SaaSの時代は終わる。なぜ「ツール提供」では、労働力不足を救えないのか?
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この10年間、ビジネスの現場は「SaaS(Software as a Service)」によって支えられてきました。 月額課金で常に最新の機能を使えるこのモデルは、確かに効率化の革命でした。
しかし、私たちは現場での実践を通じて、「SaaSモデルの構造的な限界」に直面しています。 本記事では、なぜSaaSが限界を迎え、次にどのようなパラダイム(SaS)が訪れるのかを解説します。
■ ロジック1:SaaSの「前提」の崩壊
SaaSモデルには、一つの重要な「前提」があります。 それは、「ツールを使いこなす人間(オペレーター)が存在する」という前提です。
SaaSの価値は「ツールの利用権」です。 つまり、「高機能な会計ソフト」や「便利なチャットツール」を提供し、それを人間が操作することで成果が出ます。
しかし、現在日本が直面しているのは深刻な「労働力不足」です。 特に建設、物流、専門職といった現場では、「ツールを操作する人間」そのものが不足しています。
「便利なツールを導入しました」と言われても、現場からは「操作を覚える時間がない」「入力作業自体が負担だ」という悲鳴が上がります。 「使い手不在」の現場において、これ以上のツール提供はソリューションになり得ないのです。
■ ロジック2:「操作」から「完了」への価値転換
この課題を解決するには、変数を変える必要があります。 「人間がソフトを使う」のではなく、「ソフトが自律的に仕事をする」モデルへの転換です。
これが、SaS(Service as a Software)と呼ばれるものですです。
- SaaS(現在):
- 主語: 人間
- プロセス: 人間がソフトを操作する
- 提供価値: 機能(Process)
- SaS(未来):
- 主語: AI
- プロセス: AIが自律的に実行し、人間が承認する
- 提供価値: 完了(Outcome)
顧客が求めているのは「ドリルの機能」ではなく、「穴が開いたという結果」です。 AIエージェント技術の進化により、私たちは初めて、ソフトウェアとして「労働力(結果)」そのものを提供できるフェーズに到達しました。
■ ロジック3:なぜ「バーティカル(業界特化)」なのか
では、なぜGoogleやOpenAIのような汎用AIではなく、バーティカル(業界特化)」が勝つのか。 理由は「ラストワンマイルの非対称性」にあります。
業務を「完了」させるには、その業界特有の文脈理解が不可欠です。
- 建設現場の安全書類のローカルルール
- 不動産契約における暗黙の商慣習
- 手書き文字やFAXが混在する泥臭いデータ処理
汎用AIは「平均点」の回答しか持っていません。 この泥臭い「ラストワンマイル」の学習データを独占的に保有し、業務フローに組み込んだプレイヤーだけが、SaSを実現できます。 大手テック企業にとって、この領域はコスト対効果が合わず、参入障壁が高いのです。
■ 次の10年の「インフラ」を創る
SaaS市場が成熟しきった今、次の成長曲線を描くのは間違いなくSaSです。 これは単なる機能アップデートではなく、「ソフトウェア産業の定義変更」です。
私たちは、これらの内容を踏まえ、AIを「便利なアシスタント」で終わらせず、「信頼できる労働力」へと昇華させることを目指してます。