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vol.2【イノベーティブであり続けること】

こんにちは、石川樹脂工業専務取締役の石川勤です。前回の記事では、わたしたちの会社の全体像と「とにかく、やってみよう」の精神についてお話しました。『新しい素材と新しい技術で新しい価値を提供する』というビジョンを掲げているのですが、当然一つの記事で全てを説明できるわけもなく。これから数回に渡り、わたしたちの考え方や具体的なプロジェクトについてお伝えしていこうと思います。

弊社は創業50年を超える老舗の樹脂メーカーです。今も継続して社会に価値を提供できている理由は、イノベーティブであり続けたからだと自負しています。その考え方と姿勢はどこに由来するのか。実際にカタチにしている工程や製品を見せることも大事ですが、わたしたちの理念の源泉を辿ることもまた同じくらい大事だと考えました。

その時、ある人の顔が浮かびました。わたしの父であり、石川樹脂工業会長の石川章です。物心ついた頃から、父の働く背中を見てきました。仕事では意見交換はするものの、あらたまった状況で石川樹脂工業について父の考えや過去を聴いたことはありません。父にインタビューをする。この記事を書く機会がなければ、思いつきもしなかったかもしれません。

今回は、父のことばと共に、弊社の理念を紹介したいと思います。

誰もやらないことをやる

石川樹脂工業は、祖父の石川重雄によって1947年に創業しました。石川県加賀市山中温泉地域で生産されていた漆器の木地を山中地域や輪島地域で販売する商売からはじまります。そこから、樹脂漆器生産に取り組み、そこで培った成形の技術力を生かしてインフラ向けの工業部品など、幅広い製品を手掛けてきました。そこには、創業者である祖父の「誰もやらなかったことをやる」という精神があります。

会長

父(重雄)がよく口にしていた「屋」と「様」ということばがあります。「屋」は、つくり手──木地屋やプラスチック屋などのことを指し、「様」は問屋“様”のこと。私たちは木地屋だから「屋」の世界で生きてきました。そこにいると「様」の立場が強いわけです。

発言力も違えば、待遇も違う。そこで反骨心が生まれた。

対等な関係性を築くためには、人ができないことをしなければいけない。父の手掛けた木地は、誰も真似できないほど美しかった。それを山中地域から、漆器で有名な輪島へと売りに行きました。すると100円のモノが、200円で売れた。つまり、「ないもの」をつくることができれば、相手は高く買ってくれる。誰もやらないことをやることで、「様」とも対等な関係性で商売ができるようになります。

会長 石川章

誰もやらないことをやるためには、失敗はつきものです。前回、「失敗は資産である」と話したように、石川樹脂工業は大小様々な失敗を重ねてここまで成長してきました。その「失敗」の捉え方について、どう考えていますか?

会長

失敗は成長の一部です。「失敗をおそれない」というよりも、「失敗しか経験ではない」という意識があります。失敗がない人は経験不足です。成功体験の恐ろしい点は、傲慢になること。本来、上に立つ者は、下の者を楽にさせなければいけません。であるにも関わらず、しばしば「自分が楽をするために上に立った」と勘違いを起こしてしまいます。肩書を与えると話し方まで変わってしまう。それは「傲慢」です。失敗を経験して、それを自分の責任だと受け止めることができれば、傲慢には陥りません。

失敗しない方法は一つ。それは、「何もしないこと」。ただ、そこには経験もなければ、成長もありません。世の中が丸く収まるならば、失敗してもいい。それは父の背中を見ながら教わりました。他人の責任ではなく、自分の責任でやること。父が失敗を恐れなかった理由は、人様に迷惑をかけなかったからだと思います。年齢を重ねた今、肌で感じています。

会社というものは、上に立つ者は起きている全ての時間、もっと言うと、夢の中でも仕事ができるのかもしれません。ただ、下の者はそうはいきません。一人ひとりできる範囲は決まっています。そのためには、上の者の工夫によって下の者が働きやすいようにお手伝いする必要があります。

