「365日、誰が作っても同じ品質を!」商品設計と工程で支えるナリコマの美味しさ〈前編〉| 製造本部 本部長 高橋 和樹
「"ALL for ONE SPOON" 食の可能性をデジタルで広げ、『一さじの喜び』を届け続ける」
食事を通して人々に生きる喜びを届けるべく、高齢者福祉施設や医療機関向けに食事サービスを提供する、株式会社ナリコマホールディングス(以下、ナリコマ)。大阪府大阪市に本社を構え、関西を中心に成長を続け、この春からは東京拠点にも力を入れ、全国にサービスを拡大してきました。
今回はナリコマ 製造本部 本部長の高橋 和樹にインタビュー。グループ全体の執行役員も務める高橋は、ナリコマの「美味しさ」を支える製造の最前線で、商品設計から工程作り、品質管理まで、一貫した体制を築いています。
毎日53万食、365日違う献立を4つの食形態でご提供する。そのような大量調理でありながらも、「誰が作っても同じ美味しさ」を実現するための工夫、ナリコマならではのこだわり、そして今後の展望について、前後編にわたり詳しく語ってもらいました。
なお記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。
「誰が作っても同じお食事」を実現する商品設計![]()
私は2011年にナリコマに入社し、今年で15年目になります。現在はグループ全体の執行役員、そして製造本部の本部長として、ナリコマの「美味しさ」を支える製造の最前線に立ってきました。
当社が何よりも大切にしているのは、「大量調理でありながら、お客様全員分のお食事が同じクオリティで美味しい」ということです。調理の担当者がベテラン調理師であっても、今日入ったばかりのパートさんであっても、同じ品質のお食事ができあがること。それが一番重要だと考えています。
一方で、当社は手作り感のある味も大切にしています。ただ、人間が作る以上、日によって味や仕上がりに差が出てしまうのも事実。実際、正直に言うと、10年ほど前までは味のムラが出ることも珍しくありませんでした。
当社のセントラルキッチンでは、大きな蒸気釜を使って調理するメニューも多く、小鉢のメニューであれば、1つの蒸気釜で約3,000人分を同時に作ることができます。ただ当時は、混ぜる人の腕によって仕上がりに差が出てしまい、食べる部分によって味が違う、ということが比較的頻繁に起こっていました。
ムラなく混ぜるという作業は、ある意味では職人技といえます。しかし私たちは、そうした属人的な技術に頼るのではなく、誰がいつ作っても同じ美味しさに調理できるためにはどうすればいいのかを考え、「商品設計と工程作り」に本格的に力を入れるようになりました。
具体的には、作業手順やチェックすべきポイント、CCP(Critical Control Point:最重要管理点)などを、誰が見ても同じ判断ができるよう整備しました。CCPとは、数ある工程の中でも特に重要な管理ポイントのことで、たとえば「加熱温度はこの温度まで達していなければならない」といった基準や、近年では塩分濃度や糖分についても、社内で明確な基準を設けています。
さらに、商品設計の段階で、塩分濃度や糖度を「鍋のこの位置で3点計測する」といったように、測定する場所や方法まで細かく指定しています。ムラなく混ざっているかを確認するためのチェック位置もあらかじめ決め、それらをすべて工程表に落とし込み、現場の誰が見ても理解できる状態にしています。
また、工程表の中には、ムラなく混ぜるためのコツなども記載し、必要な情報を漏れなく共有するようにしています。以前は紙ベースで管理していたこうした情報も、現在では仕組みの中に組み込み、デジタル化を進めています。
なお、調理工程は部分的にはすでに機械化が進み、つくる工程は機械が担い、最終的な味のチェックを調理師が行う、という形に近づいてきています。
人の手で丁寧に作ることと、ブレのない美味しさを両立させる。そのために、品質や衛生面も含め、すべてを高い次元で維持するための商品設計と工程作りを徹底すること。それこそが、ナリコマのお食事づくりにおける基本であり、最も重要な第一歩だと考えています。
人間にしかできないこと、機械に任せるべきこと![]()
極端な話ですが、一日だけのアルバイトの方や外国人の方であっても、同じ仕上がりのお食事ができる状態が理想だと私は考えています。
ただ、当社のお食事づくりは「つくったら終わり」ではありません。やはり現場責任者や調理師が最終的にチェックし、官能評価を行うことが欠かせません。塩分や糖分といった数値で管理できる基準もありますが、味の微妙な違いや美味しさは、人間の感覚でしか判断できない。その官能評価の部分は、今も現場のメンバーが丁寧に取り組んでいます。
つまり、機械のほうが一定の品質を安定して出せる工程は、できるだけ機械に任せる。一方で、最終的な味の確認やクオリティの担保など、微妙な違いを見極める工程は、人間が責任を持って行う。この役割分担をはっきりさせることが大切だと考えています。
人間は、人間にしかできないことに注力してほしい。逆に人間でなくてもできることは、機械やシステムに任せる。人と仕組み、それぞれの強みを活かしながら、ブレのない美味しさを生み出していく。製造本部では今、この考え方を軸にしています。
ナリコマが大切にする「美味しさ」![]()
競合他社さんの中には、栄養価を最も重視し、カロリーや塩分濃度といった数値を軸にお食事づくりを行っている会社さんも少なくありません。それも大切な考え方だと思います。
しかし、当社は立ち位置が少し違います。当社のルーツは、創業者であり現会長・竹内 美夫の父が営んでいた大衆食堂や弁当屋です。だからこそ、何よりもまず「美味しさ」が先に立つ。その価値観が、今も会社の根底に流れています。
