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人事制度はゲームのルール よく知ることが出世の一歩

入社後の研修にはいろいろありますが、キャリアを決めるルールである人事制度についての詳細な研修を行う会社はほとんど聞きません。しかし、もしあなたがよりよいビジネスキャリアを歩みたいのなら、ぜひ自社のキャリアルールとしての人事制度をよく知るようにしてみましょう。

人事制度こそが会社というゲームのルールだ

会社で働く中で、何をすれば認められ、給与や賞与が増え、出世できるのかが記されたルールブックがあります。それがまさに人事制度です。

しかし、意外なほど多くの方々が、人事制度のことをご存じではないようです。そして人事制度を理解しないまま「私の上司は好き嫌いで人を評価している」「会社は従業員のことを考えていない」などの不満をあらわすことになります。それはあたかも、ルールを知らないままにゲームをしているかのようです。

私は人事制度を設計する人事コンサルティングファームを経営する傍ら、経営大学院で人事マネジメントの授業を担当しています。そこでよくたとえるのは、ロールプレイングゲームです。たとえば、現れる敵を倒すことで経験を積み、資金やアイテムを集めるタイプの名作ゲームがあったとします。しかしそのようなルールのゲームであるにもかかわらず「私はモンスターを倒したくない」「いろいろなところに行って地図上の景色を楽しみたいだけだ」と言いながらモンスターを倒さないのでは、レベルアップもしなければ武器や防具もよいものに変わりません。

そして何よりも、物語が進まずゲームを楽しむことすらできなくなります。その結果、自分の意思でルールを守らないままゲームをプレイしているにもかかわらず「このゲームはダメなゲームだ」と断定してしまうことすらあるかもしれません。

けれども、ルールさえわかってそれをうまく使いこなせば、名作といわれるゲームのストーリーを楽しむことができるようになるのです。

何を求められているかを知ることから始めよう

人事制度について理解する際には、まず評価の仕組みから知るようにしましょう。それは評価規程のような形式をとることが多いのですが、たとえばこのような記述があります。

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(目的)第1条
弊社の評価制度は、等級に基づいて社員の行動・成果を適切に評価し、報酬への反映、昇進昇格判断、能力開発・育成に結びつけることを目的とする。

(成果評価)第2条
主に管理職に対して、全社計画を具体的に落とし込んだ成果に基づき評価を行うことを、成果評価とする。具体的目標を上司と部下で面談の上、個人別に目標設定をする。期中においては進捗チェックを行い、期末に目標達成度評価の面談を実施する。上司は、その結果を踏まえて、成果評価を行う。

(行動評価)第3条
主に一般社員に対して、求める人材像に基づく行動要件を定め、それに基づき期末に上司と部下が相互チェックを行い、上司は、その結果を踏まえて行動評価を行う。

(評価者)第4条
人事評価は原則として直属上司が担当する。

(評価の反映)第5条
管理職は成果評価結果を個人年俸に反映する。
一般社員は行動評価を月給に、成果評価を賞与に反映する。

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このような評価規程の会社においては、一般社員の間は「行動要件」をしっかり読み込んでどのように対応すればよいかを考えれば、月給が増えやすくなることがわかります。また成果をしっかり達成していくことで、賞与が増えます。管理職になった際には年俸が増えてゆくのです。

しかしこのルールを知らないまま、与えられた仕事をまじめにこなしているだけではなかなか評価されません。たまたまとった行動が行動要件に合致していれば認められますが、意識していなければその確率は高くなりづらいでしょう。

やってはいけないことも人事制度でわかる

また、ほとんどの会社の就業規則には「懲戒の事由」という項目があります。厚生労働省のテンプレートに従うなら、このような記述があります。

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(懲戒の事由)第a条
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(1)正当な理由なく無断欠勤がx日以上に及ぶとき。
(2)正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
(3)過失により会社に損害を与えたとき。
(4)素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
(5)性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき。
(6)性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支
障を与えたとき。
(7)遵守事項 第b条に違反したとき。

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つまり勝手に休んだり、遅刻や早退を繰り返したり、損害を与えたり、素行不良だったり、性的なハラスメントをした場合には、会社は従業員に罰を与えられるということです。

また、上記にある「遵守事項 第b条」というのは以下のようなものです。

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(遵守事項)第b条
労働者は、以下の事項を守らなければならない。
(1)許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
(2)職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
(3)勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
(4)会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
(5)在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
(6)許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
(7)酒気を帯びて就業しないこと。
(8)その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

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これこれこういうことをしてはいけませんよ。それをしてしまったら、会社としてはけん責(だいたい出世が遅くなる)、減給(文字通り月給の減額)、出勤停止(無給での休業強制=出世が遅くなるし、賞与などにも影響することが多い)、さらにはその先の懲戒処分(降格や解雇など)をすることもありますよ、ということが書かれているわけです。

ゲームにおいてはプログラム上、できないこと、がたくさんあります。しかし現実世界では行動を制限することはできません。だからこうして、やってはいけないことを記しているわけです。

今改めて人事制度を知るべき理由

人事制度というものは、知っていればごく当たり前のことしか書いていないのですが、知らなかったとしたらとてももったいないものです。

また、人事制度の重要性は今一層高まっているので、ぜひ確認してみることをお勧めします。

その理由は、コロナショックにともなうリモートワークの拡大や、非接触・非対面型でのビジネス展開がきっかけとして、多くの企業が人事制度を変えようとしているからです。

メンバーシップ型からジョブ型への移行、というキーワードをご覧になった方も多いことでしょう。私が経営する人事コンサルティングファーム、セレクションアンドバリエーション株式会社にも、人事制度改革のご要望がひっきりなしに届いています。

皆さんがビジネスパーソンとして、働くことを楽しみ、キャリアを積もうとされるのであれば、ぜひルールとしての人事制度を読み解いてみてください。そのためのヒントは当連載の過去記事にも記載していますし、これからの連載でも記していく予定です。

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