大手SIerで金融案件に携わりながらキャリアを積んでいた中内さん。仕事を通じてデータの面白さに目覚めたものの、体系的に学べる機会は限られており独学に近い状態でデータを扱っていただけに、常に「自分の手法は正しいのか」と手探りの日々を送っていたそうです。
ニジボックスにジョインして1年。現在はBIエンジニアとして『スタディサプリ』の成長を支える中内さんに、大規模データを扱う責任とプロの環境で学び直した技術の真髄を伺いました。SIerの堅牢な開発と事業会社のスピード感が交差する場所で見つけた、エンジニアとしての真の価値とは。キャリアの分岐点を乗り越えた中内さんに、この1年間の変化について語っていただきました。
数百万行の学習ログが示す、ユーザーの『学び』の熱量
――中内さんは現在どのようなプロダクトで、どのような役割を担っているのでしょうか。
ニジボックスのBIエンジニアとして、リクルートが展開する学習プラットフォーム『スタディサプリ』のデータ分析を担当しています。具体的には、社会人向けの英語学習アプリである『スタディサプリ ENGLISH』において、ユーザーの行動ログや決済データを集計・可視化し、事業判断の材料を提供することがミッションです。
BIエンジニアとしての役割は多岐にわたりますが、中心となるのは「データの民主化」と「施策の検証」です。集まってきたデータをダッシュボード化してKPIの推移を誰もが見られる状態にすること。そして、新しく実施したキャンペーンやアプリ内の機能改善が実際にどのような効果をもたらしたのかをABテストなどで数値化することです。ただグラフを作るだけでなく、次にどのような施策を打つべきか、という事業判断を下すための「確かな根拠」となるデータを提供する非常に責任の重い仕事だと認識しています。
――『スタディサプリ』という巨大なプロダクトならではのデータの規模感について教えてください。
まず、扱うデータの種類と量が圧倒的です。ユーザーがサービスを利用し始める瞬間から日々の学習の進捗まで、一連のカスタマージャーニーにおけるデータが蓄積されます。学習コンテンツだけでも100種類以上あり「いつ、どの動画を、どれくらいの時間視聴したか」といったアクセスログは、一日で数百万行に達することも珍しくありません。
これほどのビッグデータを扱っていると、大企業のプロダクトを支えているという実感が湧きますね。それでいて面白いのが、非常に手触り感があることです。私自身もそのアプリのユーザーとして英語を学習することがあるのですが、昨日アプリでボタンを押して学習したという自分自身の“行動”が、翌日にはもう分析すべき“データ”となって手元に現れている。自分自身の学習の軌跡が、サービス改善のヒントとしてデータに活かされていることを実感できるのは、toCサービスならではの醍醐味だと思います。
――仕事の依頼は、どのようなチームから、どのような形でやってくるのですか。
主にリクルートの「サービスデザイン室」(以下「サーデザ」)と呼ばれる、プロダクトの成長を牽引するチームから依頼が届きます。彼らは施策を打ったりKPIを立てたりする事業側のプロフェッショナルですが、必ずしもデータの専門家ではありません。
そのため、依頼は往々にして抽象的です。「こういう傾向が見たい」「この数字が落ちている理由を知りたい」といった声に対し、私たちはデータのプロとして応えます。「そのデータは本当に取得可能なのか」「その指標で効果を測るのは適切なのか」という観点から、依頼の背景にある意図を汲み取り、ときには依頼内容そのものをブラッシュアップする提案を行うこともあります。
――SIer時代と比べて、そのコミュニケーションに違いはありますか。
前職のSIerでも顧客と対話はしていましたが、当たり前ですが「受注者」と「発注者」という関係性でした。今は同じプロダクトを成長させる「仲間」としての対話です。事業側が何を成し遂げたいのかという背景を深く理解していないと、本当に意味のあるデータは出せません。データだけを見ていればいいのではなく、プロダクトそのものや、それを使うユーザーの心理まで想像を膨らませる。この「ドメインへの入り込み」こそが、BIエンジニアとしての付加価値を高める鍵だと感じています。
事業の運命を左右する数行の結論。意思決定に直結するプロの責任感
――SIerから現在の環境へ移り、仕事の重みや手応えに変化はありましたか。
