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住環境に関わるあらゆる情報格差を解消する。不動産DXを推進するCTOが歩んだ軌跡

CTOとして、事業フェーズに合った技術戦略の立案に取り組む木村 將。いわば“経営と技術の繋ぎ役”として開発チームをリードし、プロダクトの進化や事業の発展に大きく貢献してきました。「住環境を今よりも良いものにしたい」という想いとともに、これまでを振り返りながら、仕事の魅力ややりがいについて語ります。

未竣工物件のデジタルツインにVR上で誰もがアクセス、住宅購入時の情報格差を解消

デジタル技術を不動産分野に応用し、新サービスの開発や技術革新に取り組むスタイルポート。“空間の選択に伴う後悔をゼロにする”をミッションに掲げ、住宅流通における課題を、テクノロジーの力で解決することに取り組んでいます。

木村 「これまで、新築分譲マンション販売において不動産事業者と住宅購入検討者の間には、情報格差が生じていました。顧客に情報を提供しすぎると、かえって混乱させてしまうと慣習的に考えられており、マンションギャラリーへの来場を前提とした、限定的な情報公開の手法が取られてきたからです。

ところが、ECサイトの発達やSNSでの情報収集が一般化すると、住宅の購入においても『情報が足りない』と感じた購入検討者は、マンションブロガーやSNS、動画サイトなどに情報を求めるようになっています。情報格差による顧客離れに対し、不動産事業者の危機感が高まり、新たな情報プラットフォームへのニーズが高まっているわけです」

スタイルポートは、住宅販売に必要なあらゆる情報の共有を、不動産事業者と住宅購入検討者の間で手軽に行えるプラットフォームとして、“ROOV(ルーブ)”を開発、提供しています。中でもVR内覧システムは、デジタルツインによっていつでも・どこでも・誰とでも、まだ存在しない新築住宅の空間イメージを、簡単に共有することを可能にしています。

▲住宅3Dコミュニケーションプラットフォーム「ROOV」

木村 「購入検討者が希望の物件を見たいと思った場合、従来であればモデルルームがあるマンションギャラリー現地に出かける必要がありました。VR内覧をする場合でも、VR装置のある場所に行ったりVR専用メガネを着用する必要があります。

しかしスタイルポート独自の技術開発によって、インターネットに繋がるスマートフォンさえあれば、場所や時間にとらわれることなく、VR内覧を提供できるようになりました」

ROOVは累計70社が導入。300を超えるプロジェクトで利用されています(2022年5月時点)。

木村 「これまで、オンラインで住宅を販売するなんて考えられないことでしたが、時代、ニーズ、技術の変化がちょうど良いバランスで噛み合い、購入検討者が必要な情報を必要なタイミングで提供できるようになってきました。情報格差が解消されつつあると感じています」

そう話す木村が技術部門を統括する立場としてスタイルポートに参画したのは、2019年9月のこと。

木村 「入社当時、私に求められていたのは技術統治の強化でした。私が入社する前、3DCGのエンジンを独自技術で開発するなど、素晴らしいプロダクトをスタイルポートは生み出していましたが、技術統治はうまく機能していませんでした。社内のエンジニアたちが何を考え、何を生み出そうとしているのか。それが正しいかどうかもわからない状況で、新たな戦略を立てられずにいました。言い換えれば、個人の限界がそのまま組織の限界になっていたのです。

そのような状況を改善すること、いわば“経営と技術の繋ぎ役”として、組織の限界を拡張し経営(戦略)と技術(戦術)のギャップを埋めることが、私に与えられた課題でした」

住環境を良くすることは人生を豊かにすること。“人”の魅力に惹かれ、異業界へ

▲プロダクトマネージャーの吉田と

SIerとしてキャリアをスタートし、大手携帯電話会社でシステム設計などを手掛けた後、主に医療系の事業会社で経験を積んだ木村。特に前職では大きな裁量権を与えられ、思う存分に手腕を発揮。「やりきった」という想いがあったと振り返ります。

木村 「前職のエムスリー株式会社には約12年間在籍し、エンジニアリンググループのグループ長としてさまざまな事業に携わりました。新規事業のスピンオフやM&A後の買収企業の再建なども経験し、そこから5年先に自分がやっていることがなんとなく見えてしまった気がしたんです。ベンチャーのヒリヒリとした環境の中、もっと不確実性を楽しみたい。そんな想いが心のどこかに芽生えていたのかもしれません」

そんな折、前職の同僚が結婚。祝いの席で、現・スタイルポート取締役の中條と偶然再会します。

木村 「テーブルに座っていると、エムスリー時代にも取締役だった中條さんが現れました。仕事の話になり、中條さんが『今こんな仕事をしている』とあまりに楽しそうに話すので、オフィスを見学させてもらうことにしました。

実際にオフィスを見学して驚きました。前職での中條さんといえば、私からすると、いわば雲の上のような存在。そんな人が小さなオフィスで、とても楽しそうに泥臭い仕事をしている。前職で知っていたのとは違う、活き活きとした表情がとても印象的でした」

中條から話を聞くうちに、スタイルポートに興味を持ったという木村。入社の決め手は、“人”だと話します。

木村 「代表の間所も中條も、豊かな経営経験を持っています。戦略がきちんと練られていて、ビジョンもしっかりしている。ただ若くて勢いがあるだけの会社とは違うところに、大きな魅力を感じました。

また、入社前にプロダクトマネージャーと話すタイミングがあったのですが、『この人には絶対に勝てない』と思えるくらい優秀で魅力的な人物で、『この人とだったら互いに高めあえる』『一緒に働きたい』と思えたことも、背中を後押ししました」

