【Interview】「人間力って何だろう?」FICC代表・森が考え続けてきた、人生で大切にしていること。

現在、FICCの代表取締役を務めている森啓子。

アメリカの大学・大学院で、リベラルアーツの学びや専門分野との学際的な学びを経験しながら、ボストンの広告会社で働いていた彼女は、2005年に帰国しFICCに入社。デザイナー、プロデューサー、取締役を経て、昨年代表取締役に就任しました。

彼女が一貫してFICCの経営の軸に置いているのは、「学際的リベラルアーツ」です。
社員ひとりひとりの「興味」を「学び」につなげ、「ビジネス」を生み出していく。
それを企業として実現するのが自分のミッションであると、彼女は話します。

でも彼女はいつ、どうしてそのミッションにたどり着いたのでしょうか。
そもそも森啓子とはどんな経歴の持ち主で、どんな考え方を持った人なのでしょう?

今回はFICCの代表取締役というよりも、個人の「森啓子」にフォーカスしたインタビューです。
幼少期の話から紐解き、これまでの経歴や家族のこと、人生で大事にしているテーマなどを話してもらいました。

(インタビュー・文:土門蘭、写真:永田優介)

〈プロフィール〉
森啓子
1980年兵庫生まれ。神戸女学院中学部・高等学部を経て、アメリカ・マサチューセッツ州のマウント・ホリヨーク大学(Bachelor of Arts 学士)、マサチューセッツ芸術大学 大学院(MFA修士)を卒業。ボストンの広告会社でデザイナーとして勤務したのち、日本に帰国し2005年FICCに入社する。グローバルブランドのデジタルマーケティング戦略、プロモーション施策、ブランディング施策を多数担当。2019年、FICCの代表取締役に就任。

ふたつの教えをひたすら守った幼少期

うちは代々キリスト教の家系で、父も母も教育者なんです。そのふたりからの教えの影響が、私にとってはすごく大きかったと思います。

両親から、ずっと言われ続けている言葉がありました。父からは「人間力をつけなさい」、そして母からは「決して他者を否定せず、常に優しい心でありなさい」と。それ以上細かいことは何も言われませんでした。ルールはそのふたつだけで、ふたりともブレないんです。だからいつの間にか、そのふたつの言葉が私の指針になっていきました。

でも「優しい心」はともかく「人間力」って言われてもよくわからないですよね。唯一もらっていたヒントは「どんな環境にいても生きていけるようにしなさい」ということだけでした。両親は「自分の人生、自分で考えて自分で判断して自分で責任を負いなさい」という教育方針だったので、答えを教えるようなことはしなかったんですね。だから余白がすごく大きくて、自然と自分の中で、「人間力って何だろう?」と自問自答が始まったんです。

その中で自分なりに意識していたのは、触れるもの・見るものに対して自分の心がどう動くのかに耳を傾け続けるということでした。たとえば私は山の上に住んでいたので、自然の中で遊ぶことが多かったんですけど、そのときに見たものや聞こえたものに対して自分がどう感じているのか、素直に心の声を聞くってことを、幼少期からずっと徹底してやっていたんです。

両親は決して私に「将来○○になりさない」「○○をしなさい」というようなことを言わなかったし、変な言い方ですが、自分も自分に対して言いませんでした。将来像がない代わり、自分の心に耳をすませて響くものがあればそれを徹底してやりきる。そんなふうに毎日を過ごしていました。それが当時の自分にとっての、「人間力」の答えに繋がる大切なものだったんです。

答えのないアウトプットから、学びの本質に気づいた

学校でもそうやって毎日を過ごしていたので、興味のある科目は満点なのに、興味のない科目は0点とったりと、たまにやらかすこともありましたね(笑)。あとは理科の選択授業では、物理と地学という、大学受験をする友達から見ると不自然な選択をしていました。でも自分にとっては受験どうこうはまったく関係なくて、ロマンを感じる魅力的な科目だったから選択したんです。結果的に地学は生徒が少なすぎて、授業自体なくなっちゃいましたけど(笑)。

そんな感じで、まわりから見ると「何やってんの?」と思われてたと思うのですが、自分の人生で大事にしていた「学び」というのは、自分の心に耳を傾けて興味のあるものを追求していくことだったので、自分の中では何の不自然さもなかったんです。

