「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」という語が、政府の文書に続けて出てきます。2025年の骨太方針、2025年11月の補正予算、2026年2月の文部科学省の基本方針、2026年7月の骨太方針と日本成長戦略。同じ語ですが、書かれている場所と中身は年ごとに変わっています。公表されている文書から、現在の姿を整理しました。
◼️定義
文部科学省「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」の脚注14、および骨太方針2026の脚注64に、同一の定義が置かれています。
「デジタル技術等も活用して、現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー。」
定義に含まれる要素は2つです。賃金の水準(現在よりも高い賃金を得る)と、その手段(デジタル技術等も活用して)。
文部科学省の事業説明では、福祉分野の例として見守りセンサーや移動支援機器等の介護テクノロジーの活用、工業分野の例として故障診断ツールやドローン操縦が挙げられています。
◼️全体の構成
アドバンスト・エッセンシャルワーカーは単一の制度名ではありません。関連する施策は4つに分かれ、それぞれ主管省庁と財源が異なります。この語が使われるのは、このうち育成の部分です。
1つめは方針です。骨太方針2026と日本成長戦略。いずれも2026年7月21日の閣議決定で、主管は内閣府と内閣官房です。
2つめは育成で、高校を対象とするものです。文部科学省の「N-E.X.T.ハイスクール構想」に基づく改革先導拠点のうち、類型1が「アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援」にあたります。財源は令和7年度補正予算による都道府県基金3,009億円で、その後に「高等学校教育改革交付金(仮称)」を構築するとされています。基金は造成済みで、交付金は2027年度予算の編成過程で検討されます。
3つめも育成で、専門学校を対象とするものです。文部科学省の「地域産業中核的人材養成事業」に「アドバンスト・エッセンシャルワーカー創出のためのリ・スキリング」というメニューが加わっています。期間は2026年度から2028年度です。
これに加えて、事業基盤に関する支援が経済産業省の側にあります。認定エッセンシャルサービス制度、AIロボティクス実装ロードマップ、中堅・中小企業向け補助金におけるAX投資の重点支援です。
対象者は分かれています。高校と専門学校の施策は、高校生および在職者のリ・スキリング受講者を対象とします。処遇改善加算は、現に事業所に雇用されている職員を対象とします。
◼️国の方針における記載の推移
2025年6月の骨太方針2025では、「地域の人材育成と処遇改善」の項に置かれ、大学、短期大学、高等専門学校及び専門学校において育成に取り組むと書かれていました。同じ文の後半には「公定価格の引上げを始めとする処遇改善」が併記されていました。
2025年11月28日、文部科学省が高校教育改革に関する基本方針の骨子を公表します。
2025年11月の令和7年度補正予算では、「高等学校教育改革の推進(基金を含む)3,009億円」の説明文にこの語が記載されました。
2026年2月13日、文部科学省が基本方針(グランドデザイン)を公表します。2040年に向けた「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」という副題が付いています。改革先導拠点の類型1が「アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援」です。
2026年4月27日、経済財政諮問会議に松本臨時議員提出資料「国力の基盤となる人材力の強化に向けて」が出されます。高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョンです。
2026年7月21日、骨太方針2026と日本成長戦略が閣議決定されます。骨太では「人材力の強化・人材総活躍」の章に置かれ、脚注に「『成長戦略』から抜粋」と付されています。具体的な施策は日本成長戦略の側に書かれています。
2025年と2026年の記述の相違点は3つです。第一に、育成主体の記載です。2025は教育機関を列挙していましたが、2026は列挙がなく、産学官連携とリ・スキリングの文脈に置かれ、具体は高校教育改革に記載されています。第二に、財源の記載です。2025には予算措置の記載がなく、2026は基金と交付金が記載されています。第三に、処遇との関係です。2025は同一文中に処遇改善が併記されていましたが、2026は別の章に分かれています。
◼️育成(高校)
グランドデザインは現状をこう記載しています。
「工業・農業等の職業学科を設置する高校の生徒は2割未満となっており、地域社会・経済を支えるいわゆるエッセンシャルワーカー等の不足も大いに懸念される。」
仕組みは4段階です。文部科学省がグランドデザインを示し、各都道府県が「高等学校教育改革実行計画」を策定し、その実現のために「高等学校教育改革交付金(仮称)」等の財政支援を構築する。それに先立ち、令和7年度補正予算により都道府県に基金を造成し、パイロットケースとして「改革先導拠点」を創設する、という順序です。
補正予算の説明文は次のとおりです。
「アドバンスト・エッセンシャルワーカーを育成するための実践的で高度な学びや、理数系人材を育成するための文理融合・探究的な学び、地理的アクセスを踏まえた多様な学びを先導する拠点を創設するため、都道府県に基金を設置し、改革を牽引する。」
改革先導拠点は3つの類型です。類型1がアドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援、類型2が理数系人材育成支援、類型3が多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保。対象は公立の高校、中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部で、都道府県の判断により市町村立も対象となり得ます。全ての都道府県において類型1から3の創出を検討すること、拠点の数を精選して注力することが記載されています。
類型1の学校像は次のように書かれています。
「AI やデジタル技術を駆使しながら、地域産業や社会の課題を解決できる人材や、地域発のイノベーションを興すことのできる人材、進学を見据えた高度専門職人材の育成を目指し、産業界や大学等と連携・協働しながら、理論と実践の往還による実践力の習得・向上に資するカリキュラムの実施等に取り組み、その実現に必要な施設設備の高度化が図られた学校。」
対象となる取組の例のうち、事業者が関与するものは2つです。
