こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表取締役の堀内猛志(takenoko1220)です。
僕は前職で、50名から4000名まで成長した企業の人事役員を務め、節目ごとに生まれる“人”と“組織”の課題に向き合ってきました。
現在は、成長企業向けの戦略人事コンサルティングと、ミドル・ハイレイヤーに特化した人材紹介に取り組んでいます。
このシリーズでは、僕の経験をもとにしながら、40代からの「キャリア中盤」の戦い方をお伝えしていきます。
第1回のテーマは、「管理職を目指さないという選択肢」です。
目次
はじめに
キャリアの空洞化
価値観の多様化
これからの40〜50代が描くべきキャリアとは
管理職が合理的だった時代
管理職一択ではなくなった理由
開発職という新しい選択肢
開発職は、キャリア中盤だからこそ強くなれる
必要なのは複合スキル
開発職の価値①AIで代替できない
開発職の価値②60代以降の自分を支えてくれる
おわりに
はじめに
昭和、平成と時代は移り、令和になりました。定年まで勤め上げるのが当たり前だった時代から、転職によってキャリアアップを図ることが一般的な時代へ。働くことそのものに対する価値観も、「24時間戦えますか?」から「ワークライフバランス重視」へ。世の中の変化に伴って、働き方も大きく変わってきています。
特に、40〜50代のキャリアは以前よりずっと複雑になりました。その背景にあるのが「キャリアの空洞化」と「価値観の多様化」です。まずはこの二つを手がかりに、今の40〜50代のキャリアに何が起きているのかを整理していきたいと思います。
キャリアの空洞化
キャリアの空洞化とは、40〜50代が、従来のようなキャリアの設計図を描きにくくなり、自分の現在地や次の方向性を捉えにくくなる状態を指します。これを引き起こしているのは、キャリアの前半が早まり、後半は長くなるという社会構造の変化です。順を追って説明しましょう。
まず、20〜30代で起きているのは「キャリアの早期化」です。年功序列ではなく、実力主義を採用する企業が増え、20代で役員を務める人も出てきました。また、デジタルによる生産性向上によって、以前よりも早い段階から仕事の経験値を積めるようになっています。
一方、60〜80代では、医療の発達による健康寿命の延びや、将来不安の高まりによる収益源の必要性から「キャリアの長期化」が進んでいます。定年の年齢は段階的に引き上げられ、その後も働き続けることが当たり前になりました。
その結果として、40〜50代では、自分がこの先どこに向かえばいいのかを見定めにくくなります。実際、僕自身も前職時代に30代前半で役員になりました。もちろん、それ自体はありがたい機会でしたが、その会社での次の仕事やキャリアがイメージできなくなってしまったのも事実です。
結果として、僕は起業という道を選びましたが、誰もが独立を選ぶわけではありません。他今いる会社の中で次のステージを模索したり、環境を変えようとしたり、さまざまな選択肢がありますが、そもそも自分をどのステージに置けばいいのかわからないという人は多いのではないでしょうか。
価値観の多様化
もう一つ、40〜50代のキャリアを難しくしている要因が、価値観の多様化です。
昭和の時代の働き方は、今よりもずっとシンプルでした。いい大学を出て、いい会社に入り、早く出世する。それが一つの成功モデルとして、社会の中で広く共有されていました。一昔前なら、「あそこの旦那さん、もう部長になったらしいわよ」「すごいわね」といった会話の中に、出世がそのまま幸福の尺度として共有されていた空気があったように思います。
ところが、今はもう「管理職は罰ゲーム」だと言われるような時代です。若い世代の中には、責任が増えるわりに報酬は大きく変わらないと感じ、管理職を積極的に目指さない人も少なくありません。働き方も、生き方も、家族との関係も、以前とは比べものにならないほど多様になっています。
つまり、かつては存在していた「幸せのモデルケース」がなくなり、「幸せの形は自分で決める」という価値観になったといえます。この変化自体は、決して悪いことではありません。むしろ、自分に合った生き方を選びやすくなったという意味では、健全な変化だとも言えます。
ただ、その一方で、これまで「上を目指すこと」を道標にして進んできた人ほど、ここで立ち止まりやすくなります。人は、選択肢が増えると逆に選択が難しくなるのです。僕はこれを「多様性の弊害」と呼んでいます。まさにその状況に置かれているのが、40〜50代なのです。
これからの40〜50代が描くべきキャリアとは
では、こうした時代において、40〜50代は何を目指せばいいのでしょうか。僕が提案したいのは、「管理職」ではなく「開発職」を目指すという選択肢です。なぜそう考えるのかを順を追って説明していきます。
管理職が合理的だった時代
昭和から平成初期にかけては、管理職を目指すことには明確な合理性がありました。当時はマーケット自体が伸びていたので、組織の頭数を増やせば、その分だけ売上も伸びやすい構造があったからです。そして、人を増やせば増やすほど、その従業員をまとめる立場の人が必要になります。それが管理職でした。
管理職に求められていたのは、人をまとめながら、効率化・最適化・リスク回避を図ること。ベクトルに例えるなら、外へ広げるというより、内側に向いて収束していく考え方です。