高校ではオーストラリアに留学する機会をいただいたんですが、そこでさらに「学び」の本質について気づくきっかけがありました。

私はそこでマリンスタディーズという海洋学の授業をとっていたんですけど、オーストラリアは海が多いので毎日クラスでビーチに行って授業をしていたんですね。そこで「ビーチの傾斜を計って、データをもとに各自好きな視点から論文を書きなさい」という課題が出たんです。たとえば風の向き、波の動き、人の活動など、いろいろな視点がありますが、自分は風に興味があったので、過去の新聞から風のデータを集めて論文を書きました。

ここで体験した、「答えのないアウトプット」がとても印象的でした。当たり前なんですけど、みんな書くことが違うんですよね。そのアウトプットを通して、自分が何に興味を持つのかを知ることができました。

日本の教育は「方程式を覚えなさい」とか、答えがひとつのものを問いとして出しがちですよね。だけどこのとき、答えのない問いに向き合うことで、それ以上にずっとわかることがあるということを知りました。そこで私は、「ルールはあるけど余白は大きく」っていうのが「学び」の本質なんだなと気がついたんです。

その「学び」は、まさに自分の親のやってくれたことと近かったんですよね。

自分の「興味」を掛け合わせることで「学び」が生まれる

その後、リベラルアーツ教育で有名なアメリカ最古の女子大で、さらに学びについての理解を深めました。リベラルアーツはもともと古代ギリシャ・ローマ時代に始まった「自由七科」というものから始まっていて、「人として自由になるための学び」と言われています。13世紀のヨーロッパで大学が誕生したときにもその学びは重視され、17世紀にイギリスからアメリカに移住した開拓者(ピューリタン)たちにより、アメリカへと広まっていきました。

大学って一般的には学部に入学するものですが、リベラルアーツの大学では「学部」ではなく「大学」に入学するんですよ。まずはいろいろなことを学んで、その中で自分の興味に耳を傾けて、2年次で専攻と副専攻を決めるんです。

私はここでもやらかすわけなんですが(笑)、2年次では主専攻にアート、副専攻に数学を選択しました。周りから見たら「何その組み合わせ、就職のこととかちゃんと考えてる?」っていう選択なんですけど、私からしたら「考えてません!」みたいな(笑)。相変わらず「ただ興味があるからやってます!」って感じだったんですね。

この大学はクラスの規模が小さかったので、主に授業はディスカッションで進めていました。アートの授業では自分の作品のプレゼンや意見交換を毎日したり、数学の授業では世界でまだ解かれていない問題をみんなで議論する、ということをしていました。

その環境・プロセスが、本当にすばらしいなと思っていたんですよね。答えを導き出すことが目的なのではなく、問いに向かい合い、みんながそれぞれの視点から意見を交わしていく。そのシナジーによって、これまで気づかなった視点や見えなかったもの、自分や他人を知ることができる。これこそ、本当の「学び」だなって思ったんです。

だからリベラルアーツは決して、日本でよく言われているような「一般教養」という意味ではないんですよ。自分の興味が何か、人の興味が何かを知り、それを掛け合わせることで学んでいくのがリベラルアーツなんです。

その考え方は、私の「学び」に対する考え方ととても近いものでした。そしてそれこそが、父と母がずっと自分に教えてくれていたことなんじゃないかなと思ったんです。両親からの教えをそういうふうに解釈して、今の自分の人生の文脈に繋げています。

どんな仕事でも、自分の興味と掛け合わせれば、すべてが自分の「学び」になり、そこから新たなイノベーションや価値を創造することができる。それが今、FICCで私がもっとも大事にしていることです。

人から決められた「ロール」も自分ごと化すればおもしろくなる

ただ一方で、「興味」よりも「ロール(役割)」が先立つこともあります。たとえば私はFICCに最初デザイナーとして入社しましたが、そのうちプロデューサーになって、マネージャーになって、取締役になって、代表になって……と、だんだんロールが変わっていったんですよね。

ロールって、社会や環境が決めているものなので、純粋な自分の興味ではないんです。ライフイベントの中で、ときどきそんなタイミングってありますよね。そういうときは、自分に対して積極的に「学べ」と言わなくてはいけないときだと思っています。

でも、やっぱり最初は100%の興味ではないんですよ。だけどその上で自分に課せられたロールについて学んでいくと、必ず自分の興味を掛けあわせられる部分があるんです。それができるとロール自体が興味に変わっていくので、自分ごと化されてキャリアがとてもおもしろくなっていく。それが、私のロールが変わるたびに行ってきたプロセスです。

