こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
僕は、50名から4000名まで成長した企業の人事役員として、各ステージの人事組織戦略の遂行に奔走してきました。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」と題して、自身の経験をもとに、
▼人事トップになるために実行したこと
▼意識していたマインド
▼経営や現場とのコミュニケーションのtips
などをお伝えしていきます。僕の経歴詳細は、以下の記事からご確認ください。
https://cloudy-supernova-846.notion.site/Profile-ceda2eb306f74cc682f7565e3550f462
近年、新卒採用における就職活動のスタート時期がどんどん早まっています。今の時期になると、26卒の採用はほぼ落ち着き、すでに27卒向けの動きに入っている企業も少なくありません。中には、さらにその先を見据えて採用活動を始めている企業もあります。
一方で、経団連に加盟している大手企業は、「大学3年生の3月に情報解禁」「大学4年生の6月から選考開始」といったルールに則って採用を進めます。その結果、早期に内定を出した企業は、辞退が出るのではと悩み、今から採用活動に取り組む企業は、大手と採用活動がバッティングすることになってしまうんです。
実際、僕のもとにも、新卒採用の担当者から「内定承諾後はどんなフォローが必要か」「大手ではなく自社を選んでもらうにはどうすべきか」といった相談が寄せられています。
そこで今回は、こうした質問に対する具体的な対処法と、担当者が持つべきマインドを整理してみたいと思います。
目次
「タイプ×要因×外部環境」を理解する
学生のタイプを見極める
ピープルリーディングの価値
学生だからこそ見える「素のタイプ」
要因を的確に把握する
企業理解のステップ
やりがいだけでは選ばれない現実
入社前に生じる“マリッジブルー”
“Love is blind”状態は危険
外部環境を諦めない
それでも学生の心は変わる
「仕方ない」で終わらせないために
インスタントではつくれない信頼関係
まとめ:テクニックの前に意識を変える
「タイプ×要因×外部環境」を理解する
前提として、内定を出した後であっても、あるいはまだ採用活動の途中段階であっても、重要視すべきことは変わりません。それは、「いかにして自社に対する志望度を高めるか」という一点です。
そのために必要になるのが、「タイプ×要因×外部環境」というフレームです。学生一人ひとりのソーシャルタイプと、重視する個別要因、そして、置かれている外部環境を掛け合わせて捉えることで、採用担当者として何をすべきかが見えやすくなります。
ここからは、それぞれの要素について順に見ていきます。
学生のタイプを見極める
ここでいう「タイプ」とは、いわゆるソーシャルタイプのことを指します。さまざまな診断方法がありますが、僕が推奨しているのは、人の性格・特性や行動パターンを「主導型」「感化型」「慎重型」「安定型」の4つに分類する「DiSC診断」です。
この4分類を理解したうえで、相手の表情や発する言葉、話すペース、さらには見た目(髪型や服装)などから、「この学生はどのタイプに近いのか」を仮説立てできるようになる。
こうしたピープルリーディングの力は、採用担当者にとって必須のスキルだと考えています。
DiSC診断やピープルリーディングについては、下記の記事で詳しく解説していますので、興味のある方はぜひ併せてご覧ください。
▼採用成功に繋げるためのピープルリーディング&DiSC診断活用法~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:15~
ピープルリーディングの価値
ピープルリーディングができるようになると、早ければ話し始めて1分ほどで、相手がどのタイプに属するかを予想できるようになります。少し判断が難しい人でも、5分ほど会話をすれば、ある程度の傾向は見えてくるはずです。
このスキルを選考中に使えるかどうかで、学生へのアプローチは大きく変わります。「100人いれば100通りの対応ができる」という天才肌の人であれば別ですが、現実的にはなかなか難しいですよね。だからこそ、大雑把でもいいので、まずは4つのタイプに分類し、その人の特性やキャラクターに合わせた関わり方を意識することが重要になります。
学生のタイプを見誤ったままコミュニケーションを重ねても、志望度はなかなか上がりません。一方で、タイプに合った関わり方ができれば、選考中の信頼関係づくりはもちろん、内定後のフォローや意思決定の後押しもしやすくなります。
学生だからこそ見える「素のタイプ」
人は社会性の高い生き物なので、社会人としての経験を重ねるにつれて、自分本来のキャラクターである「ナチュラルスタイル」と、その場の空気や役割に合わせて振る舞う「ワークスタイル」を使い分けるようになります。
特に、ヒューマンスキルが高い人ほど、相手や状況に応じて柔軟に振る舞うことができるため、場面ごとに違う印象を与えることも珍しくありません。その結果、ピープルリーディングによって「その人本来のタイプ」を見極める難易度は、どうしても高くなります。
