前の記事で、「定着」は本当に正しいのか、という問いを書きました。3年で辞めるのは、悪いことなのか。会社の側から見ても、働く人の側から見ても、定着=正解とは言い切れない。では、定着のかわりに何を目的に置けばいいのか。その続きです。
前編がまだの方はこちらから読んでいただけると、
話がつながりやすいと思います。
「はたらくの出口戦略」という言葉
定着について考えているうちに、自分の中から出てきた言葉があります。「はたらくの出口戦略」です。
言葉だけ聞くと、働くことから逃げたい、早くリタイアしたい、という意味に取られそうです。でも、そういう話ではありません。
人生の大部分に、はたらくという時間がある。その横に、プライベートや趣味や、人との出会いが並んでいる。多くの人はこの構図で生きていると思います。私が考えているのは、構図そのものを変えられないか、ということです。
はたらくの出口には、たぶん、はたらくがある。ただし「はたらかなければいけない」という思想からは抜けている。人生の中に、はたらくが自然に溶けている。時期によって比重が大きくなることもあれば、小さくなることもあって、それを自分で選び、設計できる。そういう状態を指して、出口戦略と呼んでみたいと思っています。
「生活のために働く」から、どう抜けるか
もう少し具体的に書きます。
いま多くの人にとって、仕事は生活のためにお金を稼ぐ手段です。そしてそれが大半を占めている。仕事は食べるためにやるもので、本当にやりたいことは仕事の外にある。そういう分け方が当たり前になっています。
ライスワークとライフワーク、という言い方をすることもあります。ライスワークは食べるための仕事、ライフワークは自分の人生をかけてやりたい仕事。仕事の中にライフワークという発想がそもそも無い、という人も多いのかもしれません。
私が変えたいのは、この分け方そのものです。ただ、いきなりそこには行けないので、段階があると思っています。
まず入口として、ライフワークと呼べるものに割く時間を、少しずつでも増やしていきたい。「食うためだけの仕事」という考え方を、できるだけ捨てていきたい。ライスワークの分量が下がり、ライフワークの分量が上がっていく。まずはその方向に動かしたい。
ただ、それだけだと「好きなことをやろう」という話に聞こえてしまいます。私がやりたいのは、その先です。
ライスワークとライフワークを別々のものとして置いておくのではなく、結びつける。仕事の中に、自分が人生でやりたいことが含まれている状態を、偶然ではなく設計としてつくる。ライフワークとライスワークが統合されていく。そういう仕事の設計が必要なんじゃないか、といまは考えています。
そうなったとき、3年で辞めることの意味も変わってきます。3年で辞めたという事実ではなく、その3年が自分のライフワークとどれだけ重なっていたか。見るべきはそちらではないかと思うんです。
好きなことを仕事にして、4年で辞めた
自分の話を少しします。
私は20代のはじめ、お笑い芸人をやっていました。好きなことを仕事にしていた、と言えば聞こえはいいのですが、4年ほどで辞めています。
嫌いになったから辞めたわけではありません。ネタを考えるのも、舞台に立つのも、最後まで好きでした。人に話せば「面白いことやってるね」と言われる仕事でもあって、自分でもそれなりに誇りは持っていたと思います。
それでも続かなかった。理由をあとから言葉にすると、成長している実感が持てなくなったからです。
去年と今年で、自分が何をできるようになったのか。この先、何ができるようになるのか。そこが見えなくなったとき、「好き」だけでは支えきれなくなりました。生活のこともあります。でも本当に効いたのは、お金より、その先が描けなかったことのほうでした。
この経験は、いまの仕事の見方にそのまま残っています。
好きだ、誇れる、という気持ちは土台として必要です。でも、それだけでは足りない。その上に成長の機会と実感が乗っていないと、人は続けられない。逆に言えば、辞める人を「情熱が足りなかった」で片づけるのは、たいてい間違っています。
少し長くなってきたので、ここで一度ひと休みを。
