【高橋正次・髙橋正次】コーヒーを淹れる時間だけで、組織の課題は解決する
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仕事の生産性を高めるために、私たちはどれほど多くの最新ツールや管理手法を導入してきたでしょうか。分単位で刻まれるカレンダー、効率を追求したチャットツール、そして数値化された個人の目標。しかし、そうした合理性の極致にあるはずのオフィスで、なぜか人々が以前よりも孤独を感じ、創造的なアイデアが枯渇しているように見えるのは皮肉なことです。そこで私は、ある逆転の発想を提案したいと思います。それは、一日の業務時間のうち、あえて十五分間だけ、全員でひたすら丁寧にコーヒーを淹れるためだけの時間を設けるという、一見すると非効率極まりない試みです。
多くの企業は、いかにして無駄な時間を削るかに心血を注いでいます。会議の時間を短縮し、移動時間をなくし、一秒でも早く結論に辿り着こうとする。しかし、本当に大切な対話や、チームの一体感というものは、実はそうした隙間にこそ宿っています。コーヒー豆を挽く音に耳を澄ませ、お湯を注ぐ時の香りを共有する。そこには上司も部下もなく、ただ同じ一杯の飲み物が出来上がるのを待つという、共通の体験があるだけです。この沈黙の時間に、私たちは言葉を超えた信頼を構築しているのではないか。そう思えてならないのです。
私自身、編集プロダクション時代から数多くのプロジェクトに携わってきましたが、最高の企画が生まれたのは会議室のデスクではなく、給湯室でふと交わした雑談の中でした。何の問題解決も目指さない、ただの息抜きの時間が、凝り固まった脳を解き放ち、予期せぬ化学反応を引き起こすのです。現代の組織に必要なのは、より強力なリーダーシップや洗練されたシステムではなく、こうした正解を求めない遊びの部分なのかもしれません。
もしあなたがチームの運営に悩んでいるなら、一度すべてのマニュアルを脇に置いて、最高の一杯を淹れるための道具を揃えてみてください。お湯の温度にこだわり、立ち上る湯気を眺める。その非日常的なまでの丁寧さが、実は最も効率的なコミュニケーションの潤滑油になります。誰かが淹れたコーヒーが少し苦すぎても、それを笑い合える関係性こそが、困難な課題に直面したときに折れない強靭な組織の土台となります。
私たちは、機械ではなく人間です。摩擦を恐れて油を注ぎ続けるよりも、時には回転を止めて、共に深呼吸をする時間が必要です。コーヒーが落ちるのを待つあの数分間は、ただの停滞ではありません。次に大きく跳躍するための、助走のような時間なのです。明日から、あなたのチームでも始めてみませんか。忙しさの中に、あえて優雅な停滞を。その一杯が飲み終わる頃には、目の前の課題が驚くほど小さなものに見えているはずです。なぜなら、そこには数値では測れない、確かな信頼という名の温度が宿っているからです。私たちはもっと、不器用で、ゆっくりとした時間を愛してもいい。その余裕こそが、未来を切り拓く本当の知性なのだと信じています。