「スタートアップの内部統制と仕組み化の矛盾」
「課題を仕組みで変える」と言いながら、なぜ社内は仕組み化できないのか
スタートアップで働いていると、よく耳にする言葉がある。
「課題を仕組みで解決する」
「属人化をなくす」
「再現性のある組織を作る」
どれも正しい。
しかし、ふと周囲を見渡したとき、こんな疑問を持つことがある。
「私たちは本当に、自分たちの組織を仕組みで運営できているのだろうか?」
情報を守ることと、情報を閉ざすことは違う
企業には内部統制が必要だ。
給与情報や個人情報、顧客情報は適切に管理されなければならない。
しかし内部統制は、本来「情報を見せないこと」を目的とするものではない。
必要な人が必要な情報にアクセスでき、適切な牽制関係のもとで業務が進む状態を作ることが目的だ。
ところが、スタートアップではしばしば逆の現象が起きる。
権限が一部の人に集中し、現場は必要な情報にアクセスできない。
結果として、
・契約書が個人メールに保存される
・SaaS契約の管理者が分からない
・契約更新の責任者が曖昧になる
・業務プロセスが特定個人に依存する
といった状況が発生する。
これはセキュリティが高い状態ではない。
むしろ組織としてのリスクが高い状態だ。
「人で回る組織」と「仕組みで回る組織」
仕組みで回る組織には共通点がある。
誰かが辞めても業務が継続できることだ。
そのためには、
・契約台帳
・SaaS台帳
・アカウント管理
・権限管理
・文書管理
などが整備されている必要がある。
しかし実際には、
「〇〇さんしか分からない」
「社長しか触れない」
「担当者が辞めたので分からない」
という状態が少なくない。
これは一見すると統制が効いているように見える。
だが実態は逆だ。
仕組みではなく、人によって業務が維持されている状態だからだ。
監査法人が見ているもの
IPO準備や内部統制の議論になると、多くの人は「権限を厳しくすること」が重要だと思う。
しかし監査法人が見ているのはそこではない。
重要なのは、
・誰が作成するか
・誰が確認するか
・誰が承認するか
が明確になっていることだ。
つまり「見せないこと」ではなく、「適切に共有しながら牽制すること」が求められる。
実際、監査法人から指摘される課題の多くは、
「担当者間の連携不足」
「責任範囲の不明確さ」
「情報共有の欠如」
である。
組織の問題は、情報漏洩よりも情報断絶によって発生することが少なくない。
組織文化は仕組みに現れる
企業理念はスライドや採用ページに書ける。
しかし本当の組織文化は、日々の運用に現れる。
「属人化をなくす」と言いながら個人依存の業務が残っている。
「仕組み化する」と言いながら権限が一部に集中している。
「透明性を重視する」と言いながら評価基準が不明確である。
こうした矛盾は、働く人に少しずつ違和感を与える。
特に管理部門は、その違和感を強く感じやすい。
なぜなら管理部門の仕事は、理念を制度やプロセスに落とし込むことだからだ。
最後に
企業が成長するために必要なのは、優秀な個人ではなく、優秀な仕組みだと思う。
もちろん創業期は属人化を避けられない。
だが組織が大きくなるにつれて、
「誰がやるか」
から
「どうやって回るか」
へ移行しなければならない。
本当に「課題を仕組みで変える」のであれば、まず自分たち自身の組織が仕組みで動いているかを問い直す必要がある。
顧客の課題を解決する前に、自社の課題を仕組みで解決できているか。
その問いは、どんな企業にも向けられるべきものだと思う。