2025年7月、宿場JAPANは新たなMVV(企業のミッション、ビジョン、バリュー)を発表しました。
この記事では、「なぜ今、新MVVを掲げるのか?」、その背景や込めた想いなどを宿場JAPAN代表の渡邊崇志さん(タカさん)が語っています。話の伴走者は、同社人事担当の二宮さん(ニノさん)、クリエイティブディレクターとして参画している水谷さん(ミズタニさん)です。
※この記事はリアルの場で行われた社内向けの新MVV研修の内容を再編集したものになります。社内向けにまとめたものではありますが、多くの人にも読んでほしいものになったので、社外の方々に向けて公開いたします。
宿場JAPANの新しいMVVが、なぜ今必要だったのか
ミズタニさん:
もともと宿場JAPANにはMVVはありました。今回のものは、それを再編集した感じです。ちょうど「ウェブサイトを新しくする」という話があり、「だったら、一回整理しませんか?」というのが話の出どころでした。
自分も今期、外部からクリエイティブディレクターとして関わっていく中で、この整理は最初にしてほしいと思っていました。会社として、宿泊事業体としての宿場JAPANから、コンサルティング業や旅行業など、次の萌芽も出てきているタイミングでしたので。
ニノさん:
会社としては、「なんかキレイなこと書いてるな」風な感じで終わっちゃうのも、もったいなあと思っていたところ、ミズタニさんとの話の中で、新MMV策定の背景などを、タカさんから直接聞ける場をやってみようとなって、今回に至りました。
まず、あらためて以下を書いておきます。
◎新ミッション:
小さな宿の感動から地域と世界をつなぎ、
人や文化に寛容な人材育成と多文化共生社会の実現を目指します。
◎新ビジョン:
品川から世界へ。旅人とローカル双方が持続し合える宿、まち、旅のカタチをつくります。
◎新バリュー:
・地域に根ざす:地元の信頼関係を築き、まちと共に育つ。地域の未来に還る仕組みを育てる
・違いを面白がる:文化や価値観の違いをポジティブに受け止める
・感動をつくる:偶発的で心揺さぶる交流を生む設計と仕掛けを行う
・すぐに動く:誰かが困ったときに〝すぐに動く。自分がやる精神。結果、自分の幸せにつながると信じる
・恩送りをする:自分たちが支えられた経験を、ほかの地域へと還元していく
ミズタニさん:
私はクリエイティブディレクターとして、宿場JAPANを始めさまざまな企業のお手伝いをしています。その際にいつも説明しているのは、ミッションとは「社会に対して、その企業がすべきこと、目指す社会」ということです。その会社が、今の社会をどうよくしていくか、その決意めいたもの。ビジョンは、ミッションを受けての会社の具体的な姿。バリューは、その会社で働く社員やスタッフの理想の姿、行動規範みたいなものと受け取ってもらえればと思います。
で、早速ですが、タカさんに質問です。あらためて、今回の新MMVを策定するに当たっての、想いの部分から伺ってもいいですか?
タカさん:
ミッションやビジョン、バリューって、創業当初の、少人数のときは全然気にしなくてもなんか回っていたんです。スポーツでもシングルスのプレイヤーが、そういうのをあまり言わないというか。ダブルスになったり、チームになったりした瞬間に、こういうものがないとまとまらないことが多くなるように思うんです。
宿場JAPANも、〝ひとり親方カンパニー〟〝○○ブラザーズ〟みたいな創業当時から、さらに輪が広がり、現在のような大所帯になって。そうなると、これはいいとか、わるいとかではなく、みんなが正しいと思ってそれぞれが判断していることが、うちの会社っぽいのかどうか、考えさせられることが結構多くなったりしてきた。
それについて、いろんな人と壁打ちのように話していたら、「きちんと言語化されたものがあったらわかりやすいんじゃない?」って。それが、このMVVにつながる原点かなとは思っています。
ミズタニさん:
とはいえ、ミッションはありましたよね?
タカさん:
そうそう、今回の新ミッションである「小さな宿の感動から地域と世界をつなぎ、人や文化に寛容な人材育成と多文化共生社会の実現を目指します」は、4〜5年前につくっていて、メンバーが数人のときはこの一言で回っていたのですが、宿の形態もゲストハウスから一棟貸しや運営受託が増えたり、トラベル事業が新設されたり、海外を含めた地域連携の新しいプロジェクトが増えたり。その過程で新しく優秀なメンバーも集まってきてくれたので、会社の過渡期を乗り越えるにあたり、新MVVを整理した感じですね。
ミズタニさん:
補足ですが、「小さな宿の感動から地域と世界をつなぎ、人や文化に寛容な人材育成と多文化共生社会の実現を目指します」は、以前はタカさんの想い、メッセージワードとして外向けにも使っていたものです。それを今回新しいミッションとして、改めて掲げたということになります。
目指しているのは〝多文化共生〟社会
ミズタニさん:
で、タカさん、改めてこのミッションの中で、思い入れのあるワードってどこになりますか?
