京都を拠点に「コーヒーを通じて人々の生活を豊かにすること」を目指すKurasu。私たちは今、フランチャイズという手法でグローバル展開を加速させています。
代表のYozoが掲げるのは、「単に店舗数を増やすのではなく、志を共有できるパートナーと共に“Kurasuの空気感”を世界に広げる」というビジョンです。今回はその最前線で、中国・深圳の新店舗「Kurasu Shenzhen Bay」の立ち上げを担当したKaiにインタビューしました。
決して理想通りにはいかない海外展開の苦労と、それでも「Kurasuらしさ」を守り抜くための現場の工夫。そしてKurasuが全社で取り組む「再現性の仕組み」について、現地のリアルなエピソードを交えて語ってもらいました。
水栓、電源、配線計画。バリスタの視点で「現場」を守る
── まず、今回の深圳店オープンにおけるKaiさんの役割について教えてください。
Kai:今回は新店舗立ち上げのサポートメンバーとして、3週間現地に滞在しました。普段、日本ではトレーナーとして働いていますが、海外展開においてはグローバルチームのメンバーとして、戦略策定から立ち上げ全般を担っています。
立ち上げ時の担当業務は、スタッフの採用やトレーニングはもちろん、デザインの確認、工事の進捗管理、そしてメニューのクオリティコントロールまで、本当に「全て」といった感じです。
── 工事の確認というのは、具体的にどのようなことをするのですか?
Kai:店舗の中でバリスタが効率よく動けるかどうか、という視点で細部をチェックします。 例えば、水栓や電源の位置、カウンターに空ける配線用の穴の場所などです。これらはデザイナーさんや施工業者の方だけではイメージしづらい部分ですが、実際に店に立つバリスタにとっては死活問題です。
理想としては、お店が完成してから現地入りしたいのですが、今回は到着時点でまだ壁がコンクリート剥き出しの状態。カウンターすら何もないところからのスタートでした。
── かなり厳しい状況ですね。
Kai:正直、今までで一番の「逆境」でした(笑)。中国市場のスピード感が凄まじく、準備期間が1ヶ月ほどしかなかったんです。
そのため今回は特別に、同じグローバルチームのAngeloと2人体制で、「ダブルパワー」で乗り切る判断をしました。不完全な状態からでもオープンに間に合わせるため、優先順位を厳格に決め、パートナーとも密に連携して進めました。
同一モールにカフェが20軒。「派手さ」よりも「対話」で差別化を図る
── 中国・深圳というマーケットの特徴や、難しさはありましたか?
Kai:深圳は競争が非常に激しいですね。私たちが出店したショッピングモールの中だけでも、すでに20軒ほどのコーヒーショップがありました。 現地の傾向として、QRコード決済で効率よく大量のオーダーを捌く店や、SNS映えを狙った派手なデザインの店が多い。お客様の目も肥えていて、レビューもかなり辛口です。
── その中で、Kurasuらしさをどう打ち出していったのでしょうか?
Kai:実は当初、現地のパートナーからも「もっと派手なマーケティングをした方がいいのではないか」という意見が出ることがありました。 しかし、Kurasuの魅力は派手さではなく、京都らしい「温かさ」や「奥深さ」にあります。そこは妥協せず、パートナーと何度も話し合いました。
例えば、Kurasuとして初めて採用した360度アイランド型カウンター。これもただ奇抜にするのではなく、バリスタとお客さまの距離を近づけ、会話が生まれる設計にこだわりました。 結果として、効率重視の店が多い中で、Kurasuの「アットホーム感」が差別化につながり、現地のお客様にも受け入れられていると感じます。
── 商品面での工夫はいかがでしたか?
Kai:一番の課題は、輸入規制で日本の「抹茶」が持ち込めなかったことです。 そこで、現地で手に入る様々な抹茶をブラインドでテイスティングし、ベストなものを探しました。
その結果、選ばれたのは、かつて日本で栽培を学び、中国で同じ製法を実践している生産者の抹茶でした。「使えないから仕方ない」ではなく、制約の中でルーツを大切にする姿勢は、まさにKurasuらしい工夫だったと思います。
「教える」のではなく「一緒に考える」チームビルディング
── スタッフのトレーニングでは、どのようなことを意識されましたか?