まずは目的を見定めなければいけません。たとえば、相手の失敗を自分の感情で叱りつけるとうまくいかない。怒って解決するならばそれで構いませんが、ほとんどの場合怒りは相手を委縮させるだけです。目的は会社の利益を上げること。そのためには、別の方法を考えなければいけません。目的を達成するために、相手が働きやすいように考えることが一番です。

自分の発想にないことを社員が提案してくれるのなら、「お願いします」と素直に受け入れた方がいい。自分ができるフリをすることなく、彼ら(彼女ら)のお手伝いに徹すればいいと思っています。目的が明確であるからこそ、そこに自分の在り方を合わせてゆく。

自分がやるべきことの目的さえはっきりしていれば、前に進みます。

大きな失敗について尋ねると、「数えきれないほどある」と言いながら父は話してくれました。20年前、石川樹脂工業が経営の苦境を迎えていた時期、金型を大量に販売した話。わたしたちにとって金型は資産です。一時的な資金にはなるが、次からの売上は0になります。

また、石英ガラス(高純度の耐熱ガラス)を扱うために、ガラス工場を建てたことがあります。約7000万円のレーザー加工機の購入などを含め、計2億円以上を投資した。水槽を製造販売する予定だったのですが、試作品をつくるだけで企画は頓挫した。つまり、2億円かけて、販売できなかったのです。

会長

いずれも大きな失敗ですが、会社は潰れなかった。後始末もきちんと終えていて、人様には迷惑をかけていません。そこは父の教えを守ってきた部分です。

今まで、父についての悪口を耳にしたことがありません。父は人に迷惑をかけないことを徹底していました。商売においても、複数ある仕入れ先のいずれもが損をしないようにするための手段を常に考えていました。

相手に損をさせると、私たちがより大きな損失を被ることになる。目先の得のために、相手を損させることは、長い目で見れば悪手です。仕入れ先が成長して豊かになれば、自分たちも豊かになれる。そう考えることができれば、仕入れ先が儲かるように工夫します。

現在の行いを“点”で見るのではなく、これから先の一、二年がどうなってゆくのかを想像できれば、自分の商売が正しいかどうかがわかります。解決法も見えてきます。

わたしは、高校卒業後、生まれ育った石川県を離れ、東京大学へ進学しました。そして、外資系大手企業のP&Gに入社し、約10年間勤務しました。2016年にP&Gを退職し、石川樹脂工業へ入社します。そこには、「父と仕事がしたい」という想いがありました。

専務 石川勤

P&Gは外資系企業であるものの、わたしの見てきた石川樹脂工業と父の背中に数々の共通の価値観があったことに驚きました。たとえば、P&Gの理念に「Do the right thing」という考え方があります。「人として正しいことをする」という価値観です。父の経営に通じる部分です。また、ハーバード流交渉術と呼ばれるシステムにからも見られます。カジュアルに説明すれば、「Win-Winの関係性を築きましょう」という経営理論です。お互いの利益を確保して、Win-Winの関係性を築かなければ長続きしません。父のことばも、ハーバード流交渉術が言及している内容も広く重なっています。

ただ、一つ異なる点は、P&Gはそれを学問として体系立ててまとめていた。「正しさとは何か」を定義していたり、理論立てて各々の行動規範へと落とし込んでいく。ピラミッド的な論理構造の美しさを感じました。興味深い点は、根幹にある経営の価値観に関して、P&Gと石川樹脂工業の双方がとても近いところにあったことです。

父の背中を見て学んできたことが、体系立てて整理されたことにより理論武装された。「やはり正しかったんだ」という説得力になりました。父の元に戻り、会社を一緒にやれば、父の考えを現代風にアレンジできるかもしれない。

会長

「給料は今よりも下がる。それでも、会社を辞めてこちらへ来てくれるのか?」

何度も確かめました。私も60歳を過ぎた頃で、石川樹脂工業のこれからについて考えていた時でした。私は一度も息子に「会社を継いでくれ」と言ったことはありません。「一緒に仕事がしたい」ということばは、素直にうれしかった。決して会社の状態が万全というわけではありませんでした。どちらかというと不安定な状況の時でしたから「よく来てくれるなぁ」という気持ちの方が大きかった。もし会社に来てくれなかったとしたら、コロナの影響もあり、今頃会社は売っているか潰しているか、いずれにしても今の形としては残っていなかったと思います。

