※こちらの記事はCULUMU公式noteからの転載です(2025年11月11日掲載)
CULUMUのデザイナー、川合と申します。
今日はお集まりいただきありがとうございます。
今日私は、「稼ぐためだけではなく、還すためのデザイン」というテーマでお話をしようと思います。よろしくお願いします。
「デザイン=$」への違和感
みなさん、デザインは今、非常に経済性に対して、強い期待であったり、関心を持たれていると思います。これは2015年、元MITメディアラボ副所長のJohn Maeda (ジョン・マエダ)氏が、デザインをこのように表現したものです。見て分かる通り、S(エス)の字が💲(ドル)になっているわけです。
いかがでしょうか? 私も実際に企業に所属する中で、事業のKPIを追いかけ、事業成長の期待に応えなければいけない、ということを強く感じるようになりました。
一方でこの表現は非常に印象的で、まだ駆け出しのデザイナーであった私にとって、「本当にこれだけなのか?」と、少しモヤモヤしたのを覚えています。
デザイナーとして、どう生きていくか
みなさん、人生の目標ってありますか? 私自身、生涯にわたってデザイナーを続けたいと思う中で、10代の頃は「社会に誇れるものを作りたい」「誰かのためになりたい」といったシンプルな目標でした。しかし、デザインを学び、仕事をする中で、スキルを磨く必要や、お金を稼がないと仕事を続けられないといった現実があり、非常に複雑性が増してきました。
そして30代になり、一定のスキルは身についてきた。その中で、これからどう生きていくのか、どんなデザインと向き合っていくのかが、まだまだモヤモヤするというのが、正直なところでした。ただ一方で、少し変わったこともありました。自分を表現するような「利己的」なデザインだけでなく、仲間や、誰かのために、社会のためにといった「利他的」な関心が、30代あたりから増えてきたのです。
デザイナーとして、どのような人生目標を掲げるか?
私にとって、二つの大きな経験があります。 ひとつは、オーストラリアのデザイン会社に就職したことです。多国籍・多文化のデザイナーやエンジニアと話す中で、デザインの価値観は国や人それぞれで、固定化されるべきではないと強く感じました。そこには、お互いを認め合う文化がありました。
もうひとつは、芝浦工業大学の非常勤講師として約10年間、学生と向き合った経験です。教える中で、「デザインは自分の可能性を示すことであり、誰かの成長に繋がり、根源的には喜び合う・楽しむことなんだ」と、私自身が改めて気づかされました。
「願い」との出会い
そんな中、ひょんなきっかけから、多様な当事者と共創するデザインスタジオを立ち上げることになりました。「多様な人を包む」、そんな価値観・社会を目指したいという想いを込めた、インクルーシブデザインスタジオCULUMUを設立しました。
多様な当事者と共創するデザインスタジオ
私たちが大事にしているのは、企業の方、高齢者支援を行うNPOの皆様、盲導犬と生活する方、認知症の家族がいる方…そういった多様な方々と「一緒になって答えを見つけていく」プロジェクトです。
デザインスタジオという場を通して実現したいのは、誰かが一方的に「する/される」関係ではなく、チームとして答えを見つけにいくこと。プロジェクトを通して、デザイナー自身も成長し、価値観を広げていく。自分自身が変わっていくことが、継続的にプロジェクトに取り組む上で、非常に重要な土壌になるのではないかと考えています。
そして、ここからは私自身のストーリーをお話しさせてください。
「還すデザインとは何か?」についてです。
今日の主人公は、私の息子になります。 まもなく4歳になるのですが、1歳の時に発達障害の診断を受けました。CULUMUをスタートさせたばかりの時期に、急に家族の障害に向き合うことになったのは、自分自身とても驚きでした。
息子の診断はASD(自閉スペクトラム症)という、いわゆるコミュニケーション障害です。視覚優位なため、言語や聴覚でのコミュニケーションが少し苦手です。保育園で一人で遊ぶことが増えたりもします。
文部科学省の調査では、小中学生で、学習面または行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が8.8%が何らかの発達障害の可能性を抱えているとされ、決して特別なことではありません。我が家でも、PECS(ペクス/Picture Exchange Communication System)という絵カードを使ったコミュニケーションツールを取り入れるなど、専門家の方と一緒になって日々試行錯誤しています。
そんな子供と向き合う中で、楽しさがある反面、ひとつの問いが生まれました。「私にとって、家族にとって、息子にとって、障害は“誰の”問題なのか?」
障害は「誰」の課題なのか?
