※この記事は【前編・後編】の後編です。
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SARUCREWのTECHチームに、「ツール」と「AI」は違う、と明確に区別するエンジニアがいる。「使う側が合わせているAIは、うまくいかない気がします」と語る園田さん。
2段階認証を突破するボットを作り、社内のAIエージェントを全部Slackに移した。彼が作っているものと、その先にある思想を聞いた。
■ 2段階認証を、botで突破した
前編で語った動画複製ツールの他に、園田さんが「これは"神ツール"ですね」と自ら呼ぶものがある。広告再審査ボットだ。
きっかけは、現場の運用者からの相談だった。
Googleに限らず、WEB広告は審査に落ちることが稀によくある。
もちろん落ちたら手動で再申請しなければならない。
しかも最悪なのが、落ちたことに気づくにはGoogleの管理画面を自分で確認しに行く必要があることだ。
気づかなければ、その間の収益はゼロ。
広告代理店にとって、審査落ちの放置は直接的な機会損失になる。
運用者にとっては、昼も夜も、休みの日も…常に頭の片隅にある不安の種であった。
そんな不安を解消するために、園田さんが作ったのはこういうものだ。
◆ 広告が審査落ちすると、Slackに通知が飛ぶ。落ちた理由も表示される。
◆ 運用者は「Yes」か「No」のボタンを押すだけ。
◆「Yes」を押すと、別サーバーでGoogleが立ち上がり、ボットが自動で再審査を申請する。
土日でも、外出中でも、携帯から指ひとつで操作完了できる。
これは運用者であれば、どれだけ喜ばしいことが説明が不要であろう。
「技術的に一番難しかったのは、Googleの2段階認証の突破でした。
人間がログインしないとbanされる仕組みをどう超えるか。
1ヶ月近く悩んで、PlaywrightでGoogle Adsの画面を自動操作し、KasmVNCで初回ログインと2段階認証をクリアする仕組みを作りました。まるで人間が操作しているかのように動く。」
「機会損失がゼロになるのと、精神衛生上もいいですよね。
大丈夫だったかなって毎回確認する時間がなくなったので」
と、園田さんは自慢げに語ってくれた。
──これ、商品として売れるんじゃないですか。
「売れると思いますけどね。ボスともそういう話をしてます(笑)」
── とはいえ、今は最後に人間が「Yes」「No」を判断していますよね。これをAI自身が判断するようになる未来はありますか。
「そこまでいきたいですね。
データを貯めて、この広告は再審査すれば通る、これは修正が必要、っていう判断をAIがやる。
ただ、責任の所在は考えなきゃいけない。
失敗したら誰が責任取るのか。そこは、これを作った俺が持つよ、ぐらいの覚悟でやるしかないですよね」
■「ツール」と「AI」は、そもそも違う
園田さんと話していると、「ツール」と「AI」を明確に使い分けていることに気づく。
「最近よくAI導入って単語を聞きますが、AIを使ってツールまがいのことをしてるケースが多いんですよ。
例えば、計算を速く出す、レポートをまとめる、会計ソフトと連携する…
それはあくまで"ツール"であって、"AI"じゃない。」
──何が違うんですか。
「意思決定を入れられるかどうかです。
売り上げのデータをダッシュボードにして見やすくする、これはツール。
でも、そのデータからどの広告が良かったか、次にどのクリエイティブを試すべきかをAIが出力する。これはツールを超えた先にあるもの」
園田さんの中では、今作っている再審査ボットや複製ツールは、まだ「ツール」の域にある。
「ツールはツールとして大事なんですけど、僕が考えるAIっていうのは、その先です。
今は人間が判断しているところを、データを貯めて、AIが考えて答えを出す。
そこまでいって本当のAIだなって」
園田さんの中では、その先の姿は"インフラ"に近い。
「AIってインフラだと思ってるんですよ、僕は。点と点をつなげるシステム。エージェントが1個の作業を終わらせて、さらに別のツールに引き継いで、作業を一本化する。そこまでいってインフラだなって」
──でも、それって怖くないですか。AIに判断を任せるのは。
「怖いですよ。責任の所在の話もある。
でも、できることはスクラップ&ビルドでどんどん回していくしかない。
先ほども話した通り、本当にエラーになるならやめればいいんです。
責任ある仕事は慎重にやるけど、試せることはとりあえず数を打つ。
今はまだ誰も正解を知らないので、試すことの中に正解があると思ってます。」
■ なぜSlackに移したのか
SARUCREWには複数のAIエージェントがいる。
広告運用を自動化するGodrillaをはじめ、個別の業務に特化したエージェントたち。
