応募があっても「右腕」が見つからない理由。――採用のミスマッチを減らす、見極めの“視点”
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「特定建設業の許可を取って、これから大規模のプロジェクトが動き出す。でも、現場を任せられる『右腕』がいないんです」
建設会社を営む女性社長とWEBでお話しした際、そんな切実な言葉をぶつけられました。多数の応募があっても、採用した人が数ヶ月で現場を去ってしまう。社長としての自信を失いかけている、その「痛み」が真っ直ぐに伝わってきました。
建設業界は今、大きな転換期にあります。 デジタル化が進む一方で、最後は「現場の人間力」がすべてを決める世界。 そこで直面する「採用のミスマッチ」をどう解消すべきか。面談を通じて見えてきた、選球眼の養い方について整理します。
1. 「デジタルな回答」の裏にある「アナログな資質」
今はAIを使えば、完璧な志望動機や非の打ち所がない履歴書を誰でも作れる時代です。しかし、建設現場という「嘘がつけない場所」で本当に必要なのは、整った言葉ではありません。
私がその社長に提案したのは、面接室の「外」にある行動に目を向けることです。
- レスポンスの「体温」: 事務的なやり取りの中に、相手(会社)への想像力があるか。
- さりげない瞬間の振る舞い: 面接中、スタッフがお茶を出した瞬間に、その人はどんな目をし、どんな言葉をかけるか。
感謝の質や周りへの気配りといった「OS(人間性)」の部分は、面接の受け答え以上に、こうした細部に宿ります。スキルは後から上書きできても、OSの書き換えには時間がかかる。だからこそ、ここを評価のセンターピンに置く必要があります。
2. 「誠実なデメリット」こそが最強のフィルター
「せっかく応募してくれたのだから、会社の良いところを見せて、なんとか入社してほしい」 そう願うのは経営者として当然の心理です。しかし、その優しさがミスマッチを生みます。
「現場は夏は暑く冬は寒いし、緊急の対応も入る。アットホームだが、プロとしての規律には厳しい」
こうした「不都合な真実(RJP)」を、選考の初期段階であえて提示すること。 これによって、「イメージと違った」という早期離職を未然に防ぐことができます。
「それでも、この社長と一緒に面白い仕事がしたい」 そう言って残ってくれた人こそが、荒波を共に越えていける真の仲間になるのだと私は考えています。
3. 「直感」を「組織のルール」へ昇華させる
多くの修羅場をくぐってきた経営者の「直感」は、実はかなり精度が高いものです。しかし、直感だけでは組織としての再現性がありません。
今回、私たちが取り組んだのは、社長の頭の中にある「いい人」の定義を言語化することでした。
- 責任感: 投げ出さずにやり遂げる執着心。
- 素直さ: 自分の非を認め、学び続ける柔軟性。
- マナー: 現場の職人さんや施主様に信頼される立ち振る舞い。
これらを「どの選考ステップで、どう確認するか」を型にする。 そうすることで、経営者の「感覚」が「組織の力」へと変わっていきます。
「いい人だと思ったのに、なぜ……」 その問いの答えは、面接のテクニックではなく、採用というプロセスの「設計」の中にあります。
建築と同じで、採用も基礎工事がすべて。 理論上の正解を追うのではなく、その会社の「現場」が持つ固有の熱量に合った評価軸を、一つずつ積み上げていきたい。
「選んで良かった」と、経営者と応募者の双方が心から思える未来のために。