「インクルードに入社したら、どんなプログラムを運営するのか?」これは採用時によくいただく質問のひとつです。
今回は、認知行動療法をベースにしたインクルード独自の「FITプログラム」について、心理士のYさんにインタビューしました。実際の取り組みや考え方を知ることで、「自分がここで働くとしたら」というビジョンをイメージしていただければと思います。ぜひ最後までご覧ください。
心理士 Y / ニューロリワーク 大塚センター 心理士・支援員
公認心理師。2019年インクルード株式会社に入社。都内のセンターで心理士として従事する傍ら、FITプログラムの監修や社内向けセルフケア情報「こころホッとLetter」の作成を行う。
FITプログラムとは
――早速ですが、FITプログラムとはどのようなプログラムですか?
FITプログラム※(Flexibility Intervention Training/柔軟性介入トレーニング)は、認知行動療法(CBT)に基づくプログラムで、物事に対する柔軟な思考や行動を高め、利用者さんのメンタル面をより良い状態(FIT)に近づけることを目指しています。
主な目的は、利用者さんがご自身の力でストレスをコントロールできるようになることです。就労移行支援や自立(生活)訓練事業所の利用期間は最大2年間と定められているため、卒業後もセルフケアを続けられるように、“自立”の視点を大切にしています。そのため、FITプログラムでは、ストレスへの対処方法やメンタルケアの「やり方」を学び、実践するトレーニングとして位置づけられています。
※FITプログラムは、うつ病やその他(精神)疾患を治療、改善することを目的としたプログラムではございません。予めご了承ください。
――具体的にどのような内容を行っているのですか?
FITプログラムは、一人で取り組めるワークシート形式で提供されています。 例えば、自分の思考のクセに気づくための「コラム」や、具体的な行動計画を立てる「問題解決技法」、そして自分の価値観の根源を探る「スキーマ」といったテーマを扱います。
基本的には全12回の構成で、回を重ねるごとに徐々に内容が深まっていくように設計されています。 もちろん、利用者さんの状況に合わせて8回や4回の短縮版を用いることもできますし、どの回からでも参加可能です。
――FITプログラムの導入の経緯を教えてください。
もともとインクルードでは、外部の公認心理師を招き、認知行動療法のプログラムを実施しており、利用者さんからも非常に好評でした。多くの方がご自身のメンタルヘルスを安定させたいというニーズを持っていることを実感していました。
その後、ハローワールド社との合併をきっかけに、同社で開発・運用されていたFITプログラムをさらに改良し、本格的に導入することになりました。
FITプログラムは、特定の講師だけでなく、研修を受けた支援員であれば誰でもファシリテーションできるよう設計されており、これにより、より多くの事業所で質の高い心理系プログラムを安定的に提供できる体制が整いました。
――プログラム名が「FITプログラム」なのはなぜでしょうか?
それには二つ理由があります。
一つは、「療法」という言葉がつくことで「治療」行為にあたってしまうためです。 私たちのプログラムは医療行為ではないため、この名称は使えません。
もう一つの理由は、プログラムの位置づけです。FITプログラムは、専門家と一対一で行う本格的なカウンセリング(治療)と、本などを読んで知識を得る自己学習との、ちょうど「中間」にあるトレーニングだと考えています。 知識を得るだけでなく、実際に手を動かしてトレーニングすることで、スキルとして定着させていく。そういった意味合いを込めて、「FIT(Flexibility Intervention Training/柔軟性介入トレーニング)プログラム」という名称が付けられました。
実践を通じて“自分の力”にする
――プログラムの運営において大切にしている考え方はありますか?
やはり利用者さんが一人でできるようになることです。 プログラムの中で大きなストレスを全て解決することを目指すのではなく、やり方を覚えて、まずは小さなストレスからご自身で対処できるようになる、という点を大切にしています。
あくまでも主役は利用者さん自身。私たちはその伴走者として、やり方を丁寧にお伝えし、自立に向けた練習をサポートする、というスタンスを大切にしています。
――他のプログラムと比較して、ユニークな点はどこでしょうか?
知識を提供するだけでなく、利用者さん自身の体験を土台にして、ご自身で掘り下げていくワークが中心になる点です。 ですから、プログラムに取り組むこと自体が、利用者さんの自己理解に直結します。
また、支援員にとっても、利用者さんのことをより深く知るきっかけになっています。 例えば、「このワークシートだけ、なぜか手が止まってしまう」「言葉の選び方に、その人ならではの癖があるな」といった発見は、普段の個別面談だけでは得難い情報です。 プログラムでのご様子も含めてアセスメントすることで、より一人ひとりに合った支援につなげられる点がユニークだと思います。
――利用者さんが特にご自身の成長を感じやすいのは、どのような部分ですか?