一方で、学生はまだ社会に出ていない分、こうした切り替えが少なく、ピュアな「ナチュラルスタイル」が表に出ることが多いです。だからこそ、新卒採用の場面では、よりピープルリーディングの効果を発揮しやすくなります。
要因を的確に把握する
「要因」の話に入る前に「採用の4P」について説明しておきます。これは、マーケティングで使われる4Pを採用に置き換えた考え方で、次の4つで構成されています。
● Philosophy(フィロソフィー)
会社が目指しているビジョンや、大切にしている価値観、事業の根幹にある考え方
● Profession(プロフェッション)
事業内容や仕事内容、その会社でどんな経験が積めるのか
● People(ピープル)
社風や文化、どんな人たちが働いているのかという人間関係の側面
● Privilege(プリビレッジ)
報酬や制度、福利厚生などの待遇面
これを用いる目的は、自社に対する学生の興味を最大限まで引き上げることです。自社の魅力を雑多に伝えるのではなく、この4つの観点それぞれに分解して整理して伝えることで、学生は「この会社は何を大切にしているのか」「自分はこの会社で働きたいか」と考えられるようになります。
企業理解のステップ
4Pに対する学生の認識は、
- 知っている
- 理解している
- 興味がある
という3つのステップがあります。
そして、3段階目の「興味」がMAXの状態になったときに向き合うべきことが、学生が意思決定にあたって何を重視するか(=要因)です。要因は、報酬や制度などの「衛生要因」と、やりがいや成長実感などの「動機づけ要因」に分かれます。
この二つは並列の関係ではなく、ベースに衛生要因があり、その上に動機づけ要因が乗るという構造です。つまり、どれだけ動機づけ要因として「入社したい理由」が揃っていたとしても、衛生要因が満たされていなければ、その会社が選ばれることはありません。
極端な話ですが、「めちゃくちゃやりがいがある」と感じても、「給料が低すぎて生活できない」企業は、選びたくても選べないんです。
やりがいだけでは選ばれない現実
ところが、スタートアップの中には、大手企業と比べて明らかに報酬水準が低いにもかかわらず、「やりがい」だけで選んでもらおうとするケースも少なくありません。
もちろん、大手企業との間に一定の報酬差が生じるのは自然なことです。最低限クリアすべきラインを満たしているのであれば、それは一つの選択肢になり得ます。しかし、そのラインを下回ってしまうと、どれだけ魅力的なビジョンや仕事を語っても、候補者に選んでもらうことはできません。
さらに重要なのは、衛生要因としての最低ラインや、動機づけ要因としての「やりがい」は、人によって大きく異なるという点です。だからこそ、「自社としては十分だろう」という感覚ではなく、一人ひとりの候補者に対して、どこが最低ラインなのか、何が意思決定のポイントになるのかを丁寧に確認するとともに、“仕留める”つもりで魅力をアピールしていくことが大切になります。
入社前に生じる“マリッジブルー”
特に、内定者フォローのフェーズでは、より細やかな確認が欠かせません。採用プロセスはよく恋愛に例えられますが、内定を出した後のフェーズは、まさに「マリッジブルー」と同じ状態だからです。
たとえば、付き合っている段階では、「一緒にいて楽しいし、優しいから安心」「正社員だし、とりあえず大丈夫だろう」といった、比較的抽象的でポジティブな判断が中心になります。
ところが、いざ結婚を意識し始めると、「この人、こういう余計な一言をずっと言うのかな」「将来、家族が増えたときに収入は足りるだろうか」といったように、より具体的で現実的な不安が顔を出してきます。
これは、学生の意思決定プロセスもまったく同じです。内定を承諾した直後は前向きでも、入社が現実味を帯びてくると、これまで気にならなかった細かな衛生要因に目が向くようになります。
だからこそ、内定を出した「後」だけでフォローするのではなく、内定承諾前、つまり選考プロセスの段階から、こうした不安要素をどれだけ丁寧に潰せているかという点が重要なんです。
“Love is blind”状態は危険
とはいえ、最初からガツガツと自社の魅力を伝えたり、学生に踏み込んだ質問を重ねたりするのは、むしろ逆効果です。
これも恋愛と同じで、初回のデートなのに「結婚したいと思ってる?」「子どもについてはどう考えてる?」なんて聞かれたら、引いてしまいますよね。
ところが、採用の現場では、担当者側が「Love is blind(恋は盲目)」状態に陥りがちなので、ついつい自社の魅力を押しつけたくなります。自分が進みたい業界や選びたい職種さえわかっていない学生に対して、細かい衛生要因や動機づけ要因を説明しても、かえって戸惑わせてしまうだけです。
セミナー、一次選考、二次選考、役員面接、そして内定と、すごろくのようにコマを進めたくなる気持ちはわかります。ですが、必要なのは、知ってもらう→理解してもらう→興味を持ってもらうというプロセスを踏むこと。伝える情報の深さや具体性を調整していくことで、学生の受け取り方は大きく変わります。
このあたりのテクニックは、下記の記事でも解説していますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
