「こうでなくてはならない」を超えて。Ayakaが見つけた、今の笑顔が活きる場所 【国際女性デーに寄せて】 | 合同会社Kurasu
3月8日は「国際女性デー(ミモザの日)」です。1904年3月8日にニューヨークで女性労働者が婦人参政権を要求してデモ集会を開催したことに由来し、これまでの女性の勇気と決断を称え、女性の地位向上や...
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Kurasuのオフィスでは最近、赤ちゃんの声が聞こえることが日常になりつつあります。代表のYozoと、妻でありKurasuのデザイナーでもあるMizが、1歳になったばかりの子どもと共に出勤するスタイルを実践しているからです。
初の子育てを通じて、経営者として、親として、どのような変化や葛藤があったのか。理想だけではない社内でのハレーションや、産後クライシス、そこから見えてきたジェンダー課題とKurasuの未来図について、お二人にじっくりと語っていただきました。
── 今日は「子育て」をテーマにお話を伺います。娘さん、今おいくつでしたっけ。
── もう1歳なんですね! おめでとうございます。この約1年間、YozoさんとMizさんは「子連れ出勤」をされていますが、そもそもどういった経緯で始められたのでしょうか?
Miz: 子どもを産んだ当初から、「1年くらいはずっと子どもと一緒にいたい」という気持ちがありました。私自身は生後2ヶ月で保育園に入れられて育ったので、自分の子どもとは長く過ごしたいと思っていたんです。
でも、いざ家で子どもと2人きりでいると、ものすごく孤立感が強くなって、メンタルが落ちてしまいました。社会とつながる場所がない中、予測不可能でコントロールできない子育てに一人で向き合うのは予想以上に大変でした。
とはいえ、保育園に入れる決心がつかず、夫であるYozoさんは会社を背負う立場上、長く仕事を休むわけにはいきません。そして私自身、社会の中に居場所がほしいという気持ちもあって、オフィスへ連れて行くという選択をしました。
Yozo: 最初は本当に手探りでした。子どもを抱っこしてミーティングに参加したり、子どもが寝ている隙に仕事をしたりしていました。
でも、子どもが成長して動き回るようになり、自我も出てくると、さすがに限界がきました。「誰かが専任で見ていないと仕事にならない」と痛感し、秋頃からはベビーシッターさんと繋がることができ、午前と午後の数時間だけ見てもらっています。
── 実際にオフィスで一緒に過ごしてみて、社内の皆さんの反応はどうでしたか?
Yozo:最初はスタッフと同じ部屋にいたんですが、子どもが泣くとどうしてもお互いに気を遣いすぎるような空気になってしまったんですよね。
Miz:社内からは「子どもがいると集中できない」という声も上がってきました。仕事に集中したいというのはもっともな意見です。そして、全員が全員、子どもが好きなわけではありませんよね。私自身も以前は子どもが苦手だったからこそ、みんながどう感じるかは痛いほど理解できました。
── それで、オフィスのレイアウトを変更されたんですよね。
Yozo:はい。社内の声を聞いてすぐに、物理的にゾーンを分けられるようなレイアウトに変更しました。やはり居場所を分けると気兼ねなく過ごせますし、スタッフも以前より集中できるようになったのではないかと思います。
Miz:ただそれでも、Yozoさんが不在で私がお手洗いに行きたい時など、数分だけスタッフに預けざるを得ないこともあります。細心の注意を払っていても、集中力を削いでしまう瞬間はある。なかなか難しいです。
Yozo:子どもの成長スピードは本当に速いので、「今月はこの方法がベスト」と思っても、翌月には通用しなくなってしまうという難しさもあります。その時々の状況に合わせて、柔軟に環境を変えていくしかない。Kurasuではまだ「正解」は見つかっていませんが、この試行錯誤のプロセス自体を社内外に共有することに意味があると思っています。
── そもそも、なぜ今回「子ども・子育て」というテーマで発信しようと思われたのでしょうか?
Yozo:きっかけは、スタッフであるAyakaさんの記事にすごく反響があったことでした。AyakaさんはKurasuで初めて出産を経験して仕事に復帰し、子育てとキャリアの両立に挑戦してくれたスタッフなんです。その経験を語ってくれた記事がよく読まれていて、やっぱりみんな関心があるテーマなんだなと思って。
── Ayakaさんも子連れ出勤されていましたよね。
Miz:Ayakaさんの姿を見ていたから、私もある程度イメージを持って子連れで職場に復帰できました。ただ、Ayakaさんが子連れで出社されていた当時はもっと小さなオフィスで、お互いに距離を取る余裕もありませんでしたから、今思えばAyakaさんはすごく大変だっただろうな……。
── 発信に対して、社内の若いスタッフからの反響も大きかったのでしょうか?
