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認知症の人の生活支援に向けて、Fintechを役立てたい

こんにちは。マネーフォワード広報の佐賀です。
先日、マネーフォワードFintech研究所において、認知症研究の第一人者である京都府立医科大学大学院医学研究科の成本教授をアドバイザーに迎え、認知症の人とその家族を取り巻く生活支援に向けて、自社サービスを活用した見守りサービスやデータ分析に着手することを発表しました。

認知症の人とそのご家族の生活支援に向けて、今後、どんなことに取り組んでいくのか、なぜこの問題に取り組もうと思ったか、お二人にお話を伺いました。

語り手 

京都府立医科大学大学院医学研究科 成本迅教授(以下、成本)
京都府立医科大学卒業。2001年京都府立医科大学大学院修了。京都府立医科大学大学院医学研究科 精神機能病態学 教授。日本精神神経学会・日本老年精神医学会専門医・指導医。日本生物学的精神医学会・日本神経精神医学会・日本老年精神医学会 各評議員。日本老年行動科学会 理事。一般社団法人日本意思決定支援推進機構 理事。専門領域は老年精神医学。

当社取締役 マネーフォワードFintech研究所長 瀧俊雄(以下、瀧)

聞き手

広報部 佐賀晶子(以下、佐賀)

一年半かけて検討を重ねてきた、認知症というテーマ

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(左から成本教授、瀧)

佐賀:成本先生は認知症研究の第一人者と伺いました。読者の皆さんに、簡単な自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか?

成本:京都府立医科大学大学院医学研究科で精神科医をしています。精神科医の中にもいろいろと専門分野があるのですが、私は老年精神医学、中でも認知症を専門にしています。毎日外来診療をしており、脳の障害による認知機能の低下が生活にどのように現れてくるかを研究しています。

佐賀:今回、マネーフォワードでは高齢者と高齢者を取り巻く家族の生活支援に取り組むということを発表しました。認知症は、なかなか難しいテーマなのですが・・・

成本:認知症というのは、現在の医療現場では治すのではではなく、備えるフェーズの社会課題と捉えています。私たちは「認知症」というものを心のどこかで、縁起でもないもの=将来不安そのもの、として、考えることを先延ばしにしてしまっていると思っています。ですが、人はいつか必ず死を迎えます。それは健康であっても同じことです。その間際まで、その人がその人らしく、生涯を終えられることが大切になってきます。そのために、備えるステップはたくさんありますが、その一つに「お金」があると思っています。

佐賀:そうですね。私も祖母が最近認知症になりまして、母親を含めた家族でケアをしています。数年前は軽度だったのですが、今では私のことも誰だかわからないようです。

成本:そうなんです。認知症というのは、脳の病気が原因でいったん獲得された認知機能が低下しており、もの忘れや判断力の低下がみられ、その結果生活がうまく送れなくなっている状態のことを指します。記憶障害をはじめとする認知機能の低下などがわかりやすい例ですね。

認知症は、その兆候をいち早く捉えることが大切です。一番身近なのは家族ですが、普段の生活の中で慌ただしくしていると、なかなか気づけないこともあります。実際、家族だけでサポートするのは大変ですし、支援のための仕組みとして「成年後見制度」がありますが、そもそも知られていなかったり、利用のハードルが高いのが課題なんです。そのため、財産管理などについていえば、家族や医療関係者など、社会の中で緩くデータを共有しながらサポートする仕組みを作れないかと考えているところです。

瀧:この考えに強く賛同して、成本先生との取り組みを始めました。当社が提供している自動家計簿・資産管理サービスがきっと役に立つのではと思って。

成本:まさに、そうですね。このようにサポートする仕組みは、実は既存技術のかけ合わせで既に作れるものだと思っているんですよ。例えば、『マネーフォワード ME』の機能をうまく活用できれば、銀行口座の管理やATMでの現金引き出しなどで異常値を事前に検知して、アラートをあげることができたりします。ほかには、繰り返し注文している変な購買履歴がないかとか、そういうアルゴリズムの開発などができないかということは考えていますし、既に実現しつつあるんですよ。

瀧:実際に私自身の家計簿のデータを使って、アルゴリズムの検証も進めています。まだまだ改良していかなければなりませんが、意味のあるアルゴリズムが生まれる予感があります。

佐賀:そうなんですね!

