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365日、休まず患者さんの元に駆けつけた。ファストドクター創業ストーリー

2016年、夜間往診サービスを提供する「Fast DOCTOR(ファストドクター)」を立ち上げた代表取締役であり、医師の菊池 亮先生。

創業の背景から、未来の展望までお話を聞きました。

菊池 亮|ファストドクター株式会社 代表取締役・医師
2010年帝京大学医学部卒業。帝京大学医学部附属病院、関連病院にて整形外科に従事後、2016年にファストドクター株式会社を創業し代表取締役に就任。帝京大学医学部救急医学講座を兼務。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、一般社団法人日本在宅救急医学会評議員。

目次

  1. 不要不急の救急搬送を減らしたい。「ファストドクター」が始まるまで
  2. 「相談」「診療」「かかりつけ医との連携」の3本柱の重要性
  3. 医師2名で、365日稼働し続けた
  4. かかりつけ医機能の強化に向けたサポートをしていきたい

不要不急の救急搬送を減らしたい。「ファストドクター」が始まるまで

──まずは、ファストドクターを立ち上げた経緯を教えてください。

夜間救急の現場に携わる中で、不要不急の救急車利用がとても多いことが気になっていました。病院の医療従事者は、限られたスタッフで救急患者さんに対応しています。そんな中、不要不急の受診は、医療従事者の疲弊につながっていましたし、救急車という本来であれば重症患者さんを迅速に搬送するための資源が消費されてしまっていることに、疑問を感じていました。このような、不適切な受診行動をどのようにしたら変えていけるのか?と考え始めたのが、創業のキッカケでした。

救急車利用の件数は年々増え続けており、本当に重症な患者搬送に遅れが出始めています。一方で、搬送患者のうち6割がご高齢者、5割が軽症患者(入院を必要としない患者)で占められています。これは近年の少子高齢化や世帯構造の変化が関係していると思っています。今、ご高齢者の一人暮らしや老老世帯の割合は、どんどん上昇して60%に迫っています。体調を崩したときに、容易に通院ができない世帯が増えてきているのです。

そもそも夜間帯は、かかりつけ医が対応できないことが多いうえに、自力で通院もできないためにアクセスの手段として救急車を利用する方が増えています。この問題を何とかしないといけないと考えていました。

そこで、かかりつけ医の代わりに、患者さんからの救急相談や救急診療のニーズに応えられる仕組みをつくろうと考えました。

「相談」「診療」「かかりつけ医との連携」の3本柱の重要性




──サービスを提供する中で、気づきはありましたか?

「かかりつけ医の代わりに、患者さんの救急ニーズに応えられるサービスを提供した」と思ってスタートしたファストドクターでしたが、スポットでの救急ニーズに応えるだけでは十分ではないことに気がつきました。大切なのは「3本の柱」です。

──「3本の柱」?

はい。3本の柱は、救急相談・救急診療・かかりつけ医との連携から成ります。救急相談では、相談医と相談看護師がトリアージ(緊急度判定をし治療の優先順位をつけること)を行い、患者さんを適切な受診行動に案内します。救急診療では、自力で通院ができない患者さんに対してオンライン診療や往診といった、自宅で診療が受けられる環境を提供します。最後に、かかりつけ医との連携によって、患者さんにとって24時間切れ目のない医療が受けられる環境が出来上がります。ファストドクターが始まった当初は、救急診療の部分しか備えていませんでした。しかし、これでは適切な救急医療が成り立たず、患者さんにとって過不足のない適切な医療が提供できないことから、結果として患者さんに不利益が生じてしまうことに気がつきました。


「本当はすぐにでも救急車が必要な患者さんに対して、往診で対応しようとしてしまった」「相談で解決できる症状なのに、オンライン診療や往診を提供してしまった」といった不具合が起こらないためにも適切な救急相談体制が必要ですし、患者さんの本当の安全を考えるのであれば、かかりつけ医の先生との連携は欠かすことができません。私たちはあくまでも”つなぎ”の役割ですから、かかりつけ医の先生に、患者さんをつないであげるところまでが私たちの役割だと考えています。

