探究学習塾での経験から、子どもたちと「学ぶことの楽しさを分かち合いたい」と思い、新卒で小学校教員になった話。
今回は、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローシップ・プログラムの第10期生で、現在も赴任先の小学校で教員としてご活躍の米澤新大さんに登壇いただきました。大学時代に関わった探究学習塾で、子どもたちが前のめりに学ぶ姿に出会った米澤さん。教員免許を持たず、新卒のタイミングでTFJに参加し、福岡県の小学校で子どもたちと向き合ってきた3年間の歩み、そして来年度から大学院で学ぼうとしている理由を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。(※本記事は、2025年3月に行われたイベントのレポートです。)
米澤 新大さん(Teach For Japan フェロー第10期生/小学校赴任)
大学時代、民間の学習教室が行う探究型の授業で子どもが好奇心を持って前のめりに学ぶ姿を見て、人の学びに関わってみたいと思う。より近い場所から子どもの学びに関わり、学ぶことの楽しさを分かち合える教室をつくりたいと思い、Teach For Japanフェローシップ・プログラムに応募。フェロー第10期生として新卒で福岡県の小学校に赴任し、現在も同校で6年生担任として教壇に立っている。現場での経験をもとに教師の学びや成長に関心を持ち、来年度大学院へ進学予定。
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「学びって、確かにこういう形だったよな」と思った
ーまずは自己紹介をお願いします。
米澤新大です。Teach For Japanのフェロー第10期生として、福岡県の小学校に赴任しました。1年目は2年生の担任、2年目は5年生の担任をして、フェローシップ・プログラム修了後も教員を続けています。今は3年目で、3月まで学校で教員をしているところです。
ーフェローシップ・プログラムに参加する前は、どのような学生時代を過ごしていましたか。
僕は新卒でTFJに参加したので、大学時代の話になります。大学に入った時は、教員になりたいとは全く思っていませんでした。教員免許も取っていません。
大学では、1、2年生の間にいろいろな科目を取りながら、何を勉強しようかなと考えていました。3年生の時に、教育が自分の原体験と重なるところがあって面白そうだなと思い、専攻として学び始めました。
タイトルにもある探究学習塾は、大学3年生の途中ぐらいから、友人に誘われてアルバイトのような形で参加していたものです。その塾は、勉強を教えるというより、宇宙や歴史など、いろいろなトピックやテーマを6回、8回の授業を通して学んでいく中で、子どもたちの興味関心を広げていくことを狙った場所でした。
そこでの子どもたちの様子が、好奇心にあふれているというか、熱狂的に学んでいく姿だったんです。自分が今まで受けてきた、机に座って授業を聞く形とは違うけれど、「学びって、確かにこういう形だったよな」と、「自分が学ぶ時にも、こういう感情があったよな」と共感して、「こういうものを作る人になりたい」と思うようになりました。
「教員はありえない」と思っていたところから、教育へ
ー大学進学時点では、教育や教師に対してどのような思いがありましたか。
正直、学校や先生との関わりがそんなに得意ではなかったので、「教員になるのはありえないだろうな」と、高校の時や大学に入った時は思っていました。
ただ、大学で教育の歴史や西洋教育の思想などを学びながら、「教育とか学びって、こういう考えで作られているんだ」と感じることがありました。同時に、自分が学校で得た学習経験や、自分の勉強の仕方、自分がいた学校のことを振り返りながら授業を受けていて、それが面白いなと思った記憶があります。
教育について学んだり、探究学習塾での経験をしたりする中で、少しずつ興味が出てきたのだと思います。
ー大学生活での経験が、教員を目指すことにつながったのですね。
そうですね。ただ、その塾は民間の場なので、来られる子どもたちがある程度限られているなという感じもありました。アルバイトとして関われるのも週に1回ぐらいだったので、もっと子どもの学びを身近なところで見ていきたい、伴走したいという気持ちがありました。