医療から不動産という、畑違いの業界に挑戦することになった木村。大切にしているのは、「住環境を良くしたい」という想いです。

木村 「住環境は、衣や食と並ぶとても重要なテーマ。これを良くしていくことができれば、より多くの方の人生を豊かにしていくことができると考えています。現時点で、ROOVはどちらかというと“不動産事業者のためのツール”ですが、いずれはこれを“住む人のためのツール”にしていきたいと思っています」

▲カリフォルニアのGoogle本社へ行った際の様子(2011年)

▲2013年、マーケティングイベントへ登壇したときの様子

アーキテクチャも組織も、1からリビルド。新体制のもとでプロダクトが成長


▲新しく生まれ変わった構成(一部)

スタイルポートに参画し、技術統治の強化に取り組んだ木村。まず初めに取り掛かったのは、バックエンド・アーキテクチャの刷新でした。

木村 「最初の構成は、ひとつの巨大なインスタンスが復数の責務を兼ねるといったモノリシックな構成でした。データベースに対してインバウンド HTTP アクセスが許可されていたり、必要なログがなかったり、とにかくメンテナンス効率が悪く、開発ラインも増やしにくい状況でした。過剰なプロビジョニングで余分なインフラストラクチャコストも発生していました。

アーキテクチャを見直す上で、AWSのベストプラクティスを真似して、「STYLE PORT Well Architected」という1年計画を作りました。そこでセキュリティ、運用効率、信頼性、パフォーマンス、コストといった軸をつくり、それぞれについて取り組みを開始しました。

ただし、走り続けなくては行けないスタートアップにおいては、改善のためだけの時間はなかなか取りにくいものがあります。そこで、新規機能のローンチに合わせて少しずつ新しい構成に寄せていくという戦略をとりました。

そうすることで、時間はかかりますが、全体的なインパクトを落とすことなく中身を改善していくことができます。「開発チームは何をやっているのだろう」とならないよう、ビッグピクチャーを経営陣と共有し、こまめに報告しながら段階的に進めていきました」

アーキテクチャの刷新と並行し、組織のリビルドも行いながら技術領域のガバナンス改善に努めてきた木村。PMF(プロダクトマーケットフィット)の視点を重視しながら、プロダクトに磨きをかけてきました。

木村 「作り手である以上、プロダクトアウトで好きなものを自由に作りたいという想いはあるのですが、それだけではうまくいかないことも十分理解しています。マーケットにフィットさせるだけでなく、期待を超えていくために、セールスチームとも密に連携。プロダクトが実際に利用される販売現場へのヒアリングに同席したり、定量的な部分のアクティビティの推移を追えるよう環境を整えたりしています。

その上で、『この機能でプロダクトはどう成長するのか』『この機能への要求は妥当なもので、他の利用現場からもニーズがあるのか』といったことを、真剣に議論しながら、現在のようなプロダクトに仕上げてきました」

これからメンバーに加わる仲間に求めるのは、「目標のために皆で協力し、共に成長しようとするマインド」だという木村。その上で、実際に活躍しているエンジニアには次の三つの共通点があるといいます。

木村 「一つ目はワークロード全体を見渡せる、幅広い視点があること。近年のクラウドネイティブなモダンアプリケーションにおいて、ソフトウェア開発は抽象化とアーキテクチャ主導の形式へシフトしています。幅広い領域の技術に興味を持てる人が、より活躍の場を広げているように思います。

二つ目は、圧倒的な当事者意識を持っていることです。どんなことも自分ごととして捉え、周囲を巻き込みながら『自分だったらこう判断する』という提案ができる人は、成果の量も質も大きいと感じています。

三つ目は、事業や顧客に関心を持っていること。開発チームの中には事業の立ち上げ経験やCTO経験者も多いですが、ビジネスもわかるエンジニアは独特の強みがあります。常に『なんのためにやっているか?』を考えているので、少ないリソースでも最大の成果を出してくれます。

考えることが大好きで、カスタマーサクセスは何か、自分の仕事が世の中の何につながっているかを知ろうとする姿勢がある人は、必然的にエンジニアリング以外にもさまざまな場所で高い成果を上げています」

空間の選択に伴う後悔をゼロにする。そのための革新をさらに進めていきたい

デジタル技術によって住宅流通における情報格差の解消に努めている木村。社内には雇用形態に関係なく活躍できる環境があるといいます。

木村 「スタイルポートでは、どのような雇用形態を選んでもまったく区別なく、やりたいことを実現できる環境があります。たとえば『週4で働きたいから業務委託で』という方もいれば、業務委託で1年間働いたあと、会社の成長性を確信し正社員になった方もいます。どのような雇用形態であれ、気持ちよく働ける環境作りには今後も力を入れていきたいと思っています」

新築戸建ての市場規模は約15.8兆円。新築マンション市場の約3倍に相当するにもかかわらず、DX化が遅れている現状もあり、今後は新築戸建て事業にも参入していきたいと意欲を見せます。

木村 「新築戸建て市場には今後もまだまだ成長する余地があり、大きなチャンスがあると考えています。戸建て市場進出にあたり新たに二つの独自技術を開発し、現在は特許出願中のステータスです。それらの技術を組み合わせることで、新築戸建て売買において、商談したりプラン検討したりといった、施主と戸建て住宅事業者のコミュニケーションが、今よりずっと円滑に進められるようになると考えています。

将来的には、新築戸建て市場に留まらず、住むこと、買うこと、建築など、住環境に関連するものはすべて手掛け、業界の革新を進めていきたいですね」

不動産業界の常識が覆される未来は、もうすぐそこまで来ています。

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