「以前よりも、ワークシートに書き出せる言葉の量が増えた」という点で、ご自身の変化を実感される方が多いですね。
最初は「なんだかムカつく」「疲れた」としか表現できなかったストレスの正体が、言葉にしていく過程で「自分は〇〇という状況で、△△と感じていたんだ」と、具体的になっていきます。 この言語化のプロセスを通じて、ご自身のストレスの正体が見え、自己認識が深まっていく。その感覚が、成長実感につながっているようです。
――ファシリテーションが難しそうですが、支援員同士で共有している工夫はありますか?
ファシリテーションの研修では、支援員自身の体験をどんどん伝えてほしい、とお話ししています。 FITプログラムは、知識を一方的に説明するだけでは、なかなか利用者さんに浸透しません。 ファシリテーター自身が、プログラムの内容をどう噛み砕き、どう日常で活かしているかを語ることで、利用者さんも「自分ごと」として捉えやすくなります。
また、インクルードには「FITチャンネル」という、ファシリテーター全員が参加するチャットグループがあります。 現場での疑問や、「もっとこうしたら良くなるのでは?」といった提案をいつでも投げかけることができ、心理士を含めたメンバーがすぐに回答・検討する体制が整っています。 これからファシリテーションに挑戦する方も、一人で抱え込まず、安心して取り組める環境だと思います。
「なんとなく大丈夫」という自信が、次の一歩を後押しする
――参加された利用者さんからは、どのような感想が聞かれますか?
継続して参加されている方から、「最近、書くようなストレスがないんですよね」と言われることがあります。 もちろん、本当にストレスがない場合もありますが、お話を伺うと、日常の小さなストレスに対して、無意識のうちにFITプログラムで学んだ考え方を使って対処できている、というケースも多いんです。
また、ある利用者さんは、毎週決まった曜日に開催されるFITプログラムを「その週に溜まったストレスと向き合うための習慣」として活用されていました。 ストレス対処が特別なことではなく、生活の一部になっている、とても素敵な事例だと感じました。
――特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
ある時期から、プログラムを「ストレス対処」のためだけでなく、「ポジティブな出来事の分析」に使う方が増えてきたのが印象的です。 「最近あった嬉しかったことは、なぜ嬉しかったんだろう?」「この考え方面白いなと思ったけど、自分はどうしてそう感じたんだろう?」というように、自分を深く知るためのツールとして活用されているんです。
自分と向き合う「スイッチ」が入った瞬間なのだと思います。 こうした自己理解が深まっていくと、働くことに対して、私は「無責任な自信」が生まれると感じています。 スキルや資格といった目に見える武器も大切ですが、「何かあっても、FITプログラムで学んだやり方で対処できるから大丈夫」「なんとなく、やっていけそう」という感覚は、大きな支えになります。
――プログラムを通じて、利用者さんにどのような変化を感じることが多いですか?
ご自身のストレスを、良い意味で「ありのまま」に受け止められるようになる方が多いと感じます。
例えば、「仕事でこんなことをストレスに感じてはいけない」と自分を責めたり、逆に「なぜ皆はこれができないんだ」と他者を責めたりするのではなく、「自分は今、こういう理由で、嫌だと感じているんだな」と、自分の感情を客観的に、そして正確に受け止められるようになります。 自分の感情を否定も肯定もしすぎず、そのまま認識する。その姿勢が、次の建設的な一歩につながっていくのだと思います。
――最後に、今後FITプログラムをどのように発展させていきたいですか?
繰り返し参加することの価値を、もっと伝えていきたいと考えています。
同じワークに取り組むからこそ、「2ヶ月前と比べて書ける量が増えたな」「前回と全く同じことを書いている。これは自分にとって根深い課題なんだな」といったように、ご自身の変化や課題に気づきやすくなるというメリットがあります。
しかし、内容が同じだと、どうしても参加のモチベーションが下がってしまうことも事実です。 今後は、毎回違う事例を紹介したり、クイズ形式の要素を取り入れたりするなど、利用者さんが楽しみながら継続できるようなコンテンツの拡充を進めていきたいですね。
――ありがとうございました。
インクルード株式会社では、「ソーシャルインクルージョンを実現し、全ての人が活躍する社会を創る」というミッションの実現に向けて、ともに歩んでくれる仲間を募集しています。
今回の記事を通じて、インクルードでの働き方や心理士の役割について、少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。