教員は、毎日同じ子どもたちと出会える。そこはいいなと思って、応募につながっていきました。
「2年間、一生懸命やってみる」ことに惹かれた
ーどのようにTeach For Japanと出会ったのですか。
最初は知り合いから聞きました。交換留学でデンマークに行ったことがあるのですが、その時に出会った別の大学の友人が、将来どうするかという話の中で「Teach For Japanを考えている」と言っていたんです。
当時の僕は、自分が参加することはないだろうと思っていました。でも、学校現場に関心を持ち始めた時に、どこかでもう一度Teach For Japanを目にする機会があり、「ありだな」と思いました。
ー新卒での進路選択として、他の選択肢や不安はありませんでしたか。
就職活動をしなきゃいけないとは思っていたのですが、なかなか前向きになれませんでした。企業の業務内容などを聞くことはできるけれど、「自分がそれをしたい」となかなか思えなかったんです。業務内容も分かるし、いい人がいるのも分かるけれど、なんか違うなと思って、仕事探しが全然できていませんでした。
その中で、TFJの「教室から世界を変える」という言葉に、ちょっと面白そうだな、そこに参加できたらいいなと思いました。
あとは、2年間という期間がある程度決まっていたことも大きかったです。長い期間で見るというより、とりあえず2年間、一生懸命何かをやってみる。その方が正直、自分にはモチベーションがありました。だから、「もうこれしかない」と思って受けました。正直、受けたのもここだけです。
現場に繋がる学習科学と授業づくりの面白さ
ー赴任前研修で印象に残っていることはありますか。
僕の中で一番楽しかったし、現場でも役に立っていると思うのは、学習科学の研修です。授業づくりに関連して学習科学について学べる時間が、結構楽しかったです。
毎回、指定された本や章を読んできて、その内容を自分なりに考えた上で、フェロー同士で話し合う。その流れが、学びとしても、学習のサイクルとしても楽しくて、毎回研修が楽しみだなと思うぐらいの感じで参加していました。
そこで、授業づくりの仕方や、授業で目指す子どもの姿に対してどんな学習活動を組んでいくのか、その目指す姿が達成できたかをどう見取るのか、反省して次の授業づくりに生かすことなどを学びました。模擬授業でも、学習科学の内容と絡めて学べたので、その視点は今も現場で生きていると思います。
ー研修の中で、ご自身の変化や成長を感じたことはありますか。
自分のビジョン、つまり2年間の中でどんなことを達成したいのかを考えるプロセスがありました。自分はやっぱり、授業づくりや学び方に思いがあるんだなということを、少しずつ確認していった感覚があります。
うまく言語化できないなと常に悩んではいました。でも、学習科学で書かれているような授業や学びの作り方を学校で実践したいという気持ちは、何度も確かめながら進んでいったと思います。
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「探究心でつながる教室を作る」ための現場での実践
ー現場に出る時点で、どのようなビジョンを持っていましたか。
当時立てていたビジョンは、「探究心でつながる教室を作る」という言葉でした。
意味としては、子どもが主体的に「これを学びたい」と思うテーマを一人ひとり持っていて、その面白さやワクワクを教室で分かち合うことで、関係性も結果的に深まっていく。学びがどんどん深まる居場所としての教室でありたい、という思いでした。
ーそのビジョンを実現するために、学校現場ではどのような取り組みをしましたか。
正直、夢を持って現場に行ったけれど、結構難しかったという印象があります。学校の中では、やらなければいけないカリキュラムや教科書の内容があります。それと、好奇心で学ぶことをどう結びつけてやっていくのかが、自分のテーマでした。
例えば、社会科の授業では、知識構成型ジグソー法(詳細はこちら)のような考え方を使って、子どもたちがいろいろな視点から考えられる授業を作りました。黒船が来た歴史の授業で、文化的な側面から考える人、国力の差を見る人、当時の外国や中国の状況から考える人など、いろいろな視点を持った上で、「あなたなら外国の要求を受け入れますか、受け入れませんか」と考える授業をしました。
