Sky株式会社が毎月発行している情報誌『学校とICT』の2026年10月号を読みました(Web版:https://www.sky-school-ict.net/ )。今回特に関心を持ったのは、第52回全日本教育工学研究協議会全国大会(高知・香美市大会)の開催に向けた、高知県香美市教育委員会のお二人へのインタビューです。小学校教員としての視点も交えながら、感じたことをまとめます。
「端末導入」ではなく「構造改革」──前田教育長の言葉から
教育長の前田圭一さんは、「教育DXで進化する探究の学びを、香美市から全国へ」をテーマに語っています。
印象的だったのは、端末の導入や事務処理の効率化はゴールではなく、教育環境そのものの構造改革こそが本質だ、という姿勢です。その鍵として挙げられていたのが2点でした。
1つ目は、学校や教員の習熟度に応じた伴走型の支援。DX統括官やICT支援員が学校をこまめに訪問し、先生方の悩みにタイムリーに寄り添う体制を整えているそうです。トップダウンではなく、現場の状況を把握したうえで提案できる仕組みがある、ということだと受け取りました。
2つ目は、教職員の授業観の転換。「教え込む存在」から「子どもたちの探究をファシリテートする伴走者」へと、役割を再定義する必要があると述べられています。
デジタル活用の本質は「余白時間をつくること」。そして、余白を生むための習熟度に応じた導入と、教員の価値観の転換を同時に進める。これによって、知識伝達型の教育から変わっていける──そんなメッセージだと感じました。
校務用スマホ140台の実証研究──上村統括官の言葉から
教育DX統括官の上村安和さんは、現場の課題として私物スマホの業務利用を挙げています。セキュリティ面の課題に加え、児童生徒の作品や活動の写真など、著作権や肖像権への配慮が必要なデータを扱う機会が増えていることも背景にあるそうです。
そこで注目されたのが、『SKYMENU Mobile』の「セーフカメラ」機能。撮影データが端末内に残らずクラウドに保存され、校内で自動共有される仕組みです。香美市では大会の授業公開校7校の教職員・事務職員・管理職など140名に1人1台の校務用スマホを配布し、実証研究に取り組んでいます。
記事では、次のような変化が紹介されていました。
- 個人端末に写真を残さないことで、子どもたちの個人情報と教職員の立場の両方を守れるようになった
- 「ToDo+」をメモ代わりに使うことで、職員室から付箋が減った
- 離れた場所にいる子どもたちの学習の様子を、写真で手元から把握できる
- 歩数計アプリの導入など、現場の要望に応じた整備も進めている
さらに、校務用スマホには目立つ青いストラップをつけ、「業務で使っている」ことが周囲にわかるようにしているそうです。児童生徒も保護者も先生方も安心できる環境づくりとして、細やかな工夫だと感じました。
感じたこと:ツールは「拡張装置」、生かすのは人
この記事は、教育現場を変えるための現実的な方法を示していると感じます。
ITツールは人間の能力の拡張装置です。ただ、それを生かすも殺すも現場の人間次第。だからこそ導入する企業側には、「使ってみよう」と思える提案と、そのためのニーズ把握が求められます。
実感として、多くの先生方には余白がありません。正確に言えば、余白を生むための思考の余裕がない。理由は様々です。それでも、児童生徒や保護者、社会の変化への対応は待ったなしです。特に6〜12歳の小学生期は、多様なスキルの土台を形成する貴重な時期。だからこそ、先生方の価値観の転換は重要なポイントだと考えます。
課題は「届いていない先生」にどう届けるか
こうした情報誌を手に取るのは、向上心のある先生や研究指定校の先生、管理職が多いと思います。意欲的な先生同士は自治体を越えてつながっていることも多く、私立学校では学校を挙げて積極的に動いている印象もあります。
問題は、そうでない先生方への働きかけです。背景は多様ですが、取り組みが広がらず、学校・地域・自治体間の格差が生まれているのが現状です。公立では教育委員会も苦心しています。
隅々まで製品の良さを届け、活用できる人材を育てるには、各企業が行っている研修会、学校の成熟度に合わせたパーソナライズ研修、中長期の効果を見通した伴走支援がかなり有効だと思います。
ポイントは、先生方が**「使わないと気持ち悪い」と感じるまで習慣化してもらう**こと。加えて、システム障害時の対応フローまで伝えておくと、現場は安心して使えるはずです。
現場の「困り感」を言語化して吸い上げる
もう一つ大事なのが、現場の困り感を言語化して拾い上げることです。
- 出勤してすぐ教室で児童対応なのに、朝イチの連絡を見る暇がない
- 会議の記録をとっても、整理するのが面倒
- 印刷機に印刷物が溜まって、誰のものかわからない
探せば、こうした細かな「時間の損失」はたくさん出てくるはずです。それらを洗い出し、影響の大きいものからデジタルで置き換えていく。そうして生まれた時間を、子どもと直接関わるというコア業務に充てる──これが教育DXの目指す姿だと思います。
おわりに
現場と企業の「良い緊張関係」こそが、子どもたちへのより良い教育につながる。そう感じさせてくれる記事でした。教員として現場にいた経験を生かし、この両者をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。
出典
Sky株式会社『学校とICT』2026年10月号
・インタビュー「教育DXで進化する探究の学びを、香美市から全国へ」前田圭一(高知県香美市教育委員会 教育長)
・「教職員1人1台の校務用スマホと『SKYMENU Mobile』の実証研究を開始」上村安和(高知県香美市教育委員会 教育DX統括官)
Web版『学校とICT』:https://www.sky-school-ict.net/
📷写真は、神戸市垂水区にある、マリンピア神戸の一部の写真です。