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身元確認と当人認証で「機会が奪われない社会」を作る——Liquidが目指す滑らかな世界とは

「安全かつ利便性の高い本人認証ができるようになれば、選挙の投票機会や適切な医療を受けられる機会が広がる。機会を奪われない世界を作ることができます」。そう語るのは、株式会社Liquid 代表取締役CEO長谷川敬起です。「認証を空気化し、滑らかな世界を作る」をビジョンに掲げるLiquidがどんな道をたどってきたのか、これからどんな世界を実現しようとしているのか話を聞きました。

株式会社Liquid CEO 長谷川敬起 プロフィール

PwCコンサルティング株式会社を経て、株式会社ドリコムにてブログ事業、ゲーム事業、教育事業、広告・メディア事業などに携わる。子どもの誕生を機に、「あったらいいな」から「なくてはならない」ものを次世代に残したいと志向。Liquid前代表の久田康弘に出会い、そのビジョンに共感して、2016年11月株式会社Liquidに入社。

サービス利用の安全性と利便性を両立させる認証サービスを提供

——Liquidの提供するサービスについて教えてください。

Liquidでは認証サービスを提供しています。このサービスは正確には大きく2つに分けられまして、一つが身元確認サービスのLIQUID eKYC。もう一つが、当人認証サービスのLIQUID Authです。

このうち身元確認サービスは、政府など主に国が発行している公的な書類と本人性を確認したうえで、名前や生年月日、住所といったユーザー情報を登録するサービスです。それに対して当人認証は、そのサービスを使っているのが本当に登録されたユーザーなのかどうかを認証するサービスです。

インターネットサービスを利用しようとすると、大半はIDとパスワードで当人認証が行われます。パスワードを知っている人を本人だとみなしているわけです。しかし、この方法ではIDとパスワードが漏えいして「なりすまし」をされる事件が頻発しています。

影響力の大きな人がSNSを乗っ取られると、その不正はインパクトを持ってしまいます。金融サービスで乗っ取りが起きた場合には、誰であっても重篤な被害を生みます。そうした不正がコロナ禍の2年間で以前の10倍以上に増えていて、今後もますます増えていくと予想されています。

こうした事態になると、本人確認するためにいろんな情報を入力しなくてはいけなくなります。よくあるのが「秘密の質問」ですね。安全性を担保しようとするとあのような曖昧な記憶に頼った、煩雑な認証の手段がどんどん増えて、サービスの利便性が失われてしまいます。

Liquidでは物理空間であろうが仮想空間であろうが今後ますます増大する、人々がサービスを使う上で必要となる重要なデータのやり取りを、安全かつ簡単に提供したいと考えています。そのための1丁目1番地の基盤となるのが認証サービスです。

ビジョンを実現するために行った「選択と集中」でプロダクトをトップシェアに導く

——Liquid eKYCは現在、トップシェアのプロダクトに成長しています。このプロダクトが伸びた背景には何があったのでしょうか。

トップシェアをとれた理由はいくつかあります。1つは、LIQUID eKYCをリリースしたタイミングです。

そもそも、Liquidは絶対にeKYCがくると狙いすましていたわけではありませんでした。それまでは、ライブチケットの転売防止に生体認証を使ったり、銀行のATMで指紋と静脈を使った入出金のシステムを作ったり、テーマパークの場内で生体認証を使った決済をしてみたり。社会にとって安全かつ便利に本人認証をする重要な技術として生体認証を捉え、さまざまな社会実装を並行して試していたんです。

当時、欧米ではスマートフォンを使ってオンラインで完結する身元確認の方法が法律で認められ、日本でも金融庁が法改正に動くなど気運が高まっていました。我々も生体認証プレイヤーとして動向を追う中で、最終的にeKYCが来る可能性がある、ということでプロダクトの開発を始めました。

2018年にLIQUID eKYCをプレスリリースで発表した瞬間はものすごい問合せがありました。ほかのプロジェクトとの勢いの違いを感じて、そこからリソースをいっきにLIQUID eKYCに寄せたのです。この集中と選択によってプロダクトのクオリティを上げることができました。

スタートダッシュに成功した要因がもう1つあります。eKYCサービスにはネイティブアプリ形式とウェブブラウザ方式がありますが、当時ウェブブラウザ方式を開発したのはLiquidが初だったのです。