他社における親子関係での会社の引継ぎ事例を調べてみると、うまくいくケースは圧倒的に少ないことがわかります。もちろん、わたしたちにも意見が対立する場面はありますが、対話を通して正しい理論の側に譲歩することでわだかまりなく解決しています。課題に対して、個人の感情ではなく、客観的な視点で「より正しいこと」が見えているのだと思います。

祖父が父に任せてくれていたこと──「子どもに任せよう、若い人に任せよう」という精神がそこにはあるのだろうということを感じました。

会長

子どもはね、父親のやりたいことをしているだけなのだと思います。私が、創業者の父にしてきたように。そして、父親は、子どもが伸びることであれば、命以外の全てを差し出す覚悟がある。私はそのようなものだと思っています。

親子関係で揉める理由は、「自分の手柄にしよう」と思うからではないでしょうか。子どもは父親がやりたいことをやる。私の父は墓場で喜んでいると思います。なぜなら、私は父がやりたいことを全てやってきたから。

そして、子どもの時代が来たら身を引いて、下に入ればいい。子どもの下に入ることは恥ではありません。親はね、子どもが立派になってほしいと思っているだけです。それが親心というものではないでしょうか。

これからの石川樹脂工業

会長

自社商品で高収益、永続的に生産できる会社につくりあげること。世界の一流企業の多くは、プラスチックの原料を取り扱っています。その面では、私たち石川樹脂工業は、原料となる「樹脂」をつくり続けることでこれからの時代も求められる仕事だと自信を持って言えます。

今はDtoCによって、お客さんに直接商品を販売することができるようになりました。そういう意味でも、「モノをつくり、モノを売る」という原点に回帰したように思います。「どのようにすればお客様に喜んでいただけるか」ということに焦点を絞ることができます。

ネット販売によってお客様に対して幅広いアプローチが実現できましたが、その分リスクも増えました。昔は大きな失敗をしたとしても、世間に広まりづらかった。今は、ガラス張りのような状態で、おおらかさのようなものはなくなっていっています。そのためにも、透明度のある会社の姿が求められます。お客様への丁寧なコミュニケーションによって信頼関係を築いていくことが最も重要です。

基本路線は変わらず、誰もやっていないことをカタチにしていくこと。新しい技術を積極的に取り入れ、取引先と共に成長していきたいです。また、サステナブルやSDGsなど、環境に関する課題にも取り組んでいかなければ、会社としての存在価値が問われます。自社、取引先、社会の三方良しを目指します。

他方、個人的には、P&G時代の同期の姿を見ていると、彼らは世の中にインパクトを与えるような仕事をしています。それは金額的な意味でも、世間的な意味でも。それらを見ていると、正直「くやしい」と思っていることも事実です。P&Gや他の大企業のように、石川樹脂もどんどん大きくなってゆき、より世の中へのインパクトを与えるような仕事をしていきたいです。

人間としての正しさを追求すること、Win-Winの関係性を築くことなど、根本の価値観をベースに置きながらも、より永続的に、かつより世の中に大きなインパクトを与えることができるにはどうすればいいのか。試行錯誤を続けていきます。

会長と専務、初の親子対談が実現!

はじめて、父と仕事の考え方について深く語り合いました。考えていることが似ていることが驚きでもあり、うれしくもありました。インタビュー後、同席した人が父に「こういう話は社員さんにはされないのですか?」と訊ねました。父は「言いませんよ。言えば自慢に聴こえます。自慢に聴こえることは避けなければいけません」と淡々と答えました。そのことばが父らしく、そして、「若い人は、まだまだ経験が積めるからうらやましいです」と続けました。つまり、まだまだ失敗に対して貪欲であるということです。父の好奇心と向上心が、これまでの石川樹脂工業を支え、豊かに育んできたのだとあらためて感じました。その意志を受け継いで、さぁ、わたしも。

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