全国に約70万人いると言われる、潜在看護師。
免許はある。でも、現場には戻れない
──そのリアルな理由を、私たちは正確に把握できているだろうか。
メドエックスでは先日、現役を離れた看護師3名をお招きし、少人数の座談会を実施した。50代・孫あり(Aさん)、30代・小さなお子さんを持つ育児中のお母さんが2名(BさんとCさん)という、ライフステージも離職理由もまったく異なる3名だ。
医事新報の記者も同席するなか、率直な「本音」を聞かせていただいた。
前編では、離職のきっかけ・辞めた後の心境・復職へのハードルを中心にお届けする。
離職のきっかけは「怖さ」だった
「30年前に辞めたのは、老人保健施設の隣に病院ができて、急変対応をしなければならなくなったからです。とにかく死が怖くて。夜勤で人と交代になって、余計に自信がなくて。『看護師さん!』と呼ばれるたびに、どんどん怖くなっていった」(Aさん)
「私は大学病院で6年間、重篤な患者さんを診ていました。死が怖いというより、自分の行動が患者さんに害を与えてしまうかもしれないというストレスが強かった。急変も先輩がさっと対応してくれて、私は記録や物品担当で。だから次に働くなら、いきなりがっつり関わる職場じゃなく、柔らかいところから入りたい」(Bさん)
「保健師として役所で働いていました。病棟ほどではないですが、状態の悪い家庭に介入したり、コロナ禍で自分が感染するリスクもあった。先輩が動いて、私は経験がない。"いつか自分がやるのか"と思うと怖かった」(Cさん)
3名に共通していたのは、「経験したことがないことへの恐怖」だった。
「看護師さんは皆さん経験豊富だと思われていると思うと、それも怖い。"大丈夫よ"という顔をしながら、内心はいっぱいいっぱい。それが一番怖い」(Bさん)
「先輩が怖い」も共通項
離職理由はもうひとつあった。職場内の人間関係だ。
「先輩が怖いというのもありましたね。一対一でいるのが怖い」(Aさん)
「私は患者さんに直接言われたんです。"Bさんの対応が気に食わない"と。丁寧に話していたら"わざとらしくて気持ち悪い""もっとタメ語で"と言われて。苦手な人がいる環境で毎日働くのがつらかった」(Bさん)
一方で、Cさんはこう指摘する。
「男性が職場にいると変わるんですよ。女性だけの社会ではなくなるので、和やかになる。男性というより、違う考え方をする人がいることで円滑になる、という感じ」(Cさん)
「確かに、男性がいるだけで雰囲気が変わります」(Bさん)
「辞めたくて辞めた」より「流れで辞めた」
辞める際に引き止められたかを聞いてみると、全員が「引き止められた」と答えた。
「看護部長や副院長との面談があって、"3月で転勤なしになったら退職届を取り下げて"など、いろんな条件を提示されました。でもそのときは自分の未来しか見えていなかった」(Bさん)
「辞める人が多くて、みんなパーッと辞めていく職場でした。あの時点で条件を出されても心は動かなかった。もう嫌だったので」(Aさん)
「やっと覚悟を決めて直属の上司に伝えると、"ちょっと話しましょう"と、言いづらい状況に持っていかれる」(Cさん)
「悩みを話せる場」が外にあれば、辞めなかったかもしれない
では、もっと早い段階でケアがあれば変わったか。
「内部ではなく、外部のサポートがいいと思います。職場では先輩や上司が悩みの原因のことも多いので。外部で悩みを話せて、落ち着いてまた職場に戻れる環境が整っていたら、ありがたかった」(Bさん)
「人数の少ない職場では、上の人が絶対的になる。その人の指導やコミュニケーションが合わないと、ずっとその人から逃げられない。逆に人間関係がすごく良い職場に長く勤めた時期もあった。結局、上の人が変わらないと変わらないですよね」(Cさん)
学生時代のギャップ──「実習が一番つらかった」
看護師を目指した学生時代を振り返ると、驚くほど過酷な経験が語られた。
「私の頃の実習は本当に厳しくて。申し送りが上手くできなかったら"そんなんじゃ看護師なんてなれないわよ"と言われた。それで実習段階から"自分には無理だ"と思っていた。だから就職先はゆるいところにしようと意識的に選んだ」(Aさん)
「学生時代の実習は、軍隊みたいでした。バイトもできないし、勉強で寝る時間もない。寝不足で駅のホームから落ちそうになったこともある」(Bさん)
「私も実習で一度、心を折られました。価値のないもののように扱われて、2時間しか寝れない日もあった。実習がとにかくつらかったです」(Cさん)
一方で、働き始めると「慣らされていく」経験も語られた。
「働き出すと先輩から少しずつ教わって、夜勤も月1回から始まって、気づいたらできるようになっていた。むしろ"ちゃんと寝れるし、お給料ももらえる"と。実習で現実を先に知っていたから、現場に入った方がギャップは少なかった」(Bさん)
現場を離れた今、「あの頃に戻りたい」「人間に戻った」
現場を離れた今の率直な心境も聞いた。
「最初は何もやりたくなかったけど、今は刺激がなくて。あの頃は睡眠も少ない中でいろいろやれていたのに、今は全然頑張れない。"なんであんなに頑張れたのかな"と。つらかったけど、充実していた」(Aさん)
「看護の教育では"人のために""常に自己学習を"と言われ続けて、責任感が強い人が集まる職種だと思う。子供を産んで優先順位が変わって"人のために100かけていると家庭が破綻する"と思った。離れてみると"自分のためにもっと時間を使っていいんだ"とすっきりした。でも"誰かの役に立ちたい"という気持ちもある。だから、ゆるくちょこちょこ仕事を取り入れられたら」(Cさん)
「子供といられる今が本当にありがたい。せっかく取った資格なので、技術が廃れないよう、自分の生活重視でゆったり続けていけたらと思っています」(Bさん)
後編では、「復職のハードル」「転職での"話が違う"経験」「理想の働き方」「採用動画へのホンネ」をお届けする。
右高 稜大|株式会社メドエックス 代表取締役
文章・構成・袈裟丸梨里子| 株式会社メドエックス広報戦略顧問