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ゲーム理論で語るIT業界のおしごと(ナッシュ均衡)


Twitterランドを見てると、むかーし、SESの領域や、底の方からはい上がっていく中で

発注者=受注者
エンジニア=営業
社員=経営

などの間でいろいろとお互い足引っ張り合うような事とかしてたなーって思いだすことがありまして。これは商流上がって決済権持つ方と直接話す様になったり、自社内でもこの足の引っ張り合いが解消されて行く傾向になったので、個人的には忘れていたのですけども。

最近、リーダー顧客間でも互いに最大の利益を得る行動になっていなかったりしたケースを見たりしたのと、なんとかこの辺りの話を言語化してみたくなったのです。
何より今日は有給取ってる人だらけでヒマそうなので、記事書く余裕ありそうやなと。


この記事書いているのは2022年11月4日で、文化の日と土日に挟まれた谷間の出勤日になります。
カレンダー見れば、有給の人だらけだし。 営業メールとかも来ねえし。


1.囚人のジレンマ

だいたいみんなTVか動画かなんかで見たことあると思うので、さっくり。

・ゲーム理論
経済学ではふつう、プレイヤーは常に合理的で最善の判断を下すという前提でものを考えるのだけど、実際には複数のプレイヤーがいて、お互いの利害が一致しない中、それぞれ持っている情報や選択肢のなかから自分の利益を最優先して意思決定するよね。
協力ゲーム・非協力ゲームなどの上で、プレイヤーがどのように意思決定するかを説明する感じ。

・ナッシュ均衡
非協力ゲームの解のひとつ。
(相互に拘束的な約束を取り交わしていない)プレイヤーたちが自己利益をもっとも大きくすることだけを目的として戦略を選択した場合の均衡状態。最適な選択ではあるが、最大の利益を得られる(パレート最適)選択であるとは限らないとされる。


囚人のジレンマ
ナッシュ均衡における、最適な選択ではあるが、パレート最適ではない状態を説明した例。
お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマ。

繰り返すと黙秘を選択するケースが発生するとか、行動心理学の実験では半数が黙秘を選択したとか、まあいろいろな話があるけど、今日は別に経済学の話がしたい訳ではないので、てきとーにさておく。



2.ITベンダーと顧客間で発生するジレンマ

前提だが
・顧客とベンダーは相手の思考や背景はわからない
・顧客とベンダーは相手が下記の行動を優先すると考える
・目先の利益の確保を重視する。
・目先の損失の回避を重視する。
とする。要は非協力ゲーム的な状態にあり、パレート最適的な選択肢をお互い選べなかったパターンをいくつか挙げてみたいなと。こんな前提で、よくあるケースを例にできればと思う。


〇増員時など

増員が必要なプロジェクトにおいて、実際に業務に対応できるPGがプロジェクトに参加できないケース。前提として準委任契約であること。

・顧客は、ベンダーが無責任になんでもアサインして利益をかっぱぐつもりでいると考えている。

・ベンダーは、顧客がうまいこと言って優秀層のSEだけピンで抱え込みたいと考えている。

このような状態では、顧客はベンダーの提案する人員をそのまま信用する事はしない。まず経歴書(年数とか)で判断するし、必ず面談を要求する事だろう。ベンダーの若手層や有望だが経歴不足の人員はプロジェクトに参加できない事になる。

ベンダーは、そんな顧客に言いなりで優秀層を安売りしてはビジネスにならない。実業務はさておき経歴良いだけの人を提案する。撤退する、外注(SESの人とか)メインに切り替える、しまいには経歴偽装とかもあるカモシレナイ。少なくとも投入戦力の自由が無いのでは、長期的に結果に責任を持つ方向には舵を切らないのではないかと思われる。


