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考える仕事

あけましておめでとうございます。本年も森アンをどうぞよろしくお願いいたします。

そして初めまして。合同会社森アン、スタッフの塙(はなわ)と申します。
スタッフのバックグラウンドを紹介するこの連載ですが、5回目となる今回は私のバックボーンについて書いてみようと思います。

研究者を志して

私は1990(平成2)年に生まれました。
数度の転居を経て幼稚園から18まで埼玉県の上尾という街で育っています。

私は学問をするために大学へ行き、人間の思考の厳密な記述をテーマに哲学を専攻しました。
在学中多少の迷いはあったものの職業的研究者を志すことを決め、本格的な研究は院でやることにしてbachelorの間は哲学の古典的、伝統的な概念を学ぼうと、指導教官の勧めに従い、「(思考を)記述する」という行為について考えることにしました。



厳密にいえば、人間が客観的に考えることは不可能です。しかし、人間がある主観でもって考えた事柄に対しては、それを正しく反映するただ一つの記述——たとえ、その「正しい」記述を目にした別の人間が元の内容を必ずしも復元できるとは限らなかったとしても——が存在する。

というのが思考を記述するというときに置かれている前提であるとするのは、さほど不自然なことではなかったろうと思います。

また特に思考についての記述についていうならば、記述される側としての思考と記述するための道具
——言語、と呼ぶことにしましょう——と、どのような関係であるか(これがつまり記述とは何か、である筈ですが)は大きな問題となります。

更に言えば、上記のような問題設定とその整理は、「思考」なるものがその記述から独立性を持って(少なくとも切り分けることが可能な形で)存在しているかのように扱っていますが、その妥当性は検証が必要です。

客体としての万物に疑えないことはなく、その中に確かなものを見つけるためには論理的な筋道を立てて試行していくほかありませんが、果たして思考のロジックそのものに疑いを向ける場合はどうすればよいのでしょうか。

あちらを立てればこちらが立たず、というのは厄介なトラブルに対して紋切型に使われる慣用句ですが、ただ疑問に思ったことを人に伝えようとするだけでも歴史ある重厚な問題が次々に立ち現われ、考慮すべきことが鼠算的に増えていくのが哲学という学問の面白いところかと思っています。



就活アウトロー採用との出会い

ともあれ、将来の道筋を思い描き最初の一歩を踏み出そうとした私は、その最初の一歩で大きく躓きました。多層的に捉えていたテーマの中で大きな困難が見つかり、精神を病んだのです。

抑うつ状態と診断され、服薬治療も認知行動療法も劇的な効き目はなく、2年半程足踏みをしました。最も酷いときは一日ベッドから起き上がるのにも苦労しました。しかし一番辛かったのは「寝て起きて食事を摂り排泄をする」で一日分の気力を使い果たす程度で容体が小康状態になったことで、不安感や身体症状などを治療する医者の方針上回復したと言ってよい私と再び学問が出来るようにならなければ意味がない私の間で板挟みになりました。

最終的に完全回復は諦め、今ある能力で何とかしようとしましたが、日英独羅の文献学的能力は長期にわたり読書量0という環境の中壊滅的になり、かなり不本意な出来の卒論を提出してギリギリ卒業はしました。

しかし、そのような状態のため希望していた他大の院への入学試験は当然の結果として落ち、仮にもう一年院試のための浪人生活をするとしてもその先まで考えれば極めて厳しい未来であろうことは明らかでした。

親には夢を諦めて就職すると説明したものの、精神状態はこの決断のために再び悪化し、大学を卒業後も就職活動という名の引きこもりを約1年続けました。

年間で受けた会社の数は10社に満たなかったかと記憶しています。
そもそも学生時代を含めて各種大手の就活サイトに一つも登録していませんでした。

そんな折、非常に怪しげな就活サービスのサイトに巡り合いました。
「就活アウトロー採用」。既存の新卒一括採用に疑問を持つ既卒・第二新卒向けの就活サービスを標榜するよく分からないなにかであり、2018年現在はweb公式サイトも更新が滞っているため更にうさん臭さが増しています。



都合よく説明会が迫っていたため出席してみることにしたのですが、正直に言ってその決め手は何だったのかは思い返してもよく分かりません。とにかく、説明会に出てプログラムへの参加を決め、企業側との交流会(企業セッション)で初めて森アンと出会いました。

森アンとこれから

当時、私は就活において志望動機の作成に難儀していました。
それは私が物心ついた時から哲学者になりたかったため……というと、嘘になります。私が哲学に興味を持ったのは哲学という言葉を知るよりも先で、TVの報道番組を見て脳死の概念を知ることにより、自我の消失の後に肉体が残ることから、死、そして無について考えるようになったのが最初でした。

そのため実は私は職業的研究者としての哲学者になりたいという思いは必ずしも強くなく、単純に自身の探求と生活の糧を得るための作業を素朴に繋げたという程度の意味合いでした。そのため本来であれば営利企業に所属する意志を表明することは不可能ではなかった筈でした。

しかし、いわゆる求職活動においては、まずもって私の個人的な事情に興味を持たれることが稀でした。求められるのは企業活動において私に何が出来るかであって、しかもそれは過去に実際に行ったことと結び付けて立証する必要がありました。

