一般職からクリエイティブ職へ。Instagramでの個人発信をきっかけに、TAMに転職した「しゃかいか!」ディレクター・高橋良和さん。いつかは本格的に足を踏み入れようと考えていたクリエイティブの世界に思い切って飛び込んだことで、それまで気づかなかった発見がいくつも生まれました。個人で発信してきた経験を、チームの中でどう活かすのか。仕事の進め方のギャップに悩みながらも、「好きなことを仕事にする」ことの本当の意味を見つけていきました。本記事では、高橋さんが語る“異業種転職のリアル”と、“個人発信をチームの力に変える”ヒントを通して、「自分の好き」をどう社会に接続していくかを探ります。
好きな写真を発信し続けた先に見えた、クリエイティブの入り口
高校生の頃からカメラに親しみがあった高橋さん。実家には家族で使っていたカメラがあり、自然と写真を撮ることが日常の一部になっていました。
高橋さんのキャリアは、もともとIT企業の一般職から始まりました。長く安定した環境で働く一方で、「もっと自分の手で何かをつくりたい」という思いが次第に強くなっていったといいます。
TAM しゃかいか! 高橋良和
1981年、群馬県前橋市生まれ、横浜市在住。2002年よりWeb上での写真発信を開始、2011年からは主な表現の場をインスタグラムに移し、現在フォロワー10万人以上。TAMグループが運営する「しゃかいか!」では、自治体のSNSやPRでのディレクター・カメラマンを担当。
大きな転機となったのは、子どもが生まれたことでした。成長の記録を残そうと改めて本格的にカメラを手にし、家族の姿を撮るうちに、再び写真の面白さにのめり込んでいきます。
やがてInstagramに写真を投稿し始め、光や構図の面白さに気づいて、家族の写真だけでなく、街のネオンや神社の灯、日本の何気ない風景を発信するようになりました。そこからフォロワーが増え、10万人を超えるほどになりました。
「どんな時間に投稿すると見てもらえるか、ハッシュタグの数や英語のキャプションなど、試しながら発信していました。自分の投稿を見て“その場所へ行ってみたい”と言ってくれる人がいるのが嬉しかったですね」
(高橋さん個人のInstagramでの投稿)
投稿を重ねるうち、企業や自治体から商品紹介の依頼やスポットの撮影依頼が届くようになり、写真が趣味から仕事へと変わっていきました。そして、それらの活動を通じてTAMメンバーから声をかけられ、「Find Your Yokohama」プロジェクトに参画するようになります。
「DMをいただいたときは驚きました。まさか自分の投稿が、仕事につながるなんて思っていなかったので」
この出会いが、TAMと高橋さんの関係の始まりでした。
覚悟を決めた異業種転職と、クリエイティブ職を学び直す日々
「Find Your Yokohama」での仕事をきっかけに、TAMとの関わりが少しずつ増えていきました。外部パートナーとして案件を進めるうちに、チームの仕事の進め方や価値観に共鳴し、「自分もこの中で、クリエイティブを学び直したい」と強く感じるようになりました。
一方で、企業の中で安定して働き積み上げてきた10数年や、守らなければならない家族がいること、ーーそれらを手放すことへの迷いがまったくなかったわけではありません。
それでも、「ここでもう一度、自分の力を試してみたい」という気持ちはずっと心のどこかに残っていました。業務委託として関わった時期からしばらく時間は空きましたが、ある日、TAMの募集を偶然目にしたことが転機になります。「今なら挑戦できるかもしれない」と思い、静かに覚悟が固まったのだといいます。こうして高橋さんは、2024年にTAMへの転職を決意しました。
とはいえ、一般職からの異業種転職は大きな挑戦でした。入社後すぐに現場へ出て撮影・動画制作を担当することになりますが、そこには個人での発信とは異なる“プロの現場”の壁がありました。
「機材の構え方や扱い方、撮影の手順など、現場での動きを一から学び直す日々でした。自分ではできているつもりでも、メンバーから指摘を受けることも多く、正直、最初のうちは落ち込むこともありました」
インフルエンサーとして“自分の世界”を表現してきた数年間。そこを一度リセットし、「会社員としてのクリエイティブ職」をやり直すという選択は簡単ではなかった。それでも、高橋さんがブレずにいられたのは、「この転職は自分で決めたこと」という強い意志があったからです。
「苦しいこともあったけど、全部自分が選んだ道。だからこそ逃げずに受け入れようと思いました。言われたことは全部メモして、繰り返し見返していました」
転職を機に、インフルエンサーとしての活動にはいったん区切りをつけ、会社員としてクリエイター職を全うすることにしました。
「自分の“我”を出すよりも、まずはチームの方針を理解して動くことを優先しました。その中で“違う人の視点”を感じたり、受け入れたりすることが新しい刺激になっていきました」
特に印象的だったのは、しゃかいか!チームリーダーの加藤さんからのフィードバックです。仕事をする上では、「相手がどう感じるか」を大切にしなければならない。日々のコミュニケーションについても「相手の立場で考えて、気持ちよくやりとりが終われるように意識するといいよ」とアドバイスを受けました。
