「まずは信じたらいい。信じないことにメリットはない」働く人に欠かせない言葉と考え方|福岡でコツコツまじめにやってる会社の平凡な日常
普段はコウダプロ代表の幸田さんが朝礼で講話をしてくださいますが、今回は幸田さんが出張のため不在。その代わりに、新卒7年目で管理職を務める原口水月さんが代理としてお話をしてくれました。 ...
https://note.com/koudapro/n/n6f506b2e58e2
毎週月曜に行われるコウダプロの朝礼では、最初に代表の幸田八州雄さんが講話を行います。しかし、今回の朝礼は以前、原口水月さん(新卒7年目で管理職を務める)が講話をしたのと同じく、少し珍しい形で行われました。幸田さんが出張のため不在となり、メンバーだけでひとつのテーマについて話し合う時間が設けられたのです。
【原口さん講話回】
議題は「決裁フローのあり方を見直すこと」。この日の朝礼の目的は、制度を決め切ることではありません。2025年12月15日時点での考えや期待、懸念を含めて、それぞれが「今、何をどう感じているのか」を率直に言語化すること。そのプロセス自体が、今回の朝礼の主眼でした。
会社として、どこまで個人の自律を信じるのか。そして、今の自分たちは、その前提に本当に立てているのか。
社長という方向性を示す存在がいない中で、立場や部門を越えて、それぞれが自分の言葉で考えを語る。そんな深みのある時間が流れていました。
本記事では、当日の朝礼を振り返りながら、「信じて任せる」とはどういうことなのか、承認フローを一部手放したとき組織に何が起きるのかを、参加者の発言をもとに整理していきます。
こんにちは、プレスラボ(@presslabo)の池田園子です。月1回「コウダプロ朝礼レポート」を担当させていただいています。
前回(2025年11月)の朝礼noteはこちらから。
幸田さんからは前提として「基本思想」が共有されていました。それは「確信があるならGO。確信がなければ相談する」という、ごくシンプルなルールです。
自由放任を意味する考え方ではありません。そこには、「自分で考え、判断し、その結果を引き受ける」という強い前提があります。
承認を取るかどうか以前に、「なぜそれをやるのか」「なぜ今なのか」を、自分の言葉で説明できるか。その姿勢そのものが問われているのです。
この考え方を象徴する例として話題に挙がったのが、コウダプロで行われている新卒男子(希望者のみ)が挑戦する研修「日本全国ダーツの旅」です。
特徴的なのは、この取り組みが、細かな決裁や承認を経て進められているわけではない、という点です。「法に触れない&命の危険を冒さない限りはなんでもアリ」という前提のもと、「1か月後(軍資金の)5万円をいくらにして帰ってくるか?」「経験を得ること」を目的に、自ら判断し、行動する。そこには、早い段階から責任と裁量を個人に委ねる、コウダプロらしい姿勢が表れています。
なぜ今、決裁フローを見直すというテーマが出てきたのか。その背景にあるのは、「業務効率を少し上げたい」「意思決定を速くしたい」といった短期的な目的ではありません。むしろ、「この先10年、組織がどう成長していくのか」という長期的な視点が強く意識されています。
組織が大きくなるにつれ、判断が上に集中しすぎると、個人の思考や責任感が育ちにくくなる。誰かに認めてもらってから動くのではなく、自分で考え、自分で決め、その結果を引き受ける。今とてもよい状態になっている組織において、そうした判断力と責任感を個人に委ねていきたい──。今回の議論は、その思想をあらためて共有する時間だったように思います。
今回のテーマに対して、朝礼に参加したメンバーの反応は、概ね前向きなものでした。決裁フローを一部見直すことで、自分の仕事のパフォーマンスが良い方向に変わると思うかどうか。その問いに対し、ポジティブなイメージを持っていると意思表示するメンバーが大半でした。
話し合いの中で確認されたのは、「最初から完璧なシステムにすること」を目指すのではなく、まずはやってみて、必要があれば見直していくという姿勢です。この考え方は、これまでのコウダプロの取り組みとも重なります。
一例として話題に挙がったのが、かつて導入されていた「ハッピーフライデー」でした。この制度は、日々メンバーが気を張り詰めて仕事に向き合う姿を見ていた幸田さんが、「だからこそ金曜日は早めに退社してほしい」という経営者としての気遣いから生まれたものです。
一方で、運用していく中で、この仕組みが当時のメンバー(一部)には必ずしも合わなかったという側面もあり、結果として現在は行われていません。ただし、それは制度そのものがよくなかったという話ではなく、組織の状態やタイミングとの相性を見極めた上での判断でした。
このエピソードが象徴しているのは、「やってみたからこそ分かることがある」ということ。試してみて、合わなければやめる。その経験を次に生かす。そうした判断が、特別なことではなく、自然に行われている点に、コウダプロらしさを感じます。
また、失敗やミスに対する捉え方についても、印象的な言葉がありました。原口さんは「入社して7年間で、取り戻せなかったミスを見たことがない」と語ります。丁寧に振り返り、修正していけば、取り戻せない失敗はなかった。だからこそ、今回のような取り組みには挑戦する意味がある、といったメッセージにも映ります。
失敗しない制度をつくることが目的なのではありません。失敗が起きたときに、それを学びに変えられるかどうか。そして、メンバー自身がその前提を信じられるかどうか。
