「AIエージェントがあれば、もうRPAはいらないんじゃない?」
最近、そんな声を耳にするようになりました。
生成AIが文章を理解し、自分で手順を考え、パソコンまで操作できるようになってきた。
確かに、すごい進化です。
これまでRPAで苦労していた画面操作も、AIエージェントなら柔軟に対応できる。そんな時代が近づいています。
でも、私は「AIエージェントがRPAを置き換える」という考え方には反対です。
AIが賢くなることと、業務を安定して自動化できることは、まったく別の話だからです。
私は2018年にRPACommunity大阪支部を立ち上げ、RPAの普及に関わってきました。
現在は、AI OCRや生成AI、RPAなどを組み合わせた「AI JIMY」シリーズを開発し、企業の業務改善に取り組んでいます。
今回は、そんな立場からRPAとAIエージェントの違い、現場での使い分け、そしてこれからの業務自動化に必要なものについてお話しします。
そもそも、RPAとAIエージェントは何が違う?
まず、両者の違いをシンプルに整理しましょう。
RPAは、決められた手順を実行するのが得意。
AIエージェントは、目的に応じて次に何をするかを選びながら進めるのが得意。
例えば、毎朝9時に販売管理システムから売上データをダウンロードして、Excelにまとめる業務があるとします。
RPAなら、システムにログインし、売上画面を開き、対象日を指定し、CSVをダウンロードする。
こうした手順をあらかじめ設定しておけば、毎日同じ流れで実行できます。
一方、AIエージェントには、
「昨日の売上を確認して、気になる変化があれば報告して」
といった目的を与えることができます。
必要なデータを取得し、前日や過去の傾向と比較して、変化の原因を調べる。
利用できるツールや権限が適切に用意されていれば、こうした複数の処理を組み合わせて進められます。
つまり、RPAは手順を中心にした自動化、AIエージェントは目的を中心にした自動化という違いがあります。
ただし、これはあくまで基本的な考え方です。
最近はRPAにもAI機能が組み込まれていますし、AIエージェントがRPAを呼び出すこともできます。
実際の技術は、そこまできれいに分かれているわけではありません。
毎月3,000件のデータ入力。本当にAIに考えさせる必要がある?
例えば、毎月3,000件の請求データを基幹システムに登録する業務を考えてみます。
入力する項目は決まっている。
データの形式も統一されている。
処理のルールも明確です。
そんな仕事に、毎回AIエージェントが「このデータはどう処理するべきか」と判断する仕組みは必要でしょうか。
私は、必要ないと思っています。
考える必要のない仕事まで、AIに考えさせる必要はありません。
ルールが決まっているのであれば、そのルールどおりに処理する方がシンプルです。
RPAや通常のプログラムを使えば、同じ入力に対して同じ処理を実行する仕組みを設計できます。
一方、生成AIを使ったエージェントは、入力や状況によって判断が変わることがあります。
もちろん、それが柔軟さという強みでもあります。
ただ、毎回同じ結果が求められる処理では、余計な判断がリスクになることもあるんです。
実際の業務では、処理速度だけではなく、実行コスト、エラー率、保守性、監査への対応なども重要です。
新しい技術を使うことが、必ずしも良い設計とは限りません。
では、AIエージェントは何が得意なのか?
例えば、お客様から次のようなメールが届いたとします。
「先週注文した商品の納期を教えてください。できれば数量も変更したいです」
この問い合わせに対応するには、いろいろな確認が必要です。
どのお客様からの注文なのか。
どの商品についての問い合わせなのか。
出荷準備はどこまで進んでいるのか。
数量変更はまだ可能なのか。
場合によっては、営業担当者や製造部門への確認も必要です。
従来のRPAだけで対応しようとすると、考えられる条件を一つひとつ整理して、分岐を設計する必要があります。
一方、AIエージェントなら、メールの内容から依頼の意図を読み取り、必要な情報を取得するために、次の処理を選択できます。
例えば、
- メールから注文番号や商品名を抽出する。
- 受注管理システムから該当する注文を検索する。
- 出荷状況を確認する。
- 数量変更の可否を判定するための情報を集める。
- 必要に応じて担当者への確認依頼や返信案を作成する。
こうした、状況によって対応が変わる仕事は、AIエージェントの強みを活かせる領域です。
ただし、ここで一つ大きな問題があります。
AIが「数量変更できそうだ」と判断したからといって、勝手に注文数量を変更してもよいのでしょうか。
私は、そうは思いません。
すでに製造を開始しているかもしれません。
在庫の引当が完了しているかもしれません。
取引先との契約上、変更できない注文かもしれません。
AIが情報を整理することと、業務上の意思決定を任せることは違います。
AIの判断を、どこまで信頼して実行させるのか。
ここを設計しなければ、便利な仕組みが思わぬトラブルを生む可能性があります。
バックオフィスでは「だいたい合っている」が通用しない。
私たちが主に取り組んでいるのは、受発注、請求、経理などのバックオフィス業務です。
例えば、注文数量を10個と登録すべきところを100個と登録してしまったら?
