「AIを導入したい」「サーバーレスで何かできないか」。
こうした相談を受けたとき、Ragate代表の益子竜与志が必ず最初に確認することがあります。何を解決したいのか。誰の、どんな困りごとを解消したいのか。
2025年10月28日のブログは、この確認を飛ばすと何が起きるかという話から始まります。技術を起点にプロジェクトを始めると、「技術は導入したけれど現場では使われていない」「システムは完成したが期待した効果が出ない」という結果に陥りやすい、と。
報告書1時間が15分になった理由
記事には、製造業での具体例が挙げられています。
現場の作業員が、手書きの報告書作成に1時間を要していた。この課題を起点に、RAGを統合したAIによる文章生成システムを構築した結果、報告書の作成時間は15分に短縮され、現場の満足度が大きく向上しました。
益子はこの成功要因を、はっきり言い切っています。最新技術を使ったことではない。具体的な課題を正確に捉え、それを解決する手段として適切な技術を選択したことにある、と。
同じ技術を、課題の特定なしに導入していたら、結果は違っていたはずです。
As-Is から始める
Ragateのプロジェクトは、必ず現状分析(As-Is)から始まります。
これはGLOBIS経営大学院で学んだフレームワークだが、実務で何度も実践する中でその重要性を痛感している、と本人は書いています。現状分析では「誰が」「どのような状況で」「何に困っているのか」を具体的に把握する。そのうえで、課題が解決された未来像(To-Be)を描く。
このギャップを埋めるプロセスの中で、初めて技術の出番が生まれます。順番が逆になることはありません。
「目的なきPoC」という無駄遣い
生成AIの領域では、この順番の逆転が特に起きやすい。2025年10月18日のブログで、益子はそれを「目的なきPoCという名の無駄遣い」と呼んでいます。
「とりあえずやってみよう」というスタンスでPoCを始める企業が多い。本来PoCは本番環境での成功を見据えた検証プロセスであるべきですが、実際には「AIを使っている」という既成事実づくりになってしまっているケースが散見される、という指摘です。
成功するPoCには、必ず明確な成功指標があります。「問い合わせ対応時間を30%削減する」「ドキュメント作成工数を50%減らす」といった具体的な数値目標です。失敗するPoCは、「AIを使って何かできないか探す」という曖昧な出発点から始まっています。
業界側の責任にも触れている
この記事が踏み込んでいるのは、そうしたPoCを推進・助長しているのがSI企業だという点です。
内製化の波や競争の激化で案件獲得が難しくなっている背景は理解できる。それでも、顧客の成功を度外視した提案は、長期的に業界全体の信頼を損なう行為である、と書かれています。技術的に高度なものを作っても、顧客のビジネス課題を解決しなければ、単なる技術の押し売りでしかない。
Ragateはまず顧客の現状分析から始める。そして、場合によっては「今は生成AIを使わない方が良い」という提案もする。それが本当の意味での顧客支援である、というのが本人の立場です。
売りたいものがあるときに「今は要りません」と言えるかどうかは、評価制度の設計とも関係します。Ragateが「顧客から次の相談を任されること」を評価軸に置いているのは、単発の受注より継続の信頼を上に置いているからです。
フライホイールを一緒に回す
理想的なSI企業の役割として挙げられているのは、フライホイール的な成長サイクルを顧客と共につくることでした。
適切な技術導入によって顧客のコストを削減する。生まれた余力を、新たなイノベーションに投資してもらう。そのイノベーションがさらなる成長を生み、次の投資余力をつくる。この循環に入れれば、支援する側とされる側という関係を超えられます。
記事には、ある顧客から「本当にビジネスを理解してくれている」と評価された話も書かれています。技術力を褒められることも嬉しいが、ビジネス理解を評価されることのほうがはるかに価値がある、と。
そして、格闘技で学んだこととして、相手と向き合うときは常に真剣勝負だ、という一文が続きます。ビジネスも同じで、顧客と真剣に向き合い、本気で成功を願うからこそ、時には耳の痛いことも言わなければならない。
技術の可能性を知っているから言える
誤解を避けるために、益子は「技術ファーストではダメだ」という議論が技術の否定ではないと明示しています。
むしろ、最新技術の可能性を深く理解しているからこそ、それを適切に活用できる。RagateがAWS Top EngineersやRising Star Partner of the Yearを受賞できたのは、サーバーレス技術の黎明期から深く関わり、その可能性を追求してきたからです。
技術を知らなければ、課題解決の引き出しは限られる。技術だけを見ていても、本当に解決すべき課題は見えてこない。両方のバランスが大切である、というのが結論です。
「技術の前に、人がいる」。プロジェクトの最初から最後まで、ユーザーの声を聞き続けること。イノベーションは技術から生まれるのではなく、ユーザーの課題や夢から生まれる。技術はその手段に過ぎない、と記事は結ばれています。