窓から心地よい風が吹き込む誰もいない教室でひとりの大人が静かに黒板を見つめています。
全体の設計図を描く仕事と現場でひとつずつの価値を形にする仕事の両方を歩んできた私の頭の中にはいつも無数の真っ白なノートが広がっています。
その大人が手に持っているのはチョークやペンではなく誰もが一度は折ったことのある小さな紙飛行機でした。
組織の目指すべき未来を共有することや一緒に進む仲間の可能性を引き出す作業も実はこの紙飛行機にそれぞれの想いを乗せて空へ飛ばす作業によく似ていると感じる時があります。
世の中には素早く遠くまで飛ばせる完成された乗り物や効率的な移動手段があふれていますがただ目的地に着くだけでは本当に心を動かすような景色に出会うことはできません。
どれほど綺麗に折られた飛行機でもそこに飛ばす人の情熱や風を信じる気持ちが込められていなければ少し進んだだけで地面に落ちてしまうのです。
そこで必要になるのが風の向きや教室の空気を肌で感じながら一枚一枚の紙を焦らずに丁寧に折っていく粘り強い時間です。
目立つ部分だけに気を取られるのではなくそれぞれの紙が持つ本来の強みや折り目の角度にじっと意識を向けること。
指先で丁寧に折り目をつけ理想の形に仕上がった小さな飛行機を風に乗せてそっと窓の外へ解き放ちます。
空色の飛行機が青空に溶け込むように滑らかに滑空し始めた瞬間バラバラだったみんなの視線がひとつになり教室の中に一体感と温かい空気が広がっていきます。
その美しい飛行を見上げた人々は不安を捨てて自分たちの可能性を信じ同じ風を感じながら共に前を向いて歩み始めることができるようになります。
チームを導くことも単に目的地を指示するのではなく一緒に風を読みそれぞれが自分の飛行機を信じて飛ばせるような環境と勇気を用意することが大切なのだと気づかされます。
私たちは毎日さまざまな想いや挑戦という紙を抱えながら自分だけの特別な飛行機を折り続けています。
日が完全に落ちて静寂が教室を包み込み風がやわらかく頬を撫でる時間になるとふと自分が飛ばしてきた飛行機の軌跡を確かめたくなります。
今日あなたが仲間とともに飛ばした小さな紙飛行機はどんな風に乗って誰かの心に希望の景色を届けているでしょうか。
大人は満足そうに笑みを浮かべ最後の飛行機をそっと風に預けました。
明日もまた誰も見たことのない美しい飛行を求めて新しい折り方を探し続けていくのでしょう。