請求金額を間違えたら?
別の取引先のデータを使ってしまったら?
単なる入力ミスでは済まない場合があります。
だからこそ、私はAIエージェントの導入では、AIの性能以上に業務の統制設計が重要だと考えています。
例えば、次のような仕組みです。
- 権限制御: AIが参照・変更できるデータや操作を限定する。
- 入力検証: 商品コード、数量、金額などを確定的なルールでチェックする。
- 承認フロー: 重要なデータ変更や外部送信の前には、人の確認を入れる。
- ログ管理: どの情報を使い、どの処理を実行したのか記録する。
- 例外処理: 判断できない場合は無理に処理せず、担当者へ引き継ぐ。
さらに、システム連携では、通信エラー後の再実行による二重登録を防ぐ仕組みも必要です。
例えば、基幹システムへの登録が成功した直後に通信が切れた場合。
単純に再実行すると、同じ注文が二重に登録されるかもしれません。
そこで、注文番号や処理IDを使った重複チェック、登録状態の確認、再試行の制御などを設計します。
こうした地味な部分こそ、業務自動化では非常に重要なんです。
AIエージェントが賢くなったからといって、この問題がなくなるわけではありません。
実際の受注業務なら、どう組み合わせる?
ここで、私たちが取り組んでいる受注業務の自動化を例に考えてみます。
※以下は技術の使い分けを説明するための構成例です。すべての導入案件で同じ仕組みを使用しているわけではありません。
例えば、FAXやPDFで届く注文書を、基幹システムへ登録する業務。
取引先によって注文書のレイアウトが違います。
商品名や品番の表記もバラバラです。
手書きの文字が含まれていることもあります。
これをRPAだけで処理しようとすると、帳票の種類ごとに処理を作り込む必要があり、非常に複雑になります。
そこで、技術を役割ごとに分けます。
① AI OCRで注文書を読み取る
紙やPDFの注文書から、注文番号、商品名、数量、納期などを抽出します。
② 必要に応じて生成AI・AIエージェントで情報を整理する
取引先ごとに異なる項目の表現を整理したり、参照すべき情報を取得したりします。
ただし、ここで必ずAIエージェントが必要になるわけではありません。AI OCRと通常のプログラムで十分に処理できるなら、それでよいと考えています。
③ ルールベースでデータを検証する
商品コードをマスタと照合する。
数量や金額に矛盾がないか確認する。
必要な項目がすべてそろっているかをチェックする。
曖昧な状態のまま、次の処理へ進めない仕組みをつくります。
④ 判断が必要な場合は人が確認する
候補が複数ある商品や、読み取りの確信度が低い項目は、担当者が確認します。
すべてを自動化するのではなく、人が確認すべきところを明確にすることも大切です。
⑤ RPAやAPIで基幹システムに登録する
データが確定したら、決められたルールで登録します。
APIが利用できるのであればAPI連携を優先して検討し、APIがなく画面操作が必要な場合などにはRPAを活用します。
登録結果を記録し、失敗した場合には適切に再処理できるようにします。
このように業務を分解すれば、AIとRPAの得意分野を組み合わせることができます。
AIに任せる部分。ルールで処理する部分。人が判断する部分。
これを見極めることが、現場で使える自動化の基本だと私は考えています。
本当に難しいのは、RPAかAIかを選ぶことではない。
ここまで技術の違いを説明してきましたが、実はもっと重要なことがあります。
それは、そもそも何を自動化するべきなのかという問題です。
例えば、注文書を受け取ってから基幹システムへ入力するまでに、5つの工程があったとします。
そのうち2つは、昔からの慣習で続けているだけの作業かもしれません。
別の工程では、同じ情報を二重入力しているかもしれません。
そんな状態で、5つの工程をすべて自動化することが正解でしょうか。
私は違うと思っています。
不要な工程は、なくせばいい。
二重入力しているなら、データの流れを見直せばいい。
そもそも入力作業自体をなくせるのであれば、RPAで入力する必要もありません。
無駄な仕事を、そのまま高速で実行できるようにしても、本当の業務改善にはならない。
これは、私が大切にしている考え方です。
RPAもAIエージェントも、結局は道具です。
その道具を使って、何を実現したいのか。
ここを考えることが、技術を選ぶことよりも大切だと思っています。
RPA経験者の価値は、AI時代にどう変わるのか?