▼“本当に欲しい人材”を採用するための採用マーケティング~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:13~
▼「3C」で考える自社の魅力の伝え方~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:17~
外部環境を諦めない
外部環境とは、企業が採用活動を行ううえで、自社の努力だけでは直接コントロールできない外部の動向や要因のことです。
「コントロールできない」と聞くと「それなら仕方がない」と思いがちですが、学生をどれだけ理解し、どれだけ丁寧にグリップできているかによって、結果を変えられるケースもあります。
ここからは、外部環境を理由にした内定辞退を防ぐために、採用担当者が押さえておきたい基礎知識とマインドセットについて整理していきます。
それでも学生の心は変わる
ここまで丁寧に向き合っていても、人間は環境の中で生きるものなので、外部環境が変わることでいきなり価値観まで変わることがあります。特に、学生のようなピュアな子たちは、一瞬で変わってしまうこともあるほどです。
たとえば、メーカーへの内定が決まっていた学生が、医療系のドラマをきっかけに「やっぱり製薬会社に進みたいかもしれない」と感じ始める、といったケースです。
社会人であれば、多少影響を受けたとしても、「今すぐ転職するわけにはいかない」と現実的に考えます。一方で、学生にとって内定先を変えることは、そこまで大きなハードルではありません。
他にも、
● 短期留学をきっかけに、海外で暮らしたくなった
● 彼氏・彼女ができ、離れたくなくなった/相手の意見に影響を受けるようになった
● 親から反対やダメ出しをされた
● 家族が病気になり、サポートが必要な状況になった
といった理由で、内定辞退が生じることは往々にしてあります。
「仕方ない」で終わらせないために
採用担当者として、こうした外部環境の変化による内定辞退を、ただ「仕方がない」で済ませてしまってはいけません。重要なのは、変化が起こり得ることを前提として捉えること、そして、その変化を受け止めたうえで「それでも自社を選んでもらうにはどうすればいいか」を考え続けることです。
そのためには、学生との間に、外部環境まで共有してもらえるような信頼関係を築くことが重要になります。
たとえば、学生が短期留学に行く場合。事前にその予定を相談してもらえる関係性であることが理想です。もちろん、留学そのものを止める権利は企業にはありません。ただ、留学中も自然に連絡を取ってもらえる存在になることはできます。
そうすると、「現地で、恵まれない環境にある人たちを見て、何か力になりたいと思った」といった、価値観の変化のサインを感じ取れる瞬間が出てきます。そのサインを見逃さず、まずは受け止めたうえで、「それなら、うちの会社ではこんな関わり方ができるよ」と自社で実現できる可能性を丁寧に伝えていく。
こうした積み重ねによって、突然の内定辞退を防ぐだけでなく、辞退が起こる可能性そのものを下げることができるはずです。
インスタントではつくれない信頼関係
もちろん、留学を通じて本当に大切な価値観に出会ったり、家庭の事情など、企業側ではどうにもできない変化が起こることもあります。
ただし、学生の価値観の変化は、一過性のものも少なくありません。少し強い言い方をすれば、風邪をひいたような状態です。そういった場合は、継続的にコミュニケーションを取りながら、“元の軸に戻す”だけで解決するケースもあります。
問題なのは、学生と丁寧にコミュニケーションをとり、深い信頼関係を築くことを面倒がり、
● とりあえず懇親会や飲み会を開く
● グループLINEを作る
● どこかの会社が作った内定者向けツールを導入する
といった「やっている感」だけで満足してしまう採用担当者が多いことです。
正直なところ、そんなもので信頼関係が築けるほど、人はインスタントではありません。だからこそ、採用は「仕組み」や「ツール」の前に、一人ひとりに寄り添う姿勢が必要なんです。ここを避けてしまっては、どれだけ工夫を重ねても、本質的な採用成功にはつながらないと考えています。
まとめ:テクニックの前に意識を変える
この時期になると、僕のもとには、多方面から「どんなヒアリング方法がありますか?」「内定者をどう管理すればいいですか?」といった質問や相談が寄せられます。
ただ、学生と本気で向き合い、信頼関係を築こうとする姿勢がないままにテクニックを身につけても、全く意味がありません。
人を雇うときに最も大切なのは、「その人の人生の一部を預かる」という感覚です。僕自身、自社で人を採用するときも、そして、人材に関わるサービスを提供するときも、その意識を何よりも重視しています。
もし、
● もっと深く戦略人事について考えたい
● 戦略人事思考を持った人事責任者を採用・育成したい
● その重要性は感じているが、うまく形にできていない
と感じている経営者の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。CHRO採用・CHRO開発を通じて、伴走させていただきます。
▼CHRO候補者育成型・戦略人事コンサルティング事業
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