経営管理、事業管理、組織管理、人事管理といった言葉が広く使われていたことからも、その時代において、管理がいかに重要な役割を担っていたかがわかります。
管理職一択ではなくなった理由
ところが、時代は変わりました。バブルは崩壊し、少子高齢化も急速に進んでいます。マーケットは縮小傾向に入り、既存事業をそのまま維持し続けること自体が難しい局面も増えてきました。
さらに、AIの台頭によって業務の効率化が進み、これまでのように大量の人員を採用する必要もなくなってきています。こうした中では、人を管理することが主な役割である従来型の管理職の必要性が薄れるのも、当然の流れです。
もちろん、管理職の役割そのものが消えるわけではありません。しかし、既存の仕組みをまとめ、最適化するだけでは、個人にとっても組織にとっても不十分な時代になったといえます。
また、かつてのように、管理職になること自体がそのまま幸福や成功を意味する時代でもなくなりました。こうして、40〜50代のキャリアは、管理職一択では語れなくなったのです。
開発職という新しい選択肢
そこで重要になってくるのが、「開発職」という考え方です。
開発職とは、端的にいえば、ゼロイチで価値を生み出す職です。市場開発、事業開発、組織開発、技術開発など、対象はさまざまですが、既存のものを守ることだけではなく、新たな価値をつくることをミッションとする点で共通しています。管理職とは対照的に、ベクトルを外に向けて発散していく必要がある仕事です。
企業の事業成長という観点から見ても、拡大するマーケットの中では、既存のセオリーに従うことで成果を出しやすい構造がありました。しかし、社会そのものが多様化し、正解が見えにくい時代には、それだけでは足りず、第2、第3の柱を創造することが必要です。こうした「開発」の役割が、これからの組織には求められます。
また、開発職には、個人の理想のキャリアを実現するという意味でも、世の中をより良くしていくという意味でも、大きな意義があります。
今までは、会社員としての出世の最上級は社長になることだと考えられてきました。ところが今は、その手前の管理職でさえ、なりたがらない人が多くなっています。それは、単に従来型のキャリアに魅力を感じなくなっているだけで、能力や可能性がないということではないはずです。
こうしたポテンシャルを持つ人たちの力を埋もれさせてしまうのは、社会にとって大きな損失です。僕は、管理職という役割に自分の可能性を感じにくい人こそ、新しい価値を生み出す開発職で力を発揮できる可能性があると考えています。
開発職を選ぶことは、本人にとって納得感のあるキャリアにつながるだけでなく、これからの組織や社会にとっても大きな価値を持つはずです。
開発職は、キャリア中盤だからこそ強くなれる
ここまでを読んで、「それなら、若いうちから開発職を目指せばいいんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。
たしかに、20〜30代で開発職を担うことも可能です。ただし、実際にその力を発揮しやすくなるのは、ある程度の経験を積んでからだと、僕は考えています。なぜなら、開発職は、一つの専門性だけで勝負できる仕事ではないからです。
必要なのは複合スキル
開発職は、いわば総合格闘技のようなものです。既存のルールの中で決められた役割を果たすのではなく、状況に応じて必要な要素を組み合わせ、自分で道をつくっていかなければなりません。
そのためには、単なる専門性だけでは足りません。営業の観点、技術の観点、財務の観点、クリエイティブの観点など、さまざまな要素をかけ合わせながらアウトプットする複合スキルが必要になります。
だからこそ、20〜30代で積み重ねてきた仕事の厚みがある人ほど、こうした複雑な仕事に対応しやすくなります。開発職は、キャリア中盤に入ってからこそ本領を発揮しやすい仕事だといえるでしょう。
開発職の価値①AIで代替できない
開発職がこれからも価値を持ち続けると考える理由の一つは、AI時代にも代替されにくい領域だからです。
AIは、整理された情報を処理したり、既存のルールの中で最適化したりすることには強みがあります。一方で、ゼロから価値を生み出したり、人や組織を巻き込みながら推進したりすることは不得意です。つまり、プロジェクト管理はできても、プロジェクトマネジメントはできないのです。
これからの時代、AIはますます進化するはずです。そのとき、人にしかできない仕事こそ、ますます価値を持つのだと思います。
開発職の価値②60代以降の自分を支えてくれる
さらに、開発職で培った力は、60代以降の働き方にもつながっていきます。年齢を重ねると、いくら組織に残りたいといっても、年齢を理由に元のポジションに留まることができなかったり、雇用を継続してもらえなくなるリスクはあります。
そうなったとき、管理しかやってこなかった人の選べる道は少なくなります。一方で、自分で価値を生み出し、形にし、推進できる力がある人は、独立や起業に強いといえます。その力があれば、60〜70代になっても、自分の看板で生きていく可能性を広げることができるはずです。
おわりに
40代からのキャリアは、もはや昇進競争の延長線上だけで考えるものではありません。管理職という道を含めつつも、それだけを唯一の正解としないこと。そして、自分の経験を掛け合わせながら、新しい価値を生み出す方向へ舵を切っていくことが、これからのキャリア中盤には求められているのだと思います。
次回は、この「開発職」とはそもそも何かについて、より具体的に整理していきます。