Yozo:そうですね。ただ、若いスタッフにとっては、子どもはまだ遠い存在かもしれません。近年の社会構造だと、身近に子どもがいないケースも多いでしょうし、経済的な理由から「子どもがいる生活」を具体的に考えづらいケースも多いかもしれない。
正直なところ、僕自身も子どもが生まれる前は「それは個人の選択でしょ」と、どこか他人事として捉えていました。でも、そういう「自分とは関係ない」という考え方が、社会全体の少子化や、子育てのしにくさに繋がっているんじゃないかと気づいたんです。
── ご自身が「当事者」になったことで、意識が大きく変わったと。
Yozo:はい。子どもがいても働ける職場にしていきたいと、当事者になってから、より強く思うようになりました。
もちろん、僕は役員という立場上、時間の使い方もフレキシブルだから子連れ出勤ができている、という側面はあります。一方で社員の場合、役員には適用されない法的制度(育休や産休)が整っている。でも、いくら制度があっても、職場の空気感が追いついていなければ、それを使うことは難しいですよね。
── 制度と空気感、両方が揃ってはじめて、子育てしやすい組織になるということですね。
Yozo:会社に子どもがいると、「ちょっとうるさいな」とか「誰かが休むと負担が増えるな」という摩擦も起きるかもしれません。でも、Kurasuが成長していく中で、そういった摩擦も含めてみんなで経験し、子育て支援の制度を使う人も、サポートする人も、みんなで助け合える組織に変わっていきたい。
そのために、まずはトップである僕たちが率先して、その実験台になろうと思いました。僕らが「完璧にこなしている姿」ではなく、「いろいろ悩み、周りのスタッフに相談しながら試行錯誤している姿」を見せることが、実は重要かもしれないと思ったんです。
そうすることで、スタッフも「実は将来が不安で」「こういう制度があったらいいのに」といった小さな悩みや声を上げやすくなるのではないか、みんなで解決策を話し合える空気が生まれるのではないかと考えています。
── お子さんが生まれて、お二人の働き方やマインドに変化はありましたか?
Yozo:劇的に変わりました。以前は週末や夜も関係なく働いていましたが、今は「定時退社」が基本です。仕事をするなら、子どもをお風呂に入れて寝かしつけた後、夜に短時間だけ集中してやる、といったスタイルになりました。
使える時間が減った分、仕事の解像度は上がりましたね。「限られた時間で同じタスクを終わらせるにはどうすればいいか」を真剣に考えるようになり、優先順位の付け方がシビアになりました。
Miz: 私も仕事できる時間とできない時間がはっきりして、悩む時間が減り「前に動かしていかないと」と効率が上がりました。ただ、出産直後は、今までぶつかる必要が全くなかったところでYozoさんとすごくぶつかったんです。
── そうだったんですね。
Miz: 私はもともと、空気を読んで先回りして動いたり、自分の仕事をしながら夫のサポートをしたりするのが好きでした。余裕がある時はそれが愛情表現だったのですが、出産して自分の時間がなくなった時、無意識にやっていたサポートが完全な「自己犠牲」になり、ものすごい負担になったんです。このままだと自分のキャリアもアイデンティティも消えてしまうと危機感を覚えました。
Yozo: 僕は決まったタスクをこなすのは得意なんですが、Mizはグレーなところでささっと動いてくれていたんですよね。
男性は親になっても身体的な変化がないので、女性の大変さを本当の意味で理解するのは無理なんです。でも、「無理だから分からない」で済ませると必ずすれ違いが起きるので、お互いが今何をすべきかを強制的に言語化して、家庭内のロールを見直しました。
── 夫婦関係だけでなく、仕事上のコミュニケーションにも通じることのような気がします。
── 子育てをして初めて気づいたことはありますか。
Miz:私は子どもを産むまで、会社の中での男女平等は守られているし、女性も頑張ればいいんだ、と思っていました。でも子どもを産んでみると、圧倒的に女性の方に負担が偏っていて、同じように戦っていても勝てないという現実に直面しました。
また、子どもを持つということは、ある意味で「マイノリティになる」経験の一つなのだと気づきました。子育ては個人の選択ですが、障害やメンタルの不調など予期せぬ形で、今までマジョリティだった人がマイノリティになる瞬間は誰にでも起こり得ます。当事者になって初めて、想像できない範囲のことが考えられるようになりました。
Yozo:僕も読書の時間が増えた中で、男女の社会的な傾向の違いについて書かれた本を読み、考えさせられました。あるデータで、小学校ではリーダーの男女比が半々なのに、中学校で選挙制になると女子の立候補者が1割に激減するという話を知り、衝撃を受けました。
能力の差ではなく、女性が競争システムに心理的ハードルを感じてしまうという社会構造があるのだそうです。それなら会社組織も、単に「女性活躍」と言って枠を用意するだけでなく、その入口にある心理的・社会的なコストを理解して、競争参加へのハードルを下げる設計をしないといけない。
── 当事者になったことで、組織や社会の見え方も変わってきたのですね。
Miz:コーヒー業界は世界的に見ても男性比率が高いと思います。出産と子育てを経験する中で、キャリアを積んでいける男性側がこの構造を理解することが本当に大切だと感じるようになりました。女性が声を上げているだけでは、なかなか変わりません。
Yozo:以前、BRUTUSのコーヒー特集号で紹介された方々が全員男性であったことに対して、業界内で議論が起こりましたよね。この件に関しては偶然だったかもしれませんが、業界の構造としてジェンダーギャップの課題があるのは確かです。
一見、アファーマティブ・アクションなどで制度を変えると、一時的にコストがかかって企業価値が下がったように見えることもありますが、中長期的には絶対に組織の能力は上がります。自分の娘が生きる未来を考えたとき、こうした視点は経営者として無視できないなと強く感じました。
── 自身が親になったことで、見えてきたKurasuの未来図はありますか?
