「AIに代替される職業ランキング」などで、毎回のように名前が挙がる「経理」。
しかし、現場の最前線で働くプロフェッショナルたち、そして実際に経理×AIプロダクト開発を牽引する責任者は、この世間のイメージをどう見ているのでしょうか?
今回は、親会社である令和アカウンティング・ホールディングス(RAH)の第一線で活躍する公認会計士の井上さん・公認会計士試験合格者の内田さんの2名と、ミラクル経理の開発責任者(河合さん)による特別対談企画を実施しました。
前編では、「経理×AI」のリアルな現在地と、LLM(大規模言語モデル)の技術的な壁、そしてAI時代にこそ価値が増す「人間の役割」について、現場と開発それぞれの視点から熱く語り合っていただきました!
目次
登壇者プロフィール
河合 雅文(ミラクル経理 開発責任者)| 公認会計士
新卒でRAHに入社し、10年以上の経理会計コンサルティングの現場経験を経て、2025年に設立された株式会社ミラクル経理の立ち上げを牽引。現在は開発責任者を務める。
井上 直紀(RAH 第1事業部 チームリーダー)| 公認会計士
新卒でRAHに入社し、現在チームリーダーを務める。大手不動産会社の単体・連結決算から開示までを一気通貫でサポートする経理のプロフェッショナル。
内田 嵩人(RAH 第1事業部) | 公認会計士試験合格者
新卒で大手監査法人を経験し、中途でRAHに入社。同じく大手不動産会社の決算・財務業務を担当。
實方 亮(ミラクル経理 人事)
本日の司会進行役。
「経理はAIに奪われる」は本当か?作業と仕事の境界線とは
實方:
早速ですが、ズバリお聞きします。世間では、「経理はAIに奪われる職種の筆頭」のように言われますが、経理会計のプロフェッショナルである皆様は、経理の仕事はAIに代替されると思いますか?
内田:
結論から言うと、会計基準ベースの資料作成といった定型的な業務は、今後AIに代替されていく可能性が非常に高いと思います。一方で、見積もりや将来の事象など、「人間の考え」が反映される業務においては、決して奪われることはなく、むしろ人間の重要性がより一層高まっていくと考えています。
井上:
私も同意見です。私は経理の業務を、判断を伴う『仕事』と、過去の事例に沿って淡々と処理する『作業』の2つに分類して考えています。 後者の『作業』、つまり過去の事例に沿って今ある現状を処理していくような仕事は、AIに代替されてなくなっていくでしょう。しかし、未経験の取引への対応や、関係者との相談を通じて「結果としての落としどころ」を見つけるといった、高度な『判断』を伴う領域は代替されないと考えています。私たちは今後、この「判断する力」をさらに磨いていく必要があると思っています。
LLMと経理は「相性が悪い」?開発の壁となる問題とは
實方:
経理は『判断』と『作業』が明確に分かれているんですね。ミラクル経理の開発責任者であり、ご自身も公認会計士である河合さんから見て、実際のところAIによる代替はどこまで進むとお考えでしょうか?
河合:
定型的な判断や作業については、確実にAIに代替されると確信しています。ただ、開発側の視点から本質的な話をすると、実はAI(特に大規模言語モデル:LLM)と経理業務って、根本的にはそこまで相性が良いわけではないんです。
LLMの特性として、「確率で次の言葉を生成していく」という点があります。そのため、毎回出力される結果が変わり得る。つまり、根本的に計算が苦手なんです。さらに、間違った情報を、さも正しいかのように生成する「ハルシネーション」の問題を抱えています。 定型的、継続的に適切な判断が求められ、かつ絶対に計算ミスも許されない経理という分野において、これらは潜在的に非常に大きなリスクです。他の分野に比べて経理分野へのAI導入が進みづらい原因は、まさにこの2つにあると分析しています。
實方:
なるほど。AIの最大の強みである柔軟な生成が、正確性が絶対の会計の世界では「確実性の低さ」というリスクになってしまう。エンジニアやPMがプロダクトに落とし込む上での、最大の難所がここなんですね。
河合:
そうです。LLM単体で解決しようとしても限界があるので、他の機械処理やコンピューターシステムと組み合わせるシステム全体のアーキテクチャ設計が必要になります。そこを工夫してハルシネーションの問題をクリアできれば、将来的には作業や定型的な判断の代替は間違いなく進んでいくと考えています。
人間にしかできない不変の領域、「数字への意思の組み込み」
實方:
LLMの不確実性を、システム全体の設計で補完していくわけですね。では、先ほどお話に出た「AIに代替されない人間の判断」とは、具体的にどのような場面を指すのでしょうか?
