立場が人をつくる—未熟なエリアコーヒーマスターだった私が、戦略的にプロフェッショナルを武装するまで
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水鳥のように水面下ではジタバタしていたエリアコーヒーマスター
史上最速記録でエリアコーヒーマスターに選出された経緯は前述しましたが、その時、私は非常に未熟なブラックエプロンでした。もちろん日々コーヒー豆の販売やコーヒーの提供で接客を重ねていましたが、史上最速ということは、その当時もっとも経験の浅いブラックエプロンであったことを意味します。
エリアカップの存在すら知らなかった私にとって、この称号は思いもよらないものでした。喜びでいっぱいになった半面、こんなすごい立場を望んでいたわけではない、という戸惑いがあったのも事実です。星をたくさん連ねた凛々しいブラックエプロンに囲まれて、一番ヒヨコの私は、正直居心地の悪い自信のなさを覚えたことを思い出します。ACMにしかできない有料コーヒーセミナーというものを担当するのですが、ファシリテーションスキルには自信があったものの、自分のコーヒー知識は経験に裏付けられたものではなく暗記したものに過ぎない、という後ろめたさがありました。もし今目の前に同じような経緯で誕生したACMがいたら、自分を信じて堂々とがんばれ!と言ってあげたいですが、当時の私は自信のなさでいっぱいになってしまったのです。エリア内のブラックエプロンを対象としたコーヒーセミナーを任された時は、参加者の目がまるで自分を非難しているように勝手に感じてしまい、汗が止まらず逃げ出したかったことを思い出します。
それでも逃げられない やるしかないから強くなった
ACMに選出されたことで、かえって自信を失ってしまった私。それでも役割は果たさなければなりません。ACMという名のもとに登壇する仕事は毎回胃が痛くつらかったですが、友人の言葉で覚悟が決まりました。
「誰かと同じACMになる必要はないんちゃう?恵実ちゃんであればいい。それが今年のACMなんやから。」
そうか。私は私なりのプロフェッショナルを体現すればいい。今できる最大限のパフォーマンスを発揮しよう。そこで腹をくくれた私は、取り繕うのに必死になることをやめ、等身大の自分の言葉が出るようになりました。
もちろん、学び続けました。一度テストに受かったからと言って、知らないことばかりです。お客様の質問に答えられるように、期待を超えられるように、歩みは止めませんでした。成長したから手にした立場だったのかもしれませんが、私にとってACMは、「立場が人をつくる」ということを知る大きな機会でした。おそらくACMになっていなかったら、あそこまでストイックに努力を続けることはできなかったのではないかと思っています。
ある日気づいた これが自分のポータブルスキル
私の夫は転勤族でした。ACMに選ばれた翌年、夫の転属が決まりました。三重県から山梨県へ。私は店舗を変わらなければならなくなりました。スタバは転居先に店舗がある場合、紹介してもらって店舗を異動することが可能な場合があります。が、絶対の保証ではありません。結婚後の夫の初めての転勤で、私はACMのキャリアが自分のポータブルスキルの一つであることに気づきます。天性の人懐っこさで人見知りせず誰とでも話せることが強みであることは自覚していましたが、自分の意志でガツガツと学び身に着けてきたこの知識は、今や自分の「売り」であることに気づいたのです。
引っ越し先の最寄店舗は人が足りている状態でしたが、ブラックエプロン保持者かつACM経験者、という肩書を買われ、ぜひ来てほしいと言って頂きました。この瞬間、私は転勤族の妻として長くキャリアを積みたかったら、どこででも必要とされる強みを持っていなければならないことを痛感しました。
自己満足のプロから必要とされるプロへ 武装としてのプロフェッショナル
コーヒーを学び始めた時、その意欲は決してキャリアを思い描くようなものではありませんでした。あくまでも目の前のお客様に満足していただくため、そしてコーヒーを広く販売することで生産地に貢献するため、これがすべての目的でした。しかし、立場をいただき、個としてだけではなくチームやもっと大きな組織のために力を発揮することを求められ、自分の能力を高めるということについて、その意義がもっと広いものであるべきであると考えるようになりました。自分が学んだことを周囲に伝えることでチーム力を上げる。お客様に伝えることで顧客満足度を上げブランドの価値を上げる。自分の力をそのように発揮していくことが果ては自分の市場価値も上げていく。それがプロフェッショナルなのだということを理解していきました。初めての店舗でもコーヒー勉強会を開催していましたが、異動先ではもっとコーヒーの啓蒙に力を注ぐようになります。自分の背中を見て新しいブラックエプロンが生まれてほしい。コーヒーの情熱に火をつけたい。学んだことを周囲に還元しようとする意識が、いつの間にか自分のポータブルスキルに磨きをかけ、転勤族の妻というハンデに大きな武器をくれたのです。
目覚めたきっかけは、明らかにACMに選ばれたことでした。自分にとって大それた役割であったACMという立場が、新しい私をつくってくれた。そう感じています。だから能力のある後輩にはどんどん機会を与えるようにしてきました。『立場が人をつくる』これは間違いありません。数々の後輩が成長していった姿を見て確信しています。職責を負うことを恐れている人がいたら、きっとその先には成長しかないよ!と背中を押してあげてほしいと思います。