競合がネイティブアプリ方式を選択する中、なぜLiquidがウェブブラウザ方式を選んだのか。それは、金融機関がメインターゲットとなることがはっきりしていたからです。当初、住信SBIネット銀行さんと一緒にeKYCを展開することをプレスリリースに打ったところ、それに対する反響はほとんどが金融機関からのものでした。

銀行や証券会社の口座開設について、当時も今もスマホの口座開設専用アプリというものはあまり存在せず、PCやスマホからブラウザ流入で口座開設することが一般的でした。口座開設するためだけにアプリをダウンロードすることは離脱につながるからです。そこで、ウェブブラウザ方式による認証サービスのニーズが高まると予測をしました。もちろん、はじめからスマホアプリ提供が前提でPay系のサービスなどはそうではありませんでしたが、まず初期ターゲットを金融機関の口座開設においた場合は、ブラウザ重視、が結論でした。

一方で、ウェブブラウザでの生体認証はネイティブアプリよりもカメラ制御の難易度が高く、技術的には大きなチャレンジだったため、初期にブラウザから参入する事業者が他にいなかった側面もあったと思います。もともと自社で生体認証を開発していたこともあり、社内に画像認識に一日の長がある研究開発エンジニアがそろっていました。ブラウザ方式のほうが多くのニーズがとれると予測したことで、他事業からeKYCにリソースを移行し、集中して技術的なチャレンジを乗り越えることができました。

——もともと手広く展開していたところから、1つのプロダクトへの選択と集中。社内の雰囲気はどうだったのでしょうか。

やはりハレーションはありました。ただ、メンバーには「すべてはビジョンの実現のために判断する」というカルチャーが浸透しています。ビジョンを実現するためになぜこの判断をしたか、率直に、丁寧に、時間をかけて真摯に伝え続けました。

LiquidにはLIQUID Styleという行動指針があって、その中で「人を見て仕事をするのではなく、ビジョンの実現のため、ユーザーの価値のためにオープンに話し合いましょう」と掲げています。私から事業的な判断を発信したときに、それに対して思うことをメンバーが率直な意見をぶつけてくれる。そんな環境を作っているつもりですし、実際に反対意見も全然ありました(笑)。そこは真摯に向き合って考えと想いを交換し続けるしかないと思っています。

Liquidの技術であらゆる人が「機会を奪われない」社会を目指す

——Liquidでは「認証を空気化し、滑らかな世界を作る」というビジョンを掲げています。この言葉を踏まえ、未来に向けてLiquidがどんな世界を作ろうと考えているのか教えてください。

現在の社会においては、我々の情報の多くがGAFAをはじめとするメガプラットフォーマーに預けられている状態です。その中では、ケンブリッジ・アナリティカ事件のように意図せずデータが流用されてしまうような不正も起きてしまっています。

しかし、インターネットはもともと民主的なもののはずです。1990年〜2005年のインターネットは、1人ひとりのユーザーがネットの中で自己発信をしながらお互いの場を持っていた、牧歌的な時代でした。その後、ウェブ2.0といわれる2005年〜2020年の15年間で、情報を効率よく集約するプラットフォームが登場し、中央集権が強まったのです。

我々が作りたいのは、エンドユーザーが自分の意思で必要なときに必要なデータだけを必要な相手に提供し、より楽しかったり、過ごしやすかったりする社会を築いていくことです。ユーザーがここを通過したい、ここに入場したい、このサービスを使いたい、こういった気持ちがあるところにだけ自分の必要最小限の情報を都度提示して、自分が自分であることを認証し、自分の望み通りのサービスを使えるような社会をイメージしています。

世界の79億人の人たちが自分の主権のもとで、ただし難しくない形で情報を管理でき、行政や医療、金融や交通機関など世界中のあらゆるサービスにアクセスできる公益的な機能になることを、「滑らか」という言葉に込めています。

リアル社会であってもネット空間であっても、これからの世の中はデジタルアイデンティティが必要となるでしょう。そのデジタルアイデンティティを共通のものとしてユーザーが保持し、ユーザーの意思と承認さえあればあらゆるサービスを使える状態になる。我々はその「ハブ」を作りたいと思っています。

――具体的には、Liquidの技術でどんな世の中を目指していますか?