内田:
現場の具体的な論点で言うと、「減損の判定における将来計画の策定」(赤字が続いている事業や設備が将来きちんと元を取れるようにする計画策定)が分かりやすい例です。 AIに見積もり業務を委ねようとすると、どうしても市場のインフレ率や動向をベースにした、画一的な予測になりがちです。しかし実際の社内では、「過去にその物件で損失が出ていても、将来的にこういう予定があるから利益が出る想定である」といった、社内特有の将来予定や入居率などの個別事象を泥臭く追い込んでいく必要があります。こうした業務には、どうしても人間の介在が必要不可欠なんです。
井上:
本当にその通りで、経営者の意向を数字にどう反映させるか、投資に対して数字をどう見せるか、といった部分は人間にしかできません。上場会社がIR資料で市場に与えるインパクトをコントロールするような、いわば「意思や意向を数字に組み込む作業」というのは、AIには真似できない領域だと考えています。
AIは敵ではなく「経理職の在り方を変える存在」
實方:
経理の現場には人間の介在が必要不可欠で、経営者の意思を数字に昇華させるのは人間にしかできない。そう聞くと、AIは経理の仕事を奪う敵ではなく、何か別の存在のように思えてきますね。
河合:
やはりこれまでのお話の通り、AIが代替していく領域は確かに存在します。ですが逆に言うと、仕事がAIに代替されると「終わり」なのかといわれると、人間ってそうではないと思うんですよね(笑)。
歴史を振り返れば、食料生産の安定化や工業化、高度経済成長など、技術が進歩してどんなに仕事が効率化されても、人間は新しい役割を見つけて忙しく動き続けてきました。現在のAIの進歩と人間の関係も同じで、AIは人間の仕事を奪うのではなく、経理職が「進化・変化するための重要なファクター」「新たな経理職という概念をつくっていくもの」として存在しているのだと思います。
井上:
河合さんがおっしゃったように、AIの台頭によって仕事が奪われるのではなく、「仕事の在り方が変わっていく」という認識が正しいと思います。なので、技術としてAIがある以上、今後はITエンジニアだけでなく経理担当者にも、それを使いこなせる人材が必要になってくると考えています。
内田:
AIは人間に比べると量的な処理が得意であると考えていて、今後この業界で続けていくにあたっては、定型処理はAIに任せて、人間は基準を正しく理解した上でAIの回答の正誤を判断する。今後はそういった「質的な頭の動き」に集中すべきですし、業界全体としても頭を動かす業務の比重が増えていくのだろうなと感じています。
AI時代だからこそ、最後に求められるのは「人間力」
實方:
AIの出力を鵜呑みにせず、評価・判断する力が求められるのですね。エンジニアやPMがシステムを設計する上でも、ユーザーがその「評価」を行えるUI/UXが重要になりそうです。そうしたAIを使いこなす上で、これからの人間に求められる具体的なスキルは何でしょうか?
河合:
ここまでの話の中で「判断」のワードが良く出てきましたが、今後一次的な判断はAIがしてくれるようになるため、より高度な『承認(最終確認)』のスキルが求められます。そのためには、1年目から高度な専門知識や実務ノウハウが求められるようになりますし、仮にAIの出力が間違っていたとしても「全体として許容できるか」を見極める『リスク判断力』が最後は人間の力として必要になります。
そしてもう1点、AIに最も不可能だと考えていることは「人に対して感情に訴えること(信頼の構築)」です。要はこの会社(日本橋)の近くの美味しいランチのお店をAIに推薦されるより、信頼できる人から勧められた方が行きたくなりますよね。その感覚はずっと残ると思っていて、それは最終的な提案・受注や信頼関係構築にもつながってきますし、だからこそ最終的には「人間力」が最も大事になると確信しています。
潜在的なリスクをもつAIを、ミスの許されない会計システムとしてどうコントロールするのか。そして、単純なルールベースでは処理しきれない「人間の意思」や「複雑なドメイン知識」を、プロダクトとしてどう支えるのか。
前編では、経理×AIが抱える特有の難しさと、だからこそ残る人間のコアな役割について掘り下げました。
次回の【後編】では、このAIの不確実性をシステムとしてどう吸収するのか、ミラクル経理が掲げる設計思想や、ドメインのプロとエンジニアが密に連携する当社の開発環境について迫ります。
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