一番大きな変化は、自分の分析結果がプロダクトの意思決定に直結しているという感覚です。
ある施策の効果検証をABテストでおこなったときのことです。テスト群とコントロール群のデータを比較し、統計的な観点から「この施策には有意な効果があった」というレポートを作成しました。書いたのはわずか5、6行ほどの結論でしたが、それが施策の有効性を示す重要な判断材料として報告資料に採用され、最終的な本番リリースの判断へと繋がったのです。
その瞬間「もし自分がここで誤った報告をしたり、計算を間違えていたら、それがそのまま誤った事業判断としてプロダクトに反映されてしまうんだ」という強烈なプレッシャーを感じました。前職でもデータは出していましたが、それがその後どう使われ、どんな事業判断に繋がったのか、どうしても解像度が低い部分が否めませんでした。それが今では、自分の分析結果が、プロダクトの意思決定に重要な役割を担っている。この“直結感”は、エンジニアとしての矜持を刺激してくれますね。
――“直結感”があるからこそ、求められる誠実さも変わってくるのでしょうか。
そう思います。新しい施策には当然、事業側からの大きな期待が寄せられます。しかし、データのプロとしての私たちの役割は、期待に左右されず客観的な事実を提示することです。目先の数字を追うのではなく、プロダクトの長期的な成長にとって本当に意味のある変化なのかを、フラットな視点で見極めることが重要だと考えています。
「データの客観性を重視し、事実を正確に伝える」これがニジボックスのBIエンジニアに求められる誠実さです。そのために私たちは単なる計算係ではなく、なぜその数字が出るのかというロジックを誰よりも深く理解していなければなりません。
――事業ドメインへの入り込み方についても、前職との違いを感じますか。
前職の銀行案件でもドメイン知識は身につきましたが、プロジェクトが変わるたびに知識がリセットされる面がありました。今は『スタディサプリ』という一つのプロダクトに腰を据え、今期はどのKPIを最優先しているのか、競合状況はどうなっているのかといった、ビジネスの深部までキャッチアップするようにしています。
「サーデザ」のメンバーは単にデータが欲しいのではなく、その先の「判断」が欲しいはず。それに応えるためには私たちもエンジニアリングの枠を越えて、プロダクトのグロースを一緒に考える姿勢が必要です。依頼が来たときに「なぜそれをやりたいんですか?」と背景を拾いに行く。その積み重ねが信頼関係を築き、より精度の高い分析へと繋がっていくのだと実感しています。
――意思決定のスピード感はいかがでしょうか。
SIer時代と比べると、驚くほど速いです。社内ですべてが完結しているため、トレンドに合わせて重要視される指標がスピーディに変わることもあります。そのスピードにデータ側も追いついていかなければなりません。プロダクト自体は歴史がありますが、中身は常に流動的で、新しいキャンペーンや機能がどんどん追加されます。保守に終始することなく、常に変化への対応と新しい技術への挑戦が求められる。この躍動感は、事業会社に近い環境ならではの魅力ですね。
「手探り」を脱し、プロの現場で学び直したデータエンジニアリングの基本
――中内さんは、入社後に技術面で大きな気づきがあったとおっしゃっていましたね。
はい。正直に言えば、ニジボックスに入るまでの私は、データエンジニアリングを「手探り」でやっていました。前職のSIerでもデータのチームにいましたが、先ほど申し上げたことと重ねてになりますが教科書的な正解を知らないまま、独学でSQLを書いていたんです。
当時は要件に合わせてローデータから直接SQLを書いて集計するケースも多く、処理の負荷や運用の属人化に課題を感じていました。
――それがニジボックスに入って、どう変わったのでしょうか。
データエンジニアリングの「基本の流れ」を、文字通り基礎から学び直しました。ローデータをいかにクレンジングし、効率的なデータマートを構築して、ダッシュボードへ繋げるか。この「基本の基」をしっかり踏むことで、データ基盤がいかに堅牢になり、かつ使いやすくなるかを目の当たりにしました。
「こういうふうに加工しておけば、もっと効率的に見られたんだ」「これがあのときやりたかった正解なんだ」。入社後の研修や日々の業務の中で、これまでの自分の疑問が次々と答え合わせされていく感覚がありました。今の知識を持って前職に戻れば、もっと多くのことが改善できたのに、と思うほどです(笑)。