私は株式会社HaReエージェンシーという、採用と人事の会社をやっています。「誰もが晴れやかな表情ではたらける社会を築く」というパーパスを掲げていて、この記事で書いているようなことを、日々考えながら仕事をしています。どんな会社なのか、よければ覗いてみてください。
👉 株式会社HaReエージェンシー
はたらくのROIを、ちゃんと考える

私が芸人を辞めたときに起きていたのは、突き詰めるとこういうことでした。4年という時間を投じて、その先に何が積み上がるのかが説明できなくなった。投じたものに対して、返ってくるものが見えなくなった。これは、はたらくのROI(投資対効果)が合わなくなった、ということだと思っています。
まず、働く人の側から見てみます。
投じているのは、お金ではなく時間です。1日8時間、週5日。20代の3年間は、二度と戻ってきません。しかもその時間は、人生でいちばん伸びる時期と重なっている。毎日、かなり大きなものを出していることになります。
では、何が返ってくるのか。報酬はもちろんあります。でも、それだけではありません。できるようになったこと。任された経験。一緒に働いた人との関係。そして、次に進むときに使える力。この4つが、投じた時間に対するリターンだと思っています。
判定はわりとシンプルで、「この会社で自分は何ができるようになったか」を自分の言葉で語れるかどうかです。語れるなら、その期間のROIは出ている。語れないなら、たとえ在籍していても、投じた時間は回収されていない。
ここまでは働く人の側の話です。では、企業の側はどうか。ここが一番悩ましいところです。
先に本音を書きます。私は経営者として、人に出ていってほしくはありません。半年で抜けられたら普通に困ります。だから「どうぞ自由に出ていってください」という制度をつくりたいわけではない。
そのうえで、いま考えていることが3つあります。
ひとつめは、目的を「定着」から「在籍している間にどれだけ活躍してもらえたか」へ移すことです。
10年いてもらうことをゴールにするのではなく、3年でも5年でも、その期間の密度を上げる。結果として長くいてくれるなら、それが一番いい。でも、長くいること自体を目的にはしない。
これは目的の置き方の話ですが、突き詰めると投資対効果の話です。投資と言うと冷たく聞こえるかもしれませんが、私はそうは思いません。企業は人に投資しています。採用にお金をかけ、教育に時間をかけ、機会を用意する。投資している以上、それをどう回収するかという観点は当然出てきます。採用と教育にかけたものを1年で回収するのか、3年なのか、5年なのか。ここを決めると、その期間にどれくらいの密度で活躍してもらう必要があるかも決まります。
そして、投資しているのは会社だけではありません。さきほど書いたとおり、働く側も自分の時間を投じています。つまりこれは、お互いに投資し合っている関係です。どちらか一方だけが回収しようとする関係は、たぶん長続きしません。相互に投資して、相互に回収する。その結果として相互に成長している状態をつくれるかどうかが、いちばんの分かれ目だと思っています。
だから、在籍年数はリターンではありません。会社から見れば投資額であり、個人から見れば投じた時間そのものです。何年いたかではなく、その期間に何が積み上がったか。両側から同じことを問える状態にしたい。
ここを入れ替えると、1on1で聞くことから変わります。「この会社で長く続けられそうか」ではなく、「いまの仕事は、自分がやりたいことと重なっているか」を聞くようになる。同じ時間の面談でも、出てくる話がまるで違ってきます。
ふたつめは、会社の仕事の中に、その人のライフワークと重なる部分を増やす設計をすることです。
これは会社側の仕事だと思っています。「やりたいことは会社の外でやってね」ではなく、重なる領域を一緒に探して、そこに仕事を寄せていく。
これも片側だけの話ではありません。重なりが増えれば、本人のリターンは上がる。同時に、本人がいちばん力を出せる場所に仕事が置かれるので、会社のリターンも上がります。ここが、会社と個人のROIが取り合いにならない理由です。逆に、成長機会を出し惜しみして人を留め置くことは、両方のROIを同時に下げます。