タカさん:
実現したい世界観っていうか、景色みたいな話で説明しますね。
今の宿場JAPANのメンバーって、自分がその国のマイノリティとして海外を旅行した経験が、みんなちょっとずつあるんじゃないかなと思っています。
人から受け入れられたときの喜び、さらには地域で生活をして時間軸が長くなっていったときに、その地域やコミュニティの中で、なかよくなっていくみたいなこと。そういうのをなんと呼ぶんだろうっていうのを、15、6年ぐらい前に考えていて。当時は言葉があんまり出てこなくて。
で、たまたま僕の先生が多文化共生の父※と言われている田村太郎さんという方なんですが、「それこそまさに〝多文化共生〟というんだよ」と指摘されたんです。
※田村太郎さん
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事。阪神・淡路大震災で被災した外国人への情報提供を機に、1995年「多文化共生センター」を設立。自治体国際化協会参事等を経て、2007年にダイバーシティ研究所を設立。代表理事として企業や自治体による人の多様性配慮の推進に携わる。共著に『好きなまちで仕事を創る』『多文化共生キーワード事典』『自治体施策とユニバーサルデザイン』『阪神大震災と外国人』など。
https://diversityjapan.jp/soshiki/president-profile/
一般財団法人ダイバーシティ研究所のwebサイトより抜粋
日本でも同様のことは、普通に起こりますよね。外国人と日本人が深く交流するというか、もっと言えば、いろんな背景の、それこそLGBTQも含まれるだろうし。もしかしたら動物もそうかもしれないし、なんかそういう混じり合った世界観をいいなぁって思っていた。いや、思っていたというか、そういう社会を実現したいなと感じていたんです。
それは僕自身の、社会に出るまでの過程や、リアルな家庭の話、人生ともリンクしていて。困ってるときに、ホストファミリーだったり、友達だったり、いろんなコミュニティだったり、そういう助けてくれる人がいる社会ってすごく理想だなって。
人生を賭けて、これに取り組む、そういう多文化が共生する社会、地域こそ、自分が見たい景色なんだって思っています。
ミズタニさん:
その想いを持ってゲストハウス品川宿をオープンしたのが、たしか15、6年前ですもんね。
タカさん:
宿を始めた当初、「こんな楽しんでチャラチャラした店でいいのか」とか「お前は自分のことだけしか考えてない勘違い野郎だ」ってことを言ってくれる人がいて、それで、みんなの求心力になるような言葉を探したという記憶も思い出しました。
ミズタニさん:
あ、そんなこともあったんですね。でも、大事な指摘。ありがたいですね。
で、宿場のミッションなんですが、僕もいろんな企業、プロジェクトやプロダクトのアドバイザーなんかをやらせてもらっているのですが、結構、フワッとしたものが多い印象があるんです。でも、しょうがないんです。社会との接続という大局から考えるミッションは、どうしてもマイルドになりがち。でも、今回の宿場のそれは、非常にピリッとしているなって思います。
宿場JAPANの今後の事業展開を明確に示す「ビジョン」のこと
それでは、次はビジョンの話にいきましょう。
◎新ビジョン:
品川から世界へ。旅人とローカル双方が持続し合える宿、まち、旅のカタチをつくります。
「品川から世界へ」とか、「持続し合える」とか、「旅のカタチをつくります」とか、こちらにも気になるワードが入っていますね。
まずは、「品川から世界へ」の部分について、タカさんの言葉でご説明をお願いします。
タカさん:
15年もやっていると、もう自分から言葉が出なくて(笑)。訪れた人たちからの見た目の評価が、多分この言葉につながっていると思っています。
この10年、15年で、宿がちょっとずつ増えていき、宿泊事業自体はきちんと回って行き始めました。一方で、当初から、それこそスタッフが2、3人しかいない時代から、宿を開業したい人をサポートしたり、各地の地域プロジェクトや、お困りごとを手伝ったり、寄り添ったり、宿泊事業以外のこともやっていたんです。
それこそ、そんな姿を、ミズタニさんも13年くらい前に雑誌『ソトコト』の企画で取材してくれて。のちに須坂で「ゲストハウス蔵」を開業する山上万里奈さんも、その当時宿場JAPANで修業していましたね。
ミズタニさん:
