「この仕事なら、自分にもできるかもしれない」
国際協力の形にはさまざまなものがあります。その中で臼井さんが選んだのは、「ゼロをイチに戻す」——生きるための基盤を失った人々を支えるUNHCRの活動でした。
異なるバックグラウンドを持つ職員が熱意をもって取り組むこの職場で、成果を求められるプレッシャーを力に変え、自らの成長を実感しているといいます。
今回は、臼井さんがこの仕事を通して見つけた“やりがい”と“原動力”についてお話を伺いました。
UNHCR協会は、どのような方法で難民支援を進めているのですか?
私たち国連UNHCR協会では、難民問題の理解を広げるための「コミュニケーション活動」と、民間の皆さまからご寄付を募る「ファンドレイジング活動」を主に行っています。
こうした取り組みを通じて集まった寄付のうち、およそ8〜9割はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の本部に送金され、世界各地の現場での支援活動に役立てられています。
よく誤解されるのですが、私たちは国連の職員ではなく、日本の「認定NPO法人」として活動しています。UNHCR駐日事務所が日本政府への働きかけなど公的な役割を担う一方で、私たち国連UNHCR協会は、個人の方々や企業・団体の皆さまから支援の輪を広げる役割を担っているのが大きな違いです。
日本国内における難民支援の体制はどのようになっているのでしょうか?
日本国内での難民申請者への具体的な支援は、UNHCR駐日事務所とパートナー関係にあるNPOやNGOが担っています。
たとえば、ウクライナからの2,000〜3,000人規模の受け入れに関しても、最初に日本政府への提言を行ったのはUNHCR駐日事務所であり、その後の生活支援はパートナー団体が中心となって行っています。
一方で、私たち国連UNHCR協会は、UNHCR本部のパートナー団体として活動しており、理解を広げるための「コミュニケーション活動」や、ご寄付を募る「ファンドレイジング活動」を主に担っています。
集まったご寄付の8〜9割はUNHCR本部へ送金され、「用途指定のない資金」として、柔軟に現場で活用されているのが大きな特徴です。
“用途指定のない資金”というのは、どのような目的で使われるお金なのか、詳しく教えていただけますか?
各国政府からの任意による拠出金には、多くの場合「使途の指定」があります。たとえば、特定の国や地域に対して様々な制約があると、支援が届かないこともあるんです。
その点、私たちが民間から募る寄付は、いわば“色のついていない資金”。使い道が限定されていないからこそ、どこで何が起こっても、最初の72時間以内に必要な物資をもってUNHCR職員が現地に届けることができるんです。これは本当に大きな意味を持っています。
国際協力には様々な形がありますが、なぜUNHCRを選んだのですか?
また、この業界のどんなところに魅力を感じていますか?
もともと国際協力に関心があり、大学ではBOPビジネス(ピラミッドの底辺層を対象とした開発手法)を学んでいました。これは、生活基盤のある人々に製品やサービスを届けて、暮らしの質を高めるという考え方です。
しかし難民の方々は、そもそもその生活基盤自体が失われていて、スタートラインに立つことすら難しい状況にあります。
私は、国際協力には大きく2つの形があると考えています。
1つ目は「イチを十にする」ように、すでにある基盤の上で人々の可能性を広げていく支援。
2つ目は「ゼロをイチに戻す」ように、生きるための土台を失った人たちを支える支援です。
私はこの“ゼロをイチに戻す”支援に強く惹かれて、難民支援の道を選びました。
資金の仕組みとしては、寄付金・ビジネス・ODA(公的資金)の3つがあると思います。その中で「寄付金」で解決していくことを選ばれたのはなぜですか?
寄付金の大きな価値は、その「自由度」と「柔軟性」にあります。
ODAや政府の任意による拠出金は、どうしても使い道があらかじめ決まっていることが多いのですが、民間からの寄付は“色のついていない資金”として、緊急時にすぐ使えるのが強みです。
さらに、私たちは寄付を通じて、支援をお願いするだけでなく、多くの市民の方と直接お話ししながら、難民問題への理解を広げていくことができます。
こうした「人と人とのつながり」も、寄付が持つもう一つの大切な価値であると感じています。
ファンドレイジングにはいろいろな方法がありますが、なぜ特に“ファンドレイザー”、そしてFace to Face(対面)の方法を選ばれたのでしょうか?
テレビCMやインターネット広告など、協会内にもさまざまな情報発信の方法がありますが、Face to Face(対面)には特別な意味があります。
直接お話しすることで、新しい情報をその方に伝え、その方の関心に寄り添いながら寄付の意義を深く理解していただいたうえで支援を始めてもらえます。そして何より、その場で「感謝の気持ちを直接伝えられる」ことがこの方法の大きな価値だと考えています。
寄付は「して終わり」ではなく、「ここから始まるもの」です。
その実感を寄付者の方と共有できるのが、Face to Face(対面)の魅力だと思います。協会の寄付収入の約30~40%を占める主要チャネルです。対面では情報を直接伝え、寄付者の関心に合わせて深い理解を促し、感謝を直接伝えることができる。寄付は「終わり」ではなく「継続的な関係の始まり」なので、その入り口をつくる仕事として非常に手応えがあります。
この仕事を通して感じるやりがいや成長について教えてください。
私たちの仕事の魅力は、職員それぞれが異なるバックグラウンドを持ちながらも、熱意を持って取り組んでいる点にあります。ボランティアではなく「有償」の仕事だからこそ、成果や結果が求められ、その分プレッシャーを感じることもありますが、そうした経験が自分自身の成長や大きなやりがいにつながっています。
具体的な成果として、入職してからこれまでにどれだけの寄付を現地に届けることができたかという数字がわかりやすい指標です。毎年少しずつでも確実に寄付額が増えていくのを確認できるのは、とても励みになります。
また、自分の声かけをきっかけに支援を始めてくださる方が増え、その方たちが一時的な寄付にとどまらず、毎月継続して私たちとともに歩んでくださっているのを実感できることも、大きなやりがいです。寄付者の方と長く関係を築いていけるのは、この仕事ならではの魅力だと思います!
一歩を踏み出すのに勇気がいるかもしれませんが、想いを持って行動すれば必ず誰かの力になれます。支援の輪を広げるこの仕事に、ぜひあなたの想いを重ねていってほしいです。
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