書籍【半導体逆転戦略~日本復活に必要な経営を問う】読了
本書では、次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス」と、熊本に工場を建設したTSMCの子会社「JASM」について詳しく論じている。
著者はラピダスに対しては非常に厳しい評価をしている。
技術的に高いハードルに挑むのは尊いことだが、果たしてビジネスとして成立するのだろうか。
シンプルな懸念点と言えるが、本質を突いているだろう。
最先端の半導体チップを製造できれば、確かに競争優位性が高い。
しかし、本当に2ナノメートルという最先端に辿り着けるのか?
仮に量産化に辿り着けたとして、企業からの受注が取れるのだろうか?
大きく2点で懸念点を示しているのだが、受注については実際にどうなのだろうか。
これだけ半導体不足と言われており、さらに今後も益々需要が喚起される中で、受注が取れないとも思えない。
この点については、著者のJASMの評価を聞くと、納得できる部分もある。
著者はあくまでも現実的で、冷静な視線を向けているとも言える。
著者はラピダスよりも、JASMに対して大きな期待を寄せている。
JASM(熊本工場)は最先端の技術を追わずに、現在、世界で最も需要がある、12〜28nm(ナノメートル)のスペシャリティ半導体を2024年末から量産中だ。
主に、自動車、家電、IoT機器、産業機器など、安定した性能と消費電力のバランスが求められる多くの製品に使われている半導体チップ。
「最多需要」の領域を確実に押さえようとしている点で、ビジネスを戦う上での正攻法と言える。
だからと言って、ラピダスは厳しく、JASMは安泰と判断してよいのか。
話はそんなに単純ではないはずだ。
本書では一貫して「半導体産業に必要なのは経営戦略である」と力強く説いている。
どんなに素晴らしい技術を持っていても、それを活かす戦略がなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
日本企業は確かに、半導体チップ製造における素材・材料分野で、大きな存在感を示している。
一方で、完成品までの製造部分は、台湾・韓国に後塵を拝している。
世界情勢は混沌としており、米中デカップリングの影響で、貿易摩擦や地政学リスクなど、不安な要素は尽きない。
この混沌をチャンスと捉えるのは難しいと思うが、したたかに生き残り戦略を練らないと、気付いた時には市場を失っているということになり兼ねない。
ただでさえ半導体チップの製造工程は複雑だ。
世界中のサプライチェーンが協力しなければ、製造が止まってしまうリスクを常に孕んでいる。
それを貿易のカードに使う国もあると思うが、そこもしたたかに行くしかない。
本書では、地政学的に台湾はベストパートナーだと説いているが、偏り過ぎるのもよくない。
中国・韓国と仲良くするのは難しいかもしれないが、貿易相手国として、上手に付き合っていかなければいけない。
半導体チップの製造は一つの分かりやすい事例であるが、世界は益々複雑化していくだろう。
均衡が取れている内はよいのだが、ひとつのバランスが崩れると、大きなリスクに発展しかねない。
旧時代的な国家間の戦争も未だに起きている。
半導体戦略については、国家安全保障にも絡むために、益々複雑な判断が必要となる。
これからあらゆるものがインターネットに繋がる以上、半導体チップの需要は増え続ける。
そして、それらが繋がった先にデータ処理がある訳で、そこでも半導体チップは必要となってくる。
もちろん、半導体チップで計算処理を行うためには、大量の電気が必要となり、その手配をどうするかも各国間で綱引きが行われている。
日本の立ち位置は確かに難しい。
自国の国益を損なわないために、どういう戦い方をしていくのか。
舵取りは本当に難しいと思っている。
私は半導体産業とは直接関係がない仕事をしているが、対岸の火事とは言えない。
半導体を使ったデータ処理については、あらゆる産業が関係してくるはずだからだ。
情報を常に追いかけて、自分たちのビジネスリスクを冷静に判断していきたい。
(2025/12/15日)