「おめでとう!絶対、育休取った方がいいよ!」
経理担当の久保さんは上司に奥さんの妊娠を報告したところ、開口一番そう言われました。もちろん、育休の取り方に正解が一つあるわけではありません。
長く取りたい人もいれば、仕事との兼ね合いを見ながら分けて取りたい人もいる。人によって、家庭の状況も、仕事への向き合い方も違います。
だからこそKOBIRAが大切にしたいのは、「取る/取らない」を一律に決めることではなく、本人と家族が安心できる選択肢を一緒につくることでした。
元々、久保さんは仕事が大好き。けれども、「子どもが生まれたら、奥さんと2人で育てるのが当たり前」という思いもありました。
そこで久保さんは、新しい選択肢を考えます。
それは、子供が生まれる秋から冬にかけてと、春から夏にかけての2回に分けて、育休を取得すること。こうすれば、短期間で仕事に復帰しやすい雰囲気を作りつつも、子供が生まれてすぐの一番大変な時期に、奥さんや子供のそばにいてあげられると考えました。
そのことを上司に伝えると、「まだ取得まで半年以上あるわけだし、体制をつくることもチーム全体の目標にしよう!」と前向きな返事が返ってきます。
──そうして、KOBIRA社では創立115年目で初となる「男性の育休」の取得がスタートします。
KOBIRAで初めて男性育休を取得することになった久保さん。その準備の過程で生まれた一枚の引き継ぎシートが、やがて思いがけない展開につながっていきます。
久保さんの最愛のお子さん…!後ろのローニンアジも、またいい味を出しています。育休から始まった、一枚の引き継ぎシート
「自分がいない間に、新しく来る人が困らないようにしたい」
そう考えた久保さんは、自分の業務を引き継ぐための「引き継ぎシート」の作成に挑みます。最初は、業務の流れを整理するだけだと思っていましたが、実際に書き出してみると、必要な項目は想像以上に多くありました。
振込、締め作業、確認事項、突発的な問い合わせ対応──その項目は、3ヶ月でおよそ40項目にも膨れ上がります。
さらに、引き継ぐ相手は入社して間もないパートさん。経理の経験はありません。Googleドキュメントの開き方、Slackでのやりとりなど、経理の手順に入る前に、まずは仕事の前提を一つずつそろえるところから始まりました。
つまり久保さんの引き継ぎは、単なる業務マニュアルづくりではありませんでした。相手が迷わず進める状態を、ゼロから整えていく作業だったのです。
相手が理解するまでが「引き継ぎ」で、相手が自信を持ってボタンを押せる状態が「ゴール」
久保さんにとっての引き継ぎは「相手が業務をきちんと理解できていること」。それを把握するためには、進捗管理から変えていく必要があると考えました。
普通「引き継ぎ」といえば、できた・できないや優先度別にタグ付けをすることが一般的。でもそれでは、「相手がどの程度理解できていて、何につまづいているか」までは分かりません。
そこで生み出した、久保さん流の進捗管理は「信号機」でした。
「赤・黄・青」進捗の状態を変えるだけで、引き継いだ相手が今どの状態なのか、一目でわかります。
「赤ということはよくわかっていないのかな」
「これは青だから、理解できて進めているな」
そうして進捗を追っていき、自分が育休中で引き継ぎできない内容や、間に合わないものは、事前に画面録画を収録しました。
「よし、これで完璧だろう」
無事に40項目の引き継ぎを終え、久保さんは育休に入るのですが……
育児休暇中の久保さん。
沐浴など、自分ができることは最大限協力しながら、ご夫婦で育児を分担されています。
「1回目の育休に点数をつけるなら、60点でした。」
作り込んだつもりの引き継ぎシート。けれど実際に運用してみると、まだ言語化しきれていない前提や、相手が判断に迷うポイントが残っていました。
「これで本当に迷わず進められるだろうか」久保さん自身にも、仕事を完全に手放しきれない感覚があったといいます。
だからこそ2回目に向けて、久保さんは手順だけでなく、相手が自信を持って進められる状態まで、引き継ぎの中身を見直していきました。
相手が理解するまでが「引き継ぎ」で、相手が自信を持ってボタンを押せる状態が「ゴール」── そう考えていた久保さん。
相手が理解していても、自信を持ってボタンを押せない理由はどこにあるのか、と考えたときに、問い合わせの起点になっていたのが振込作業でした。
振り込みは、金額が大きい分、間違いがないか何度も確認が必要になります。パートさんにとって心理的負担が大きく、社員である久保さんへの確認も増えやすい作業でした。
そこで、まず月初の振込作業を事前に終わらせることに。加えて、画面録画のファイルについても、「そもそもどこから開くのか」「どこにアクセスすればいいのか」まで、前提から一緒に見直したそうです。
「自分ではわかったつもりになっていたけれど、パートさんには伝わっていなかった部分を、徹底的に洗い出してから、2回目の育休に入りました」
…結果、点数は95点!