私は、これからのAI時代にこそ、RPAを経験してきた方の力が必要になると考えています。
RPAの開発や導入を経験した方なら、分かるはずです。
ロボットを動かすこと自体は、仕事の一部分でしかありません。
お客様の業務をヒアリングする。
現状の業務フローを整理する。
例外処理を洗い出す。
安定して動く仕組みを設計する。
運用中のエラーに対応する。
そして、担当者が変わっても使い続けられるようにする。
こうした経験は、AIエージェントを実務に導入する際にも役立ちます。
もちろん、今までの技術だけで十分という意味ではありません。
AIの特性やセキュリティ、プロンプト、API連携など、新たに学ぶべきことはあります。
ただ、私はRPA経験者には大きな強みがあると思っています。
AIを使う方法を知っている人と、AIを実際の業務に組み込める人は違う。
現場を理解し、技術を適切に組み合わせ、運用まで考えられる人材。
これから必要とされるのは、そうした業務改善のプロフェッショナルではないでしょうか。
AIだけでは、バックオフィスは変わらない。
私たちシー・システムでは、AI JIMYという自社プロダクトを開発し、さまざまな企業の業務改善を支援してきました。
お客様の声を聞きながら、製品の機能を増やし、使いやすさを改善してきました。
でも、便利なツールをつくれば、自然と業務が変わるわけではありませんでした。
解約もありました。
そこから、私たちが気づいたことがあります。
AIだけでは、バックオフィスは変わらない。
必要なのは、技術だけではありません。
業務改善を進める人。
そして、改善を継続するための方法。
私たちは、それを「AI × PEOPLE × METHOD」と整理しています。
AIという道具を活用する。
改善を進められる人を育てる。
そして、改善の進め方を組織に定着させる。
最終的には、私たちがいなくても、お客様自身が改善を続けられる。
そんな企業を増やしていきたいと考えています。
AIを文房具のように。人がもっと人らしく働ける社会へ。
私たちが大切にしているビジョンは、
「人間にしかできないことを、“はたらく”のまんなかに。」
というものです。
AIやRPAが進化すれば、これまで人が時間をかけていた作業を自動化できるようになります。
でも、私たちが実現したいのは、単に人の仕事を減らすことではありません。
人がもっと考え、工夫し、誰かと向き合える時間を増やすことです。
AIを文房具のような身近な存在にする。
そして、日本のバックオフィスに、カイゼンのカルチャーを広げていく。
これが、私たちの目指している未来です。
RPAがなくなるのか。
AIエージェントがすべてを置き換えるのか。
そんな議論も面白いですが、私はそれ以上に考えたいことがあります。
「この技術を使って、日本の働き方をどう変えていくのか?」
技術の進化を、現場の進化につなげる。
そこに、私たちの挑戦があります。
あなたのRPA経験が、AI時代の日本の働き方を変える力になる。
今、私たちはAI JIMYの事業を一緒に進める仲間を探しています。
特に出会いたいのは、RPAの開発・導入経験がある方です。
RPAで培った経験を活かしながら、AI OCRや生成AI、AIエージェントにも挑戦したい。
お客様の業務を理解し、自動化の仕組みを考え、実際に現場で使ってもらうところまで関わりたい。
そして、チームで知恵を出し合いながら、自分自身も成長していきたい。
そんな方と一緒に仕事をしたいと思っています。
AIエージェントが進化しても、業務改善の仕事がなくなるわけではありません。
むしろ、私はここからが本当に面白いと思っています。
あなたのRPA経験が、AI時代の日本の働き方を変える力になる。
少しでも共感していただけたなら、ぜひ一度お話ししましょう。
シー・システム株式会社
専務取締役 森下 亮佑