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ビジネスの力で“持続可能な”社会貢献を先導するーーエスプールの誕生秘話とは

企業変革を支援し、社会課題の解決を目指すエスプール。創業直後、最先端のビジネスモデルで急成長を遂げますが、時代の洗礼を受け上場廃止の危機に。このとき事業の方向性を利益だけではなく「社会やひとの役に立つこと」に舵を切り、さらなる成長をはじめます。その転換の裏には創業者の強い想いがありました。



▲株式会社エスプール 代表取締役社長の浦上壮平

社会問題となっていた大卒フリーターの就職支援でメディアの注目を浴びる

発端は「家庭教師センター事業を拡大させて上場を目指すことに協力してほしい」という知り合いの経営者のひとことでした。1990年代後半、エスプールの創業者であり代表取締役社長の浦上壮平は取締役として同センターに入社します。

その後、売上は20億円弱の規模から、たった2年で40億円を達成します。しかし事業好調のなか、浦上にはひとつ懸念がありました。時代は就職氷河期。家庭教師センターで働く学生は数千人いましたが、就職できない学生もかなりの数でした。

浦上 「優秀な学生に限って就職浪人をする事態に陥っていました。どうにか彼らの就職するルートをつくれないかと思案したんです」

浦上は、就職浪人生を支援する事業部を立ち上げます。考案したのはトライアル雇用後、企業と学生のお互いが相思相愛になれば入社する仕組み。

いまでこそインターンシップは一般的ですが、当時は保守的な企業が多く、社員と学生で組織したチームが企業で業務をおこなうモデルは画期的でした。フリーターが社会問題になっていた時期で、就職を希望する学生が大勢集まりました。

浦上 「就職浪人生は社会経験がないので、頭でっかちな印象があります。就職説明会でどんなに詳しい説明を受けても、入社しないと本質的な部分は分かりません。しかし、トライアル雇用で実務を体験すれば、自分の新たな可能性に気づくことができるでしょう。
企業にとっても、人間性を見たうえで採用ができ、新卒採用では見落としていた一流大学出身者や優秀な人材を得られるチャンスでもあります。就職機会が少ない人材と多様な人材を活用したい企業のマッチングを支援する今のビジネスの原型が完成しました。
社会貢献性が高く全力で取り組むべき事業だと確信したことから、私が事業を買い取り自ら経営者として運営することを決断しました。これがエスプールのはじまりです」

当初10数名程度だった就職希望者は、あっというまに1000人規模に。電話を連絡手段としていたため、これ以上の対応が困難になりました。そんなときドコモがi-modeを発表します。1999年のことです。

浦上 「携帯電話を使えば情報を一斉に送ることができ、マイページをつくれば個々の応募状況や給料の確認もできると考え、 i-modeを使った Web連絡ツールを開発しました。これで業務連絡が一気に省力化できるようになったんです」

携帯電話を使った就職活動は珍しく、メディアが一斉に注目しました。NHKの報道番組にも取り上げられました。この反響のなかで一番驚いたことは、ベンチャーキャピタル(VC)から出資の話が次々舞い込んできたことでした。

資本金2000万円だったエスプールは、一気に6億円もの資金を調達。1999年12月の会社設立から、たったの8カ月。エスプールは急成長の坂をのぼりはじめます。

しかし、そこにひとつの落とし穴があったのです。


▲短期派遣サービスを主力事業としていた当時はどこの支店にも日払い用のカウンターがありました

債務超過で初心に帰る。ただ純粋に「社会の役に立ちたい」という想い

一躍脚光を浴びた携帯電話を使ったビジネスモデル。VCたちの期待はもちろん企業の成長です。学生の就職支援では市場が小さいと判断した浦上が、経営者として利益を拡大するため派遣市場に乗り出したのは自然な流れでした。

狙いどおり資金調達から5年が経過し、売上50億円を達成。2006年大証ヘラクレスに上場します。2008年には売上は70億円へ。さらに同年8月には売上高24億円のITエンジニアの派遣会社をM&A。勢いはとどまることをしりません。

しかし、その成長は一瞬にして断ち切られます。2008年9月15日、アメリカのリーマン・ブラザーズの経営破綻でした。

ITエンジニアの派遣会社の業績は急降下し、エスプール本体の派遣事業も「派遣切り」が社会問題になり業績は悪化します。2010年、あっというまに債務超過に。1年以内に債務超過を解消しなければ上場廃止の危機です。

浦上 「実は、私はこの状況をあまり重くとらえていませんでした。債務超過は企業として不名誉ですが、 1億円の赤字であれば何とか乗り越えられると考えていました。応援していただいている株主に迷惑を掛けたくない思いで、上場を維持するために事態の収束に尽力しました」

拠点の縮小という決断をし、赤字のグループ会社は、浦上が直接陣頭指揮をとり黒字化したうえで売却。債務超過は解消しましたが、それでも「会社は危機的状況だ」と判断した3分の1の社員が去りました。そうした激動のなか、浦上を立ち止まらせる気付きがありました。