ひとつは「ビジネス経験の必修化」です。「産業界等との連携・協働により、定期的に企業等で具体的な業務を実践し、生徒の卒業後の仕事や収入のイメージの明確化や、高校での理論学習と企業等での実践の往還による学びの深化を図る。卒業までに就業経験を経ることにより、生徒が働くことへの具体的なイメージを持つことにつながり、安定的な人材育成・供給の確保(将来的な労働力需給ギャップの改善)に貢献する。」と記載されています。
もうひとつは「ものづくりから流通までの一体的な学びの実践」です。原材料の生産や栽培管理、製品・商品の製造、流通・販売といった全ての工程を高校で実施し、産業界等との連携・協働により専門家の継続的な指導を受けながら行う、とされています。
このほか、産業界の伴走支援を受けながら教育課程の刷新・開発や先端分野の専門的な指導を行う、という記載があります。
未確定の事項が2つあります。交付金の制度化は「高等学校教育改革促進基金の執行状況等を踏まえ、2027年度予算の編成過程で検討する」とされています。対象校種等も「実行計画のうち、交付金等の対象となる学校種等については今後検討する」とされています。
◼️育成(専門学校)
文部科学省の「地域産業中核的人材養成事業」に、「アドバンスト・エッセンシャルワーカー創出のためのリ・スキリング」というメニューが追加されています。専修学校が自治体・企業・業界団体と連携し、労働生産性向上に資するモデルを構築するもので、開発したカリキュラムの他校への横展開が期待されています。骨太方針2025で専門学校が大学とともにこの育成を求められたことが背景と説明されています。
事業全体の予算は12億9,000万円、選定予定は16か所、初年度は1か所あたり2,400万円程度、期間は2026年度から2028年度とされています。ただしこの予算額と規模は報道記事によるもので、文部科学省の事業要項そのものは確認できていません。
◼️事業基盤に関する支援
改正産業競争力強化法が2026年5月29日に成立し、認定エッセンシャルサービス制度が設けられました。人口の減少又は少子高齢化の進展その他の経済社会情勢の変化に対応して、事業の合理化、多角化又は広域化その他の事業の効率化を行う計画を認定する制度です。
認定を受けた場合の支援措置は3つです。認定事業適応の実施に必要な資金について、金融機関等からの借入れの際に保険限度額とは別枠で信用保証協会による保証を受けられること。認定計画に従って行われる事業承継等に必要な資金(M&Aによる買収資金を含む)の借入れについて、経営者保証を求めることなく信用保証協会による保証を受けられること。認定労働者協同組合が信用保証協会による付保限度額の特別枠の付与を受けられる特例。
日本成長戦略には、「認定エッセンシャルサービス事業者の事業継続コストを軽減するための支援措置について2026年度中を目途に結論を得られるよう、検討を進める」と記載されています。
経済産業省の制度案概要では、対象業種として、コンビニ、スーパー等の食品等の卸小売、バス・タクシー等の交通、運送、ガソリンスタンド、LPガス供給、自動車整備、医療、介護、保育、公衆浴場、理美容、洗濯、葬儀等の公衆衛生に関するサービス、草刈り、雪下ろし等の生活関連サービス等が挙げられています。サービス産業ではない農業・建設業等や、日常的な生活の維持に必ずしも必要とはいえない飲食業・旅館業等は対象外とされています。同資料には「認定基準、対象業種等については、実施指針において具体化を図る」との記載があり、障害福祉サービスは対象業種の例示に記載されていません。
このほか、AIロボティクス実装ロードマップの下でのAIロボット導入の促進、中堅・中小企業向け補助金におけるAX投資の重点支援、AX実現のための地域ごとの支援者等のネットワーク作りが記載されています。
◼️事業者に関係する作業項目
各文書の記載から、事業者側の作業となる事項を時期別に挙げます。
令和8年度中のものは5つです。
処遇改善加算の区分に関する判断。令和8年6月に施行済みです。職場環境等要件の生産性向上の取組が5以上に該当するかの確認、該当しない場合の令和8年度中の対応の誓約による申請、加算額の2分の1以上を月給賃金で配分する設計になっているかの確認、加算Ⅰ・Ⅱの場合の情報公表システム等での取組内容の公表があります。
相談支援に係る加算新設への対応。計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援が新たに処遇改善加算の対象になっています。
協議体への参画。総合教育会議、地域人材育成構想会議、地域構想推進プラットフォーム、コミュニティ・スクール。あわせて、都道府県の高等学校教育改革実行計画の策定時期と、改革先導拠点として選定される高校の確認。
就業体験の受け入れ。ビジネス経験の必修化は企業等での業務実践を内容とするため、受け入れ側の体制(指導者、安全管理、評価)が必要になります。
認定エッセンシャルサービス制度の実施指針の確認。対象業種に障害福祉サービスが含まれるかがここで確定します。
2027年度以降のものは2つです。
高等学校教育改革交付金(仮称)の制度化。2027年度予算の編成過程で検討され、対象校種・対象取組が確定します。
専修学校との連携。地域産業中核的人材養成事業(2026年度から2028年度、16か所)の採択状況の確認です。
◼️出典
高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」~(令和8年2月13日 文部科学省) https://www.mext.go.jp/content/20260213-mxt_koukou01-000046079_03.pdf
令和7年度文部科学省関係補正予算 https://www.mext.go.jp/content/20251117-ope_dev02-000037774_1.pdf
日本成長戦略(令和8年7月21日閣議決定) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/jgs2026.pdf
経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日閣議決定) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf
経済財政運営と改革の基本方針2025 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf
経済財政諮問会議 令和8年4月27日 松本臨時議員提出資料 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/0427_shiryo07.pdf
認定エッセンシャルサービス制度(案)の概要(令和8年3月 経済産業省経済産業政策局) https://www.chuokai-chiba.or.jp/chuokai/wp-content/uploads/2026/04/42562413b834ef0e655a5fd339cc4245.pdf
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