今回は育休中にも仕事のことを考えることはなく、「本当に休めた!」という感覚がありました。
久保さんとお子さんとの2ショット。
2回目の育休中は、本当にのびのびとお休みを謳歌できたそう。
社長の「やってみなよ」が、新サービスへの始まり
物語が動いたのは、2025年11月14日のビジョンミーティング。KOBIRA社で半期に一度行われている全社集会です。
KOBIRAグループの「志(ビジョン)」の進捗を共有し 、社員一人ひとりの活動をKOBIRAの流儀(行動規範)に結びつけ、組織全体で学び合うための重要な会なのですが、その中で久保さんは、育休中につくった「引き継ぎシート」を会社に向けて共有しました。
スライド発表時の久保さん「こんな形にしたら、スムーズにいきました」「引き継ぎは、引き継ぐ相手を想像し、中身を可視化できるようにすることが大切です」など、今後、男性育休を取る人がいた時に困らないように、自分が試行錯誤するなかで得た学びを伝えるためです。
発表が終わりかけたとき、会場の後ろで見ていた社長がポツリと呟きます。
「これ、新サービスにできるんじゃない?」
久保さんはその瞬間のことを、こう振り返ります。
「びっくりしました。まったくそんなつもりはなかったですから。でも社長がそう言ってくれたのは、嬉しかったですね。」
久保さんはこの会で、
「KOBIRAの流儀を一番体現した人」に贈られるバリューアワードも受賞されていました…!
若手のホープと呼ばれる久保さん。今後もますます目が離せません。
引き継ぎシートは、あくまで「自分が休むため」に作ったもの。それが会社の新サービスになるなんて、想像すらしていませんでした。そこからエンジニアの見竹さんを中心とした新サービスを開発する部署にバトンが引き継がれ、約2ヶ月でかたちになります。
「この開発までのスピードも、KOBIRAらしいなぁと思うエピソードではありますね。」
久保さんの引き継ぎをナレッジに生まれたサービス「Tsuzuri」は、現在すでに公開されています!業務引き継ぎやナレッジ共有に課題を感じている方は、ぜひサービスページもご覧ください。※このサービスがどう生まれたのか、開発秘話は6月公開予定の続編で。
Tsuzuri | 業務引き継ぎ特化型ナレッジプラットフォーム
おわりに
取材中に久保さんは、KOBIRAをこう表現しました。
社会の標準に追いつこうとし、追い抜こうとしている会社───
115年の歴史の中で、「パパ育休」という初めての男性育休をとったこと。今では多くの企業が当たり前に取得するようになっている今、それだけなら決して驚くべきことではないかもしれません。
ただ、そのパパ育休でつくったシートを新サービスにまで発展させてしまうKOBIRAのスピード感は、まさに「社会に追いつこうとして、追い抜く」を体現しているエピソードではないかと思うのです。
育休を取ることそのものを、特別な美談にしたいわけではありません。
けれど、本人が安心して仕事を離れられ、家族も安心して新しい生活を迎えられるなら、そのための準備や仕組みに会社として時間を使う価値がある。
久保さんの育休から生まれた引き継ぎシートは、KOBIRAがこれから大切にしたい働き方の一つの形でもありました。
115年続く老舗が、「新しい老舗」として、今も変わり続けている。
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