認知症の人に必要なのは、状況に応じた温かい支援

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佐賀:認知症の人って、日本にはどのくらいいらっしゃるんですか?

成本:2012年の推計で、認知症患者数は460万人ほどいるとされており、その前段階とされる軽度認知障害の方は400万人と見積もられています。しかも、高齢者世帯の約3割が一人暮らしで、この割合は今後、もっと高まっていくと見られています。

佐賀:皆さん、お金の管理をどうされているのでしょうか?

成本:本人が管理するケースも1割ほどありますが、大半は介護者が管理しています。ご家族とかケアマネージャーさんですね。ここに、いろいろと複雑な問題があるんですよ。

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京都府異業種連携による”認知症にやさしい”サービスのあり方検討・実践 第1回キックオフミーティング(2018年12月10日)

佐賀:どのような問題があるのでしょうか。

成本:私もよく講演の場では、認知症に備えましょう、とお話しするのですが、実用的でおすすめできるサービスがないのも課題です。

瀧:マネーフォワードのサービスも、スマホが主たる利用手段なので、いただいたようなニーズに向けてデザインされているわけではないのですよね。ただ一方で、テクノロジーの力であれば、お金の問題を分かりやすくしたり、感情的になりがちな意思決定に冷静な選択肢を示せると思っています。

本人と家族、支援者の間でデータを共有できないか?

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佐賀:今後、具体的にどのようなことに取り組んでいくイメージでしょうか?

瀧:今年施行の改正銀行法によって、金融機関のAPIにマネーフォワードのような第三者がユーザーの代わりにアクセスし、ユーザーの意思決定を助けることが法的にも位置づけを得ました

この生活支援の話では、以下のアプリがあるところに、実際にはご家族への通知であったり、ケアマネージャーさんへの情報共有ということが含まれてくると考えています。

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もし、毎月一回しか動かない口座で、いつもとは異なる金額の取引や、異なる回数のATM引き出しといった異常行動があれば、事前に登録されている方に概要だけでもご連絡できると、大きな安心につながります

また、取引をする際にも、例えば10万円を越える、いつもと異なる振込先を指定する場合には、ご本人による認証に加えて、息子さんによる認証も必要にするような「意図的な不便さ」を作ることが、場合によっては安心につながるものと考えています。情報を参照するだけでなく、取引指示の面でも、色々なソリューションがAPI活用により可能となる予定です。

佐賀:成本先生は毎日、高齢の患者さんや認知症の人を診療されていますよね。現場をよく知っている方として、今後のサービスにはどのような期待をお持ちでしょうか?

成本:そうですね。臨床の現場を知ってこそ、研究が活きたものになると思うので、患者さんは毎日診察しています。実はかつては、MRIで検査をしてデータを集め、どこが萎縮するのかを研究をしていたことがあります。こういった研究成果は、介護者への教育に活かすことができたりするのですが、患者さん本人を救うことにはならないということに気づいたんです。本当の意味でのユーザーフォーカスって何だろうと考えるようになりました。そんな背景もあって、認知症の人ご本人やご家族だけでなく、広く地域という枠組みでとらえて、支援できる仕組みをつくりたいと考えるようになりました。

<カンファレンスで意見交換を行う成本教授>

佐賀:医療の現場から、当社が大事にしているValueの一つである「ユーザーフォーカス」という言葉が出てくるのは感慨深いものがあります。どうしてこの方向性に関心が向いたんでしょうか?

成本:ビジネス書が好きでして、仕事の合間には結構本を読んでいます。最近だと、デザイン思考とかペルソナとか、プラットフォームなんてキーワードが思い浮かびますね。そういったサービス開発的な観点からも、お金=財産の管理に興味が向きました。

佐賀:そうだったんですね!僭越ながら医師の方から「デザイン思考」とか「ペルソナ」という言葉が出てくるとは思いもしませんでした。

成本:あはは、そうですか。でも、こういった観点って、医療などの閉じた世界にこそ大切なことだと感じています。また、認知症フレンドリーな社会、認知症の人が生活破綻せずに暮らせる社会というものを、産学連携で企業と一緒に取り組んできたことも大きいですね。

佐賀:そういうことを医師の立場から考えてくださるのは大変心強いです。このあたりの話をもう少し伺ってもよろしいでしょうか。具体的にはどのような課題があるのでしょう?

