はじめに
Amazon Simple Email Service(以下、Amazon SESと表記)を利用してWebサービスを運用していると、ある日突然「メールが届かない」という壁にぶつかることがある。特にGmailは近年、スパム対策として送信者への要求(SPF/DKIM/DMARCの必須化など)を厳格化しており、到達率の維持はシステム運用において頭の痛い問題だ。
今回、運用中のシステムで大規模なデータ移行を行うことになり、それに伴ってユーザーへの通知メールの送信ボリュームが一気に跳ね上がるイベントがあった。事前の準備は入念に行っていた。Google Postmaster Toolsでのドメイン評価も最高ランクの「高 (High)」をキープしており、「実績のあるドメインだから問題なく届くだろう」と高を括っていた。
ところが、いざ送信が始まるとGmailへの配送が次々と詰まり、遅延とバウンスの山が築かれてしまった。「ドメインの信頼性は高いと言われているのに、実際には届かない」という奇妙な状態に陥ったのである。
結論から言えば、メール認証の要件を完璧に満たしていても、「送り方(送信レートとボリュームの急増)」を間違えれば即座に弾かれるのが今のGmailの現実だった。本記事では、この制限の原因をエラーログから紐解き、地道な実測と仕様変更によって配送遅延を解消するまでの記録を残しておく。同じように「Amazon SESからGmailに届かなくて困っている」誰かの参考になれば幸いだ。
1. 前提:メール配送における「ウォームアップ」の3軸
本題に入る前に、メール配送の文脈で「ウォームアップ」という概念を整理しておく。受信側のISP(GmailやiCloudなど)は、新規または実績の少ない送信者を警戒する。その評価軸は大きく3つある。
「ドメインの信頼性が高い」とPostmaster Toolsに表示されていても、IPが新しければIPが、ボリュームが急増すればドメインが、それぞれ別に引っかかる。今回の問題はまさにこの構造から来ていた。
2. 何が起きていたか
システム移行に伴い送信ボリュームが一気に増えた直後から、Gmail宛のメールに大幅な遅延が出はじめた。Postmaster ToolsやAmazon SESのダッシュボードを確認したが、表示は以下の通りだった。



つまり「設定やコンテンツの問題」ではなく「送り方が問題」だった。
3. エラーログを読む:制限はIPではなくドメイン単位
実際の拒否メッセージを確認すると、GmailがSPFドメインとDKIMドメインをそれぞれ別軸で制限していることがわかった。
421-4.7.28 Gmail has detected an unusual rate of mail originating from your SPF domain [mail.example.com] ...
421-4.7.28 Gmail has detected an unusual rate of mail originating from your DKIM domain [example.com] ...
制限は2本立てで来ていたのだ。これが後の対策に直接つながる。
4. ドメイン切り替えと「もぐらたたき」の一日
エラーログを受けて、その日のうちにドメイン構成の切り替えを試みた。ただしこれが、一日中もぐらたたきになった。
- 11:30 ➔ カスタムMAIL FROMを有効にした状態で、Gmailから拒否される。
- 12:00 ➔ カスタムMAIL FROMを無効に切り替え
- 16:00 ➔ カスタムMAIL FROMを無効にした状態で、Gmailから拒否される。
- 16:30 ➔ カスタムMAIL FROMを有効に切り替え
- 18:30 ➔ カスタムMAIL FROMを有効にした状態で、Gmailから拒否される。
- 19:00 ➔ カスタムMAIL FROMの設定に関わらず、Gmailから拒否される。
制限解除 ➔ 切り替え ➔ また拒否、を一日で2〜3回繰り返した。「ドメインを変えれば回避できる」という発想自体が、この時点では甘かった。
5. 「受け入れてもらえる上限」を地道に探す
ドメイン構成の変更だけでは根本解決にならないとわかり、方針を切り替えた。Gmailが許容できる1日あたりの送信量を、レートを秒単位で絞りながら実測した。
…
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