就職活動においては「自己分析」「業界・企業研究」が二本の柱と聞いています。使い古された孫子の言葉ではありませんが、自己の強みと業界の未来、企業の進む方向を重ね合わせて一致を示すことこそ王道の戦術であるらしいです(※私は未経験ですが)

然るに私は大学でサークル活動を行うでもなく、バイトもろくにせずに勉強ばかりしており、それすらも入るのは簡単と言われる院試で落ちているため説得力がありませんでした。私は何処にでもいる、誰とでも替えの利く人材でした。故に、私はこれこれの理由で貴社に採用されるべき人材です、とする主張が導けなかったのです。

アウトロー採用の企業セッションにおける森アンは、独特な存在でした。
卑屈に見えるほど穏やかな男性が、自社の紹介の時間にスライドも資料もなしで参加者たちに語りかけていました。その前のグループに分かれて会話をする時間でも、自分の意見はあまり話さずに聞き役に回っていたと記憶しています。

曰く、自分たちは訪問介護をやっていること。
曰く、求職者にやりたいことを語らせる既存の就活には違和感を覚えている。
曰く、若い時分には何もかも迷っていて当然である。
曰く、訪問介護にはビジネスの基礎が詰まっている。
曰く、三年間、ビジネスの基礎を学びながらやりたいこと探しをしてみないか。

そうぽつりぽつりと語るこの男性が、弊社代表の森でした。


(代表の森)

私はこの演説には好感を持ちましたが、人文系の学術とあまりに接点がないという理由で森アンに興味ありというチャットグループには加入したものの積極的なアクションを起こしませんでした。

しかし、森代表はその後そのグループ上で、グループのメンバー全員の話を聞きたいと発言しました。本気にせず希望日時を入力しなかった私に対しては、個別のチャットでスケジュールを聞いてきました。

その熱意に絆される形で、私は森代表と一対一で、当時住んでいた家の間近の喫茶店で会うことになりました。結果的にここで三回喋りました。「三顧の礼」と称する外ない状況でしたが、代表は私のことをそう強い印象で記憶していた訳ではなかったようです。

初回の会談の後、「こんなに面白い人だと思わなかった」と言っていただけたのが嬉しさよりも驚きのために記憶に残っています。この人、面白くなさそうな人のためにわざわざ出向いてきたのか、と。ちなみに、この時喋った内容はほぼ上記の経緯と共通します。

ただし代表の行動について補足しておくと、この当時弊社に入社して働き始めていた20代の人材はゼロ。
後から知ったことですが、代表は代表で未経験の人材が入ってこない当時の現状に非常な危機感を覚えており、どうか話だけでも聞いてくれと殆ど頭を下げて回るような気分で採用活動をしていたようです。
そんな事情には全く気付かなかった私は、この人には自己開示が出来る、ということに感銘を受けていました。

入社の決め手となったのは、森代表が私の経歴を聞いて面白いと言って下さったこと……と、書くと確実に誤解を招くため、もう少し補足します。

私は、私がそれまでの人生でやってきたことに最も高い値を付けた会社で働くことを決めました。これは、他の会社(既存の就活)が求める人物像に合わせた自己PRを要求してきた(と述べて構わないでしょう)こととパラレルです。

私は、学問を志すもその第一歩すら歩めなかった人間です。それどころか「哲学が好きです」と表明することすら困難です。第一に好き嫌いでやっているわけではないからであり、第二に物事を好きであるという状態が、鬱の期間に分からなくなったからです。(この関係で、入社後好きなものをあれこれと訊かれてかなり困りました)

これを例えば、「大学でロジカルシンキングを学びました」「院試での挫折をバネに新たな挑戦をしたいです」「そのために必要な環境が御社に云々」といったストーリーに再構成したなら、私は極端に凡百な存在となるでしょう。そして大抵はそれこそが望まれるのです。


(真冬に入社して春になるとすぐ購入したオリーブの木。自分が無為に過ごした日にも着実に成長するものが室内に欲しいという願いを込めています。購入してからもう40㎝程伸びました)

今社内で興味を持っていることは、組織としての効率化です。その中でも特に、情報の共有と更新を日々の業務に組み込めないかと頭を悩ませています。ICT、IOTの活用が叫ばれる昨今ですが、それ以前の問題として、ノウハウの共有、社内に情報を蓄積して活用するという発想がこれまでの弊社には足りていなかったように思います。

現在は現場を回り経験を積むことに注力している状態ですが、入社して一年は過ぎ、そろそろ見えてきた課題への対応策を提案できるようになりたいと思っています。

弊社では若者プロジェクトと称して20代のメンバーを次々に増やしている最中ですが、入社してからのロードマップは明確に決まっていません。掲げているビジョン通りに行けば、若者は次々に入ってきて数年で辞めていく前提で組織づくりをしなければならない筈ですが、その際に育った人材のノウハウがいちいち失われていくようでは話になりません。

私が入社する前のやり方、だけではなく、私が入社して教わったこと、無意識に習慣にしてしまっている思考の癖までも疑い、変えていく必要があります。

思えばこれはこれで、私と縁のある仕事なのかもしれません。

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