園田さんはこれらをすべてSlackに移した。
理由は単純明快だった。
「Claude CodeとかCLIって、パソコンのターミナル上で叩かないと結果が返ってこなかったんですよ。だからエンジニアしか触らない。
じゃあChatGPTをみんなに配ってみようって出したんですけど、使いこなす人と、ちょっと触って終わる人に分かれたんですよ。」
「ちゃんと教えれば使えるかもしれないけど、そこまでのコストも時間も、全員にはかけられないので。」
──それをどう解決したんですか。
「ChatGPTとかを個人のパソコンで使うと、他の人が何をどう指示して、どんな結果を得ているか見えないんですよ。指示がバラバラになる。
A君とB君とC君、同じ業務をしていても、みんな指示の出し方や内容が違う。
指示が違えば出力も違うので、上手い人の使い方を誰も学べない。」
「だからSlackに移せば、全員がやり取りを見られる。
AIへの指示が上手い人のやり方を、そのまま真似できる。一気に広がるんです。」
「さらに、みんなが自然言語でAIを教育できる。AIへのOJTですね(笑)
エンジニアが作って"はいどうぞ"で終わりじゃなくて、現場の人が、自分でAIを育てていく。
そうすると、その会社の業務に100%特化した… いや、100%以上のAIエージェントが完成する。
外から持ってきたAIツールでは、こうはならないんです。
自社で0から作り、現場が育てるから、「浸透」するんです。」
──これこそがAI導入の正しい形だと思っていますか。
「はい。今のAIプロダクトって、使う側(人間)が合わせている状態なんです。
1〜2年後に答え合わせになると思うんですけど、これはあんまり上手くいかない気がします。」
「業務って会社ごとに違うので、誰かが教えて、それを完璧にこなすものを作らないと、本当に求めている事はできない。
自社開発してないと出来ないよねっていうのは、作ったからこそ思いますね。」
■ 意思決定できるAIを作る
園田さんに今後のビジョンを聞いた。
「AI推進チームのメンバーとよく話すのは、革命を起こそうということ。
人がやらなくてもいい仕事は全部、ツールかAIにやらせる。
各部署に専用AI(agent)を設置して、各個人にもAIを導入して、思考の手助けまで広げきるんです。」
──その先は?
「意思決定までできるAIを作ります。
今はまだツールの域を超えていない部分もあるけど、データを貯めて、判断までAIに任せるところまで持っていきたい。
そこから更に、社内で新しい事業や部署を立ち上げるところまでいきたいですね!」
──求めている仲間像は?
「技術があるだけじゃなくて、"これお金になるな"って想像できる人。
SARUCREWは開発会社じゃなくて事業会社なんで、作ったものが直接利益に繋がる。
そこに楽しさを感じられる人は、合うと思います。」
──プログラミング技術は必須ですか?
「もちろんフルスタックエンジニアであれば嬉しいですけど…
実は、プログラミングの知識がなくてもいいポジションもあるんです。
業務を紐解いて、定義して、エージェントが実行できる状態にする。
点を繋いで線として理解する業務ですね。
これはプログラミングじゃなくて、業務の理解と論理的思考。
営業が得意でAIに興味があるとか、運用からAIで目覚めたタイプとか。
そういう人が各部署に一人いるかどうかで、組織のAI導入のスピードが全然違ってくるんです。
なので、そういう人材も増やしていきたいですね。」
※ 過去記事にも登場したシオンさんも、そのような役割を担っている。
■ 編集後記
園田さんは何度もインタビュー中に「スクラップ&ビルド」という言葉を使った。
作って、壊して、また作る。その繰り返しの中で、組織にAIが浸透していく。
2段階認証を突破するボットも、Slackに全部移した理由も、根っこは同じだ。
「使う側が合わせているAI」への違和感。使う人ではなく、AIが人間に合わせる。そのために自分で作る。
園田さんは、SARUCREWのことを「おもろ会社」と呼ぶ。
「みんな個性的なんで」と笑った後、
「挑戦する人を馬鹿にしない、後押ししてくれる会社です」と続けた。
業界が「既存のAIツールをどう組み合わせるか」で盛り上がっている今、園田さんの目線は明らかにその先を見ている。
AIが面白いのか、SARUCREWが面白いのか。たぶん、両方なのかもしれない。
[前編] 経営者だった僕が、8時間の仕事をボタン1つにした話
前編は、ブロックチェーンゲーム会社の経営者だった園田さんが、広告代理店にジョインし、「作ったのに使われなかった」経験を経て、今の仕事観に辿り着くまでを追った記事です。
▶ [前編を読む](2026年7月26日 10:00以降 公開予定)