決裁フローの見直しについても、同じことが言えます。一度で完成させるものではなく、やってみて、考えて、必要があれば立ち止まる。そうした試行錯誤を許容できる空気と姿勢があるからこそ、このテーマが前向きに語られているのだと感じました。
今回の朝礼で、繰り返し共有されたキーワードのひとつが「リミッターカット」でした。ここで言うリミッターカットとは、勢いよく動くことや無理に背伸びをすることではありません。
「自分たちの思考を縛っている無意識下の前提条件を外すこと」にあります。
たとえば、「◯万円までは自分で判断できる」「ここから先は承認が必要」といった決裁ルール。こうした線引きがあることで、判断の迷いが減る一方、自動的に「その範囲でできること」を考える癖がついてしまうことがあります。
本当は別の選択肢があったとしても、考える前にブレーキを踏んでしまう。今回の議論では、そうした思考の癖そのものが話題になりました。
決裁フローの見直しは、行動量を増やすための施策ではありません。「確信があるか、ないか」を自分の頭で判断することで、なぜそう思ったのか、どこに根拠があるのかを言語化する力が求められます。承認を得ることが前提ではないからこそ、自分の判断に対して、より深く向き合う必要があるのです。
また、こうした判断を積み重ねていくことで、個人の中に小さな成功体験がぽつぽつと生まれていきます。「自分はここまで考えて動ける」「この次元の判断ならできる」。そんな手応えが積み上がることで、思考のリミッターは自然と外れていく。リミッターカットとは一度きりの大胆な決断ではなく、そうした日々の更新の積み重ねでもたらされるものなのでしょう。
あらためて確認されたのは、決裁を外すこと自体が目的ではない、という点です。目指しているのは、主体的に考え、判断し、その結果を引き受けられる人を育てること。その延長線上に、コウダプロが目指す「自律した個人」と「強い組織」がある、という考え方が共有されていました。
決裁フローを見直し、権限を委ねていく。その話題が深まる中で、繰り返し確認されていたのは、「権限委譲は、制度やルールだけでは機能しない」という前提でした。
朝礼では、とあるメンバーが前職での経験を共有してくれました。組織が大きくなるにつれ、社長が持っていた権限を部長へと委譲していったものの、結果として部長がワントップのような状態になり、かえって組織がうまく回らなくなった。そのため、一度権限を剥がし、より下のレイヤーに分散させる判断をしたことがある、という話です。
このエピソードが示しているのは、権限そのものが問題なのではなく、「誰に、どのように渡すか」を誤ると、組織を弱くしてしまうこともある、という現実。権限委譲は万能な手段ではなく、やり方次第で結果が大きく変わる。そんな示唆が共有されました。
また、議論は予算や目標の話にも及びました。あるメンバーから、前職では店舗や部門ごとに予算を持ち、その範囲内で意思決定を行っていた一方、現在は明確な予算がないため、判断の基準が持ちにくい場面もある、という実感が語られます。そこで出てきたのが、「予算を自分のお金のような感覚で使う」という比喩でした。
会社のお金を「会社の財布にあるもの」として扱うのではなく、「自分の財布にあるもの」かのように、自分の商売として考える。その感覚があって初めて、権限や裁量は健全に機能する、という考え方です。多くの会社で、予算や数値目標が判断軸として機能しているのも、そのためでしょう。
こうした話を通じて見えてきたのは、権限委譲には必ずセットで求められる要素がある、という点です。目標を自分ごととして捉えること。判断の結果に責任を持つこと。そして、自分だけで完結せず、部下や周囲を育てていく視点を持つこと。
権限委譲は、一度導入すれば完成するものではありません。試行錯誤を重ねる中で、理解が深まり、人と組織が少しずつ育っていくものです。そのプロセスを支える大前提となるのが、不安や違和感があれば相談でき、失敗を学びに変えられる「心を開いた」関係性です。
今回の朝礼を通して改めて共有されたのは、権限委譲が成立するかどうかは、仕組みそのものよりも、そこにいる人と人との関係性に大きく左右される、ということでした。信じて任せることは、制度を整えること以上に、日々の対話と姿勢に支えられているのだと感じます。
なお、この日の話し合いは「話して終わり」ではありませんでした。朝礼終了後、メンバー間で内容を整理したうえで、次のような運用案がまとめられ、幸田さんに共有されたそうです。
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確信がある:決裁不要、報告不要
自信がある:決裁不要、要報告
迷う:相談
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全メンバーの合意のもと、この整理をそのまま送ったところ、約10分後に幸田さんから返ってきたのは、「了解しました。それでやってみましょう」という短い返信でした。
こうして、新しい決裁フローは、特別な準備期間を置くことなく、当日から実際の運用として始まっています。朝礼での対話が、行動へと即つながった。そのスピード感もまた、今のコウダプロの勢いを示しています。
社長不在という状況でも、ここまで率直で建設的な対話が自然に行われていたこと自体が、コウダプロという組織の現在地を物語っているように思いました。
信じて任せることは、簡単なようでいて実はとても難しい。その難しさに向き合いながら、答えを急がず、考え続ける姿勢こそが、この組織の強さなのだ。そう感じた朝礼でした。
Text/池田園子