「それ、そこまでやる意味がありますか?」
コンサルティングの現場にいると、そんな問いに出会うことがあります。
資料の体裁を異常なまでに、最後まで整えきること。会議の前に、反対しそうな人へ先に声をかけること。依頼されていないけれど、相手が本当に困っている論点まで踏み込んで考えること。短期的に見れば、どれも“割に合わない”行動かもしれません。
でも、これからのコンサルタントに本当に必要なのは、むしろそういう行動だと私たちは考えています。
なぜなら、資料作成や簡単な集計・分析は、もうAIで十分にこなせる時代だからです。
もちろん、論点整理やファクトの整理は今でも重要です。ただ、それ自体は、これから急速に代替されていきます。人より速くスライドをつくれること、人より正確に集計できること、それだけでは価値になりにくくなる。
では、これからのコンサルタントに求められる価値とは何か。
それは、ものごとを前に進めるために、人の感情を動かせることです。
どれだけ正しい戦略でも、誰も腹落ちしていなければ動きません。
どれだけきれいな分析でも、現場が「やろう」と思えなければ実行されません。
どれだけ合理的でも、意思決定者が不安を拭えなければ前には進まない。
コンサルタントの仕事は、正解を出すことだけではありません。
関係者の迷いをほぐし、対立をほどき、腹落ちを生み、実際に一歩を踏み出してもらうこと。つまり、人の感情を動かし、組織を動かすことです。
そして本来、優秀なコンサルタントと呼ばれていた人たちは、それができる人でした。
ただ、いつの間にか、業界の一部ではそこが薄れてしまったように思います。
本来は、経営や事業の重要課題に向き合い、意思決定と実行を前に進める存在だったはずが、気づけば「業務代替」に寄ってしまった。きれいな資料をつくる。言われた範囲で分析する。足りないリソースを埋める。もちろん、そうした役割自体を否定するつもりはありません。実際、現場では必要なことも多い。
でも、それがコンサルティングの中心になった瞬間、仕事の誇りは少しずつ失われていきます。
“何をつくったか”はあるのに、“何を動かしたか”が残らないからです。
私たちが目指したいのは、そこではありません。
コンサルタントが価値を出すのは、スライドの枚数でも、稼働時間でもない。
誰かの認識を変え、誰かの決断を後押しし、組織の前進を生むことです。
そのためには、ロジックだけでは足りません。信頼が要ります。
そして信頼は、短期的な損得勘定だけでは手に入りません。
この人は、自分の評価のためではなく、本当に前に進めようとしている。
都合が悪いことも、必要ならちゃんと言ってくれる。
目立つ仕事だけではなく、見えないところでもちゃんと支えてくれる。
そういう積み重ねがあって、初めて人は心を開きます。
だからコンサルこそ、少し“割に合わないこと”をやる必要があるのだと思います。
たとえば、会議の場で勝つためではなく、会議の前に相手の懸念を丁寧に聞いておくこと。
たとえば、依頼された分析結果だけを出すのではなく、「この結論だと現場は動かないのではないか」と一歩先まで考えること。
たとえば、自分の担当範囲を少し越えてでも、プロジェクト全体がうまく進むようにボールを拾うこと。
たとえば、すぐに売上につながらなくても、相手にとって本当に必要なことを率直に伝えること。
どれも、短期的には非効率に見えるかもしれません。
評価されないこともあるかもしれません。
でも、そうした一つひとつが、後から効いてきます。
信頼は、派手に獲得するものではありません。
“この人となら進められる”と思ってもらえる小さな蓄積です。
そしてその信頼こそが、感情を動かし、意思決定を動かし、結果としてプロジェクトを前に進める力になります。
一方で、ここで誤解してほしくないことがあります。
それは、「割に合わないことをやる」と「無理をする」は、まったく別だということです。
無理は、続きません。
気合いだけで乗り切る働き方は、どこかで必ず歪みます。
自分をすり減らしながら誰かに価値を出し続けることはできないし、長い目で見れば、それはプロフェッショナルな姿勢でもありません。
大事なのは、背伸びし続けることではなく、意味のあるひと手間を前向きに積み重ねること。
自分で納得して、自分の意思でやること。
どうせやるなら、楽しんでやることです。
相手の期待を少し超えることを面白がれる。
場の空気が変わる瞬間に手応えを感じられる。
難しい関係者同士がつながったときに、嬉しいと思える。
そういう感覚を持てる人は、AIがどれだけ進化しても、代替されません。
むしろ、これからますます価値が高まるはずです。
AIによって、コンサルティングの仕事は確実に変わります。
でもそれは、コンサルタントが不要になるという話ではありません。
“業務代替としてのコンサル”が薄れていき、“人と組織を前に進めるコンサル”の価値が、よりくっきり見えるようになるということだと思っています。
だから私たちは、効率だけでは測れない仕事を大事にしたい。
すぐに回収できる損得だけで動くのではなく、長い目線で信頼をつくれる人と働きたい。
そして、コンサルタントという仕事に、もう一度ちゃんと誇りを持てる場所でありたいと考えています。
割に合わないことを、あえてやる。
でも、無理はしない。
どうせなら、楽しんでやる。
それが、これからの時代に残るコンサルタントの条件だと、私たちは信じています。