「東京ゲストハウス案内」という企画でした。東京の〝最先端〟のゲストハウスを紹介するという企画で。ゲストハウス品川宿の紹介ページの見出しは「うちは、まちの宿泊部門!」。タカさんの言葉をそのまま使ったものですが、その視点、つまりは常に地域を向いた目は、今では当たり前のものかもしれませんが、当時はほかのゲストハウスにはないもので、ずっと気になっていた存在でした。
タカさん:
地域でゲストハウスを開業する可能性とその価値については、経験上よくわかっていました。また、開業支援に加えて、日本の地域のお困りごとの解決、地域づくりのお手伝いなども、この10年ぐらい続けていて。
さらに、コロナも契機。いろんな人にインタビューをしたりとか、ほかの地域を見て回ったりする中で、海外でも同じようなことを思って、活動されている地域があることを知ったんです。
ミズタニさん:
韓国の大邱ですね。
タカさん:
はい、アジアのゲストハウスを軸にした、一つの大きなつながりができていったんです。そこからですね、視座が変わったのは。宿場JAPANという日本のくくりでもちっちゃいなって思うようになり、世界の地域と協力する、世界へ発信する意識を持った、この言葉「品川から世界へ」になりました。
宿場JAPAN主催・国内外の地域づくりプレイヤーが集う「LOCAL CONNECT」第2回 開催報告レポート公開
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000097061.html
ミズタニさん:
「旅人とローカル双方が持続し合える宿、まち、旅のカタチをつくります。」も、まじめかつ、キャッチーな言葉だと感じます。これは、今後の事業展開が多分に含まれたものという理解でいいですか?
タカさん:
そうですね。足し算型で〝やるべくしてやった〟っていうのは、宿に関してはそうなんですけど、その次の展開は、勝手にこう導かれるように〝困っている人や地域がいて、それを解決していったらみんなが喜んでくれる〟とか、そういうのを模索してつくってきた感じがあります。なので「カタチ」って言葉がすごく気に入っています。
ミズタニさん:
タカさんの着目、そこ(カタチ)でしたか。もうちょっと補足説明お願いします。
タカさん:
もともと無形のものなんだけど、それをサービスにしたり、商品にしたり、時にはボランティアしたり。それをカタチっていう言葉で表現したんです。
うちは、コミュニティづくりとか、(関わる)場づくりみたいなものを、トレンドに従ってつくってきてはいません。どっちかというと、本質的なことを誰にも知られずに、やり続けてきたと思うんです。そろそろそれを、事業というカタチに落とし込んで、関係性のある地域と一緒に、未来のために前向きに行動するべきタイミングかなと思っています。
ミズタニさん:
品川の中でも、さまざまなタイプの宿ができていって事業が深まっているし、開業支援や地域づくりの仕事も全国に広がる一方、アジア地域と連携したローカルコネクトだったり、宿場トラベルが今後進めていくであろう旅行事業など、さまざまなものをMVVは内包しています。このビジョンを掲げた宿場JAPANがうまく回っていくと、タカさんが先ほどお話した多文化共生社会の実現に、大きく寄与するのかなと感じています。
◎新バリュー:
・地域に根ざす:地元の信頼関係を築き、まちと共に育つ。地域の未来に還る仕組みを育てる
・違いを面白がる:文化や価値観の違いをポジティブに受け止める
・感動をつくる:偶発的で心揺さぶる交流を生む設計と仕掛けを行う
・すぐに動く:誰かが困ったときに〝すぐに動く。自分がやる精神。結果、自分の幸せにつながると信じる
・恩送りをする:自分たちが支えられた経験を、ほかの地域へと還元していく
タカさん:
これは、2泊3日の合宿みたいなものをして、大きく時間を使ってまとめたものがベースになっています。やっぱり成長するときの、なんか違和感みたいなもの含め、それらを一回全部出して、ぎゅーっと濃縮したものが、これらの言葉になっています。
ミズタニさん:
再度になりますが、バリューとは、その会社で働く社員やスタッフの理想の姿、行動規範みたいなもの、です。つまりは、このバリューで行動していくと、ミッションやビジョンを達成することができる、とも理解できます。
ここに落ち着くまで、もっとありましたよね、バリュー。
タカさん:
あまり多すぎるにも嫌いだし、覚えられないんで、削って、まとめてって感じです。でも、宿場を言い表している感、あると思います。
***
では新しく掲げたMVVはいったいどのように事業運営や、社員や外部メンバーに影響していくのか? 後編では、社員から社長・渡邊崇志に対して投げかけられた率直な質問に応える形でお届けします!