「社長は現場を知らないといけない。」
そんな言葉を聞くことがあります。
私も、その考えには賛成です。
お客様の声を知る。
現場で何が起きているかを知る。
スタッフがどんな仕事をしているかを知る。
経営者が現場を理解することは、とても大切です。
しかし一方で、いつまでも社長が現場の最前線に立ち続けている会社があります。
私は、その状態が長く続くと、会社の成長は少しずつ止まってしまうと考えています。
創業期は、社長が現場に立つしかありません
会社を立ち上げたばかりの頃は、人も少なく、資金にも限りがあります。
営業もする。
接客もする。
事務もする。
経理もする。
社長が何でも担当することは珍しくありません。
むしろ、それが会社を成長させる原動力になります。
だから私は、創業期に社長が現場へ出ることを否定したいわけではありません。
問題は、その働き方が何年も続いてしまうことです。
社長が現場にいると、判断も社長へ集まる
現場に社長がいると、確かに安心感があります。
困ったことがあれば、すぐ相談できる。
その場で判断してもらえる。
お客様も安心するでしょう。
しかし、それは裏を返せば、
判断が社長へ集まり続ける仕組みでもあります。
スタッフは、
「社長に聞こう。」
という習慣になります。
お客様も、
「社長に確認してください。」
と言うようになります。
担当者では判断できない会社という印象が、少しずつ出来上がってしまうのです。
気が付けば、社長がいなければ仕事が進まない会社になってしまいます。
オーナーが現場に立ち続けるサロン
例えば、エステサロンを想像してみてください。
オーナー自身が一番人気の施術者。
予約は毎日いっぱいです。
お客様からも、
「オーナーさんにお願いしたい。」
と指名が入ります。
一見すると、とても順調なサロンに見えます。
しかし、オーナーが毎日施術に入り続けていると、少しずつ別の問題が起こり始めます。
スタッフを育てる時間がない。
新しいメニューを考える時間がない。
採用活動も後回しになる。
広告や集客も営業時間後に行う。
気が付けば、オーナーの一日は施術で終わっています。
一方で、店長の役割は現場を回すことです。
スタッフからの相談を受ける。
予約状況を確認する。
現場のトラブルに対応する。
お客様が安心してサービスを受けられるよう、現場全体を調整します。
では、オーナーの役割は何でしょうか。
会社の方向性を決める。
新しいサービスを考える。
採用や教育の仕組みを整える。
集客や経営戦略を考える。
つまり、
店長は現場を回す人。
オーナーは会社を成長させる人。
役割が違います。
もちろん、オーナーが施術に入る日があっても構いません。
現場を知ることは、とても大切です。
しかし、それが毎日になってしまうと、オーナーは店長の仕事はできても、オーナーにしかできない仕事ができなくなってしまいます。
結果として、売上の上限は、オーナーが施術できる時間になります。
どれだけ人気店になっても、一人で施術できる時間には限界があるからです。
現場が育たなくなる
社長が現場で何でも対応していると、担当者が経験する機会も減っていきます。
判断する経験。
お客様へ説明する経験。
トラブルを解決する経験。
そうした機会が少なくなると、
担当者はいつまで経っても自信を持って動けません。
能力がないからではありません。
経験する機会がなかっただけです。
社長が現場を支え続けるほど、現場は社長に依存していきます。
社長が休めない会社になる
もう一つ起こるのが、
社長が休めないことです。
体調を崩しても。
家族との時間を取りたくても。
旅行へ行きたくても。
現場が気になってしまう。
電話が鳴る。
確認の連絡が来る。
その結果、
会社の予定ではなく、社長の予定で会社が動くようになります。
これは組織として、とても大きなリスクです。
現場を離れることは、現場を捨てることではありません
ここで誤解してほしくないのは、
私は「社長は現場へ出るな」と言いたいわけではありません。
現場を見ることは大切です。
現場を知ることも大切です。
必要であれば、現場へ入ることもあるでしょう。
しかし、
現場に出ることと、現場に居続けることは違います。
社長の役割は、
現場の一人として働くことではありません。
現場が困らない仕組みをつくることです。
担当者が判断できるようにする。
相談先を決める。
役割を明確にする。
必要な情報が届く流れをつくる。
そうした環境を整えることが、社長の仕事です。
社長が見るべき場所は、現場の少し先です
以前の記事で、
「管理者は動かない」
「管理するのは人ではなく仕事」
という話を書きました。
社長も同じです。
見るべきなのは、
目の前の作業だけではありません。
半年後の組織。
一年後の採用。
次の事業。
新しい仕組み。
会社の未来です。
その時間を確保するためにも、
社長は少しずつ現場を任せていく必要があります。
社長が現場を離れたとき、会社は成長する
会社が成長するのは、
社長が一番働いているときではありません。
社長が、
未来を考える時間を持てるようになったときです。
現場を知ることは大切です。
でも、現場から離れられない会社は、社長一人の時間が会社の限界になります。
私は、構造設計とは、
社長を現場から遠ざけることではなく、
社長しかできない仕事へ時間を戻すことだと考えています。
現場を任せられる人を育てる。
判断基準を共有する。
仕組みを整える。
その積み重ねによって、
会社は「社長が頑張る会社」から、「組織で成長する会社」へ変わっていきます。
社長が現場を知ることは大切です。
しかし、社長の居場所は、いつまでも現場ではありません。
社長しかできない仕事へ少しずつ時間を戻していくこと。
私は、それが会社を次のステージへ進める第一歩だと考えています。