切りました。この判断を後押ししたものの一部は、20代に読んだ本にあったのかもしれません。
15年経っても残っている問い
記事の終盤で引用されているのは、ジョブズの有名な問いです。
「自分が明日死ぬとしたら、今日やろうとしていることは本当にやりたいことか」。
この言葉が15年近く経ったいまも自分の中に残っている、と益子は書いています。そして、Ragateを創業して9年、OpenClawという仮想従業員の実験を始めたのも、結局はこの問いへの自分なりの答えだと考えている、と。
人工知能に憧れた子どもが、AIエージェントを社内に迎え入れて「正社員採用してみた」という記事を書くまでに、およそ20年かかりました。技術の名前は、人工知能からサーバーレス、生成AI、AIエージェントへと変わっています。憧れの方向は、あまり変わっていません。