「正直、最初は“そこまで考える必要があるのか?”と思っていました。でも、そのやり取りを通じて、今まで自分がいかに浅く考えていたかを痛感しました」
以前の職場では、数字やコストカットといった“定量的な結果”が評価の中心でした。だからこそ、加藤さんのように「クライアントはどう感じるか」「この言葉で何が伝わるか」といった問いを重ねるスタイルは、新鮮でありながらも難しかったといいます。
「常に考え続けることが求められる。最初は戸惑いましたが、今ではそれが一番の学びになっています」
壁にぶつかる瞬間もあった。それでも、自分の選んだ道として受け止め、素直に吸収していった。その積み重ねが、少しずつ“個人で発信する人”から“チームで創る人”へと、高橋さんを変えていきました。
“表現する人”から“共創する人”へ──発信の意味が変わった瞬間
TAMに転職してからの数カ月で、高橋さんの中で「発信」の意味は大きく変わりました。個人の発信が“自分の世界を表現するもの”だったのに対し、チームでの発信は“誰かの想いを届けるもの”に近いと感じるようになったといいます。
特に「Find Your Yokohama」では、街の空気や人の流れを肌で感じながら撮影することが多く、チームで動くからこそ見えてくる景色があったといいます。
構図や導線を確認しながら、現場で「どう切り取ると横浜らしさが伝わるか」を相談し、仕上げていく。その後、写真や動画を編集し、チームでチェックしながらキャプション案を考え、クライアントと擦り合わせて投稿まで導く。個人で撮影していた頃とは違い、その場で誰かの視点を借りられることが、高橋さんにとって新しい学びになりました。
(Find Your YokohamaのInstagramでの投稿)
「個人で発信していたときは、自分がいいと思う写真をどう見せるかを考えていました。でも今は、クライアントやチームの想いをどう届けるかを考えるようになりました。発信って、自分のためじゃなくて、誰かのためにあるんだなと感じています」
現在、高橋さんは自治体の公式SNSアカウント運用を担当。企画から撮影・編集、クライアントとのやり取りまで、一連の流れを任されるようになりました。撮影や動画制作、キャプションづくりをチームで進める中で、これまでの経験が確実に生きているといいます。
「どんな構図なら人の目に止まるか、どんなトーンなら嫌味なく伝わるか。そういう感覚は個人でやってきたからこそ掴めたもので、今の仕事にも自然に活かせています」
個人アカウントの存在は、チーム外との信頼づくりにも役立っています。新しい撮影パートナーやクライアントと話すとき、「まず自分のInstagramを見てもらう」のがいちばん早いのだそうです。
「“こういうテイストの人なんだ”と理解してもらえるだけで、仕事の進め方がスムーズになる。SNSで積み重ねてきた表現が、信頼の入り口になっています」
個人として培ってきた感覚が、チームの中で他者と交わることで更新されていく。その過程で高橋さんは、発信を「表現」から「共創」へと再定義していきました。
「TAMに来てから、“良い表現”って自分ひとりで決めるものじゃなくて、関わる人みんなで作っていくものなんだと気づきました。だから、誰かの視点を取り入れることは、今はとても前向きに捉えています」
“楽しいこと”を続けるコツと、“良いクリエイティブ”の定義
TAMで働くようになってから、高橋さんの中で“楽しいこと”との向き合い方に変化が生まれました。
「昔は“好きなことを仕事にする”ことが理想でした。でも、実際にやってみると、好きなことほど難しい。だからこそ、どうやったら楽しさを保てるかを考えるようになりました」
その答えは、「自分ゴトとしてやれるかどうか」だったといいます。
「誰かに言われたからやる仕事は長続きしません。でも、自分が“良いものを作りたい”という思いでやっている仕事なら、たとえ指摘を受けても苦にならないんです。根底にその気持ちがあるかどうかで、すべての捉え方が変わると思います」
今の仕事は、個人のInstagram活動と根底ではつながっていると感じているそうです。
「撮る対象やチームは違っても、“良いクリエイティブを作りたい”という気持ちは同じ。だからこそ、誰かの意見を素直に受け入れられるんです」
今の高橋さんにとって“良いクリエイティブ”とは、完成度の高さや数字の結果ではありません。「まだ世の中にないもの」「他の人には代えがたいもの」、そして「関わる人を巻き込んで、みんなが喜んでくれるもの」。それ自体が価値だと語ります。
「加藤さんがよく、チームで仕事をするということについて、“マンモスを取ってきてみんなで分ける”って例え方をするんです。お金だけじゃなくて、価値そのものを共有するという考え方に共感しています。みんなで喜べるものを作ることが、仕事の一番のやりがいですね」
そうした考え方は、キャリアを築こうとする人たちへのメッセージにもつながっています。高橋さんは「その人の力が強くなれば、結果的にその人が属する組織も強くなる」というTAMの考え方に共感していると話します。
「こういうマインドセットを持っている会社は、実はまだ少ないと思うんです。だからこそ、若いうちから“自分の人生にプラスになる考え方”を身につけることが大切だと思います」
[取材・文] 岡徳之 [撮影] 篠原豪太
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