近年、厚労省や医師会は、かかりつけ医やかかりつけ医機能の重要性を強調しています。かかりつけ医とは、なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師。と定義されています。また、かかりつけ医機能とは、以下の4つの機能のことを指しています。

1・かかりつけ医は、日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する。
2・かかりつけ医は、自己の診療時間外も患者にとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。
3・かかりつけ医は、日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。
4・患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。

わかりやすく言えば、かかりつけ医を中心とした地域の医療機関等が連携して、患者さんへ最善の医療が継続されるよう体制構築をしていこう。というものです。ファストドクターは、夜間・休日帯の、通院の難しい患者さんたちからの救急ニーズに応えながら、かかりつけ医と連携していくことにより、かかりつけ医機能を高めていくことの一端を担うことができればと考えています。


医師2名で、365日稼働し続けた




──創業当時は、医師2名でスタートしたとお聞きしています
そうなんです。僕ともう一人の医師の2名で365日対応していました。資金も充分ではありませんでしたから、車も自分で運転して往診するなど、結構な無理をしていました。

当時は、大学医局の関連病院に常勤医として従事していて、日中は外来、病棟、手術などの業務があり、常勤先での仕事を終えたあとに、ファストドクターの業務をこなす二足の草鞋を履いていました。常勤先での業務が朝の8時から19時まで、20時からはファストドクターの業務に就く。その頃のファストドクターは24時に最終受付としていたんですが、それでも最後の診療が終わると深夜2時や3時に及ぶこともあり、体力的に大変な時期でした。

──想像するだけでも過酷です。

当時は若かったので。その後、少しずつ患者さんからの相談件数が増え、医師2名では人手が足りなくなってきたので医師や、医師の移動をサポートする医師アテンダント、患者さんからの救急相談をトリアージするメディカルコールスタッフなどを増員し、徐々に組織が大きくなっていきました。今では、全国で1,000名を超える医師がファストドクターに登録し、日々の救急診療に従事してくださっています。

患者さんから「ありがとうございました」と感謝の言葉をいただけるときが、医師として最も嬉しい瞬間ですし、最近では、地域の医療機関の先生からも、「急な患者さんからの往診ニーズに応えてもらって助かった」「ファストドクターを利用することで身体を休める時間ができて助かっている」などと喜びの声をいただけるようになり、ファストドクターを続けてきて良かったと思えるようになってきました。

かかりつけ医機能の強化に向けたサポートをしていきたい




──スタッフが増えた今、思うことはありますか。

ファストドクターのチームとして、気持ちよく仕事ができる環境づくりを進めたいと考えています。特に医療業界では、自己の頑張りが組織的な評価に結びつきづらい文化があります。一般企業ではあたりまえの人事評価をしっかりと根付かせながら、個人の頑張りが、評価に結びつくようにし、それぞれの医療従事者がモチベーション高くコミットしていけるような仕組みにしたいと思います。

さらに、事業に誇りを感じながら働いてもらえるように、社会から求められる信頼と実績づくりを進めていきます。これは、僕に課せられた重要な経営issueですね。

──今後、ファストドクターとして目指すビジョンを教えてください。

これまでのファストドクターは、「患者さんに向けた救急医療サービス」というイメージが強かったように思いますが、今後は、患者さんはもちろん、地域の医療・介護従事者からも求められるサービスとして進化していきます。ファストドクターが夜間休日帯におけるかかりつけ医機能を担っていくことにより、地域の医療全体として、良質かつ持続可能性の高い医療提供体制を目指していきたいと考えています。

世の中の医療課題に取り組んでみたい」という、高い志をもった方とファストドクターで一緒に成長を楽しみたいと思っています。


<取材・文= 高橋まりな、撮影=Yuki Tsunesumi 編集=FastDOCTOR / staff note>



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