「本当に売っているのは、時間と感情だ」——テーマパークで気づいた原点から、MUSICOは生まれた【前編】
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「本当に売っているのは、時間と感情だ」——テーマパークで気づいた原点から、MUSICOは生まれた【前編】
外資系金融機関のオフィスに、世界水準のカフェ・レストラン・VIPダイニングを届ける会社がある。株式会社MUSICO。創業わずか4年で、グローバルトップクラスの企業群をクライアントに持つこのスタートアップを率いるのが、代表取締役・瀬本頼一だ。
「食ビジネス」と聞けば、飲食店や給食を思い浮かべるかもしれない。だが瀬本が目指しているのは、そのずっと先にある世界だ。前編では、創業の原点とMUSICOが解こうとする問いに迫る。
テーマパークで7年、気づいたこと
── 創業のきっかけを教えてください。
テーマパークで7年間働いて気づいたんですが、人の幸せって「食」とか「サービス」そのものじゃなくて、それが提供される「場」「時間」「空気」で決まるんですよね。
5店舗の店長代理として300名のアルバイトを束ねながら、過去最高売上を更新した時がありました。でも、自分が一番嬉しかったのは数字じゃなく、ゲストが「ここで食事した時間が一番楽しかった」と言ってくれた瞬間だったんです。そこで確信しました。食は体験の入口にすぎなくて、本当に売っているのは「時間」「空間」「感情」なんだと。
── 退職を決意したのはどのタイミングでしたか?
最後の3年間は、新規事業のアグリ運営部に異動して、3つの農園と総売上2億の事業を統括していました。サプライサイドからオペレーションを見られるようになって、「仕入の上流から飲食提供の現場まで、一気通貫で食を扱える人材は意外と少ない」と気づいた。だったら自分でやろうと。
創業で解きたい問題は明確でした。「幸福と感じる時間を、仕組みで増やす」。属人的なホスピタリティではなく、仕組みで再現可能にする。これがMUSICOの原点です。
立教大学からオリエンタルランドへ、そして独立
── 起業前のキャリアをもう少し詳しく聞かせてください。
立教大学社会学部メディア社会学科を出て、新卒でオリエンタルランドに入りました。「人と社会の関係」を学んだ大学の延長で、ホスピタリティの世界基準が体感できる場所を選んだんです。
テーマパークでは、7年間で飲食5店舗の店長代理を経験しました。IT戦略部と協業してDX推進にも関わって、ここで「現場 × 仕組み × データ」の三位一体を学んだことが今に直結しています。
── 疑問に感じていたことはありましたか?
これだけ高品質なオペレーションが社内で実現できているのに、それを他の領域に転用する仕組みが社会にはまだ少ない、ということです。「だったらそれを商品化しよう」と考えたのが、起業の直接のきっかけですね。テーマパークで身についた「品質に妥協しない文化」と「現場の重要性」は、今もMUSICOのカルチャーの根幹です。
「幸福な時間を増やす」——MUSICOのビジョン
── 事業の社会的な意義について教えてください。
ロジックはシンプルです。AIや自動化で人間の作業時間が減っていく。余った時間を、人は幸福な時間に充てたいと考える。幸福な時間の土台は心身の健康で、健康と切り離せないのが「食」。だからMUSICOは食を入口に、幸福な時間を提供します。
5年後の社会では、企業や個人がどこにお金と時間を使うかの基準が大きく変わると思っています。価格ではなく「体験の質」「健康への寄与」「時間の濃度」で意思決定されるようになる。私たちはそこの最前線にいたい。
── ビジネスモデルについては?
主力は4本柱です。企業内飲食運営(Contract Food Service)、高級ケータリング(Catering)、オペレーション受託(Hospitality BPO)、そしてオフィス開発・飲食設計支援。
競合との一番の違いは、「ハード(内装・設備設計)」と「ソフト(運営・人材)」を一気通貫でやれること。たとえば外資系金融機関の大型案件では、オフィス移転コンサルからカフェ・レストラン・VIPダイニング・イベント運営までワンストップで提供しています。下請けで終わらず、自社のブランドとアセットを残す形に持ち込む——これが構造的な強みです。
創業期、「絶望と救い」の繰り返し
── 創業初期の苦労を聞かせてください。
正直、苦労していないことの方が少ないですが(笑)。特に挙げるなら3つです。
まず資金繰り。食ビジネスは原価率が高く、キャッシュアウトが先行します。複数の金融機関と交渉しながら、事業の伸びと借入のバランスを取り続ける。地味に一番ハードでした。
次に人材。「人が全て」と言いつつ、属人化はNGという矛盾をどう仕組みで解くか。最初は採用・育成・定着のすべてを自分で見ていたので、自分のキャパが律速になっていました。
3つ目がクライアントの要求水準。外資金融の品質基準は本当にシビアで、最初は何度も詰められました。でも、ここで鍛えられたことが今の競争力になっています。
── 「絶望した瞬間」と「救われた瞬間」はありましたか?
表裏一体ですね。資金繰りや人材の課題で追い詰められた局面が何度もありましたが、その度に既存クライアントからの継続発注や、信頼してくれる取引先からの応援で乗り越えてきました。一人で背負っていた問題が、関係性の中で解けていく——この経験は、今のチーム文化の原点になっています。
── ターニングポイントはどこでしたか?
創業2年目に、外資系金融機関の大型オフィス移転案件を獲得した時です。最初は食空間設計のコンサルとして入り、その半年後にはカフェ・レストラン・マイクロマーケット・VIPダイニング・イベント運営の全運営を任せていただいた。これでハード+ソフト一気通貫の実績が証明され、その後も世界トップクラスの企業との取引が次々と決まっていく流れができました。
後編では、MUSICOのチームづくり・経営哲学、そして5年後のビジョンについて語ってもらいます。