人生の時間って、貴重じゃないですか。自分がFICCという環境を選んでいる以上、ここでの時間は自らコミットしなくてはいけない「貴重な人生の時間」だと思うので、自分がここにいる意味は何かを真剣に考えるのが大事だと思っています。

自分が取締役になった意味は何か、自分が代表になった意味は何か……そういうことに思いを寄せながら「自分は何を軸にするのか」を考えるのが大事。自分でなかったら違う会社になっていたんじゃないかっていうくらいの考えを持ちながら、大切にすべきことはなにかを真剣に考え、深くコミットしていきたいと思っています。

FICCの資源は、社員ひとりひとりの「興味」

その上で、私のミッションは「学際的リベラルアーツ」を文化にもった企業体を実現させること……そして「学び」の本質を未来へ伝えていくことだと思っています。

いろんな分野に精通することももちろん理想的だなとは思うんですけど、私がFICCで目指すのは「みんなそれぞれの思いや学びが、社会やクライアントの価値になる」ということ。それが「学際的リベラルアーツ」です。

うちはマーケティングの会社なので、「資源」ということをすごく大事にしているんですが、たとえばお金や知識も資源ですよね。だけど私にとってもっとも大切な資源は、社員ひとりひとりの「興味」だと思っています。FICCではその「興味」を掛け合わせることで新たな「学び」につなげて、ビジネスにしていきたいんです。

そんなふうに「学際的リベラルアーツ」でビジネスを実現していくって、どの企業もやったことがないと思うんですよ。うまくいくって証明されているものではないし難易度の高いことだからこそ、「学び」をしっかりビジネスに繋げていって、いつかひとつの説得力あるロールモデルになれたら嬉しいなって。それが、経営の上で自分に課し続けなくてはいけないことです。

だから私の役割は、みんなのピュアな「興味」を消さないこと、みんなが「学び」から価値を作れる会社にすること。両親がやってくれたように、その軸をブラさないことだと思っています。

社内のメンバーも、自分よりも若い人が圧倒的に多くなりました。そんな彼らに、企業というアカデミックではない環境だからこそ、しっかりと「学び」について伝えていきたい。それが伝わって社員の目の輝きや言動が変わったときが、私にとっては涙が出るくらい嬉しい瞬間ですね。

ここでの時間が、少しでも彼らの人生を豊かにするものであったらいい。そしてここで得た「学び」の体験を、彼らの子供たちや今後出会っていく人たち、ひいては未来に語り継いでいってもらえたらいいなって思っています。

「未来」を考えるよりも「今」を一生懸命生きる

今の私の課題ですか? こんなことを言ったら引かれるかもしれないんですが、私「人生500年くらいあればいいのに」って思っているんですよね(笑)。来年で40歳なんですけど、人生短いなって。健康だし恵まれていることに感謝しながら、もっともっと学びたいこと、やりたいことがある。それがもっと続くといいなって思いながら生きてます。

でもそれと同時に、明確な自分の将来像っていうのが、今もやっぱりないんですよ。あるのは「人生において、このミッションを果たして未来に繋ぎたい」っていう思いだけ。それだけはブラさないで、みんなにとって「出会えてよかったね」っていう状態になれるようにしたい。そのために今、一所懸命生きているって感じですね。

私の持論のひとつに、「お金はあとからついてくる」っていうのがあるんです。「お金がたくさんもらえるからこの仕事」って選ぶんじゃなくて、自分に正直になって自分を正しく未来へリードすることのほうが大事。そうすれば、お金はおのずとついてくるって思っています。

実は日本に帰国してFICCに入社を決めたときも、その頃FICCはまだまだ小さな会社だったので、アメリカで働いていた会社に比べてお給料は下がったんですね。でも「お金はあとからついてくる」と信じていたので、まずは自分の「興味」に正直に、このモーメントで自分がいちばん成長できるって思う環境・ミッションに身を置くことが大事だと思って入社を決めました。

行動基準はお金ではなく、「自分を高めていくこと」。そして「価値ある人になること」。そうすれば、他者からの評価もついてくると思っているんです。

「塵も積もれば山となる」っていう言葉がありますけど、「今」の積み重ねで「未来」になる。だから「未来」を考えるよりも「今」を一生懸命生きることで未来に繋げたい。その思いはこれまでも、これからも変わらないと思います。 


募集している職種

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学びを価値創造に繋げ、クライアント成長を一緒にリードする仲間を募集
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