忙しい飲食店を想像してみてください。
ランチタイム。
次々とオーダーが入り、料理の提供が追いついていません。
ホールではお客様が待っています。
キッチンにはオーダーが溜まっています。
そんな中、一人のスタッフが一生懸命、洗い物をしています。
決してサボっているわけではありません。
手は動いています。
洗い物も、もちろん必要な仕事です。
でも、今一番やるべき仕事でしょうか。
私は、仕事を管理するとき、
「その人が働いているか」ではなく、「今やるべき仕事が進んでいるか」
を見ることが大切だと考えています。
人は「できる仕事」を選びやすい
忙しくなったときほど、人は自分がやりやすい仕事を選ぶことがあります。
慣れている。
失敗しにくい。
やることが明確。
自分一人で完結できる。
洗い物なら、
洗う。
すすぐ。
片付ける。
と、やることが分かっています。
一方、溜まっているオーダーをさばくには、
何から手を付けるのか。
どのお客様を優先するのか。
誰と連携するのか。
どこまで自分で判断していいのか。
考えながら動く必要があります。
経験が浅いスタッフなら、
「間違えたらどうしよう。」
「何からやればいいか分からない。」
という不安もあるでしょう。
その結果、
「今、一番必要な仕事」ではなく、「自分ができる仕事」へ戻ってしまう。
これは、本人が怠けているとは限りません。
むしろ本人は、
「ちゃんと仕事をしています。」
と思っている可能性があります。
「洗い物してないでオーダーやって」だけでは変わらない
そんなスタッフを見た管理者が、
「今、洗い物じゃないでしょ。」
「オーダー溜まってるんだから、そっちやって。」
と指示する。
その瞬間は、オーダー対応へ移るでしょう。
でも、次に同じ状況になったらどうでしょうか。
また洗い場へ戻ってしまうかもしれません。
なぜなら、
「なぜ今はオーダーを優先するのか」という判断基準を教えていないからです。
指示された仕事はできる。
でも、状況が変わったときに自分では判断できない。
すると管理者は毎回、
「今はこっち。」
「次はあっち。」
と指示し続けなければなりません。
これでは、スタッフを管理しているというより、管理者自身がスタッフの代わりに優先順位を判断し続けている状態です。
教えるのは、作業ではなく「優先順位」
洗い物も必要です。
オーダー対応も必要です。
では、何が違うのでしょうか。
今、どちらを先にする必要があるか。
です。
例えば、
オーダーが一定数以上溜まっていたら、提供を優先する。
提供待ちがなくなったら、洗い物へ戻る。
自分の持ち場が落ち着いていても、他の場所で仕事が詰まっていたらフォローへ入る。
こうした判断基準があれば、スタッフ自身が状況を見て動きやすくなります。
「忙しいんだから考えて動いて。」
では、人によって考える基準が違います。
管理者が持っている優先順位を、スタッフも使える形にして渡す。
それも教育の一つだと思います。
なぜ、その仕事を選んだのかを見る
ここで、私はもう一つ大切なことがあると思っています。
スタッフが洗い物をしていたからといって、
「楽な仕事に逃げている。」
と決めつけないことです。
なぜ、その仕事を選んだのでしょうか。
オーダー対応の方法が分からないのかもしれない。
失敗するのが怖いのかもしれない。
自分がそこへ入っていいと知らないのかもしれない。
「洗い場担当だから、洗い物をするのが自分の仕事だ。」
と思っているのかもしれません。
理由によって、管理者がすることは変わります。
スキルが足りないなら教える。
優先順位が分からないなら判断基準を渡す。
権限が分からないなら役割を明確にする。
不安があるなら、最初はフォローしながら経験してもらう。
単なる習慣なら、行動を修正する。
行動だけを見て注意するのではなく、なぜその行動になっているのかを見る。
そこまで考えることが、管理者の役割だと思います。
忙しく働いていることと、仕事が進んでいることは違う
これは、飲食店だけの話ではありません。
例えば事務職。
今日中に提出しなければならない資料があるのに、メールフォルダの整理をしている。
営業職。
見込み客への連絡が溜まっているのに、営業資料のデザインを整えている。
経営者。
新規営業をしなければ売上が増えないのに、ホームページの細かな修正をしている。
どれも仕事です。
だから本人には、
「仕事をしている。」
という感覚があります。
でも、
仕事であることと、今やるべき仕事であることは違います。
やりやすい仕事。
得意な仕事。
すぐ終わる仕事。
達成感のある仕事。
そうしたものを先に選び続けると、本当に重要な仕事が後ろへ回ります。
管理者が見るのは「人」ではなく「仕事」
以前、
「管理するのは人ではなく仕事」
という記事を書きました。
今回のケースは、その分かりやすい例だと思います。
管理者が、
「〇〇さん、ちゃんと働いてるかな。」
とスタッフだけを見ていると、
洗い物を一生懸命している姿を見て、
「よく働いている。」
と評価するかもしれません。
でも、仕事を見ると違います。
オーダーが何件溜まっているのか。
提供まで何分かかっているのか。
どこで仕事が止まっているのか。
今、誰の手が必要なのか。
管理者が見るべきなのは、
人が動いているかではなく、仕事が流れているか
です。
仕事が詰まっている場所があれば、そこへ人を配置する。
そして、なぜそこを優先するのかを伝える。
その判断基準をスタッフ自身も持てるようにする。
それができれば、管理者が毎回細かく指示しなくても、現場は少しずつ自分たちで動けるようになります。
「今、何を優先するか」を判断できる人を育てる
仕事のできる人とは、たくさんの作業ができる人だけではないと思います。
状況を見て、
「今はこれを先にする。」
と判断できる人。
自分の担当だけではなく、仕事全体の流れを見られる人。
そして必要であれば、自分のやりやすい仕事を一度止めて、優先度の高い仕事へ移れる人。
そういう人が増えると、現場は強くなります。
そのために管理者がすることは、
「もっと考えて動いて。」
と言うことではありません。
何を見て、どう優先順位を決めるのか、その基準を渡すことです。
洗い物をしていることが問題なのではありません。
洗い物も、大切な仕事です。
問題なのは、
今やるべき仕事より、「できる仕事」が優先されていること。
忙しく働いていることと、必要な仕事が進んでいることは違います。
今、一番止めてはいけない仕事は何か。
どこに仕事が溜まっているのか。
誰をそこへ配置するのか。
そして、スタッフ自身がその優先順位を判断できる状態をつくる。
私は、それも「仕事を管理する」ということだと考えています。