もちろん、栄養や数値をないがしろにしているわけではありません。カロリーや塩分といった栄養管理も当然重要です。ただ、それだけではいけない。
「美味しさも、何においても大切やで」という言葉は、竹内から日常的に何度も聞かされてきました。入社してからの約15年間、本当にほぼ毎日のように耳にしてきた言葉です。そしてそれは、現場で働く従業員も同じように意識してくれていると思います。
この考え方を裏付ける、象徴的なエピソードがあります。
当社のお食事をご導入されている病院の顧問の方が、定期的に当社のセントラルキッチンを訪問されるのですが、その際、入院されている患者さんがお食事をお召し上がりになった感想を一言メモとして集め、スライドにまとめて見せてくださるんです。
私たちは、エンドユーザーの声を直接聞く機会がほとんどありません。情けない話ですが、私たちの耳に直接届くのはご不満のお声が中心です。
でも、その顧問の方は、患者さんの生のお喜びの声を、付箋に書いて丁寧に集めてくださる。「鯖の味噌煮が美味しかった」「カレーが美味しかった」といった、何気ない一言をすべてスライドにして、当社の6つのセントラルキッチンを回って共有してくださるんです。
お客様の「美味しかった」というお声は、現場で働く従業員にとって、非常に大きな励みになります。そのお声を目にして、時には涙を流すこともあります。それほどまでに、現場にとっては重みのある言葉なんです。
当社のお食事は、365日毎日お召し上がりいただくものです。もし美味しくなければ、きっとお客様は耐えられないでしょう。体に良いことはもちろん大切ですし、その点を決しておろそかにすることはありません。しかし、数値的にはどれだけ優れたお食事でも、美味しいと感じられないお食事を毎日食べ続けるのは、やはり辛い。
だからこそ当社は、栄養管理や品質管理を徹底したうえで、その先にある「美味しさ」を何よりも大切にしています。この順番だけはこれからも変えてはいけないものだと、私は考えています。
会長の「検食」、そして今後への継承![]()
竹内は翌日の献立を前日に3食分すべて検食しており、20年以上これを毎日欠かさず行っています。
そして、ごくまれではありますが、「これは明日お客様に出すな!」と判断するときもあります。私が入社してから少なくとも2回ありました。すでにお食事はお客様のもとに届けられているものの、該当のメニューを出すのを中止するという判断です。
その時、ご提供を中止したメニューは小鉢で、小鉢の分をお値引きという形でご対応させていただきました。ただ、小鉢とはいえ何万人分という規模なので、仮にお1人分100円の値引きだったとしても、当社としてはとてつもない金額のロスになります。また、全国の施設様に謝罪やご説明を行ったので、正直現場は非常に大変でした。
しかし、この経験があったからこそ、あらためて強く感じたことがあります。それは、先ほどもお話したとおり、当社のお食事は「安定した品質でなければいけない」ということです。
一度の味のブレでも、これほど大きな影響を及ぼす。だからこそ、品質の安定したお食事づくりのため、商品設計や工程作りに本気で力を入れなければいけない。その思いが、私自身の原動力の一つになっています。
今後、いつまで検食が行われるかはわかりません。ただ、大切なのは、検食をするか否かに関わらず、常にお客様に自信をもってご提供できるお食事の品質を維持しておくことです。極端に言えば、検食がなくても問題のない状態をつくっておく。それがすべてだと思っています。
非常食開発でのこだわりエピソード![]()
こうした考え方は、たとえ非常食でも一切ブレることはありません。
以前、私たちはレトルトの非常食を開発したことがあります。きっかけは、大雪の影響でお食事をお届けできないケースが発生したことでした。万が一の際も、お客様にお食事を届けられる手段を持っておかなければならない。そうした想いから、非常食の開発に取り組みました。
ただ、レトルト食品というのは、高温殺菌を行うことで中をほぼ無菌状態にし、数年単位での長期保存が可能になります。ただその分、塩味が強く出て、味が濃くなる傾向にあります。また、レトルト特有のにおいも出やすいです。こういった理由から、レトルトの非常食は、できたてのお食事と比べれば、若干味が劣るのは仕方がない――多くの方がそう考えるでしょう。
しかし、竹内はそうは考えない。私たちが試作を持っていくたびに、「こんなん、うちの食事の味とちゃうで」と言われ、何度も突き返されました。合格が出るまで、本当に時間がかかりました。
開発担当者たちからは、「通常のお食事が届けられない非常時にお客様が召し上がるものだから、ある程度のお味でよいのではないか」という声も出ました。しかし、それに対して竹内はこう言いました。
「お客様が災害に遭われて、気持ちが沈んでいるときに、我々のお食事を召し上がって、ちょっとでも元気になれるんやったら、それはええことやろう?」
その言葉に押される形で何度も作り直し、試食を重ねた結果、ようやく竹内が納得する商品を開発できました。今ではいざというときに役立つ非常食として活用されています。
非常食であっても、美味しさを妥協しない。
ナリコマはそこまでこだわる会社なのです。
★後編へ続く★
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[執筆・校正・取材]株式会社ストーリーテラーズ 平澤 歩
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