浦上 「起業のきっかけは就職に困っている学生を助けたいという想いでした。しかし資金が集まり上場を目指すうち、いつのまにか売上や利益を優先せざるをえなくなっていました。
いつのまにか主力事業は、短期派遣サービスとなっており、社会の役に立ちたい、困っている人を助けたいという気持ちが薄れはじめていました。さらに競合も増え、差別化にも苦しんでいる状況でした。
当社のサービスがなくなったとしても誰も困らないし、社会のために自分たちができることはまだあると反省しました。もっと魅力的で、社会貢献できる事業をやりたいと、あらためて感じたのです」——。


▲わーくはぴねす農園では参画企業に雇用されている障がい者の方がイキイキとお野菜をつくっています

障がい者や地方の雇用問題も“アウトソーシング”が解決を導き出す

二度と同じ失敗は繰り返さないーー浦上は心に決めます。

浦上 「事業構造を変えようと社内で徹底的に議論しました。その頃から “社会の役に立とう ” “困ったひとを助けよう ”という言葉が私たちのキーワードになっていました」

以来、浦上の事業に対する考え方は大きく変わります。「アウトソーシングの力で企業変革を支援し、社会課題を解決する」。現在、ミッションとして掲げているこの想いを軸に、「ユニバーサル就労支援」と「雇用創出を通じた地方創生」を事業の中心として新たに歩みはじめます。

浦上 「社会人経験の少ない若者、障がい者、ひとり親、シニア……、仕事をしたいのにできない方々の支援を、私たちのライフワークにしようと決めたのです」

障がい者の雇用支援をおこなう「わーくはぴねす農園」では、1,200名(2019年2月現在)を越える障がい者が働いています。障がい者の雇用を希望する企業に農園を貸し出し、働き手となる障がい者を紹介する仕組みです。

農園で働く障がい者の7割は、相対的に就職が難しい知的障がい者で、重度の障害を持った方でも勤務が可能となっています。農園で働くほとんどの障がい者は初めて就職する人たちで、農園で本当にイキイキと働いています。これまで8年間の累計での定着率は92%を超えています。

そして「雇用創出を通じた地方創生」では、人口10万以下の地方都市にコールセンターを開設して「東京にある仕事を地方にもっていく」という方法をとっています。

浦上 「最近、地方の雇用が好調といわれていますが、理由はサービス業を中心とした求人です。一方で、若い人や主婦などはサービス業よりもオフィスワークを希望し、地元では仕事が見つからない。結果として都会に移住してしまい、地方はますます疲弊していく。
そこで、東京でおこなっていた事務系の仕事を切り分けて地方でもできる仕組みをつくりました。場所が変わるだけで、どこでも仕事ができます。
地方に拠点を移してコストが下がれば企業にとってもメリットがあり、その土地で働きたい方にも雇用が生まれます。結果的にみんなが喜ぶ、Win-Winのビジネスが可能です」

「ユニバーサル就労支援」と「雇用創出を通じた地方創生」ふたつの事業の発想のもとは同じ。実際に障がい者や地方の方々と触れ合って「こんな仕事だったら、楽しく働けるかもしれない」という、浦上の純粋な想いがベースにありました。


▲2016年より本社を秋葉原に移転。緑豊かなオフィスから社会課題の解決に取り組みます

ビジネスとしてやる意味、それは社会貢献は持続可能であるべきだから

ESG投資という視点で、いまエスプールは注目を集めています。

ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。企業を評価する際、ESGへの取り組みがおこなわれているかどうかを重視する投資のことです。

日本の独立系金融情報配信会社であるフィスコが発表する「フィスコ機関投資家&アナリスト企業調査レポートアワード」のESG部門で、エスプールは2016年2017年と2年連続で1位を獲得。2018年もCSR部門で1位となりました。国内外の機関投資家からの問い合わせも増えました。

債務超過当時、約3億円だった株式時価総額が、2018年には300億円近くに。「業績はもちろんですが、やはりESGの取り組みが評価された」と浦上はいいます。

創業時、浦上はある経済アナリストに「すべてのステークホルダーが利益を享受できるような事業モデルなら企業はなくならない」といわれました。

浦上 「創業当時は、 “すべてのステークホルダー ”とは、お客さま、従業員、企業の三者のことだと理解していました。しかし、そこには “社会 ”の存在が抜けていたことに気付きました。社会の役に立ち、はじめて企業として存続できるんだと分かったんです。
またボランティアではなく、ビジネスとしてやる意味は、 “持続可能 ”であることに尽きると考えます。社会貢献は一過性であってはならないからです」

そう気づいた浦上は、ともに働く人材についての考えも変わりました。

浦上 「採用する人材についても変化してきました。いまは社員に対して会社への貢献を求めるのではなく、 “エスプールを通じて社会と接点を持ち、社員に学びと成長を提供できる企業でありたい ”と意識するようになりました。
“社会の役に立つ ”という仕事観を会得し、結果的に “ビジネスで社会貢献したい ”という価値観に共感してもらえれば、必ず活躍できるし、エスプールで長く働きたいと考えると思うんです」

企業存続の危機を契機に、ソーシャルビジネスにエッジを立てたエスプール。「思い描いていた会社の姿にようやくなりつつあり、さらに面白くなってきた」と浦上はいいます。

明解な目標にむかうエスプールの成長速度は、さらに加速しはじめました。

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