〇管理とか

さっきの延長線上の話。

・顧客は、ベンダーが成果に責任を持つ気はなく、利益をかっぱぐつもりでいると考えている。

・ベンダーは、顧客は権限を与える気はなく、派遣的に使いまわしたいものと考えている。

顧客はベンダーの生産性や品質を信用しておらず、顧客側で管理者を立て、進捗や品質の管理をしている状態。管理者が不足する為、人材への要求スキルは上昇していく。ベンダーは、無駄に管理者を投入するよりもメンバーレベルや外注の増員やを重視する事になるし、より派遣的な関係性(責任は顧客が持つ)が強化されて行く事になる。


〇ありえた、より最善の関係

ベンダーは生産量や品質に責任を持ち、自社チームの管理を行う。またそれを実行するチームの配置に権限を持ち、生産性や品質を維持しつつ育成も並行する。顧客と協調・シェア拡大する上で顧客側の体制が不足する未来が見えるならば、その人員の採用や育成を支援する。

顧客は管理工数を削減し、主に納品物をチェックする。プロジェクトの規模や増員の必要性に関しては、なるべく早い段階でベンダーの管理者に相談し、現実的に可能な増員の計画などを双方の共通目的とする。即戦力の増員が不可能ならば、自分たちの利益が確保される範囲内で投資もする。


このような関係性が実現可能であるかどうかを言うと、実際に実現は可能です。
信頼関係と言うと薄っぺらく聞こえますが、現実でわざわざ非協力ゲームをやる必要はないのです。

・双方の背景・勝利条件をお互いに共有。
・パレート最適的な状態の実現を双方の目的に置く。
・実行にあたり不都合が発生した場合は早めに共有する。

顧客・ベンダーの管理者間で情報交換を行い、このような状態を実現してしまえば、お互いそのルートを外れずに進むのがお互いにとっての最善となります。だまし討ちされても、お互い報復は容易ですしね。(契約の終了など)


もちろん、すべてのケースで実現可能とは言えません。現実の会社・個人には会社・個人の事情、方針がありますので、『長期的なパレート最適的な状態が存在しない』と言うケースも多々発生します。
このようなケースでは時間投資をすること自体が無駄になります。
お互いに短期間での最善を目指した、ドライかつスマートな付き合いで終わる事になりますが、これはこれでビジネス的に正しいと思います。お互いに被害が発生しない様に、スムーズに終了しつつ、顧客は別のベンダーを、ベンダーは別の顧客を狙った動きをするのが、機会損失を抑えた動き方となるのではないかと思います。


〇そうは言っても信用できない連中はいる

います。
仕方ないです。社会人経験でパレート最適やナッシュ均衡的なものを理解する事はできなかった方々かと思います。IT業界ではこういう方々もたくさんいるので、初期の段階は顧客・ベンダー共に警戒。ジレンマの方向に向かいがちです。そこで終わってしまうと理解できない方々と変わりありません。相手方の背景・勝利条件を把握するところから始めてみるべきかと思います。(コミュニケーション取れない=非協力ゲーム)

また、一方の発言力が弱すぎる、強すぎる等のケースでも、均衡点が一方に寄りすぎて、マトモに相互利害関係とならないこともあります。『完全依存下請け状態』などではよくありそうです。発言力を担保する営業力・開発力も重要って事ですね。




3.エンジニア=営業間で発生するジレンマ

同様のジレンマは エンジニア=営業 の間でも発生します。
Twitterなどでよく見るのはこっちのほうかもしれません。

営業が目標数値を重視するあまり、無理筋な受注を取ってきたり、それは言うたらアカンってこと言うてたり。はたまたSESでは、エンジニアのキャリアを無視したアサインだったり。重要な情報が秘されていたりという話はよく聞きます。逆に、受注だったり利益だったり実績獲得などに非協力的で、自身の短期的利益と責任範囲の限定を最重視。全体の利得や周りの迷惑考えないエンジニアというのもよくいるわけでして。

こうなってきますと営業側も防御を固め、エンジニア側の意向を軽視して受注を進めるでしょうし、営業的な判断で受注や仕変、値下げをねじ込んできたりするわけであります。
そうなればエンジニア側も防御を固め、マージン取りすぎの見積もりであったり、情報や進捗の秘匿、顧客との交渉で営業を後ろから刺しちゃうなど、さまざまなバトルに展開していくわけでありますが。