Liquidのビジョンが実現すれば、たとえば選挙の投票機会が広がります。選挙管理委員が投票所で選挙はがきを見て本人を確認しなくても、LIQUID eKYCで身元確認をすればスマホから安全にオンライン投票できる。これは今あるサービスレベルで十分にできうることです。

選挙だけでなく、オンライン診療とバーチャルリアリティ技術を組み合わせることで、離島に住む高齢者の方が東京にいる名医の治療を受けることができるようになります。身元確認で医師の資格証明ができれば、オンラインの向こう側にいるのが本当に医者なのかどうかの不安もなくなります。

このように、物理的制約、時間的制約などによって機会を奪われている人はたくさんいます。Liquidの技術を提供することで、時間や空間などのあらゆる制約によって「機会が奪われない世界」を作りたいと考えています。法整備が追いついていないなど実現に向けての壁はありますが、いずれそういう世界はやってくるでしょう。

国家間でもこうした話が進んでいて、ヨーロッパではeIDASというトラストフレームワークや、デジタル・アイデンティティ・ウォレットフレームワークなどが策定されてきています。これらは、国家間で共通したトラストのルールを策定し、その中でユーザーがIDを安全に利用できるようにする取り組みです。

GAFAのように中央集権的になるのではなく、決められたルールに則ってIDを利用することでエンドユーザー自身が主権を持ってIDの管理をする。これはLiquidがやりたいことに非常に近い動きですし、戦略上志向しています。

日本でもヨーロッパを追随する動きが出てきています。デジタル庁のデータ戦略推進ワーキンググループでこうしたテーマがディスカッションされていて、1〜2年後の法制化に向けて準備が進んでいます。

——こうした世界の実現を目指して、今後どんなプロダクトを展開していきますか?

LIQUID eKYCやLIQUID AuthなどBtoB向けの認証サービスとは別に、Liquid自身がフロントに立つデジタルアイデンティティサービスを開発しようとしています。

具体的には、App StoreやGoogle Playからアプリをダウンロードして、そのアプリでIDを発行します。このIDはLiquidがダイレクトでユーザーに発行するもので、ユーザーが望めばどの事業者ともつながることができます。

LIQUID eKYC、LIQUID Authは特定の会社に閉じた身元確認や当人認証のサービス。Liquidの新しいフロントサービスは、ユーザーの意思によってオプトインで接続先の事業者やサービスを選んで、簡単に本人確認ができるサービスです。

オンラインだけでなく、たとえばオフィスやマンション、遊園地、ライブ会場などで、スマホや顔だけで本人が認証されて入退場や決済をすることができる。対面、非対面に対応したサービスの展開を目指しています。

プロダクトの価値に向き合い共創する、自走する組織を作りたい

——今後、組織体制はどうなっていきますか。

現在は、R&D、アプリケーション開発、QAや営業、というふうに、職能別組織になっています。各職種ごとのノウハウの共有やキャリアパスの形成、育成をしやすい形を取っています。その上で今後ありたい組織像としては、eKYC、Auth、不正検知サービス、B2Cのフロントサービス、それぞれのプロダクトに関わっているすべてのメンバーが、そのプロダクトの価値に向き合って共創しているチーミングを強化していきたですね。コロナ禍を踏まえて、いかにみんなが熱量高くものづくりに向き合える組織を作るか。これからの自分たちにとって、その部分は非常に重要な課題だと考えています。

——ビジョンを達成していくにあたって、どんな人と一緒に働きたいと思っていますか?

「こういう社会になったらいいな」というLiquidの社員一人ひとりの思いは、映画やアニメ、小説など、人間の想像力の産物から描かれる未来から生まれています。こうしたSFコンテンツには、ユートピアもあればディストピアもある。ディストピアの中にもよさがあるし、ユートピアが描かれている中にもディストピアのような側面もある。こうしたパーツが社会のありたい姿として自分たちの記憶に蓄積しています。

Liquidではよりよい社会を作るため、認証の切り口から、今後も機会の創出や不便の解消といった社会問題に取り組んでいきます。そういった我々のビジョンに共感し、一緒に楽しみながら考えてくれる人と働けたらうれしいです。

もう1つ、これはスタートアップ全般にいえることですが、自走性・主体性の強い方とご一緒できたらうれしいです。こういう社会を作るために、どんな課題があるのかを自分で調べて、色々とみんなでチャレンジしていく。そういう意識の方とご一緒できたらと思います。

また、オープンマインドも重視しています。よりよい社会を作るために、ユーザーを見て仕事をし、何がBestかを遠慮なく議論し、よりよりものを生み出すことにみんなで集中する。そんな組織でありたいなと思っています。

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