Kai:単に「Kurasuのやり方はこうです」と教え込むのではなく、スタッフと一緒にレシピを検証し、ディスカッションする時間を大切にしました。
現地で使う豆や水、機材によって味は変わります。だからこそ、現地のスタッフと一緒にテイスティングし、「Kurasuが大切にしている味はこれだよね」という感覚を合わせていくんです。
マニュアル通りに動くロボットではなく、スタッフ自身のポテンシャルを引き出し、彼らが自信を持って提供できるようにすることを意識しました。
── 言語の壁についてはどうでしたか?
Kai:深圳はテック企業に人材が流れるため、英語ができるバリスタが少ないという課題がありました。 そんな中、採用で重視したのは、やはり「人柄」と「Kurasuへの共感」です。
言葉の壁はありましたが、Angeloの中国語サポートや翻訳ツールを駆使し、何より「コーヒー」という共通言語を通してコミュニケーションを取りました。未経験でも人柄の素晴らしいスタッフを採用できたことは、今回の大きな収穫です。
プロジェクトマネジメントの重要性と、次への教訓
── 今回の経験を経て、Kaiさんご自身が得た「学び」はありますか?
Kai:痛感したのは「プロジェクトマネジメント」の重要性です。 今回はスケジュールがタイトすぎて、トレーニングも最後までトレーニングルームで行わざるを得ず、オープン直前まで実際のカウンターに立てないという事態になりました。
なんとか形にはなりましたが、Kurasuのクオリティを万全に守るためには、もっと早い段階でスケジュール調整を提案したり、パートナーに対して「このタスクが終わらないと現地には行けない」と交渉したりする強さが必要だと反省しました。
── 次の展開に活かせそうですね。
Kai:はい。店舗が増えていく中で、Kurasuのクオリティを再現するための「仕組み化」が急務だと感じています。代表のYozoさんも「ガイドラインは縛るためではなく、再現性を作るためにある“生きたルールブック”だ」と言っています。
文化や言語が違う国でも、ゼロから議論するのではなく、共通の土台の上でKurasuらしさを表現できるように、私たちグローバルチームもマネジメントツールやガイドラインの整備を急いでいます。
「意味のあること」をやり続ければ、それがブランドになる
── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
Kai:グローバル展開を通じて驚くのは、中国に限らず、これまで展開してきたどこの国でも、Kurasuに集まってくるお客様の雰囲気がすごく似ていることです。「京都の店舗に行ったことがある」「ずっとファンだった」と声をかけてくれる方もいて、Kurasuのコミュニティが国境を越えていることに感動しました。
ビジネスをスケールさせる上では収益も大切ですが、私たちはそれ以上に「自分たちがやっていることに意味があるか」「社会に良い影響を与えられるか」を大切にしています。
Kurasuの温かいライトが、世界中のどの街にも灯る。そんな未来を、志を共有できるパートナーと一緒に作っていきたいですね。
編集後記
「100店舗という数字より、100の街に“同じ空気”を届けること」。代表Yozoが語るフランチャイズの理想形を、現場の泥臭い努力と工夫で実現しようとしているKaiの姿が印象的でした。
次はフィリピンでの展開も控えています。Kurasuの「ブランドを育て、広げる挑戦」は、まだ始まったばかり。これからも、応援していただけると嬉しいです。
(photo: LouIs XIA, Ai Mizobuchi / text: Mayo Sera)
関連動画
今回のインタビューでKaiが語った「Kurasuらしさ」を守るためのガイドラインや、パートナー選びの基準について、代表のYozoがYouTubeで詳しく解説しています。 グローバル展開の裏側にある「仕組み」を知りたい方は、こちらもぜひご覧ください。