みなさん、いかがですか? 簡単に答えると「息子の問題」とすることもできます。でも、〝家族〟というフィルターを通すと、子供自体を問題視することは難しい。そう考えたときに、ひとつの答えが見つかりました。それは「願い」なのではないか、と。
「息子が大人になった時に豊かに暮らせる社会であってほしい」
「何かしらの支援が当たり前に受けられるようになっていてほしい」
そういった「願い」を思うことが、家族としては自然でした。問題の矢印は個人ではなく、その個人を取り巻く社会、つまり教育、地域、就労といった仕組みに向けられるべきではないかと考えるようになったのです。
この子供への「願い」が心の中にあることで、不思議と様々なプロジェクトが、これまでとは違って見えるようになりました。「願い」は新しいきっかけを生み、人と人を繋ぎ、形になった時に喜びを生む。そう確信するようになったのです。
「願い」から生まれたプロジェクト
今日はその「願い」を形にしたプロジェクトをいくつかご紹介します。
誰かの願い
プロジェクト①
大阪の小学校リニューアル 老朽化した小学校の改良工事です。
私たちは設計の初期段階から、特別支援教育の専門家であるNPOの方、発達障害の児童を持つご家族、そして卒業生にもチームに入っていただきました。 印象的だったのは、嗅覚が敏感だった卒業生から聞いた「給食の匂いが漂ってくると、それだけで気持ち悪くなってしまった」というエピソードです。そういった一人ひとりの「願い」を建築士の方と一緒に紡ぎ、設計に工夫として取り入れていきました。このプロジェクトを通して、本来目を向けるべきは、そこで過ごす子どもたち一人ひとりなのだと、改めて実感しました。
プロジェクト②
フットマーク株式会社の学生鞄 もともと水泳帽子を作っていたフットマークさんは、身体が不自由な方や発達障害の子どものために、布製の軽いランドセルを開発した会社です。
私たちは、実際に発達障害の子どもがいるご家庭を訪問し、そこにあるたくさんの「願い」が詰まった工夫をヒアリングしました。フットマークさんは「1/1(いちぶんのいち)の視点」という言葉を大切に、誰か一人の困りごと、誰か一人の「願い」を拾い上げ、学生鞄をアップデートし続けています。
プロジェクト③
日本財団のダイバーシティ・カンファレンス 当初の依頼はWebサイト制作でしたが、私たちは「プロセスを通して多様性を知ってほしい」という想いから、子どもたちと一緒にクリエイティブを作るワークショップを追加で提案しました。
ろう学校の子どもたちや、特別支援学級と通常学級の子どもたちと一緒に作品を作る。このプロセスは、イベントを成功させるだけでなく、関わるスタッフ全員がカンファレンスの本当の意味を考える、かけがえのない機会になっています。
これからのデザイナーは、「稼ぎ、還す」循環の中へ
こういった「願い」は、本当にたくさんある。 私たちは、子どもたちの「願い」をみんなで考えるワークショップを企業向けに提供したり、大学の研究として障害を持つ家庭がどんな苦労を抱えているのかを伝える活動にも関わっています。私自身も、今年から大学の博士課程に入学し、PECSの研究を始めました。「願い」は、人生を探求するための、ひとつの道しるべになると感じています。
振り返り
本日のまとめになります。
「願い」というのは、日本のものづくりにおいて、非常に中心にあるべき存在だと考えています。 例えば、HONDAのスーパーカブは、創業者の本田宗一郎氏が、お蕎麦屋さんの出前の方が小回りを効かせられるように、という「願い」から生まれたと言われています。TOTOのウォシュレットも、元々は病院で体を清潔に保つための「願い」から生まれた商品です。日本のものづくりには、これからもずっと「願い」が大事になってくるのではないでしょうか。
そして私たちデザイナーは、これからも人間がデザインをし続ける、という循環の中にいます。だとしたら、ずっと稼ぐわけにはいかず、稼ぎながら「還していく」という循環が成り立つと、もっともっとデザインが豊かになるのではないか。そう思っています。
「稼ぐ」⇔「還す」
私自身、ずっと野球をやっています。「礼に始まり礼に終わる」という教えを受けました。デザインの場は、まさしく野球と同じフィールドです。デザインがもっと豊かになるには、私たちも社会に何かを「還していく」必要があるのではないでしょうか。
本日の話は、私のひとつのエピソードではありますが、今日聴いてくださった皆様と一緒になって、稼ぐだけでないデザインについて、もっと語っていければと思っています。
ご清聴ありがとうございました。
CULUMU 川合
CULUMUは、多様な人々・社会と共創する インクルーシブデザインをリードするデザインスタジオです。
高齢者や障がい者、外国人など、これからの社会において多様な人々の声を取り入れられる(モノづくりの上流プロセスから巻き込む) ユーザー中心のアプローチをモノづくりの当たり前にします。
CULUMUと一緒にできること サービス一覧
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