成本:例えば、生活保護を受けている80代の女性で、認知症の原因疾患の半数を占めるアルツハイマー型認知症の方がいましてね。ご本人はお葬式が心配と思っておられて、葬儀会社と契約していたことが後々になってわかったんです。ケアマネジャーさんがそれに気づいて、葬儀会社と交渉し、最終的には契約を解除することができました。ただ、この事例って、葬儀会社にも悪気はなかったかもしれないんですよ。つまり、本人の判断能力が低下しているということを葬儀会社も知らなかった可能性がありますよね。そういう事例を見ると、契約の安定性にも貢献したいと思うようになりました。

きっかけは家族が認知症になったこと

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佐賀:瀧さんは、何がきっかけでこのテーマに取り組もうと思われたんですか?

瀧:私の親族にも認知症になった人がいて、親族間での色々な助け合いがあったのですが、私は当時何もできず、それがずっと心残りでした。それ以来、判断能力が衰えていく人にとって、お金の管理って本当に課題だとどこかで思っていました。マネーフォワードが提供するサービスでは、夫婦間や家族間でアカウントを共有するなどの使い方をする人がいます。本当はそういう使い方は想定していないんですが、ここをきちんと整備すれば、すごく助かるサービスになるのではないかと思って。認知症は、ご本人はもちろんですが、支える家族も本当に大変です。いろいろな会合で話をしているうちに、成本先生とお目にかかり、ちょうど一年半前だったかな、一緒に何ができるか考えましょうという話になりました。

佐賀:なるほど、そうでしたか。身近でも、よく聞く問題ですもんね。

瀧:そうですね。まさしく、日本は諸外国と比べても課題先進国として、認知症社会のあり方にいち早く向き合うべき国です。その点からも、その解決の一助となるようなサービス開発に取り組むことは、大切だと思ってます。

成本:発見が遅れるとさまざまな問題が出てくるのが認知症です。詐欺などの被害はよく聞かれますし、高級羽毛布団がたくさん家に届くというお宅もありました。本人に認知機能の低下を伝えるところで、テクノロジーを活用できるのではないかって思ったりして。例えばですが、認知症ということが早い段階でわかれば、インセンティブを与えるなどの心理学的なアプローチも有効かもしれません。社会全体が先送りしているという実感を持っていますからね。マーケティングやブランディングも大事になってきます。医師から認知症の人に直接すすめてもらうなどの方法も取り入れられないかとか、自治体に導入してもらうなどの方法も模索中です。

家族や友人など、インフォーマルな人間関係が大切に

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佐賀:今までお話を伺ってきて、認知症がだいぶ、身近になってきました。

成本:それはよかったです。認知症というのは、若い時の気持ちのまま、老いていくものなんですよね。そんな中にあっても、最終的には本人の意思決定が必要なシーンはどこにでも存在します。そんなとき、インフォーマルな力がすごく大事になってくるので、家族や友人を大事にしましょう。お互いにおかしくなったらアラートを出すとか、そういうアナログな関係づくりも実はとても大事です。デジタルは権限を一人に集めたがる傾向がありますが、それはある意味危険で、共有して管理するという仕組みがよいと思っています。高齢者の心理に合ったものを提供するという工夫も必要かもしれませんね。でも、精神年齢は18歳のまま、心は老いずに認知症になるので難しいんですけどね。

瀧:まずは、誰にでも起きうることとして知ってもらうのが第一段階と思っています。元気な時から使えるツールであって、かつ、認知症になったら周囲を含めて早めに気づきが得られ、生活のサポートへと移行できるサービスを早くお客さんに届けたい。早く出せば、それだけ救われる家族がいるはずです。

佐賀:お二人の熱い思いに触れ、私も胸が熱くなりました。ぜひ、認知症の人もそのご家族も、彼らを取り巻く社会が、少しでも明るい未来となりますように、と思いました。ありがとうございました。

成本・瀧:ありがとうございました。

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