そういう時、子どもたちは話し合いを楽しそうにしていました。視点が違うので、最終的には意見が分かれることもありました。一方的に教えるだけではない授業を意識してやったところが、自分のビジョンとつながっていたと思います。
総合の授業では、子どもたちが主体となって学びを作っていくことを目指しました。学校の課題解決というテーマを置いて、みんなで学校の中を歩き回り、もっと良くできるところは何かをひたすら見つけていきました。
その上で、自分たちがやりたいテーマを決め、同じことをやりたい人たちでチームを作って、解決するための方法を考えていきました。その時、子どもたちが自分ごととして話していたんです。「こういうことをやろうよ」「この方法、面白そうじゃない?」「こうしたら解決しそう」と、自分たちで話し合いを進めていく姿が見られました。
主体性を信じた先の子どもたちの変化
ー子どもたちの変化や成長を感じたことはありますか。
担任した子どもたちは、2年生も5年生も、素直で、何でも一生懸命頑張る子たちでした。教員から出されたものに対しては、真剣に取り組む。そういう子どもたちだったと思います。
でも同時に、何でも自分で自由に決めることや、学級会などで話し合いを進める時には、なかなか意見が出てこないこともありました。教員から出されたものには一生懸命答えるけれど、レールがないことにあまり慣れていないのかなという印象を受けました。
だから、子どもたちには「自分たちで行動を起こしていい」「自分たちの意見を発していい」と思ってもらいたかったんです。授業の中で、自分たちで話し合える隙間を設定していくことで、少しずつ話し合いが活発になっていきました。
宿題が多いことへの不満なども含めて、素直に意見を言っていいんだというカルチャーが、少しずつできていったのかなと感じています。
ー子どもの主体性を信じる姿勢は、探究学習塾での経験ともつながっているのでしょうか。
そうかもしれません。学びだけではないかもしれませんが、自らの力で行動していくことや、自分の方向を決めていく力は、人が自分で学ぶ力とも関係しているのかなと思います。
子どもの主体性を信じたいという思いは、もともとあった経験から来ているのかもしれません。
「どうしたらいいんだろう」を、毎日考えていた
ー初めての社会人、初めての場所、初めての教員だったと思いますが、何か大変だったことはありますか。
正直、1年目はすごく大変でした。仕事の仕方も分からないし、生活も新しかったし、教員が初めてだったことが結構しんどかったです。
理想は持っていました。でも実際の教室には26人、27人の子どもたちがいます。その子たちと関わりながら、「学びで関係性が築かれる」という理想を実現していくのは、かなり難しかったです。
まず、授業をどう成立させるのか。2年生だと、授業を受けたいと思っているかどうかも子どもによって違います。全員に目を配れない状況の中で、正直、まずは座っていてほしいと思うこともありました。そこがうまくいかない時に、「どうしたらいいんだろう」と悩むことが結構ありました。
ーその悩みに、どのように向き合っていきましたか。
対応策が分からないので、ひたすら周りの先生に聞いていました。隣の教室の先生に、毎日終わった後、「今日こういうことがあったんですけど、どうしたらよかったんですかね」と相談していました。
教えてもらった技術を次に使ってみる。でも、うまくいかないからまた相談する。周りの先生に聞いてみる。その繰り返しでした。ひたすら、「次はどうしたらいいんだろう」と考えて、「次はこれをしてみよう」とやっていました。
ー取り組んでいく中で、見えてきたことはありましたか。
子どもたちは、授業中や宿題もすごく頑張ってくる。その頑張りをどれだけ見逃さずに、「あなたのことをすごいと思っているよ」と伝えられたか。廊下移動の時に、周りを見て行動できたことを価値づけることもあるし、友達に優しく声をかけてくれてありがとうと伝えることもある。
少しずつ、教員としてのスキルというか、子どもに対する声かけや、子どものどこを見るのかが養われていったと思います。
子ども同士の人間関係ーお互いの良い面を見える様にする仕組み
ー子ども同士の人間関係で悩むこともありましたか。
大人からすると小さいことに思えることでも、子どもにとってはそうではない。その上で、どうやって子ども同士の関係を作っていくのか。相手に悪い印象を抱いたり、喧嘩になったりする中で、人と人は仲良くなれるんだよ、相手が考えていることと自分が考えていることを合わせて考えたら関係性は作れるんだよ、ということをどう伝えていけるのか。そこは悩みました。
