"便"を薬にする挑戦——「治りたい」に、科学で応えるために
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メタジェンセラピューティクス(MGTx)で執行役員COOを務める田村洋人です。情報理工系出身のエンジニアだった私が、なぜ"便"を薬にする創薬に飛び込み、経営を担うことになったのかお話しします。
■ 原点:自分の腸が、教えてくれたこと
きっかけは、自分自身の体調でした。食生活の乱れと抗菌薬の長期服用で腸内環境が崩れ、過敏性腸症候群(IBS)や自律神経の乱れに苦しんだ時期があったのです。「腸の中の細菌のバランスが、これほどまでに全身のコンディションを左右するのか」——身をもって知ったこの体験が、腸内細菌(マイクロバイオーム)に人生を賭ける原点になりました。
■ ニコンでの約8年:技術を"社会に届ける"難しさ(2014〜2021年)
新卒で入社した株式会社ニコンでは、約8年で4つのまったく違う仕事を経験しました。露光装置の機械設計、海外ジョイントベンチャーに出向しての基礎研究、研究所の経営企画、そして金属3Dプリンタの新規事業開発。
畑違いの現場を渡り歩くほど、ある想いが強くなりました。「どれだけ優れた技術も、社会に実装されなければ意味がない」。研究成果を世に届ける最後の一歩にこそ、自分は挑みたい——そう考えるようになったのです。
■ 2021年、"便を薬にする"会社へ、3ヶ月契約で飛び込んだ
その想いと自分の原体験が一本につながったのが、FMT(腸内細菌叢移植)でした。健康な方の便に含まれる腸内細菌を、患者さんの腸に移植する。潰瘍性大腸炎、がん、パーキンソン病——既存薬では治しきれない難病に、根治の可能性をもたらすアプローチです。
2021年、私はこの技術に懸けるMGTxに第1号社員として参画しました。とはいえ当時はまだ創業まもない小さなチーム。最初の契約は「3ヶ月の契約社員」からのスタートでした。それでも、大企業の安定を手放す不安より、「この技術を患者さんに届けたい」という気持ちがはるかに勝っていました。
■ 「何でも屋」の日々——教科書を片手に、日本初の承認へ(2021〜2023年)
参画後は、まさに何でも屋でした。FMT溶液の製造プロセスを設計し、試作容器を描いて発注し、大学の中に製造ラボを立ち上げる。臨床研究計画書の作成支援もしました。業務委託を始めてわずか1ヶ月、社内レビューを待つ余裕もなく、自分で作った提案資料を手に取引先へ向かったこともあります。
一番苦しかったのは、臨床研究の症例数設計です。臨床開発も生物統計も未経験。生物統計の教科書を1日で読み込み、必死に計算して設計しました。その計画に基づいて進めたプロジェクトが、2023年、日本初となる潰瘍性大腸炎に対するFMTの先進医療B承認にたどり着きます。のちに公表された8週時点の臨床寛解率は45.9%(対照群は20.5%)。任せてくださった仲間の信頼に応えられて本当に良かったです。
■ 「組織図を待たずに動いた」——COOの産声(2023〜2024年)
2023年、医療サービス担当部長として組織を預かるようになると、事業の急拡大に"事業別"の体制が追いつかなくなっていました。私は機能別組織への移行が必要だと確信しましたが、経営の正式決定を待っていては間に合わない。そこで、組織図の更新を待たずに、自分の判断でチームと定例を機能別に組み替え、運用を始めました。それがきれいに回ったことで、約1ヶ月後には正式な組織変更として追認された。「実態を先に動かす」——この一歩が、私のCOOとしての産声でした。そして2024年、執行役員COOに就任します。
■ 鶴岡で、"便が集まる仕組み"をゼロから創る(2024年〜)
COOとして最初に本腰を入れたのは、FMTの原材料——健康な方の"便"を安定して確保する仕組みづくりでした。日本に前例のない挑戦です。2024年、山形県鶴岡市に日本初のつるおか献便ルームを開設し、献便の仕組みを立ち上げました。
開所直後こそ話題になりましたが、ブームが落ち着くとドナーは減り、正直かなり焦りました。そこからはデジタルマーケティングの改善、謝礼などインセンティブ設計の見直し、地域での地道な広報まで、泥臭くやり抜きました。結果、適格な献便の割合は40%前後から80%前後へ改善し、献便数は当初目標の2倍にあたる500便に到達。「ちょうむすび」はデザイン面でもRed Dot・グッドデザイン賞を受賞しています。
■ 「人を動かすCOO」から「仕組みで動かすCOO」へ(2025年〜現在)
いま私は、権限委譲と仕組み化、そしてAIの全社活用によって、"自分がいなくても組織が勝てる構造"づくりに軸足を移しています。会社も数名から約50名規模へ拡大。直感と根性のステージを卒業し、意思決定のテンプレート化、全社プロジェクトの統合管理、FMTのサプライチェーンという参入障壁(=競合に対する「堀」)の強化、そして創薬の枠を超えた新規事業——こうした「経営のOS刷新」に取り組んでいます。
■ 一緒に挑む仲間へ
MGTxのパーパスは、「マイクロバイオームサイエンスで、患者さんの願いを叶え続ける」。大切にしている5つのバリューは、患者さん・サイエンス・チーム尊重・誠実さ・好奇心です。
"便"という前例のない原材料から、難病に苦しむ方の「治りたい」に応える。泥臭さと科学の、その両方が求められる仕事です。未定義の領域を面白がって開拓できる方、難病医療を本気で変えたい方と、一緒に挑みたい。少しでも心が動いたら、ぜひ一度カジュアルにお話ししましょう。