中小企業は大企業のように多様なポストを用意できませんが、一人ひとりの仕事の中身を組み替えることなら、むしろ小さい会社のほうが得意なはずです。
みっつめは、出ていくことを「お別れ」にしない仕組みをつくることです。
育休も、留学も、他社での経験も、いまの常識では退職やキャリアの断絶として扱われます。そうではなく、一度離れてもまた戻ってこられる。離れたあとも、別のかたちで関わり続けられる。
これも両側から見ると分かりやすい。個人にとっては、次に進む選択のコストが下がる。会社にとっては、投資が退職の瞬間にゼロになるのではなく、関係や紹介や、いつかの出戻りというかたちで回収され続ける。3年で辞めた人が、その3年で成果を出し、後任が育ち、卒業後に紹介や取引が生まれるなら、その雇用のROIは十分に出ています。逆に、10年在籍していてもリターンが薄いままの雇用もあります。
そんな関係の設計を、いま自社で試している最中です。制度としてはまだ形になっておらず、正直、詰まっているところもあります。

まだ、この問いの途中にいます
私たちは「誰もが晴れやかな表情ではたらける社会を築く」というパーパスを掲げています。晴れやかな表情でいられる時間を、はたらく時間の中にどれだけ増やせるか。突き詰めるとやりたいのはそれだけで、そのために定着という前提を一度疑ってみている、という順番です。
答えはまだ出ていません。「3年で辞めるのは悪いことなのか」という問いに、私なりの結論があるわけでもない。それでも、この問いを持ったまま採用の仕事をするのと、持たないままやるのとでは、たぶん出てくる提案が変わってきます。
あなたの会社では、人が辞めることをどう捉えているでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事でお伝えしたかったのは、「3年で辞めてもいい」ということでも、「定着は必要ない」ということでもありません。
私たちが考えているのは、もっと手前にある問いです。
人が会社に時間を投じるなら、その時間から何が返ってくるのか。
会社が人に投資するなら、その投資は何として返ってくるのか。
会社と個人が、一方的に与える・与えられる関係ではなく、お互いに投資し、お互いに成長し、その関係そのものから価値が生まれる。
そんな「はたらく」のあり方を、私たちは考えています。
だからHaReでは、在籍年数だけを見て人と組織の関係を評価するのではなく、
「この会社で何ができるようになったか」
「この時間は、自分が生きたい人生とどれだけ重なっていたか」
「会社にとっても、その人と過ごした時間から何が生まれたか」
そんな問いを大切にしていきたいと思っています。
そして、もし人生の変化によって一度会社を離れることがあったとしても、それを「終わり」にしない。
社員として働く。
業務委託として関わる。
少し距離を置く。
また戻ってくる。
別の仕事をしながら、一緒に何かをつくる。
契約や所属の形が変わっても、関係性まで終わらせる必要はない。
それも、私たちが考えている「これからのはたらく」の一つの形です。
まだ、答えはありません。
だからこそ、私たちは自分たちの会社を実験場にして、採用、人事制度、マネジメント、働き方を少しずつ見直しています。
もしこの記事を読んで、
- 「自分が会社に投じている時間について考えてみたくなった」
- 「会社と個人が、お互いに成長できる関係って何だろうと思った」
- 「これからの“はたらく”について、もっと考えてみたい」
- 「HaReが考えていることを、もう少し聞いてみたい」
そう感じていただけたなら、ぜひ一度お話ししませんか。
選考のための場でなくても構いません。
あなたが「はたらく」について考えていることや、これからつくっていきたい未来について、まずはざっくばらんにお話しできれば嬉しいです。
画面下の**「話を聞きに行きたい」**から、お気軽にご連絡ください。
一緒に、「はたらく」をもう一度デザインする仲間と出会えることを楽しみにしています。