ーそういった悩みをもつ中で、日々の教室で意識していたことはありますか。
TFJの研修でGood & New(直近の良かったことや新しい発見を共有する取り組み)をやったことがあり、その日あった良かったことや新しいことに目を向ける取り組みが面白いなと思っていました。それを、自分のことではなく「他の人バージョン」として、教室の後ろの黒板に貼っていました。
「他の人がこんないいことをしていた」と書いて、次の日の朝の会で全部共有するんです。「昨日こんないいことがあったんだよ」と伝える。普段は見えない友達のいい面や、印象が悪くなっている友達にも実はいい面があるということを見えるようにすることが大事だと思っていました。
そういう積み重ねがあれば、仲良くなれるんじゃないかと思っていました。
現場への解像度が上がったフェロー期間
ーフェローシップ・プログラム全体を通して、ご自身が変化したこと、成長したことはありますか。
一つは、日本の学校現場がどういう場所なのかを知れたことです。1年の中でどんな行事があるのか、先生たちはどんな仕事をしているのか、子どもたちはどんな様子なのか、保護者の方はどんなことを思っているのか。今まで知らなかったり、見えなかったりしたものが見えました。
ーフェローシップ・プログラムに参加してよかったことは何ですか。
最初に理想を描いて学校現場に入り、そのためにどんなことをしようかと考えながら、日々の生活を過ごした経験ができたことは大きかったです。
正直、現場にも恵まれていました。周りの先生方も、自分がやりたいと思ったことをやらせてくれました。総合の授業でも、「こういうことを思っているんですよね」と話すと先生方が聞いてくれました。
自分の中で目指しているものに対して、少しずつでも進んでみる経験ができたことは、よかったなと思います。この経験はこれからも活きると信じています。
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より良い教職員集団のために、学校現場から大学院へ
ーフェローシップ・プログラム修了後も教員を続けた理由を教えてください。
3年目を選んだのは、自分が目指している学びに対して、もっとやってみたいなと素直に思ったからです。学校が楽しかったこともあります。
2年目に5年生を担任していて、その子たちと過ごすのが楽しくて、もう1年過ごしたいと思いました。持ち上がりをしたいと希望して、もう1年間続けたいと思って決めました。
ーもう一年ということですが、来年度はどのようなキャリアを考えていますか。
大学院への進学を考えています。
「分かち合う」ということが最初から自分の中にありました。教員同士も新しい目標に向かって、みんなで学びを分かち合いながら進んでいけたら、もっと学校は良くなりそうだなと漠然と考えていました。
ただ、教員同士で協働して新しいことをするのは、なかなか難しいとも感じました。自分は一つの学校しか経験したことがないし、企業なども見たことがありません。教育をさらに良くしていく教員の集団を作るにはどうしたらいいのか。それを学びたいと思い、大学院への進学を決めました。
Q&A
Q:現場に赴任してからも、フェローの仲間とは関わりがありますか?
A:僕の場合は結構ありました。福岡県にフェローがいるので、近くに住んでいる人たちとも関わりがありました。今住んでいる場所にもTFJのフェローが一緒に住んでいたりするので、10期生だけではなく、いろいろな期の人たちと日々関わっていました。
オンラインで集まりましょうと声をかけてくれる同期もいたので、そういう時に参加して、他の地域の人と話すこともありました。定期的にちょくちょく関わりはあったと思います。
ー最後に、応募を検討している方へメッセージをお願いします。
教育って、みんな何かしら原体験を持っていて、関心を持つことができるものかなと思っています。そういう意味では、自分の中にある思いを、2年間で学校に落とし込んでみることができる。それが、TFJのプログラムのすごくいいところだと思っています。
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