まー、情報交換云々よりは、組織上の制限など不具合があって、組織間で摩擦が起こる感じが実は多いのではないかとも思いますが。



〇本質的に、エンジニアと営業の利害は一致している。

なんですよね。

営業視点でも、そもそも案件受注しても炎上させたら、利益や実績どころじゃない訳です。
案件が完了しなければ、営業だってずっと怒られるわ逃げられないわな訳ですよ。売上だけ取ったって、ふつうの会社はその営業を評価したりはしない訳です。(ふつうは)

SES営業においても、エンジニアのスキルが伸びない限りは営業は毎回苦労するわけです。苦労すると人も増やしづらいわけです。営業効率悪いとコストかかります。給与も上がりません。下手な高稼働でエンジニアにつぶれられでもした日には、甚大な機会損失が発生です。ほとんど回収不能ですよ。

エンジニア視点でも、利益出て会社伸びなきゃ給料上がりませんわな。より良い条件での受注のため、商流あげなくちゃいけないです。実績も必要です。SESだって、いつまでも商流深いところの仕事してたって大変なばかりです。営業と連携して上がっていかねばなりません。

経営側が敵であるパターンもありますが、経営が営業にも技術にも首を突っ込んでいないのだとしたら、与える情報をコントロールしたり、両部署で連携して適切に提案などすれば、もう少しうまくやれるんじゃないですかね。


4.社員=経営間で発生するジレンマ

エンジニア=営業間と同じように、こちらも基本的には利害が一致しているはずの関係性になります。近年よく聞いたのは、やはり未経験エンジニアの育成投資へのフリーライド、そして昔ながらの搾取モデル経営の話になりますでしょうか。

経営は、先々の回収を考えて投資する訳ですが。この回収が思ったようにできない、トータルがマイナスということになれば、その投資案を選択しなくなります。エンジニアの意思決定が『短期的利益の最大化×投入労力の最小化』で行われている『時間経過で必ず離職する』と仮定した場合、経営側の最適な行動は、『投資をしない』『その分高額の報酬額を設定し、育成済のエンジニアを中途採用する』『離職する前提なので将来には責任を持たない』というものになります。

この結果、エンジニアファーストや、高還元SESといったスタンスの企業が発生。エンジニアバブルを彩っていったものと考えています。

エンジニア=企業間の、中長期の利害を共有しない関係は、それぞれが投資しない、自身の利益を最優先に考えるものとなり、『囚人のジレンマ』的な、さまざまなロスを生むことになりますが、これに対して対照的なものが、過去の終身雇用のスタンスになるのではないかと考えます。

日本企業全般では、終身雇用は2000年前後のリストラという言葉の定着とともに実態のない概念のみのものとなっているのが一般的な通念と言え、企業側に終身雇用と言われたところで、その実現性・ビジョンなどが明確でなければ説得力はありません。それを信用しない労働者というのも合理的ではあります。こうして自立して生存を戦おうとしたのが2000年代のフリーランスの姿でした。


近年はエンジニアファーストの副作用も認知されたか、カルチャーマッチであったり、ビジョン・ミッション・バリュー、パーパスなどに対して共感してくれる人材を重視した共感重視の採用傾向がふえております。 上位のブランド力を持ち、ある程度採用ターゲットを選べる側の会社から、エンジニアと経営の『囚人のジレンマ』的な関係からの脱却、中長期前提のパレート最適な関係性を重視する採用傾向に移行していったものと考えられます。(そもそもカルチャーマッチやらパーパスやら、その辺の会社をターゲットにした人材系企業のマーケティングワードだと思うてる。)


入社する会社のレベル感・ブランド力などに直結しそうな要素となりますので、それなりのレベルの会社様へご応募の際などは、しっかりとその会社のカルチャーやビジョン・ミッション・バリューなどを把握。また、どういったパーパスを作っていきたい会社なのかなど、下調べを入念にされた方が、良い結果につながりそうに思えます。

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