Yozo:50年くらいの長いスパンで物事を考えるのが楽しくなりました。自分はもう過去の人間で(笑)、これからの主役は子どもたちです。娘が大人になった時、Kurasuはどうあるべきか、日本や世界はどうなっているか。
もともとKurasuは「2050 COFFEE」という店舗ブランドを持っていたりと、未来を見据えた経営をしてきたつもりでしたが、子育てを始めてそれがもっと具体的に、手触りを持ったものになりました。
自分の原体験として、4歳の頃にNYへ行き、多様な価値観に触れたことが今に生きています。娘もいつか生産国へ連れて行って、広い世界を見せてあげたいですね。
── そうした未来のための足元の環境づくりについて、Mizさんはどのようにお考えですか?
Miz:育休中のお母さんって、社会から切り離されてすごく孤独を感じるケースが多いと思います。私も出産して1ヶ月は休みましたが、そこから少しずつ、薄いグレーから濃いグレーになっていく感じで、徐々に仕事を再開しました。
「完全に休む」か「フルタイムで戻る」かの2択ではなく、グラデーション的に社会へ復帰できる柔軟な環境が会社にあるといいなと思います。
誰かが長期休暇に行ったり産休に入ったりする時に、一人ひとりがオープンマインドに「よかったね」と言い合える組織でありたいです。そして、子育てなどで一度キャリアがストップしてしまった女性にも、ぜひKurasuに来て働いてほしいと願っています。
── 柔軟な働き方や心理的なサポートに加え、会社としてどのような仕組みを考えていますか?
Yozo:経済的な不安を解消できるようなセーフティーネットをつくりたいです。
あるデータによると、子どもが一人いる家庭と二人いる家庭の割合は同じくらいだそうです。つまり、「一人産んだら二人目も」というハードルは意外と低くて、「最初の一人」を持つことへのハードルが一番高い。
そこにはやはり、経済的な要因が大きいと思います。「自分一人でも精一杯なのに」と不安になる気持ちはすごく分かりますし、自分にもそういう不安がありました。でも、一人目の子どもが生まれて育て始めてみたら、不思議なことに「二人目もありかも」という気持ちになっているんです。
だからこそ、Kurasuが会社として成長して経済的な基盤を整えるのはもちろん、安心してライフイベントを迎えられる制度を作りたい。自分自身に金融業界のバックグラウンドがあるので、投資や経済の知識を共有する社内セミナーなども考えています。
将来的には、この広いオフィスを活用して「託児所」を作りたいという構想もあります。京都のこのエリアは保育園激戦区なので、社内だけでなく地域の人も受け入れられたら、それが一番の社会貢献になるかもしれない。もちろん、会社に余裕がないと達成できない目標ですが、だからこそそれを目指してKurasuを成長させていきたいと思っています。
── 最後に、これからの展望やメッセージをお願いします。
Yozo:あらためて考えると、子どもって本当に「宝物」だし、未来そのものじゃないですか。Kurasuは普段から、コーヒー業界の持続可能性を大切にして事業展開をしていますが、究極的なことを言えば、コーヒーを飲んでくれる次世代、一緒に働く次世代がいなければ、僕たちが事業を続ける意味もなくなってしまう。子どもが生まれてから、より一層、そう考えるようになりました。
子どもを持つことは、大変なこともありますが、それ以上に楽しくてワクワクすることばかりです。家を買おうとか生まれてはじめて考えてみたり(笑)、新しい世界への扉が開いたような感覚です。
サービス業という業態柄、難しい部分もありますが、Kurasuはみんなで助け合い、誰もが未来に希望を持てるような会社でありたい。そのための実験と挑戦を、これからも続けていきます。
Miz: 最近、Kurasuのロゴを入れたベビー用のロンパースを少しだけ作ってみたんです。試しに店頭に出してみたら、すぐに売れてしまって。私たちと同じように子育てをしているお客様が手に取ってくださったんだと思うと、すごく嬉しかったですね。
周辺のエリアには子育て世代も多いですし、こういった小さなきっかけから、Kurasuのコミュニティ自体が新しい広がりを見せていくかもしれないなとワクワクしています。これからも、私たちらしいやり方で、社会や地域と温かくつながっていけたらと思います。