2026年6月11日(木)/12日(金)に開催された「日経クロステックNEXT関西2026」において、スパイスファクトリー株式会社 代表取締役CEOの高木広之介が、「AIで完遂するシステム刷新におけるプロセス、ツール、人材の三位一体改革」をテーマに講演しました。
生成AIの急速な進化により、ソフトウェア開発のあり方は大きく変わりつつあります。しかし、高木が今回伝えたかったのは、単に「AIを活用すると開発が速くなる」という話ではありません。
AIによって開発の常識が変わる今、本当に変えるべきものは何か。
講演では、その問いに対するスパイスファクトリーの考え方と実践を、具体的な事例やサービスを交えながら紹介しました。
ホモ・サピエンスの知性は不要なのか。
講演は、生成AIが社会にもたらす変化について考えるところから始まりました。人間だけが担えると考えられてきた知的労働にもAIが浸透する中、高木は、参加者に「人間の役割とは何か」を問いかけました。
実際に、スパイスファクトリーの開発現場でも、AIによってジュニアエンジニアが担当していた業務の多くが自動化されつつあり、「将来、自分たちの仕事はどう変わるのか」という危機感を抱く社員も少なくありません。
しかし、高木はAIを悲観的な存在として語ったわけではありません。重要なのは、AIと競争することではなく、人間だからこそ担える役割を問い直すことだと語ります。
AIによって知的作業の一部を分担できるようになった今、人間は創造性を発揮し、課題設定や意思決定、新たな価値の創出により多くの時間を使えるようになっています。スパイスファクトリーが掲げる「360° Intelligence Firm」や「AI Enablement」という考え方も、こうした思想のもとに生まれています。
高木はまず本講演で、AIを人間の代替として捉えるのではなく、人間の可能性を広げるパートナーとして活用していく重要性を語りました。
速度と品質は、二律背反ではない。
続いて高木は、自社でも実践している『AI駆動システム開発』を紹介しました。
スパイスファクトリーではClaude CodeやCursorなどの生成AIを単なる開発支援ツールとして導入するのではなく、AIを前提として開発プロセスそのものを再設計しています。
その結果、
・工数は約10分の1
・生産性は約10倍
・トップエンジニアでは業界平均の241倍
という成果が生まれていることを紹介しました。
しかし高木は講演の中で、「AIを導入したから速くなった」のではないと強調。AIを開発工程全体で活用し、人は意思決定やレビューに集中する体制へ切り替えたこと、さらにAI自身も学習し続けるワークフローを構築したことが、生産性向上の本質であると説明しました。
さらに興味深いのは、「速度と品質はトレードオフではなくなった」という点です。スパイスファクトリーでは、AIによって生まれた時間を、ナレッジの検証や共有化、ガードレール整備へ充てることで、品質も同時に向上。要件定義や設計などの上流工程へ割ける時間は30%から80%へ拡大し、人間はより本質的な課題に向き合えるようになりました。
また、デザイン工程でもAIを活用することで、これまで1週間程度かかっていたプロトタイプ制作が数時間で完了するようになり、より多くのアイデアを短期間で検証できる環境が整っています。
スパイスファクトリーでは、より多くのアイデアを短期間で形にし、検証を重ねられるようになったことで、創出された時間をユーザーの真の価値を考える時間や改善に充て、プロダクト品質の向上につなげているのです。
AI時代、本当に変えるべきものは何か
AIによって、システム開発は劇的に速くなりました。しかし、その先で新たに見えてきた壁があります。高木は講演でこう語りました。
「圧倒的な『作る』速度の先に残ったボトルネックは、人間だった。」
実際に企業では、
・AIへの心理的抵抗
・合意形成
・部門間連携
・レガシーシステム
・SI業界の商習慣
などが、新たな課題として浮かび上がっています。
つまり技術ではなく、組織そのものがAI時代に追いついていない。
これが、高木が現場で見えてきた現実でした。
壁を壊す答えは、「人材・組織・基盤」の一体改革
そこでスパイスファクトリーが立ち上げたのが、『Spice AIイネーブルメント』です。
高木は、「Enablement」という言葉を、"代わりにやること"ではなく、"できるようになることを支援すること"と説明しました。
『Spice AIイネーブルメント』は、企業が生成AIを"使う"だけではなく、自ら活用・改善し続けられる状態を目指すソリューションです。
AI成熟度モデルをもとに、人材育成、組織設計、AIデータ基盤や業務ツールの構築までを一気通貫で支援し、「人材・組織・基盤」の3軸から企業のAI自走を実現します。
さらに講演では、この考え方を支えるサービスとして、『AIモダナイゼーション支援』も紹介されました。
本サービスは、既存システムのソースコードをAIで解析し、技術負債や依存関係、UX課題を可視化。部分改修か全面刷新かといった投資判断から、ロードマップ策定、実装までを支援するものです。AIによる解析とエンジニア・UXデザイナーによるレビューを組み合わせることで、経営と現場が同じ根拠を持って意思決定できる環境を提供します。
また、自社のAI活用レベルを約3分・15問で診断できる『AI駆動組織診断』も紹介。独自の「AI活用5段階モデル」と「人材・組織・基盤」の3軸から現在地を可視化し、企業ごとに次の一手を明確できる点をメリットとしてお伝えしました。
AIだけでは越えられない壁もある
AI駆動開発によって、生産性や品質は大きく向上しています。しかし高木は、「AIですべてが解決するわけではない」と、現時点での課題についても率直に語りました。
例えば、大規模で複雑なシステムでは、AI駆動開発の効果を、まだ十分に検証できていない現状があります。
オンプレミス環境や長年運用されてきたレガシーシステム、企業独自の複雑な仕様などでは、AIが扱える情報量や解析精度にも限界があり、現時点では期待した効果を得ることが難しい場面もあるといいます。
また、技術面だけでなく、
・AIを業務へ取り入れるための合意形成
・部門間の連携
・従来の開発プロセスや商習慣
など、人や組織に起因する課題も、AI活用を進める上で大きな壁となっています。
高木は、「AIモデルの性能は今後も進化していく」としながらも、その進化を待つだけでは企業変革は進まないと指摘しました。
だからこそ重要なのは、技術だけではなく、人材・組織・基盤を一体で変えていくこと。AI時代における競争力は、AIを導入した企業ではなく、AIを使いこなせる組織が持つことになると語りました。
「作る」その先へ。
講演の冒頭、高木はAIを「希望であり、脅威」と表現しました。
その言葉には、AIが社会にもたらす可能性と、人間の役割が大きく変わろうとしている現実、その両方が込められています。
しかし、今回の講演を通じて高木が伝えたかったのは、AIを恐れることでも、無条件に受け入れることでもありません。
AIという新たな知性を前提に、人は何を考え、どのような価値を生み出すのか。そして、企業はどのように人材を育て、組織を変え、未来へ向けた基盤を築いていくのか。その問いに向き合い続けることこそが、AI時代に求められる変革であり、スパイスファクトリーが掲げる「AI Enablement」の本質です。
AIによって"作る"ことが容易になった今、本当に問われているのは、その先にどのような価値を生み出すか。
スパイスファクトリーはこれからも、『Spice AI Enablement』をはじめとするサービスを通じて、企業のAI活用を支援するとともに、人とAIが共創する新たな価値創造に挑戦してまいります。