~金沢・能登で問い続けた、Localらしさの話〜
前職は大手銀行で、数字と向き合う毎日を3年間送ってきた私が、入社からわずか一週間で、能登の林の中にいた。
研修と聞いて想像したのは、コンサルの方を招いた座学やディスカッション。
それがまさか、オノを振るうことになるとは思っていなかった。
「次のホテル、木から建てるのかな?」と半分本気で思いながら向かった二日間。
でもそこで得たものは、ホテルという枠をはるかに超えた、「ローカルとは何か」という問いだった。
1日目午前:Localらしさとは
研修の最初に、Akiさんはこう言っていた。
「Localらしさと、Linnasらしさ、この2つを大切にしたい」と。
午前はそのLocalらしさを体感するワークから始まった。
「ローカルらしさを探してきてください。制限時間は2時間です。」
そう言われて、チームで街に飛び出した。
スマホを片手に、Linnas Kanazawa周辺をただ歩く。
最初に気づいたのは、空の広さだった。
東京では当たり前のようにビルが視界を埋めるが、金沢の空は広かった。あとから聞けば、景観を守るための厳しい高さ制限があるらしい。街が意図的に低く保たれているのだ。
歩けば歩くほど、東京との違いが積み重なっていく。
古い町屋が、現役のまま残っている。金沢は加賀藩の時代から一度も戦争の被害を受けていない街だという。だから壊されることなく、歴史がそのまま街の形として残り続けている。
チェーン店ではなく、その街にしかない小さな店が軒を連ねる通り。
なぜそうなのかは、正直わからない。でもそれが、街に独特の温度を与えていた。
「ローカルらしさ」という言葉の意味を、私はまだ完全には理解できていない。
でも歩きながら感じたのは、それは一言で説明できることではなくて、人、歴史、政治、産業、そういったものが複雑に絡み合ってできているものなんじゃないか、ということだった。
1日目午後:「最強のホテル」を考える
フィールドワークの後は、「最強のホテルとはどんなホテルか」をグループで考えるワークへ。
社長のAkiさんから、こんな考え方が共有された。
ホテルとは、①迎賓館、②社交場、③会館 ー この3つの要素において突出すべきだ、と。
そしてその先に目指すのは、「コミュニティーホテル」という新しいジャンルの確立。
ACEホテルがライフスタイルホテルというカテゴリーをつくったように、Linnasはコミュニティーホテルという分野を切り拓こうとしている。
議論を通じて感じたのは、このワークの本当のメッセージは「最強のホテルの定義」そのものではなく、逆算して考える癖を身につけてほしいということだったんじゃないかと思った。
日々の運営に追われていると、どうしても今できることから発想してしまう。
でも本来は、10年後・20年後のあるべき姿を描いてから、今やるべきことを考えるべきだ。
一回のワークで全員が「未来の最強のホテル」について共通認識を持つには、時間が足りなかったかもしれない。
定期的に立ち止まって考え続けることが大切なのだと思う。
そして私自身にとっては、もう一つの気づきがあった。
入社したてで、自分自身の役割がまだちゃんとわかっていない。
だからこそ、降ってくる仕事をこなすのではなく、将来のあるべき姿から逆算して、能動的に仕事をつくっていく必要がある、そう感じた。
2日目:林業体験
2日目は、能登の林へ。
この体験はLinnas Kanazawaの清掃を担当してくださっているSaoriさんのつながりで実現した。SaoriさんはLinnasの仕事とは別に、林業にも携わっている。
林業の現状は、課題が山積みだという。3K(危険、きつい、汚い)と言われ、従事する人は減り続けている。今植えた木を伐採できるのは数十年後。課題の解決は一筋縄ではいかない。
話を聞きながら、正直に言うと、どこか他人事のように感じてしまっていた。
でも、これは遠い国の話ではない。私たちが暮らす日本で、今まさに起きていることだ。林業をやる人がいなくなれば、山は管理されなくなり、生態系ごと崩れていくかもしれない。クマが人里に出てくるのも、もしかしたら林業の衰退と無関係ではないのかもしれない。
そこで気になったのが、Saoriさんのことだった。
石川出身でもなく、離れようと思えば離れられるはずなのに、なぜこの問題に取り組み続けているのだろう。
それに比べて、私たちはなぜ何もしていないのだろう、そんな問いが、じわじわと湧いてきた。
Saoriさんと一緒に活動するTakeshiさんも話してくれた。
木を加工できる場所が減っているという問題に着目し、加工場を一般開放して機械の使い方を教えているという。
森や林を、もっと自分たちのものとして身近に感じてほしいという思いからだ。
林業の課題は石川県の課題でもあり、日本全体の課題でもある。日本の顔となるホテルー迎賓館—を目指すなら、そういう問題について自分事として身近に考えることが必要なのではないか。これが、真のローカルらしさかもしれないと思った。
2日間の研修を通して
2日間を経ても、「ローカルらしさとは何か」を言葉で説明することはまだできない。
でも、確実に解像度は上がった。
研修の終わりに、ふと思った。
私が拠点とする小伝馬町のLocalらしさとは、何だろう。
発展した都市はどこか均質になっていく。
費用が上がれば大手しか入れなくなり、結果としてどこも似たような街になってしまう。でも小伝馬町は少し違う。昔の街並みが残り、小さなビルが並び、代々続く商売を営む人たちがいる。
金沢で感じた「ローカルらしさ」の欠片が、実は東京の真ん中にも、ちゃんと存在していた。
この研修を経て、自分の役割が見えてきた。
S-TOKYOが地域のHUBとなるために、海外からNomadとしてやってくる人たちに、地元の人たちに、小伝馬町の魅力をもっと知ってもらいたい。
そしてその人たちが、街と、人と、つながっていく場所をつくっていきたい。
でもそのためにはまず、自分自身が小伝馬町を知らなければいけない。
草の根活動ー地盤をじっくり固めるところから始めていく。