――プロが集まっている環境の強みはどこにありますか。
マネジャーも先輩も、ずっとデータの領域でキャリアを積んできたプロフェッショナルばかりです。ナレッジの共有会が頻繁におこなわれるのですが、その内容が非常に深く、かつ自分の業務に直結するものばかりなんです。
SIer時代は役割が明確に分かれていたこともあり、他領域の技術を自分の業務に直接結びつけて考えられる機会が限られていました。でも今は違います。共有されるTableauのテクニックやSQLの最適化手法は、明日からの自分の業務を劇的に改善するヒントになります。専門家同士が切磋琢磨し、高いレベルでディスカッションができる。この環境こそが、エンジニアとしての視座を一段も二段も引き上げてくれたと感じています。
――技術の品質担保という観点では、どのような意識の変化がありましたか。
「動けばいい」ではなく「運用し続けられるか」を考えるようになりました。毎日バッチで動かすデータが、1回のコストをいかに下げられるか、いかに汎用的に使えるようにするか。データ基盤は一度作って終わりではなく、プロダクトの成長に合わせて進化し続けなければなりません。
そのためにコードの可読性や保守性を徹底的に追求する。この「エンジニアリングとしての誠実さ」を学べたことは私にとって一生の財産です。独学の手探り状態から、プロの設計思想に基づいた開発へ。この転換を経験できたことが、ニジボックスに入って得た最大の収穫かもしれません。
AIを武器に、さらなる複雑な領域へ。「未来の予測」に挑むBIの進化
――最新技術の導入については、どのようなスタンスで取り組まれていますか。
ニジボックス、そしてリクルートグループ全体として、新しい技術への挑戦には非常に積極的です。最近ではAIの活用が当たり前になっており、私も日々の業務で「Cursor」などのAIツールをフル活用しています。
BIエンジニアにとって、AIは非常に相性の良い武器です。過去に書いた複雑なSQLをインプットとして別の切り口でのコードを生成させたり、効率的な書き方を提案させたり。AIを活用することで作業時間を短縮し、その分「このデータで何が解決できるか」という思考の深掘りに時間を割けるようになりました。比較的自由に、かつ制約された安全な環境の中で新しいツールを使わせてもらえるのは、本当にありがたいですね。
――現在、中内さんが向き合っている「最も脳が汗をかく」ような課題は何ですか。
最近は、単に過去のデータをまとめるだけでなく、「なぜその数字になったのか」という要因をより多角的に分析するタスクに注力しています。
これまでは「何が起きたか」を可視化するのが中心でしたが、今は複数のデータを掛け合わせ、変化の兆しや相関関係を深掘りすることで、より精度の高い現状把握を目指しています。他チームの分析専門家から、データの捉え方についてアドバイスをもらいながら試行錯誤する過程は、エンジニアとして非常に知的好奇心が刺激されますね。
――成熟したプロダクトだからこそ、難易度が上がっている面もあるのでしょうか。
そう思います。『スタディサプリ』はすでに歴史があり、基本的な指標はすでに見られる状態になっています。だからこそ「次の一手」を見つけ出すためには、より細かい部分や、複雑なデータの相関に目を向ける必要があります。
この複雑さこそが面白いんですよね。規模の大きなプロダクトだからこそ、一つひとつの数字の背景を極限まで深掘りするような、一見すると地味ですが極めて高度なデータ活用にリソースを割くことができる。SIerでの開発経験、特に大規模システムの堅牢さを知っているエンジニアであれば、この「複雑なデータを正しく、綺麗に扱う」ことの難しさと楽しさをわかっていただけるはずです。
――最後に、今後の展望を聞かせてください。
私自身、この1年で“手探り”を卒業し、データのプロとしてのスタートラインに立てたと実感しています。でも、まだまだやりたいことは尽きません。今後は統計的な手法をさらに極め、データの力でプロダクトの未来をより鮮明に描き出せるようになりたいと思っています。
かつての私のように技術への渇望を抱えながら模索しているエンジニアにとって、ニジボックスは「基本の基」から学び直せる最高の学び舎であり、真剣勝負の場でもあります。目の前のデータがプロダクトを、そしてユーザーを動かしていく。その醍醐味を肌で感じながら、これからもデータの可能性を追求し続けていきたいと考えています。