ゲーム業界の中堅不足は能力の問題なのか|配置と育成の見えにくい壁
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ゲーム開発の現場では、「中堅が思ったほど育っていない」という声を聞くことがあります。人数はいるのに、リードを任せられる層が厚くならない。そんな悩みです。
ただ、ここで慎重に見ておきたいことがあります。リードになっていないことと、価値を出せていないことは同じではありません。現場を支える一級のスペシャリストは、どの組織にも不可欠です。
そのうえでなお、「次を担う層」が増えにくい状況があるなら、それは個人の問題というより、経験の積まれ方に偏りがあるのかもしれません。この記事では、その点を整理します。
若手に役割が回るのは期待だけではない
最近は、リードやそれに近い役割に若手が選ばれる場面があります。これは単純に中堅より若手が優れている、という話ではないはずです。
若手には勢いや学習速度があり、新しい役割を吸収しやすい面があります。一方で中堅には、すでに成果を出している専門領域があり、その強みを維持してほしいという期待が重なります。
その結果、未経験のリード候補を選ぶ場面で、若手に新しい機会が回りやすくなります。中堅に実力がないのではなく、別の役割期待が先に立っている状態です。
「長所」が固定化を生むことがある
中堅の難しさは、経験があるからこそ起きます。ある領域で安定して成果を出せる人ほど、そのポジションから動かしにくくなるからです。
現場から見ると、その配置は合理的です。納期と品質を守るには、最も確実に成果が出る形を選ぶ必要があります。強い人を強い場所に置く判断は、短期的にはかなっています。
ただ、この合理性が続くと、別の課題が出てきます。担当領域は深まっても、横断的に見て判断する経験が増えません。すると、経験年数は十分でも、リードに必要な幅が育ちにくくなります。
中堅が伸びていないというより、伸びる方向が固定化されている。現場では、そう見たほうが実態に近いことがあります。
分業の進行が幅を作りにくくする
ゲーム開発は、プロジェクトが大きくなるほど分業が進みます。役割が明確になること自体は悪いことではありません。品質を安定させやすくなりますし、専門性も高めやすくなります。
ただ、リードに必要なのは、担当範囲の深さだけではありません。他職種との接続、優先順位の調整、仕様変更時の影響の見立てなど、領域をまたいだ判断が求められます。
ところが、分業が細かくなるほど、そうした経験は自然には手に入りません。目の前の担当をきちんと回しているだけでは、次の役割に届きにくいことがあります。
これは誰かの怠慢ではなく、大規模化した開発体制が持ちやすい副作用です。
経験は自然発生しない
リード経験は、年数を重ねれば自動で身につくものではありません。小さく任せる場面があり、判断の背景を共有され、失敗してもやり直せる余白があって、はじめて積み上がります。
ところが、現場が常に短期最適で回っていると、その余白が作りにくくなります。任せたい気持ちはあっても、目の前の進行を優先せざるを得ない。そうした判断が積み重なると、次を担う層はなかなか増えません。
育成の巧拙というより、育成のための機会をどこまで設計できているか。
差が出やすいのは、その部分だと思います。
腐心すべきは「機会の配分」
このテーマを考えるとき、「中堅が弱いのか」「若手が強いのか」という見方をすると、議論が狭くなりやすいです。
実際には、誰にどんな役割期待が置かれ、誰にどんな経験機会が配られているかのほうが重要です。
専門性を深める人がいることは、組織にとって大きな強みです。一方で、将来のリード層を増やしたいなら、短期的な最適配置だけでは足りません。小さく任せる場面や、領域をまたぐ経験を意図して作る必要があります。
中堅が育っていないのではなく、育ち方が限定されている。そう捉えると、現場で起きていることが少し見えやすくなります。
業界全体で似た悩みが増えているなら、問われているのは個人の資質ではなく、機会の設計そのものなのだと考えています。
おわりに
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